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93話 ”長(おさ)モード”

【アクアラグーン訓練場訓練棟講義室・ルーシー視点】

 

 昼休み。

 

 訓練棟の講義室に現れたミカエル様は、私たちを恥ずかしそうに見つめ晴れやかに微笑んだ。


「みんな、残念ながら試験に落ちてしまった。応援してくれたのに申し訳ない。私は、明日からまた公務に戻る。さあ、私の事は気にせず、昼食をいただいてくれ」


 その背後で、ダニエル様とサミュエル副隊長がホッとした顔で笑い合っているのが見えた。

 

 するとミカエル様は、私の席までやってきてこう仰った。


「ルーシー。少し、我儘を言ってもいいか?」

「え?」

「君の隣で、お弁当を食べたい」

「えっ! は、はい。よ、喜んで!」


 ガタガタ……っと、気を使ったのかホムラたちが一斉に席を立ちあがるのを「そっ、そのままでいいよ、その君たちとも、もっと、話がしたいし」と、ミカエル様は止めたが……。


「ミカエル様とは、昨日の昼休みたくさんお話したから、今日はルーシーと話してあげて」


 スカーレット先輩がウインクした。


 ホムラとロナも、さあさあとミカエル様を私の隣へ誘導し、少し離れた席に座りニヤッと笑った。


 なにその”ニヤッ”!?

 

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」


 隣りに座ったミカエル様が、私の顔を覗きこみ微笑みかけてきた。


 ピカ―――――っ!(効果音)

 うわっ、眩しい!


 二人だけなんて、まずい、まずーいっ。ドッキドキしてくる。

 お弁当、喉通るかな。 



「じゃあ、いただきま

「どこにいる! ルーシー!」


 サラサラとした黒髪をサッと払いながら、国王べリアスが講義室にツカツカ入ってきた。


「え、陛下?」


 講義室がしん……と静まり返った。


 私と目が合うと、べリアス(陛下)はもの凄く怖い顔で声にならない声を上げ、こっちに走ってきた。


「陛下!?」

()()()()()!」

「べリアス、ど、どうなさって?」


 私とミカエル様の前に仁王立ちし、燃えるような赤い瞳で睨みつけた。



()()()()()()!?」


「え、あ、お弁当を

()()()()()()。今日は、王国の勇者ルーシー殿と親睦を図るため、天使族長として昼食をご一緒する了承を本人から得ております」


 ミカエル様は陛下に、落ち着き堂々とした表情(かお)で言い放った。


 これって、

 

 ”(おさ)モード”


「ね、ルーシー」


 また、ミカエル様が、私に微笑みかけた。

 キラキラのエンジェルスマイルに、ドキドキはするが、それどころではない。


「う、うん」

「……ルーシー。そ、そんな」


 陛下がわなわなと震え、悲し気な顔で私を見つめた。

 こっちはこっちでなんとかしないと……。


「あの、ミカエル様、そんなに大げさに仰らないで下さい。宜しかったら、べリアスも一緒に、お弁当いかがですか?」


 空いている左側の席を勧めると、一瞬で表情が激変した。


「え! いいの!?」


 もの凄く嫌そうな顔で、ミカエル様が陛下を睨んだ。

 ミカエル様でもそんな顔するんだ……あまりにも素直すぎる表情に私の方が驚いた。

 

「ルーシーが言うんじゃ、仕方ない」(ミカエル様)


「わーい! っと」


 ミカエル様が渋々了承すると、すごい速さで私の隣に座り、サッと手を取り、手の甲にチュっとキスをした。


「あああっ! 貴様、なにをした!?」


 ミカエル様が私の肩をグッと抱き寄せ、べリアス(陛下)から引き離した。

 わっ!

 ミカエル様、華奢なのに意外と力あるんだ……と感心しながらもこの状況、やっぱりマズいのかもしれない。


「いつもの挨拶だが」

「挨拶!?」

「ああ、()()()()()()()()()()()()()だ。私はルーシーを()()()()として扱っている、フフフ」

 

