表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/300

96話 不必要かつ曖昧で謎に満ちた情報

【デウス→天上宮・天使族長ミカエル・エリック・キング視点】

 ※王暦1082年5月22日。


 アクアラグーンより、デウスに戻った。

 ”聖なる七つの光”の今後の在り方と、ソロモン・ゼフィリスの処遇について、ダニエルと話合った。その後、私とダニエルは天上宮へ向かった。



 その途中、ダニエルが嬉しそうに話を始めた。


「”もう一押し”でしたね」


「何がだ?」


「ルーシー様です。べリアス陛下の邪魔さえ入らなければ、ミカエル様の”至高の(シュプリーム)癒しの光(ヒーリングシャイン)”で、そのお心を(とりこ)にすることも可能でありましたのに……残念でなりません」


 耳を疑うようなダニエルの言葉に、私は動揺し聞き返した。


「ルッ、ルーシーの、心を!? と、(とりこ)にだと!? この、私が!? 本気で言っているのか?」


「ええ」


 ダニエルは、曇りのない笑みを浮かべた。



 そういえば、アイザック少年もそのようなことを……


 ”(ルーシーが)ミカエル様にクラッとしていた!”



「では、もしかすれば、もう少しでルーシーは、その、私の……ところに」


「はい。べリアス陛下の慌て様から推測いたしまして、そうなる可能性はかなり高いと……」


「でも、ルーシーには婚約者が……」


「あくまで()()です。()()()()()をしたわけではありませんので、まだ、幾らでもチャンスはお有りかと」


 アクアラグーンのグラウンドで、ルーシーに”至高の(シュプリーム)癒しの光(ヒーリングシャイン)”で治癒した際。私を見つめ返す、あの潤んだ深い青い瞳が、頭から離れなかった。私の方が既にルーシーの”虜”になっていたというのに、ルーシーの気持ちが、こちらに傾きかけていたとは……。


 胸の奥から沸き上がる高揚感に、一気に心が奮い立った。



「ダニエル!」


「はい」


「私は、天上の御父上大天使ミカエル様に、勇者ルーシーを戦わずして”勇者の剣”から解放する方法を、お聞きしたいと考えている」


「はい?」


 ダニエルが驚きの表情で目を見開いた。


「約束したのだ!」


「約束!? ルーシー様とですか!?」


()()()()()()()


「ええっ!? なっ、ちょっとミカエル様、詳しくお話を!」


 +

 +

 +


 天上宮に到着した私とダニエルは、大天使ミカエル様の元へ、お礼、並びに報告の為、拝謁(はいえつ)(身分の高い人に面会すること)を()うた。



 10分ほどで、テラスへ案内された私とダニエルは、大天使ミカエル様の変貌ぶりに驚嘆した。



 左目に”黒い眼帯”をつけ、右頬に大きな傷跡、筋肉ムキムキの裸の上半身、手には薬指と小指がない変わった手袋をして、燻製機でベーコンをスモークしていた。



「待っていたぞ!」



「「は、はいっ!」」(ミカエル&ダニエル)


 困惑する私たちに、大天使ミカエル様は、太陽のような微笑みで出迎えてくれた。

 なんとお声をかけてよいものか迷っていると。座るように促され、席に着いた。


 テーブルには、卵サンドや、マヨネーズ、目玉焼きが置かれ、そこに1枚のメモが置かれていた。


 +++


 ”勇者ルーシーについて”


 勇者ルーシーの3番目の兄は体術が得意。

 勇者ルーシーは毎日腕立て伏せを200回している。

 好きなサンドイッチは、卵サンド。

 勇者ルーシーの好きなタイプは、頬に傷がある強い人。

 目玉焼きにはマヨネーズ。

 勇者ルーシーは「ベーコンを作る人は神」と言っていた。

 最近の趣味は、かっこいい技名を考えること。

 好きな男性のファッションは、黒い眼帯。弓用の薬指と小指がない手袋。


 以上、勇者に近しい者よりの情報。by.G


 +++


 ダニエルの顔を見た。

 ダニエルも困惑した表情で、私の顔を見つめ返した。



「ほらよっ!」


 ドン! ドン! 


