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8話 豪華な部屋に美味しい食事、願いを叶えてくれる美しい悪魔。

【回想・ルーシー視点】


 今から15年前、ジェダイド帝国の侵攻によりフロライト王国が滅亡。

 そのジェダイド軍が砂漠の地の()()”封印”を破り悪魔が復活。その悪魔が逆にジェダイド軍を討ち、新たにアレクサンドライト王国が誕生した。


 ……昔、父から聞いたこの国のざっくりとした歴史だ。


 魔王城はてっきり、王都郊外の『黒い霧がかかった薄暗い森の中』にある者と想像していた。蠢くオドロオドロとした物質で建てられ、太陽光を嫌う魔王 (仮)が君臨していると。


 騎士見習試験の会場である、アンフェール城(イコール)魔王城だったとは……



【アンフェール城王宮・ルーシー視点】


 気がつくと私は、薄暗い部屋に寝かされていた。

 藍色の天蓋の付いた豪華なベッドに、ふかふかのお布団。いい匂いのする毛布。

 

「あれっ」


 服はゆったりとした白いネグリジェを着せられていて汗臭くない。

 私、いつの間に”お風呂”に入ったのだろう……嫌な汗が流れる。


 キィ……パタン


 メイド服姿の黒髪の養母くらいの年齢 (30~40代かな)の綺麗な女性が入ってきた。


「お気づきになられましたか? なにか、お飲みになりますか?」


「あの、あなたは?」


「ルームメイドのノエルでございます」


「私はルーシーです。あの私の、その……服は?」


「失礼とは思いましたが、汚れておりましたのでクリーニングに出しております。お水でよろしいですか?」


「は、はい」


 ガラスのグラスに入った水を手渡され、一気に飲み干した。


「あの、ここは?」


「城内王宮の、客室でございます。では、」


 ノエルさんと入れ違いに、オスカー兄さんが部屋に駆け込んできた。

 家にいた頃よりも、がっちりとした体格に近衛騎士の隊服がとてもよく似合っていて、妹目線でもかっこいいと思った。


「ルーシー大丈夫か? ……ってなんて格好してんだ。女の子みたいだ」


 女の子です。

 突っ込みたいのを抑えた。


 私の無事に安心した表情(かお)の兄に『”魔王=陛下”の件』について早速相談した。


「兄さんどうしよう。私、言っちゃったの」


「何をだ?」


「魔王を倒すって」


「ハハハハハ! ウケたろ! 俺も笑われたけど友達もすぐ出来た、レイもウィルも!」


 まさかの爆笑!? 


 え、“俺も“って言ってるけど……。

 もしやこれは、”ネタ”ってやつ!?

 

 “魔王討伐”って友人作りのネタだったの!?



「ああ、ダメ……もう、ダメだ……」


「どうしたルー? ウケなかったのか? クヨクヨするな大丈夫だ」


「だから、言っちゃったの!」


「……ん」


「陛下に」


「あの?」


「あの陛下」


「……」


  固まったオスカー兄さんに、事の重大さを改めて感じ取った時だった。



 コンコン……


「私だ」


  陛下!?!?!?

  ビクッ(ルーシー&オスカー)


「は、はい。陛下」(オスカー)


  ガチャ……


「来ていたのか」


 オスカー兄さんは、胸に手を当てサッと跪いた。


「妹が不安と思い、付き添っておりました」


 兄の声が少し震えている。


「そうか……少しこの者と二人で話がしたい。下がっていいぞ」


 べリアスさんが表情一つ変えず静かに話すと、兄は「はっ」と飛び上がるように立ち部屋から出て行った。ドアを閉めるとき私と目が合うと、兄さんは真剣な顔で私に頷いた。ガンバレとか、そういった類の頷きだろうか。

  行かないで……と叫びたかったが、目の前に立つべリアスさんの威圧感に声が出なかった。


 本当に、この人はこの国の()()なのだ。


 食事が運ばれて来た。

 ルームメイドのノエルさんが料理を並べ部屋を後にするのを、私はベッドの上でボンヤリ眺めていた。


 べリアスさんは何も言わずソファーに座り目を閉じている。

 川で出会った時とは違い、髭も無く黒い角を生やした悪魔の姿のべリアスさんは、思っていたよりも若く“おっさん”でもなかった。


 あっ! べリアスさんではない、国王陛下よ。

 陛下よ……陛下! 


  ああ、“おっさん“ とか、”鈍くさい”とか言ってしまった。

 うわーーー過去の自分を消し去りたい。


「食べながらでいい、少し話しがしたい」(べリアス)


「この格好で、大丈夫ですか?」


「構わぬ」


「その前に、ごめんなさい! 申し訳ありません!」


 ベッドの上で土下座した。


「どうした?」


「“魔王を倒す“ とか言ってしまいました」


「別にかまわぬ。一部の民から嫌われているのはわかっている。今日のように命を狙われるのは珍しくもない。ルーシー、この度は本当に助かった。礼を言う……さ、こっちへ来て食べるんだ」


 顔を上げると、べリアスさんが手招きをし微笑んでいる。

 笑顔が怖い。

 これは行かないとマズイ。


 ベッドを降り、ベッドわきにあったルームシューズを履きおずおずとべリアスさんの向かい側のソファーに座った。


「うわぁ!」


 目の前にはシチューのような料理とサラダとパンと、ローストした肉料理にフルーツ盛りがテーブル一杯に並べられていた。いい匂い!