 マウント取ろうとしているのか、べリアス(陛下)が余裕の笑みを見せた。


「ならば」


 ミカエル様がフォークを握った私の右手をサッと取り、口づけをしようと思ったのか顔に近づけると、ちょうどフォークの柄の部分が目に当たり、悶絶した。


「ゔぁ!…………ゔ……ゔゔ」


「大丈夫ですか!? サミュエル副隊長!ミカエル様が!」


「フッ、慣れぬことをするからだ!」


 呆れた表情で、サミュエル副隊長がミカエル様を治癒している間、陛下になぜここへいらしたのか尋ねると。


「ああ、そうだ。天上界から届け物があって、いまスチュワートと天上界の者が、あっちでなんかゴチャゴチャやってる」


「天上界!?」


 ミカエル様の顔色が変わった。


「あの”大天使ミカエル”からだってさ」


「我らの大天使様から!」


 ミカエル様の瞳が輝いた。


「あいつの事、そう呼んでるの」


 陛下は、嫌そうな顔でミカエル様を見つめた。


「我らが大天使様を愚弄する気か! おのれ、悪魔め。勇者ルーシーは渡さぬ!」


 また、ミカエル様が私の肩をグッと抱き寄せ陛下から引き離した。

 "渡さぬ"とか言われて、なんかちょっと嬉しいけど、正直この状況で言われても()()


「ルーシーは私のモノだ!」


 陛下は私の左腕に腕を絡ませ、しがみ付き、引っ張り返す。

 

 わっ、っちょっとお弁当食べられない。


「我らのルーシーだ!」

()()ルーシーだ!」

「いいや、我が天使族の勇者だ!」


 助けを求めるように視線を送ったホムラやロナ、スカーレット先輩たちは、笑いを堪えた表情でこっちを見つめ、完全に面白がっている。


 講義室にいる騎士見習、レイ兄さんも、サミュエル副隊長もハント副隊長も、流石に()()()使()()()に口出しできる度胸のある者はいないらしく、遠巻きに私たちを呆れ顔で見守っているだけだった。


 頼みの綱のダニエル様も、スチュワート様もこちらに来る様子も気配もない。


 私は、仕方なく声を挙げた。



()()()()()()()()!」



「え、ああ、済まなかった」(べリアス)

「ルーシー、悪かった」(ミカエル)


 思いのほか二人は、素直に私から手を放し謝ってくれた。


「お話は、お弁当を食べてからにしましょう」


 昼食を済ませてきたという陛下は、隣でお弁当を食べる私を笑顔でじっと見つめ。ミカエル様は陛下を牽制するかのように、常に私に血走った視線を送りながら、騎士見習いの同期の男子のように、お弁当をガツガツ食べていた。


 非常に……食べづらい。


 +++


「ねえ、ルーシー。また、私と一緒にお弁当食べてくれるかい?」


 お弁当を食べ終わったミカエル様が、右頬にソースを付けたまま微笑んだ。

 バーーーーーン!(効果音)


 うわーーーっ、天然すぎる! 

 ああ、でも……なんか、かわいい。


「フフっ、右のほっぺに付いてますよ」

「え、何?どこ?」


 右って言ってるのに、左側の頬を拭いたりしているので、仕方なく、


「こっちですよ」


 とティッシュで拭ってあげると、べリアス(陛下)が声にならない悲鳴をあげた。


「ありがとう。ルーシー」


 隣に、真っ黒な憎悪の感情をたぎらせているべリアス(陛下)がいるせいか、キラッキラの眩しいミカエル様の笑顔にクラクラする余裕なんかないっ!


 しかも、対抗心からなのかべリアス(陛下)は間髪入れずに私の手を引き、「ルーシー、私の頬にもなんかついてないか見てくれ!」と、無理やりにでも頬を触らせようとする。


 そんな陛下の、赤く燃えるような瞳が不安で揺らいでいた。


 ああ、きっと、私が心変わりして、ミカエル様のところへ行ってしまうかもしれない不安に駆られて、こんな子供じみた行動をとってしまっているのだろう。素直で正直な陛下らしいな……なんて思ったが、一国の王がこんな醜態を見せていいものなのか、こっちの方が不安になった。


 私が陛下を不安にさせたのなら、これは私の過失であるのかもしれない……と、小声でささやいた。


「(小声)べリアス、私は王国の騎士で、ずっとべリアスの傍にいるから心配しないで。だから

「っ! ……ルーシーーー!!!」


 ”だから、ここでは王として威厳ある態度お取りください”と、言おうとしたのに、瞳を潤ませ想像以上に喜ぶべリアス陛下が、ギュッと私を抱きしめた。



「いやいやいやいや!!! だからべリアス! 違うって!!!」


 バチッバチン!


