92話 ボケても、ツッコんでくれない
【天上界天上宮・大天使ミカエル様視点】
※大天使ミカエル様とは、エリック・キングを天使族長に選出任命したお方。
4大天使の一人。基本、どんな姿にもなることが出来る(猫や鳥など)。
最近のお気に入りは、ストレートの金髪セミロング。30代ぐらいの男性の容姿。瞳の色が虹色。
数百年前に”ミカエル様って厳しすぎる”と部下たちの陰口に傷つき、天使界統治を辞め、天上界でのんびり過ごしている。
先の戦争の際は、氷の魔女の想定外の魔力に圧倒され敗北。追い払ってくれたイフリートには、口には出さないが感謝している。
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※王暦1082年5月22日。
深夜、天上界事務局長より連絡があった。
『現天使族長ミカエル様のアクアラグーンでの休暇中、宿の警護に当たっていたZERO隊員数名が、王国騎士により捕縛された』
我が息子エリック・キングと、同じ宿に、王国の勇者ルーシーが滞在しており、その警護の者たちに見つかり、追跡され捕縛。他、対象者関連を尾行していた隊員1名も、王国騎士により捕縛され連行。
その後。天上界事務局防犯対策課長エドモンドからの報告では、『宰相スチュワート殿及び王国騎士第4部隊副隊長サミュエル・ヒューゴ・シンベリー殿の機転により、速やかに関係者への口止めと、事後処理がなされた。両サイドとも、死傷者ゼロ。』
あのZERO隊を捕縛か……。
王国騎士も無能ではないのだな。
とにかく、両隊とも死傷者がおらずなによりだった。
宰相スチュワートに、サミュエル・ヒューゴ・シンベリー。
サミュエル、聞いたことある名だな。サミュエル、サミュエル……サムエルか!?
なかなかいい名を付けるじゃないか。しかも、シンベリー家とは。
天使界5大”能天使”の一角。
勇者の近くに、天使軍でも指折りの武人の家系の縁者を置くとは、あの顔だけ美しいエロ悪魔もバカではないのだな。
それにしても、どういうことだ?
ベッドの上でこの報告を受け、疑問に思った。
なんで我が息子、エリック・キングが、”勇者ルーシー”と同じ宿に泊まっている!?
いつのまに、王国の”勇者ルーシー”と、そのような近しい関係になったのだ?
”勇者ルーシー”は、妖精王の王子と婚約しているのではなかったのか?
婚約をしているのにも関わらず、我が息子と、同じ宿に泊まるとは……。
これはもしや……
勇者ルーシーは、我が息子、エリック・キングに目移りしたのではないのか!?
無理もない、妖精王のあの地味な3男など、我が息子エリック・キングの魅力の前では、地面に生える草のようなもの。あの純粋で輝きに満ちた優しさで包み込む”至高の癒しの光”を当てられたなら、我が息子ミカエルの魅力の虜になってしまうのも仕方あるまい……フフフ。
でかした!
よくやった!
あの内気な我が息子エリック・キングが、妖精王の王子から、勇者を略奪してのけるとは……男女の仲とは、つくづく解からぬものだな。
この宮に勇者を招き入れる日も、そう遠くないようだ。
あいつにも、会っていろいろ話したいこともある。
何百年、いや何千年ぶりなのだろう。
”聖なる光の王子シャルルマーニュ”
っていうか、我のこと覚えてるかな?
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「我が息子エリック・キングのアクアラグーン休暇の、昨日のスケジュールは?」
秘書課のカルロに尋ねた。
彼は、茶色に近いカールした短い金髪がトレードマークの可愛らしい青年秘書だ。
カルロは、急な質問にも表情を変えず淡々と答えた。
「はい。報告によりますと、勇者ルーシー様が所属しております王国騎士団の”騎士見習の強化合宿”に参加し、共に訓練をなさり、その後、勇者ルーシー様と共にアクアラグーン訓練場で”ご聖寵”をなさいました。その夜には、王国騎士サミュエル・ヒューゴ・シンベリー殿と共に勇者ルーシー様の、”勇者の剣”の訓練をご覧になられました」
「で、お持ち帰りしたのか」
「は? 意味がよく分りませんが」
「つまり、1日中、一緒にいたという事だな」
「そうなりますね。ちなみに本日は、休暇の最終日ですが、午前中も騎士見習訓練に参加なさる予定です。午後の予定は、未定とのことです」
「ギリギリまで、一緒に……さぞ、離れがたいのだろうな」
愛し合う者同士が離れなければならぬ辛さを想うと、胸が苦しく、久しく忘れかけていた感情が呼び起され、どうにかさせてやりたい親心のようなものが湧き上がってきた。
「……明日は、キーオで”ご聖寵”と、ノール帝国軍との協議もございます。午後は、デウス帰還と、明日の準備に当てられるのかと……」
(↑カルロの話を聞いていない)
勇者といえども、ルーシーは女の子だ。
15歳か……この年頃の女の子が喜ぶものといえば……。
”オシャレなお菓子!”
