79話 降臨!
【アクアラグーン王国騎士団専用宿泊所・ダニエル視点】
大雨の中、我々は王国騎士団専用宿泊所から逃走した馬車の捜索を開始しました。
2時間後。
宿場町へ向かう途中の林の中で、馬車を発見致しました。
車輪が泥にはまり動けなくなった馬車を、皆泥だらけになりながら引き揚げ。その後、ミカエル様捜索及び、今夜泊まる宿の確保のため、ホテルロイヤルラグーンへ赴きました。
雨はあがりようやくまともな宿を確保しようとした矢先。泥だらけの我々はホテルの入り口で止められた。それを”無礼な!”と、無理やり振り切ろうとしたソロモン以外の”聖なる七つの光”が守衛の一人を誤って転倒させ怪我を負わせてしまい、すぐさま我々は捕縛され王国騎士団に引き渡されたのでした。
過度の疲労とストレスが蓄積していたとはいえ、そのような暴挙に走るとは……ミカエル様の偉大さの影で、今まで見えていなかった”聖なる七つの光”の本性をこんなところで知ることになるとは……。
10年。
このような事態に至るまで、”聖なる七つの光”を、放任していた私にも責任があります。
それでもこの者達に声を荒げることも無く、寛大なる慈悲を与え続けようとなさっていたミカエル様。
あなた様が、我々の前からいなくなられてしまった理由が重々理解できました。
+++
[王国騎士団専用宿泊所ロビー・引き続きダニエル視点]
我々は、再びこの場所へ戻されておりました。
全身黒づくめの黒い眼帯を付けた恐ろしい顔の悪魔がギロリと我々を睨み付け、私と”聖なる七つの光”は青ざめ、言葉もなくただ震え、審判の時を待っているかのような状況でありました。
程なくして移動式魔法陣で、アスモデウス殿下とスチュワート様が御出でになり、”聖なる七つの光”は、バンディ城迎賓館で待機。私は、そのままこの宿泊所に留まることを命じられた。そして、信じられない事にミカエル様をここで待つよう伝えられました。
スチュワート様より、
「ミカエル様は無事で、天使族騎士ブラッド様とサミュエル様と共にこちらに向かわれております」
と、お聞きしました私は至極安心致しました。
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キィィ……
輝くようなミカエル様が、二人の天使族の騎士と共に扉を開け中へ入って来て下さいました。
騎士宿泊所を目の当たりにし、驚くミカエル様の麗しい表情に私は心の底から安堵いたしました。
「ミカエル様! 御無事でなによりです!」
ベージュのローブを身に着け、それでも内からにじみ出る輝きを隠せないミカエル様に、私は駆け寄りました。
「……ダニエル」
私と目が合い表情を曇らせたミカエル様に、私は、すぐさま謝罪いたしました。
「ミカエル様……大変申し訳「もう、ミカエルではない。エリックだ!」
「はい?」
「ミカエルは辞めた。ダニエル、今までご苦労だった。感謝する。デウスへ戻り、私のこの有様を報告し、すぐさま私の代わりを立てそちらで「なりません!」
「代わりなどいくらでもおるであろう」
「そういう問題ではありません」
「では、どういう問題なのだ」
「あなた様は、天使界の”唯一無二”の存在でございます」
「嘘だ。サミュエルだって”至高の癒しの光”が使える。唯一無二とか……仰々しい」
「やめろ、エリック。心配して来てくれてんだから……」
サミュエル様が、私を気遣ってくださいました。そしてまるで友のように、ミカエル様をエリックとお呼びになりました。
!?
サミュエル様のお背中にもう一人……。
「心配など無用だ。サミュエル、部屋へ行こう。おお……あれは風呂なのか!?」
ミカエル様は真っ直ぐにロビーを駆け抜け、ガラス張りの窓へ顔を寄せ嬉しそうに声を挙げた。
「本当に、ここに泊まってくのか?」
「ああ、サミュエルやウィルお兄様と同じ宿に泊まり、同じ食事をし、一緒に風呂にも入る。そして騎士になる!」
サミュエル様の問いかけに答えたミカエル様のお答えに、私は血の気が引いていくのを感じました。
「マジで!?」
サミュエル様の背中に居る少年が声をあげると、ミカエル様は嬉しそうに答えた。
「マジで! ウィルお兄様」
ウィルお兄様!?
