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99話 赤黒赤黒赤黒赤黒赤黒……アンフェールカラー!

【アクアラグーン王国騎士団専用宿泊所・ブラッド隊長視点】


 謹慎中のジュード団長補佐の代理として、王国の勇者ルーシーの剣術指導の担当となった私は、以前より気になっていた事案「勇者ルーシーの怪我の多さ」を、騎士見習指導会議で議題に挙げた。


 案の定、ルーシーは手合わせの際、一切魔力は使っておらず、生身のまま、ジュード団長補佐からの攻撃を受けていたことに衝撃を受けた。


 なぜ彼女に、魔力で防御する術を誰も教えないのか聞いたところ、「ルーシーの魔力が強いため、魔力を使うと自動的に”勇者の剣”が召喚され、本来持っている魔力()()でのトレーニングが難しい」と、ルーシーの兄レイが説明してくれた。


+++


 ”勇者の剣”を召喚した彼女の魔力は、やはり凄まじく、おそらく無意識に作った光の壁は、私を数mも突き飛ばすほどの威力。近年の勇者を調査したデータによると”勇者の剣”の魔力増幅効果は、元の魔力のおよそ10~20倍程度と言われている。だとすれば、勇者ルーシーの魔力は、その20分の1と考えても、相当な強さであると推測できた。


 ”勇者の剣”の制御も重要だが、自らの魔力の量を理解し扱う術も、これから先、必ず必要になってくる……そう判断した私は、勇者ルーシーに自ら持つ魔力をコントロールする訓練をするよう提案した。



 はじめは、自動的に召喚される”勇者の剣”に手こずり、私も何度か突き飛ばされたが、さすがは”聖なる光に選ばれし勇者”ルーシー、思考錯誤を繰り返しながら、剣を召喚せずに魔力を込める方法を、自らの力でどうにか導き出せたようだった。

 ルーシーが、”シャルルマーニュ様”と対話し、表情をコロコロ変えながら訓練をする様子は、実に可愛らしく、近くで見ていた私はその間、自然と緩む口元を抑えるのに必死だった。そして、彼女に自身の魔力の色を悟られぬよう防御には、最小限の魔力で対応した。



 黒い魔力……


 ミカエル様やサミュエル、マルクスのような天使族特有の輝くような魔力を既に知っているルーシーは、この悪魔のような色の魔力を見たらさぞかし驚くであろう。優しく真面目なルーシーの事だ、驚いたとしても決して顔や口には出さないと思うが、きっと心のうちで、この黒い魔力を気味悪がるに違いない。愛とか恋とか浮ついた感情からでは決してなく、私はただ、この黒い魔力を、今はまだ、ルーシーにだけは見られたくはない……。


 ”聖なる光に選ばれし勇者”ルーシーにだけは、絶対に、忌み嫌われたくはない!

 

 できることなら騎士見習合宿中は、このまま魔力を使わず、悟られぬことなく穏やかに過ごしたい。幸い今年の騎士見習達は粒ぞろいで皆優秀。アイザックも、無事皆に打ち解け、ルーシーとの関係は良好だ。ミカエル様も無事に天使界へお戻りになり、残すところの懸念事項は、樹海の妖精王の第1王子の件ぐらい……。常時、ターナーとイムが勇者ルーシーの部屋を見張り続けているが、不気味なほどに、まだ動きはみられない。



 訓練日誌を書き終え、明りを消すと、カーテンの隙間から淡い月の光が降り注いだ。



 黒い髪は、曾祖父の代の”隔世遺伝”と説明されたが、”黒い魔力”をもつ者は一族の歴史の中で、私一人きりだった。幸い優しい家族や友人達にも恵まれ、それなりに幸せな幼少期から少年期を過ごしたが、陰では悪魔と囁かれ、身内の一部からは、黒い魔力は心根が黒いからと罵られ、強くなろうと鍛錬した身体までも悪魔の所業と笑われた。何をどうすれば良いのかもわからぬまま、逃げるように”能天使(パワーズ)”の一角ミラー家へ入隊したが、やはりそこでも、この黒い魔力は異端だった。転機を迎えたのは15年前。氷の魔女の侵略戦争で戦い、生き残った私の前に現れ涼しく微笑む美しい”悪魔の王”の言葉に、心動かされたのであった。