 大天使ミカエル様は、スモークしたての大きなベーコンの塊を、私とダニエルの皿に乗せ、椅子にドカッと座った。


「あ、ありがとうございます」


「驚いただろう? そのメモを参考にした。さあ、召し上がれ!」


 大天使ミカエル様はニコッと目を細め笑い、卵サンドを手に取り、口を大きく開き豪快にムシャムシャ頬張った。


 大天使ミカエル様の変わりように、面白さを通り越し、怖さしか感じなくなっていた。


「……」


「で、勇者のルーシーちゃん、どうだった?」


 目玉焼きにマヨネーズを山盛りにかけながら、嬉しそうに仰った。


「御父上様からの贈り物に、とても喜んでおられました」


「そうじゃなくて、ずっと一緒だったんでしょ。(小声)キスとかした?」



 ドックン! 

 心臓が止まりそうなほど動揺した。

 手にキス……したかったけど、まさかフォークの柄に阻まれたなんて言えない。



「しっ、してません、その、手を……握るだけで」


 

「ンフフフフ……相変わらず奥手でちゅね~~~」


 大天使ミカエル様が、嬉しそうに微笑み私の頬を撫でまわした。


 私は、今年30歳。

 大天使ミカエル様からすれば、私なんてまだまだ赤子のように見えるのかもしれないと……諦めていると、大天使ミカエル様が急に表情を変えた。


「そこ、ツッコむところ!」


「え!?」


「だって、エリック君、今年で30でしょ。”もう30ですよー”って、嫌がってよ」


「……はい」



 そのようなこと……できません。

 それに、”つっこむ”って何?



「それはさておき、そんなに改まって……話とはなんだ?」


 ダニエルの顔を見ると、小さく首を横に振っている。

 もしかして、震えているのか!?


 無理もない、私も、この扮装の大天使ミカエル様を見るのは初めてで、しかも、上半身裸。

 悪魔の騎士ジュード殿のようで、少し怖い。


 だが、ここで引くわけにはいかない! 



「あのっ」


「どうした!? もしや、ルーシーちゃんと結婚!?」


「け、け、結婚なんて、そんな!?」


「じゃあなんだ♪」


「その、ルーシーが、勇者を……」


「ミカエル様!」


 ダニエルが叫んだ。


「勇者を?」


 大天使ミカエル様が、首を傾げ微笑まれた。



「その、や、辞めたいと「ミカエル様!」


 ダニエルが叫んだ。


「うるさい!……で、()()()()? なんで? ルーシーちゃん、勇者になったばっかじゃん。なんで?」


 大天使ミカエル様が、目を見開き私に顔を近づけた。



「”生活するうえで不便”と、仰ってまして……」


「はぁぁぁっ!? ()便()!? そんな理由、初めて聞いた!? 君、なに言ってんの!?」



 信じられない!? という形相で椅子から立ち上がった大天使ミカエル様は、ガッ……と、片手で私の顎を掴み、頬をギュっと凹ませた。痛い。それに怖い。


「ミカエル様、仰っているのはルーシー様です。エリック様では……」


 ダニエルが止めてくれたが、大天使ミカエル様は怒りを抑えられないのか、さらに私の頬にギュっと、力を加えた。



「ひ、ひたい(い、痛い)」



 私の言葉に、大天使ミカエル様はハッとして、パ……と、手を放した。



「あ、ごめんごめん。で、なに。本題は?」



 怖いけど、ルーシーのため、ルーシーのため、と言い聞かせ、私は、喉の奥から声を振り絞った。



「”()()()()()、勇者を辞める方法”をご教授してくださらないかと……()()()()()()()()ご依頼がありました」


「戦わずして? べリアスが!? ルーシーからの頼みではなく、()()()()()頼まれたのか? そうか……なるほど……」


「はい」



 国王べリアスからの依頼と聞き大天使ミカエル様は、何か思い当たる節があったのか、怒りを治めた。


「へーーー戦わないで……か。……で、その()()は?」


「アクアラグーンでの天使族(おさ)候補の修業場所の提供と、勇者ルーシーと天使軍の合同演習を依頼いたしました」


「アクアラグーンに、合同演習………こちら側の要求は、それだけか?」


「はい」


「じゃあ、それに一つ付け加える!