「それはやめて、”ウィル”でいいよ」
小柄な体格にカールした深緑の髪、パッチリとしたグレーの瞳の可愛らしい顔立ちの少年がサミュエル様の背中から飛び降り、ミカエル様のお手をお取りになった。
「じゃあ、エリックさん、部屋を決めよう!」
「ああ、頼む。行こう、ウィル」
「ウィル。俺はちょっとこの人と話があるから、くれぐれも無礼なことはするなよ!」
宿泊所の奥の方へ走る二人にサミュエル様が声を掛けると、ミカエル様が少年と共に振り向き胸に手を当て敬礼された。
「はい!」(二人)
二人は手を取り合い、宿泊所の奥へ消えて行った。
あのように他の者と自然に笑い、楽し気に振る舞うミカエル様を見るのは久しぶりでございました。
「ミカエル様……」
「あの、ミカエル様の執事様。よろしければ、あちらで少しお話を……」
ブラッド様に促され、私は、ロビー横の談話室で、今までの詳しい経緯をお話し致しました。
+++++
【王国騎士団専用宿泊所・ミカエル視点】
勇者ルーシーの3番目の兄ウィリアムと共に、私は王国騎士団専用宿泊所で部屋選びを始めた。
ここは少し古くて男くさいが、戦争中、天使族長候補たちと皆で避難していた、田舎の古い修道院での生活を思い出させた。
「エリックさん、なにか希望とかありますか?」
「ウィル、出来れば私は、サミュエルの部屋の近くがいい」
「だったら、おすすめは、あの部屋かな……」
ウィリアムが指さす部屋の前まで行きノックをした。
ガチャ……とドアを開くと、
カア!カア!カア!カア!カア!カア!
幾羽ものカラスが窓から飛び込んできたのが見え、慌てててドアを閉めた。
「カラス!?」
「うん。ちなみにここはサミュエル副隊長の部屋!」
「凄いな。サミュエルは、カラスも手懐けているのか?」
「フフッ、手懐けているようには見えないけど……次はこっち、誰かいるかな?」
ウィリアムは、楽しそうにその隣の部屋のドアの前に立つと……。
ガン!
そのドアが勢いよく開き、ウィリアムの顔面を強打した。
「……っ痛ったぁーーーー」
「ああああっ! 悪ぃ、ウィル。大丈夫か?」
中から迷彩服のボタンを閉じながら、明るい緑色の短い髪の青年が現れ、慌てた様子でウィリアムの顔を覗きこんだ。目元がなんだか可笑しなことになっているのは気のせいであろうか?
「大丈夫。イムさんの部屋だったんですね……ブっ、フフフッ」
ウィリアムがその青年の顔を見て笑っているので、あの目に描かれたものは、もしや”いたずら”なのでは?
「どした? 頭、変な所打ったか」
「ぶっ……フフ……なんでもありません」
「そうか。そちらさんは?」
私の方を見られたので、すかざず自己紹介をした。
「エリック・キングと申します」
「イムだ、はじめまして」
「サミュエル副隊長の友達なんだよ」
嬉しい事にウィリアムが”サミュエルの友達”と、付け加えてくれた。
「そうなんですか! ああっ、寝過ごして、今急いでる。またな!」
笑いを堪えるウィリアムの頭をその青年は、心配そうな表情でわしゃわしゃ撫で、凄い速さで駆けて行った。
「目のあれ……言ってあげなくていいの?」
「いいの」
ウィリアムがニヤッと笑った。
「だって、あのままじゃ……」
すると、建物の遠くの方で笑い声と叫び声が聞こえた。
「ウィルーーーーっ!!!」
さっきの青年が凄い速さで戻ってくるなり、ウィリアムに襲い掛かった。
それをウィリアムは、ヒョイヒョイかわし笑いながらその青年に言った。
「それ書いたのサミュエル副隊長ですよ! 約束忘れたイムさんが悪いんです!」
「うああっ! そうだ忘れてた! そうだった! ウィル悪かった!」
動きを止めたその青年は、すぐさま近くの水道で顔を洗い「またな!」と爽やかに笑い走り去っていった。
「忙しそうな人だね」
「うん、あれがルーの婚約者。イム王子だ」
「え!?」
もう既に姿は無かったが、あの青年が走り去った先をもう一度見た。
さっきの迷彩服の青年が、妖精王の第3王子!?