「いい色の魔力だ。名は何という?」


「ブラッド・レリエルであります!」


「ブラッド! ……ほう、(ブラッド)の……レリエル家か。天使族でその魔力……素晴らしい!」 


「いえ、その……


「どうだ、私のところへ来ないか?」




 べリアス陛下……



 アレキサンドライト王国アンフェール城騎士団に入隊してからの日々は、天使界を離れた寂しさなど感じさせる暇などなく、あっという間に過ぎ去った。様々な種族の騎士たちが混在しながらも、お互いを認め、高め助け合う仲間たち、そして、毎年新たに入隊する若い騎士達を育てる充実した毎日。それだけで、十分満足している。


 二ヶ月後には、見習騎士の仮入隊先を決める会議がある。それまでに、勇者ルーシーと信頼関係を築き、私が指揮する第1部隊に配属させ、私の元で守り、育て上げる事が、私の使()()と考えている。




 ああ、だが……


 ”聖なる光に選ばれし勇者ルーシー”


 真っ赤な髪をなびかせ、私を見つめる深い青い瞳。

 凛々しく、謙虚で、努力家で、負けず嫌い、そして、愛らしい……その周りを包み込む風景さえも、眩しいほどに鮮やかに、単調な色合いで覆われた私の心に温かな色を灯していく。



 「決して、浮ついてなど……」



 抑えれば抑え込むほどに湧き上がる、決してあってはならない特別な感情を、眠りにつくまで”諦め”という言葉でひたすら黒く塗りつぶした。




 






+++++

【アクアラグーンホテルロイヤルラグーン・ルーシー視点】



 週末休み(通常訓練が再開して2日後)


 休日初日、騎士見習女子4名は、国王べリアス陛下の招待でロイヤルラグーン別館”プライベートアイランド&スパ”へやってきていた。



 「いい天気!」


 前回、来たときは凄い嵐で、”リゾート満喫!”どころではなかったので、今回は思いっきり楽しもうと張り切っていた。


 ホテルホーリーウッドまで迎えに来てくれた近衛兵のジンさんと、オスカー兄さんに連れられホテルの一室に着くと、アンフェール城のメイド長ノエルさんも来てくれていて、水着選びや着るときのアドバイス、ムダ毛の処理、長い髪を綺麗に編み込んで結ってくれたりと、まるで実母のようにあれこれ世話を焼いてくれた。この日、ノエルさんとは初対面のスカーレット先輩が、カチカチに緊張していたのがなんだか可愛らしかった。


 今回、ノエルさんに勧められた水着は、上が黄色で、下が紺色の生地に花柄の短パンの、タンキニ(上下が分かれたセパレートタイプのタンクトップ・ビキニのこと)。とっても可愛い水着で、自分でも着てみたくなったのと、前に、海で()()()を着ていなくて、べリアスさんが酷くがっかりしていたので、今日は、(一応)ビキニに挑戦してみた。()()()()だけど。

 


 皆より先に着替えが終わり、部屋を出て、少し長い廊下の先の扉を開いた。


 白い大理石の床に高い天井、落ち着いたダークブラウンの家具やソファーセット、たくさんの花で飾られたラグジュアリーな空間が広がっていた。以前にも来たことがあったが、夜で、しかも酷い嵐で、窓の外の景色は真っ暗だった。

 だけど、今日の窓の外には、白い雲が浮かぶスカイブルーの空に、湯気に煙るアクアブルーの温泉の湖がどこまでも広がっていた。



 わぁ……綺麗!



 温泉に面したリビングの奥の方で、べリアス陛下が、スチュワート様と、テーブルいっぱいに広げた地図や書類の山を前にあれこれ議論をしていた。国王モードの陛下って、やっぱり素敵だな……なんて暫く影からそっと覗いていると。私の視線に気づいた陛下が「ああっ!」と甲高い声を挙げた。


「陛下!」と、慌てて跪き敬礼すると、陛下は嬉々としながら、凄い速さで私に駆け寄り、手を握って「()()()()だ!……ルーシー! 仕事が終わったら一緒に泳ごう♪ 必ずだぞ♪」とチュッと指輪にキスをし、ウィンクまでした。スウェットスーツ姿の時との態度の違いに、思わず笑ってしまう。




「「「今日は、ご招待して頂きありがとうございます」」」(女子全員)


「日頃の疲れを癒し、存分にリフレッシュするがよい」(国王モードのべリアス)




 オスカー兄さんに”勇者の剣”を預け、スパリゾート満喫だ!



