丑の刻参り
百物語二十八話になります。
一一二九の怪談百物語↓
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丑の刻参りっていう呪いの儀式、知ってますか?
詳しいことはわかんないっすけど、夜中に白装束を着た人間が呪いを込めて藁人形に釘を打ち込むアレです。俺、アレを見たことあるんですよ。学生時代、マンションで一人暮らししていた時の話です。
アルバイトの帰りが遅くなってしまった時の出来事。アルバイトが終わった俺は、いつもとは違う「裏道」を使ってマンションに帰ることにした。
明日も朝から忙しいし、とにかく早く帰りたかったんだ。バイト先の近くに小さな神社があってね。そこにある小さな林を通ると、10分くらい早くマンションに帰ることができる。
時間は夜中の2時過ぎ。ちょっと怖かったけど、俺はその裏道を使うことにした。
その林は人が入るような場所じゃなくてね。草もぼうぼうで、細い木がたくさんある。林の中央に一本だけ大きな木があったんだ。よくわからないけど、地元の人たちはこの木を「御神木」として崇めていたらしい。
その御神木の前を通ろうとした時のことだ。
コッ………コッ……コッ…………コツ………
御神木の方から、何かを打ち付けるような音が聞こえてくる。気になった俺は、好奇心でその御神木へ近づいてみることにした。
コッ…コッ…コッ………コッ…!
音が段々大きくなってくる。御神木はすぐそこにあるらしい。しばらく歩くと、目の前に大きな木が現れた。
コッ!コッ!コッ!コッ!
御神木の前に到着した瞬間、音が急に大きくなった。どうやら、何者かがこの木に向かって何かを打ち付けているらしい。やめておけばいいのに、俺は携帯電話のライトを使って、その音の正体を見てしまったんだ…
「あぅ!?」
思わず変な声が出たよ。目の前に白装束を着た女が、鬼のような形相で藁人形を気に打ち付けていたんだ。女は俺の存在に気が付くと、持っていた金槌を振り回しながら、俺の元へ近づいてきた!
「あ゛ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
不気味な声をあげながら近づいてくる女。俺は女から逃げるために必死で走った。俺は陸上部に所属していたから、女から逃げ切る自信があった。
でも…女の足が異常なくらい早いんですよ。走ることが難しい「けもの道」のような場所を猛スピードで追いかけてくるんだ。俺は必死になって林を抜けると、急いでマンションへ向かった。林を抜けても女はまだ追いかけてくる。
「まぁああああぁでぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!」
俺は泣きながらマンションに戻った。マンションは住民しか入れないため、入ってしまえばあの女が侵入してくることはない。俺はエレベーターの中へ飛び込むと、その場にへたり込んでしまった。
「酷い目にあった…早く部屋に帰って寝よう…」
俺は自分の部屋へ戻ると、布団に包まってすぐに眠ってしまった。この話はここで終わるはずだった。
朝になると、マンションの住民たちが部屋の外で大騒ぎしていた。外の騒ぎが気になった俺は、部屋を出て様子を見ることにした。すると…
「な、なんだこれ!?」
俺の部屋の扉に大量の「藁人形」が釘で打ち付けられていた。