 『参上!』


 自動召喚された”勇者の剣(シャルル)”に陛下は弾かれ、ひっくり返ってしまった。



「ハッハッハッハ、無様な! 」


 ”(おさ)モード”のミカエル様がべリアス陛下を見下し、高らかに笑った。

 ミカエル様は、べリアス陛下が相手だと、どうしたの? ってくらい、本当に生き生きしている。


「ああっ、べリアス、大丈夫?」


 引っ張り起こして、椅子に座らせると「フンっ! 忌々しい剣め!」と、机の上に置いた”勇者の剣(シャルル)”を睨みつけた。



『ふーん。こっちのミカエルくん、元に戻ったんだね』

 ”勇者の剣(シャルル)”が頭の中に話しかけてきた。


 (ルーシー心の声)そうなの、良かったけど、今度は、べリアスがミカエル様と張り合っちゃって……ああ、そうだ、ちゃんと言わないと。



「(小声)べリアス。私が言いたかったのは、ここでは王として威厳ある態度お取りくださいと……」


「あ……そういえばスチュワートも同じことを言っていた。ルーシーお前、スチュワートに似てきたな」


「え!?」


「ルーシーが、スチュワート様にだと!? ありえん!」


 ミカエル様が、べリアス陛下に反論した。

 恐らく、ここでべリアス陛下に文句や反論することができるのはミカエル様ぐらい。


「不思議なことではない。はじめてルーシーに会ったとき、私はお前を()()()()()にしようと考えていたからな、十分に素質はあると思うが」


「側近!?」


「側近になれば、ずーっと私と一緒だぞ!」


「ルーシーは、大天使様が力を与えた”聖なる光に選ばれし勇者”だ。そうはさせぬ!」


 ミカエル様の言葉に、陛下は何か思い出したのか真顔になった。


「あっ! そうだ、ついでにお前に聞こうと思ってたことがあったんだ。耳を貸せ」


「なんだ!?」


 ミカエル様がまた、ものすごく嫌そうな顔をした。


「大事な話だ」


「はぁ?」


「ルーシーは、ちょーっと下がっててね♪」


 べリアスは私の椅子を後ろに引き、自らの椅子をミカエル様に寄せなにやらヒソヒソ話し出した。



 ・・・気になる。



「(小声)……だから、他に方法がないか……」

「(小声)せっかく……のに!」

「(小声)……すぎる…………でな……希望だ」

「(小声)やはり……」

「(小声)協力して…………よい」

「(小声)じゃあ、アクアラグーンで…………いいか?」

「(小声)そんなことでいいのか?……」

「(小声)あ、あと、……合同で……したい。……力を……あがる」


 ・・・



 所々会話が聞こえるが、いったい何のことを話しているのか見当もつかない。が、さっきまでの不毛な争いが終わってくれたことに心底ホッとしていた。


 

 そして、二人がコソコソ話す後ろ姿に、”実は仲いいじゃん”って突っ込みたくなった。


 

 すると、講義室に見慣れない天使族のお兄さんが入ってきた。

 クルクルにカールした茶色に近い金髪のショートヘアーで、お洒落な刺繍が施された白いローブを身に着けている。体格は小柄で、顔は可愛らしいが目つきは鋭く、講義室に入るなり、ミカエル様と陛下を見つけ眉間にしわを寄せた。そして、その後ろにいる私と目が合うと、こちらにスっと音もたてずに近づいてきた。



「べリアス陛下に、勇者ルーシー様ですね」


 その声に、話に夢中だった陛下とミカエル様が顔を上げた。


「あ」(べリアス)

「え」(ミカエル)

「はい」(ルーシー)


「大天使ミカエル様からお届け物がございますので、前の方へお越しいただけますか?」

 

「カルロ殿!」


 ミカエル様が立ち上がり、胸に手を当て会釈すると、カルロ殿と呼ばれたお兄さんは、同じように静かに会釈した。


「べリアス陛下、この度は我が天使族長ミカエル・エリック・キングを、王国騎士見習強化合宿訓練へ快くお受入れ下さり誠に感謝申し上げます」


「礼には及ばん」

 

「天上界大天使ミカエル様より、僅かながらですがお礼の品をお持ちしましたので、是非ともお納めください」


「……ふーん」


「では、べリアス陛下、勇者ルーシー様、ミカエル様、前の方へ」 

 

 +++


 講義室の前の方へ歩み出ると、廊下にダニエル様とスチュワート様、その後ろにバンディ城で見かけた白い天使集団の方々がずらりと並んでいた。陛下と私は講義室の中央に待機させられ、ミカエル様はカルロ様と共に廊下へ出て行った。



