134:次なる権利-1
「それじゃあノノ。闘技場に行こうか」
「はい、行きましょう。ハリさん」
ミラヴァとの決闘を終えた翌日。
俺とノノさんは休息と勉強を兼ねて、決闘の観戦をすることにした。
という訳で、準備を済ませた上で糸通りから『カコカティ』のある小通りに移動した……はずだった。
「は?」
「へ?」
曲がり角を曲がったら、何故か神殿の個室のような空間になっていた。
いったい何が起きた?
空間がバグでも起こ……すわけがないな。
こんな事が出来る存在は一人しかいない。
「ハリ・イグサ、ノノ・フローリィ、二人あてに一件のプレゼントが届いていますよ。受け取ってください」
「アッハイ」
「えーと、分かりました」
そして俺の予想通りに『煉獄闘技場』の主が複数の椅子とともに現れる。
どうやら前回のプレゼントと同様に受け取る以外の選択肢はないようだ。
「あ、『煉獄闘技場』の主様。受け取りはしますが、その……一応、贈り主については教えていただけますか?」
「今回の贈り主は私です。とは言え、内容が内容ですので、方々に許可を取った上でのプレゼントですが」
「……」
おや? 今回は光の神様ではなく、『煉獄闘技場』の主自身であるらしい。
これはどういう事だろうか?
方々に許可と言っているので、光の神様の承認があったであろうことは予測できるが。
「さて、少々長い説明になりますので、席に着くことをお勧めします」
「分かりました」
「失礼しますね」
俺とノノさんは『煉獄闘技場』の主の勧めに従って椅子に座る。
するとどこからともなくペットボトル入りの飲料……清涼飲料水の類も出てくる。
どうやら、かなりの時間がかかるようだ。
「まず、プレゼントの中身は闘士権:傭兵業務許可証となります。こちらはPvP出場権などと同じように、闘士としての活動に幅を持たせることが出来るようになる許可証になります」
「闘士としての活動という事は……」
「ノノ・フローリィの呪いの件にももちろん対応しています」
「ありがとうございます」
俺とノノさんのPSSに闘士権:傭兵業務許可証と言うものが送られてくる。
使い方自体は他の権利と変わらないようだ。
そして、傭兵業務の内容についてはこれから説明がされるが、俺たちにとって最も重要な点とも言えるノノさんの呪いを解く一助になるのは素直に喜ばしいと言えるだろう。
「では、具体的な業務内容の説明をしておきましょうか。まず、傭兵業務には『煉獄闘技場』の中と外、両方で仕事があります」
「中と……」
「外ですか?」
中と外、どういう事だろうか?
「中での仕事は、ポイントと引き換えに依頼主の戦力として武力などの力を行使する事になります。具体的には、決闘に代理で出場する。パレードが開かれる際に数合わせとして参加する。などですね」
「前者はともかく後者……」
「そんな事も出来たんですね……」
決闘の代理出場か。
そんなことも可能だったんだな。
まあ、少なくないポイントが必要になるのだろうけど。
後は……レイドバトルの際に味方として雇っておく、とかも可能なのかもしれない。
パレードは……見たことがないので、語感だけで反応してしまったが、そんな事をなんでするのだろうかと、素で思ってしまう話である。
やる意味がよく分からない。
「まあ、早い話が短期の派遣業務です」
「言い方ぁ……」
「ただ、中での仕事は個人的な縁がなければ、そもそも仕事が入ってこないという事もあり、そう多くはありません。時々来るかもしれない、来て受ければ美味しい、とだけ覚えておけばいいでしょう」
「分かりました」
なんだろう、先日から『煉獄闘技場』の主の説明の仕方が微妙に雑と言うかなんというか……いや、分かり易さを優先してくれているのかもしれないけどさぁ……。
まあいいか、とりあえず中での傭兵業務は滅多に無いというのは覚えておこう。
「次に外での仕事ですが、傭兵業務としてはこちらがメインですね」
そして、中が少ないのであれば、当然ながら外での活動は多い、と。
「こちらは主に、私から権利保有者に対して出す依頼であり、『煉獄闘技場』の外での活動となります」
「「……」」
『煉獄闘技場』の主直々の依頼か。
それだけでも身が引き締まる気がする。
「内容については状況次第であり、一貫しません。ただ多いのは、別世界への懲罰行為の実働でしょうか。他にも徴収や威圧。時には占領活動をする場合もありますね」
早い話が、武力行使とそれに伴う諸々であり、実質何でもありに等しい、と。
ただ、『煉獄闘技場』との間で何かしらの問題が起きている世界への派遣が多そうだというのは、今の話からでも窺えるところか。
「まあ、場合によっては期限付きで別世界の管理者に貸して、色々と雑務を行ってもらう場合もあります。なので、簡単に言ってしまえば長期の派遣業務とも言えるかもしれませんね」
「だから言い方ぁ……」
「ハリさん?」
あ、違うわこれ、とにかく数が必要なタイプの何でも屋だ。
「はぁ、転生とは違うんですよね」
「違いますね。必要なら肉体を用意する場合もありますが、霊体で活動してもらう場合もあります。また、何があっても所属は『煉獄闘技場』のままです」
「その、命の危険などはあるのでしょうか?」
「怪我をする可能性は否定しません。が、命を失う可能性はありません。仮に魂を砕かれても、私が治療しますから」
「派遣先で理不尽に感じるような扱いを受けた場合の相談は?」
「もちろんしていただいて構いません。ただ、味方からのハラスメント行為くらいでしか動かないとは思っておいてください」
「長期と言いましたが、『煉獄闘技場』に滞在できる時間には限りがありますよね。その辺との兼ね合いはどうなっているのですか?」
「外での活動中は貴方方が『煉獄闘技場』に滞在できる時間は減らないようにしてあります。過去には千年近く派遣し続ける事になった例などもありましたからね」
「「千年……」」
千年の派遣とか、いったい何をやらされるというのだろうか……。
天地創造のお手伝いか何かですか?
ただまあ、まとめてしまうならば……非常に美味しい。
なにせ、『煉獄闘技場』に居られる時間を減らすことなく、ポイントを稼ぐことが出来るのだから。
「なるほど分かりました。ありがたく受け取らせていただきます」
「ありがとうございます。『煉獄闘技場』の主様」
なので俺たちは素直に闘士権:傭兵業務許可証をオンにしておくことにした。
その上で一つ問いかけたくなったので、俺は問いかけてみた。
「それで、わざわざ俺たちに渡したという事は、近いうちに外での業務がある、という事でいいのですか?」
俺の質問に『煉獄闘技場』の主は微笑み、口を開く。
「ええ、三日後に一つ、外での業務があります。公示は二日後ですが、二人分の枠は空けておきますので、是非参加してくださいね」
そうして『煉獄闘技場』の主は姿を消した。
「三日後か……」
「準備をしないといけませんね。ハリさん」
「だな」
とりあえず今日の予定から早速変えていく必要はありそうだった。