「カルロ、天使界で、今、女の子に人気のお菓子は何だ?」
「は?? …………そうですね……只今、お調べいたします」
カルロが部屋から駆け足で出て行った。あいつは仕事は早いが、若すぎるのかイマイチ話が嚙み合わぬ。それに、ちょっとふざけてボケても、ツッコんでくれぬ。
「お待たせしました。あの、今デウスで流行っているのは”メルヴェイユ”というメレンゲ菓子らしいです」
「どのような菓子だ?」
「白やピンク、黄色、緑、青などのパステルカラーの小さな砂糖菓子で、サクサクしているのに口溶けがなめらかで美味しいとのことです。賞味期限は1週間ほどで、可愛らしくラッピングされた瓶に30個ほど入っております」
「ほう。んじゃ、それを勇者ルーシーの所属する騎士見習全員と、今回の休暇に協力頂いた者たち全てに送り届けよ。あと私の分も一つ」
「はっ! 送り主の名は、どうなさいますか?」
「大天使ミカエルで。それと勇者ルーシーにメッセージを……」
(カルロがメモをとりだすのを待って)
「勇者ルーシー、この度は我が息子ミカエル・エリック・キングと仲良くして……じゃないか、ええと、親密にさせていただき……それもなんかイヤらしいか、ああっ、その……カルロどうしよう!」
「普通でいいと思いますよ。”大変お世話になりました”とか」
「軽すぎない!?」
「重いのもアレですよ」
「アレって?」
「妖精王様のような感じというか……あまり重いと、引くかもしれませんよ」
”子孫繁栄”とか恥ずかしげもなく口ばしる妖精王の顔が浮かんだ。
「そうか、”大変お世話になりました”は決まりで、あと……じゃあこれなんてどう?”今度はうちにも遊びに来てね”は?」
「……ルーシー様は、15歳です。10歳未満でご友人同士でしたらお喜びに「そこはツッコんでよ。わざとだから!」
「……」
無表情かい! なんだその顔。
「おい!」
「はい!」
ヤケクソ気味な返事。
もしかして、ツッコミ強要したの怒ってる!?
「じゃ、”親愛の気持ち”が伝わるように適当に頼む♪」
「畏まりました」
カルロは、綺麗に敬礼すると部屋からスタスタと出て行った。
”勇者ルーシー”
あの顔だけ美しい悪魔の王べリアスを助け、勇者になったと聞いたときは耳を疑った。
てっきり、あの悪魔べリアスの美しさに惑わされた、卑猥で下劣な女勇者だろうと高をくくっていたが、そうでもないらしく、可愛らしさの中に強さはもちろん、品格や知性を兼ね備えた女性であると報告を受けている。
孤児であったが、この前の王国議会の晩餐会で、あの隠居状態だったイフリートが、わざわざ出向いて”父親宣言”をし、近々、正式に自信の娘として皆に報告する予定らしい。
なんじゃそりゃ?
さっぱり分からん。
勇者は悪魔を封印するのが仕事だぞ。
べリアスといい、イフリート、それにアスモデウス……わかっているのか?
”ルーシー”という娘は勇者でありながら、封印される恐怖さえ失せる程、悪魔どもを惹きつける魅力を兼ね備えた”娘”なのか?
”聖なる光の王子シャルルマーニュ”
お前は、どういうつもりであの娘を勇者に選んだんだ……。
”勇者ルーシー”に、”聖なる光の王子シャルルマーニュ”
やはり、一度会ってゆっくり話してみるのもよいのかもしれぬ。
窓の外に広がる雲海は朝焼けで美しく染まり、我が息子ミカエル・エリック・キングと、勇者ルーシーの未来を祝福するかのように、白い小鳥たちが空へ飛び立っていった。
「これは、面白くなってきたな」