 ”勇者ルーシーを()()()連れて来い! 来たら教えてやる”と、べリアスに伝えろ! 以上だ」


 

 大天使ミカエル様は、フフッと笑った。



「……こ、ここへ!?」


()()()!」


「「は、はい!」」(ミカエル・エリック&ダニエル)


「あと、これを参考にして、できるだけ勇者ルーシーを引き留め、説得しろ。あの力は近いうち、()()()必要になる」


 テーブルの上にあったメモを渡された。

 


 それにしても、このメモ……何かおかしいと思うのは私だけであろうか?




「大天使ミカエル様! お品物が到着いたしましたので、お届けにあがりました」


 透き通るような男性の声に振り向くと、そこには、黒い眼帯と弓用の手袋を身に着けたカルロ殿が、屈託のない微笑みを浮かべ、こちらを見つめ小さく会釈した。



「カルロ殿まで!?」


「そうそう、エリックに、これを渡そうと思って♪」



 大天使ミカエル様は、カルロ殿が持ってこられた小さな袋をダニエルに手渡した。

 


「これで()()()()決めて来い!」



 中には、黒い眼帯と、弓用の手袋が入っていた。



+++++



 帰りの馬車の中。メモを取り出し、ダニエルにそっと尋ねた。


「(小声)何か、おかしいと思わないか?」


「(小声)私も、そう感じておりました」



 この情報はいったいどこから?


 一見した限り、勇者ルーシーに関する情報であることには間違いないが、内容がおかしい。


 ()()()()()()


 何らかの意図によるものなのか……不必要かつ曖昧で謎に満ちた情報に、私とダニエルは、首をかしげるばかりだった。



 確かなことは、密かに情報を流している者が、彼女の()()()()()()()



 ルーシーと同じ宿に滞在している、二人の天使族の姿がすぐさま思い浮かんだ。



 まさか……


 


 +++++


【ホテルホーリーウッド・ロナ視点】

 ※王暦1082年5月23日。

 早朝。


 〈勇者についての報告〉

 ・天使界のお菓子”メルヴェイユ”に感動していた。

 ・最近の悩みは、身体がムキムキの筋肉質になる事。

 ・


「あとは……はぁーーーっ(ため息)」



 

(回想)


 昨日の帰り。

 私の下手くそな刺繍のTシャツが売れた。


 買ってくれたのは、ルーシーの三番目の兄、ウィリアムさん。


 しかも、その場に一緒にいた、ウィリアムさんのお知り合いの天使族の方も、私のTシャツを"お守りにする”とまで言い、買って下さった。


 涙が出そうになるくらい、嬉しかった。


 その”お知り合いの方”は、たぶん騎士で、どことなく面影が誰かに似ていて……澄んだ青緑色の瞳をしていた。


 騎士見習になる前まで、お世話になっていた修道院のクロエおばさんの息子さんの”レオさん”にどことなく似ていた。


 レオさんは、よく修道院に手伝いに来てくれた。

 本を読んでくれたり、簡単な護身術、弓の使い方も教えてくれた。

 修道院にいる子供達を集めて”フォーチュンキューピッドごっこ”をして遊んでくれたのを、私は今でもハッキリと覚えている。いつも悪役で、わざとやられた振りをして、みんなを楽しませてくれる。兄のような存在だった。


 天使軍に入隊してからは、「あまりミコスの町には戻ってこないし、戻って来てもすぐに仕事に行ってしまう」と、クロエおばさんがボヤいているのを聞く度に、軍の仕事は過酷なんだろうな……と心配していた。


 多分、その方とレオさんがダブって見えてしまった。

 南の海の防衛部隊へ行かれると聞いた私は、居てもたってもいられず、絶対無事に戻ってこられるよう精一杯の加護を与えるために、キスをしてしまった。


 キャーーーーーーッ!

 よくよく考えたら、恥ずかしい~~~。

 キ、キス、しちゃったのよ。

 知らない男の人に……。



 動揺しすぎてその後、加護の光が暴発してウィルさんに迷惑かけちゃうし、その方にも笑われてしまって……あああっ。



 +++


 その夜、義父から手紙が届いた。 


 ルーシー達と過ごす楽しい日常や、幸せな出来事……その何もかもが一瞬で、ドロドロとした真っ黒な闇に覆われていく……。



(回想終わり)

 


「はぁーーーっ(ため息)」



 正直、こんな事もうやめにしたい。



 いっそのこと、両手をわざと怪我して報告書を掛けなかったと言おうか。


 痛いけど、骨折とかすれば! 2・3カ月はかかるのがいいかも! 