「では、これより大天使ミカエル様より送られた、感謝の品の贈呈式を行います」


 スチュワート様の司会進行の中、”長モード”のミカエル様から目録が読み上げられ、贈呈式は滞りなく終了した。


 大天使ミカエル様からは、可愛い手さげ袋付きの瓶に入った、”メルヴェイユ”という天使界で人気のメレンゲ菓子がみんなに贈られた。それに加え私宛に、メッセージカード付きのピンクのガーベラの小さな花束も。

  

「お菓子も! お花も! 超かわいい~~!」


 天使界の、洗練されたセンスのお菓子やお花に感動した。

 久しく触れていなかった女子的なモノに、私は興奮を隠せなかった。

 

 メッセージカードには……


[親愛なる勇者ルーシー殿

 この度は、我が息子ミカエル・エリック・キングが大変お世話になり、心より御礼申し上げます。

 デウスへ御来訪の際は、ぜひ天上宮にもお越しください。天上界大天使ミカエル]


 天上宮!? 

 

 パ……っと、陛下が私の手からカードを取り、目を通し、ムッとした表情で、すぐに花束の中へグッと射し込んだ。



「喜んでいただき、恐悦至極に存じます」


 人間離れしたような独特の雰囲気のカルロ様が微笑み、胸に手を当て会釈した。

 


「ルーシー、また会いに来るよ」


 ミカエル様がキラッキラの笑顔で右手を差し出した。その手を握りながら、


「ぜひ、また、いらしてください」


 とミカエル様の顔を見上げると、


 パァァァーーーーーーっ(効果音)


 手元が輝き、金色の光に包まれた。


 ”シュプなんとか”!?

 

 暖かく優しい気持ちいい光に抵抗なんてできるはずもなく、脳内までキラキラする感覚に意識が飛びそうになったところを、「うあああっ!離れてーーー!」と、べリアス陛下が、無理やり引き離した。


 危なかった!? 顔も熱いし、ドキドキするし、これは絶対心臓に良くない。

 


 陛下はそのままミカエル様の手を掴んだまま(握手?)顔を近づけ睨み合った。      

 

「(小声)()()()()()()、例の件、是非検討をよろしく頼む」


「(小声)ああ、お前の方も、()()()ちゃんと調べ報告してくれ」


 二人は、対抗するかのように苦々しく笑みを浮かべた。


 

 +++


 天上界カルロ様とミカエル様一行、そして、陛下とスチュワート様は、贈与式が終わると忙しそうに皆それぞれの城や仕事に戻られていった。


 ロナやエスタ様、マルクス副隊長は、雑務等を片づけるため教会へ戻り。私たち騎士見習も、午前中で終わらなかった訓練の続き(技能訓練)を再開させた。



 訓練に向かう途中、ホムラが”シュプなんとか”で意識がとびそうになったと説明した私に、笑いながら言ってきた。


 「だから言ってたじゃん。天使族は容赦ないんだ。特に()()()は」


 ……やっと、出会った頃のホムラが、ロナの”癒しの光”を嫌がった原因を知ることが出来た。



「本当、あれは、容赦ないわ~」(ルーシー)


「しかも、”天然”って、たち悪すぎるし!」(ホムラ)


「フフっ! そうそう。それがミカエル様の、魅力なんだよね」(ルーシー)


「ルーシー、ミカエル様の事好きになっちゃったの!?(小声)それって三角関係!?」


 スカーレット先輩が嬉しそうに詰め寄ってきた。


「好きだけど、そういう好きじゃない!」(ルーシー)


「え、じゃあどういう?」(スカーレット)


「信者になりかけたというか、その……」


「ルー、ガッツリ嵌められてんじゃん!」(ホムラ)


「仕方ないよ、あれは」(ルーシー)


「そうよね。私もだから」(スカーレット)


「「先輩も!?」」(私とホムラ)



 ある意味、とんでもなく高い攻撃力 (?)のミカエル様に、大天使様からのお菓子のプレゼント。

 信者にならない方がおかしいと思えるぐらい、至れり尽くせりの天使のキラキラに、もうすっかりミカエル様のファンになってしまった私&スカーレット先輩であった。


 でも、これは陛下には内緒です!

 

お付き合い頂きありがとうございますm(__)m

ブクマ★いただけましたら励みになります!応援よろしくお願いしますm(__)m

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