 そして、前世の世界の様に料理の左右に銀色のスプーンとナイフとフォークが並べられているのを見て、なんだか懐かしさを覚えた。


 しかも、食べてみたらシチューの方は、()()()! 

 肉料理は、カモ肉かな……めちゃくちゃ美味しい!


 この世界に来て、一番の美味しさだった。


 ”話しながら食べよう”とか言っていたが、べリアスさんは全然話さない。私から話すのも恐らく失礼と考え、終始無言が続いた。



「どうした、やけに静かだな」


 沈黙に耐え兼ねたのかべリアスさんが口を開いた。


「え、あ、陛下。あ、ああ、あまりにも美味しくて」


 その言葉にべリアスさんは”パアッ”と表情を変え、嬉しそうに笑い皿を差し出した。


「そうか! 私の分も食べても良いぞ」


「そんな!? 陛下!」


「それにその呼び方はやめろ、“べリアス“でいい」


「ですが、……陛下」


「べ・リ・ア・スだ!」


「べ、べリアス」


「なんだ♪」


 べリアスさんは嬉しそうに笑った。



「あの、私の騎士見習試験はどうなったのでしょうか?」


「何を心配している。ルーシー、お前は”聖なる光に選ばれし勇者”だ。我が国の新しい勇者として面倒をみるに決まっているだろう」


「”聖なる光に選ばれし勇者”?」


「ああ、聖なる光とはあの”光る剣”のことだ。お前はこれから、この城の王宮で暮らすことになる」


「お城に住めるの!?」


 ジーザス! こんなにも早く望みが叶うなんて!


 べリアスさんはおもむろに立ち上がり、私の横へ来て跪き、手を取り顔を近づけた。

 んっ?


 間近で見るべリアスさんは、艶やかな黒髪と白い肌。長いまつ毛に赤い瞳。スッと伸びた鼻筋に、形のいい薄い唇……世界の美の集大成のような、怖いくらい美しく整った顔立ちをしていた。


「さあ、なんでも望みを叶えてやろう。望みを言え」


「ええ!? 急にどうし……なさったんですか?」


 べリアスさんはゆっくりと立ち上がり、私の肩に腕を回し顔を近づけ耳元で優しく囁いた。


「望みを叶えてやると言っているんだ、さあ、なんでもいいぞ」


「ええっ、でも、今のところは、騎士見習にもなれそうだし、住居の心配もないし……」


「何かあるだろう? 力とか、お金とか、美貌とか……」


「……でも、それって、まさか、“望みを叶える対価として魂を取る“たぐいの契約とか……じゃないですよね?」


 べリアスさんは急に真顔になり、悪そうな顔でニヤリと笑った。


 そういう契約なの!?

 危なっ……って、この人悪魔だった。



「察しがいいな、それでこそ私のルーシーだ。さあ、遠慮するな望みを言え」


「!?」

 

 迫りくるべリアスさんの腕からすり抜け、ドアの方へと駆けだした。だがすぐに腕を掴まれ、やはり大人の悪魔の腕力には敵わず、簡単に押し倒されてしまった。


 “床ドン“ である。


 前世でもこんな風に男の人に迫られた事なんて一度も無かったのに、しかも、とんでもなく美形の悪魔に……


 まずい……逃げられない。

 赤い瞳で射抜くように私を見つめ、悩まし気に目を細めた。


 うっ……い、色っぽい。

 なんか軽く美女マウント取られたようで悔しい、べリアスさん男なのに!!!


 ズキ……

 頭痛がし、声が聞こえた。


 『お・ま・た・せ♪』


 押さえつけられていた手とは逆の手に、なにか堅いモノが触れる感触がした。

 反射的にそれを握りしめると、強い光を放った。



「ちょっ……それ!? なんで!?(声が裏返る)」(べリアス)


 べリアスさんの声に手元を見ると、輝く”勇者の剣”が握られていた。

 ”勇者の剣”に驚き、甲高い声を発しながらべリアスさんが飛びのいた隙に、私は態勢を立て直し剣を構えた。


「で、なんで?」(ルーシー)


 なんで剣が現れたの?

 ズキ……


 『ふ・う・い・んチャンス! 勇者ちゃん♪』


 イ、イケボ……何かの聞き間違えかと思ったが、妙にハキハキとした爽やかな男性の声が頭の中に響き渡った。 


「封印って?」(ルーシー)


「何と言った!?」(べリアス)


 さっきまでの余裕の表情が消えたべリアスさんの口に牙が生え、瞳が()()()と光った。


 ズキ……


 『気を付けて、こいつ以外にもう一人、悪魔がいる』


「もう一人? 悪魔?」


 この剣は、いわゆるイケボナビゲーション付きの武器なのだろうか? 

 とにかく剣を構え部屋を見渡すも……私たちの他には誰もいないように見える。


「誰と話をしている。……ルーシー、よしわかった。話し合おうではないか」


 べリアスさんは徐々に落ち着きを取り戻し、掌を下に向け私を説得し始めた。

 それと同時に、ソファーの後ろから黒い影が立ち上がった。


「なーんだ、バレちまったか……」


「アスモデウス……」


「え、誰!?」


 『よし! じゃあ二人まとめてサクッと、ふ・う・い・ん☆ せーの! で剣を振ってみて♪』


「え!?」


 『せーの』

「せーの……」


 言われるがまま、剣を軽く縦に振った。



お付き合いいただきありがとうございますm(__)m

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