 あっ、でもサミュエル副隊長がいるから……すぐ治ってしまう。


 癒しの光でも治らない、奇病とかないかしら。

 でも、顔にブツブツとか出来るのもイヤだし……呪いとか? 

 悪魔との契約であったかしら、文字が書けなくなる呪いとか……あああっ、いっそのことあいつに呪いをかけたい!



 昨夜。

 義父から届いた手紙には、こう書かれてあった。


 ”勇者についての、もっと()()()()()を報告しろ。断った場合、修道院への寄付金を止める”



 現在のシェルギエル家当主であり、義理の父ジ―ナスのニタリと笑った顔を思い出すたび吐き気がした。修道院の丸椅子が食い込むほど丸々と太った身体に、禿かかった頭と翼。どんよりとした青い瞳は、太り過ぎの病気によるものなのか片方が白く濁っていた。


 寄付金。


 あの義父の言うことなんて、聞きたくもなかった。

 私は、ルーシーたちと友達になり、適当な報告をし、毎日を楽しく過ごせればそれでいいと考えていた。

 でも、この国の神殿や修道院の多くは、有力な権力者などからの善意ある寄付金で成り立っている。修道院が危機に瀕してしまう。私を笑顔で送り出してくれた、みんなの顔が浮かんだ。


 昔から、義父はそうだった。

 讃美歌の歌い手だった母は、義父と再婚した後も、父が作曲してくれた歌をミコスの修道院に来てよく歌っていた。



 今思えば、もしかしたら母も同じことをあいつに言われ、仕方なく結婚したんじゃないかと……。



 やめたくてもやめられない、私や母が逃げられないように”修道院”の人たちを人質に取るなんて。 



 結局、私は一生、義父から逃れることなど出来ないのかもしれない……




 コンコン!


「ロナ! 起きてる? ルーシーが……面白いことになってる!」


 ホムラの声に我に返った。


 慌ててルーシーの部屋へ行ってみると、



「フフッ、なにこれ?」


 机と床に散らばった色とりどりのたくさんの花に、空っぽになって転がるお菓子の瓶。

 ホムラに起こされ、寝ぼけた顔で「ほはおう(おはよう)」と笑うルーシー。


 たくさんの花を見て嬉々としていたスカーレット先輩が、不意に窓の外を見つめ、深く頷いていた。


 そういえばこの前、イム副隊長が樹海の方で任務していると聞いた。

 もしかして、この花は、婚約者イム副隊長からの贈り物!?



 コンコン


「ルー、昨日は、誰とお喋りしてたの?」


 開いた部屋の戸口からルーシーの2番目の兄レイさんが、呆れた顔で声をかけるとルーシーは、目をこすりながら「”勇者の剣(シャルル)”!」と言い、フフフっと幸せそうに笑った。


「ほんとに~~~?」


 スカーレット先輩が花を拾い集めながら、ニヤリと笑った。

 

「うん、”勇者”ってロクな目に合わないよねって。頭の中で言ってたら、『しょうも無いこと考えるな早く寝ろ』的なこと言われて……」


「「なにそれ?」」


 ホムラとスカーレット先輩が笑った。




 いいな。



 ルーシーの周りは、いつも賑やかで、暖かで、すごく楽しい。



 何もかも、嫌な(しがらみ)なんか忘れて、みんなと楽しく過ごせたらいいのに。

 そのためだったら、訓練も、苦手な刺繍だって、巫女見習いの辛い修業だって、なんだって頑張れるのに……。


 


「ロナ、どうしたの?」



 心配そうに、深い青い瞳で見つめるルーシーの顔が、ぐにゃりと歪んだ。



「あ……」



 いつのまにか、自分でもわからないうちに、目から涙が溢れてしまっていた。


お付き合い頂きありがとうございますm(__)m

ブクマや★を頂けると励みになりますので、応援していただけると嬉しいです(^^♪


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