 温泉、サウナに、打たせ湯、水中マッサージ、泥の全身パック、温泉の湖に面した水着のまま入店できるバーや、カフェ、レストランも利用可能で、浮き輪やボール、水鉄砲など遊び道具などの貸し出しもしていると、アスモデウス殿下と、何度もここへ来ているホムラが説明してくれた。



 ビーチバレーならぬ、温泉バレーをしたあと、打たせ湯や、サウナ、温泉の上に浮かんだベッドの上で施術する水中マッサージに、泥パック、そして、ランチに、カフェでスイーツの食べ放題……みんな、ヘトヘトになるまでスパリゾートを満喫した。


 べリアス陛下は、約1時間間隔で私達のところへ来ては、「ルーシー!楽しんでいるか?」とか「私が、マッサージしてあげようか」「あっちで飲み物を飲もう」……などなど、そして、服のままサウナや打たせ湯にまでやってきたりして、その度に、スチュワート様に何度も連れ戻されていた。


 夕方近くになってやっと、仕事が落ち着いたべリアス陛下が私たちと合流した。

 黒いサーフパンツに着替えた陛下は、白い肌に、長身中肉中背、筋肉も程よくついていて、長いサラサラとした黒髪は結わえず、サッと肩に払い、相変わらずの美しい笑みを浮かべた。


「ルーシー、お前は、あの兄のように、もっと筋肉がある男の方が好みか?」オスカー兄さんに視線を投げかけた。


「べリアスがムキムキになるのはちょっと……」


 気持ち悪いと思う……は言わないでおこう。


 女子4人はべリアス陛下と、温泉施設をもう1周(温泉バレーに、サウナに打たせ湯、マッサージ、泥パック、軽食)した。さすがに2周すると、ヘトヘトになったが、ホムラやロナ、スカーレット先輩も一緒だったので、クタクタに疲れてもそれはそれで楽しかった。


 さすがに疲れたので、部屋に戻ろうとすると、”もう一度だけ、一緒に温泉に漬かりたい”と、陛下が私の手を引いた。


 仕方なく温泉に入り、手をつなぎ、顔だけ水面から出しプカプカ浮かびながら、もうすっかり暗くなった空を一緒に見上げた。



 空には星か輝き、アクアラグーンの湖の(ほとり)に沿って柔らかな照明が灯り始めた。



「あ~~~生き返る~~~~ルーシーとこうしてるだけで、幸せだ~~~~」(べリアス)

「本当ですか?」(ルーシー)

「ああ……もちろんだ、フフフフフ……ずーーっとこうしていたい……」(べリアス)


 

 今回、水着ということもあって少し警戒していたが、兄や、私の友人達がいる手前、スチュワート様に厳しく注意でもされたのだろうか……不思議なほどに陛下は、私にセクハラまがいの行為 (しつこいボディタッチ)をすることは一切無かった。



 それにしても……陛下もお疲れなのか、言葉数も少ない……どうしたのかな? 眠っちゃった?


 少し心配になり、隣に浮かぶべリアスに目を向けた。


 !!!


 彫刻のような完璧な造形美がそこにあった!


 幸せそうに微笑む彫の深い整った横顔、閉じた瞳を覆い隠す艶のある長いまつ毛、水面に広がる黒髪は、ユラユラと絡まることなく(たお)やかに、柔らかな光を反射する湖面に揺れていた。


 ため息が出るほど美しい横顔に、切ないような悔しいような、早いことべリアスに屈服なり降参して、契約でもなんでもしてあげてもいいような、諦めにも似たモヤモヤとした複雑な感情がドッと押し寄せた。


 ああっ、ダメ! ダメ! 

 誘惑に負けちゃダメだ!


 頭をわーっと搔きむしりたい衝動にかられ、つないだ手をギュっと握りしめると、ハッとしたように私を、光を帯びた赤い瞳で見つめた。


「どうした?」


 優しく微笑む美しい悪魔に、どうにか心を奮い立たせた。


「そろそろ、上がろうかと……」


「そうだな……」



 立ち上がり湖から上がろうとすると、クラリと眩暈がし急速に視界が暗く狭くなった。


「あっ…」ザッバン!!!

「ルーシー!」


「ルー!!!」


 遠のく意識の中で、オスカー兄さんの声が聞こえた。




+++

 

 ホムラたちの話し声に、目を開けると、ノエルさんが私の顔を覗き込んだ。


 「気がつかれましたか?」


 水着に着替えた部屋に運ばれた私は、氷嚢を頭に乗せ、バスタオルが何重にも敷かれたソファーに横になっていた。


 どうやら長時間温泉に浸かり”のぼせ”てしまったらしく、10分ぐらい気を失っていたらしい。

 服に着替えたホムラが心配そうな顔で私に、グラスに入った水を手渡してくれた。


「ありがとう」


「ルー大丈夫?」


「うん…まだ、なんか怠いけど」


「とことん遊び倒したもんね。ルーがダウンするなんて、フフフっ……陛下がめちゃくちゃ焦ってたよ。人工呼吸するとか言い出すし」(ホムラ)


「!?」


「大丈夫! さすがにスチュワート様も止めて、……ルーもちゃんと息してたから」


「それにしても、陛下といい雰囲気だったけど、なに話してたの?」スカーレット先輩が興味津々で隣に座ってきた。


 あれ? そういえば、何話したっけ? 

 水面から出た横顔がもの凄く美しかったのは覚えてるけど……。



「……なんだっけ?」


「また~とぼけて。こっそり教えなさいよ」


「……覚えてないから、きっと、大した話じゃないよ」


「ルーシー様、そろそろお着替えを……」ノエルさんに呼ばれ、スカーレット先輩から逃れることが出来、ホッと一息ついた矢先。カーテン越しに先輩の信じられない台詞めいた一言が聞こえた。


「イム副隊長に、ノールの王子、ミカエル様、それに陛下! 勇者ルーシーを巡る生憎絡まり合う恋愛劇!……面白いわね」


「面白くない!!!」


「ウフフフもう、ルーったら、照れちゃって!」ロナの楽しそうな声が聞こえた。



 みんなの笑い声に”陛下は別として、恋愛とかそういう関係なんて1ミリもない”と()()()()()()叫びたかったけど、とことん疲れ果てていた私に反論する気力は残っていなかった。



 着替えを済ませると、心配してドアの前で待っていらした(らしい)陛下が「心配したぞ!」と私の手を取り、指輪にキスをした。相変わらずの揺るぎない愛情表現に、弱っているせいなのか、今日は胸がいっぱいになった。


 王国の勇者である私を、国王べリアスが物凄く大切にしてくれて嬉しい反面、実際私が、その期待に応えられる勇者になれるのかどうかまだ自信がない。



 その後、スチュワート様からお土産のお菓子を頂き、私たち女子4名は宿へ戻った。

 お土産は、王都のティーパーティーで人気の”プリンセスローズシュガー”という赤いバラの花びらの砂糖漬けで、そのまま食べても美味しく、紅茶に入れて香りを楽しむのもOK。ホットミルクに入れるとほんのり甘くバラの香りが付き、ミルクも薄いピンク色になるらしい。レグルスちゃんが来たら、ミルクに入れて飲んでみよう……。



 その晩は、もうヘトヘトのクタクタで部屋に入るなりそのままベッドに倒れ込み、眠ってしまった。

 荷物とかは、明日整理すればいいか……Zzzz





+++++



 キィ……カタン……


 


お付き合い頂きありがとうございますm(__)m


ブクマや★を頂けると励みになりますので応援いただけると嬉しいです(^^♪


※2021/8/17誤字、気になったところ直しました。

※2021/11/3訂正しました。

※2021/11/8訂正しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 投稿お疲れ様ですR姉さんm(_ _)m 少し忙しくてバタバタしていましたが、ルーシー達のほのぼのした日常に癒されました! ルーシー達楽しそうですね!コロナが落ち着いたらどこかに行きたいな〜…
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