勇者ルーシーと”婚約”している、アークトゥルス王子!?
あの傲慢で破廉恥な妖精王に、全く似てない!
面影すらない!
「全然、王子っぽくないでしょ」
「……そうだね」
王子なのに王子という身分を隠し、王国の騎士として任務に向かう彼の姿に私は衝撃を受けた。
「なんと……かっこいい」
勇者ルーシーがあの王子を気に入り婚約を了承してしまったのも、彼を見た後なら十分頷ける。
「ルーは、あの腰に刺した双剣を”目をキラキラ”させて見てた。ってオスカー兄さんが言ってた」
”双剣”……そういえば、目元の違和感に気を取られ、そこまで彼を見てはいなかった。勇者ルーシーが目をキラキラさせるほど魅了された”双剣”なるものを私も是非見てみたいと思った。
「ウィルは、この婚約には賛成なのかい?」
「うーーーん。わかんない。それに、ルーだってよく分かってないと思うよ」
「え。ええっ、どういうこと?」
「フフフっ、ちょっと事情が……まあ、そーゆーこと! 次は、この部屋っ」
ガチャ……
+++++
【王国騎士団専用宿泊所・アイザック視点】
俺は幻でも見ているのか?
あの方は!?
ミカエル・キング様! では!?
お召し物は違えど身からにじみ出る輝きは、まさに天使族長”ミカエル・キング様”。
なぜに、この掃きだめのような王国騎士専用宿泊所に、あのお方が!!!
「どしよう、ジュリアンどうしよう」
「どうしたの?」
「ミカエル様が、降臨なさっている!」
「はぁ?」
部屋で一緒に、”虫よけハーブ石鹸”の商品化の案を練っていたジュリアンが、呆れた顔で聞き返した。そうか……ジュリアンは王都カルカソ育ち。ミカエル様の事はあまり知らないのか……。
「天使族の最高位の”奇跡を司る者”ミカエル・キング様だ」
「”ヴァーチェス”……聞いたことあるけど。へえ、そんな偉い人が視察か何かかな?」
「分からないが、ルーシーの兄と一緒に部屋を見て回っている」
「レイ副隊長?」
「ウィルさんのほう」
「ウィルさん!?」
ジュリアンが部屋から出てきて、俺と一緒に二人の様子を伺っていると、部屋を見まわっていたウィルさんが俺たちに気付き声を掛けてきた。
「おーい! アイザック、ジュリアン、お前ら仲良かったのか?」
「は、はい。ウィルさんそのお方は、もしや……」
「ああ、エリックさん。天使界の偉い人」
「(小声)ウィル、偉い人は余計です」(ミカエル・キング)
「でも、言っちゃったし」
エリック!? ほ、本名じゃん!!
本当に、本当の本物じゃないか!!
「ミカエル・エリック・キング様!」
「すまない。もう、ミカエルはやめるんだ。エリックと呼んでほしい。で、君たち、名前は?」
「アイザック・ラミエルと申し上げます」
「ジュリアン・パーカーと申し上げます」
ジュリアンが事の重大さを感じ取り、俺と同じように跪き敬礼した。
「よしてくれ、今日から私は君たちと同じ騎士見習として、ここで暮らすのだ」
「ええっ!」
こんな場所でミカエル様が!
何かの冗談か!?
いいや、冗談ではない……きっと、これは”奇跡”だ!
「ああ、でも、雨漏りのせいでいまいち部屋が無くて……っていうか、いい匂いだな」
ウィルさんが私の部屋を覗いた。
「ああ、今、”虫よけ石鹸”の商品化の話し合いをしていて……」
ジュリアンが乾燥させたハーブをウィルさんに見せた。
ミカエル様は、そのハーブをお手に取り香りを楽しまれた。
……ミカエル様は”お部屋”を所望している。
今夜、俺は神殿警備で部屋を開ける。
虫嫌い&清潔さを追求した、俺様使用でカスタマイズされた部屋をミカエル様に捧げるチャンスだ!
「宜しければどうぞ、私の部屋をお使いください!」
「ええっ、でも、君はどうするの?」
ミカエル様が驚いた。
「今夜、神殿警備の仕事がありますので、マルクス副隊長の部屋で休む予定でありますので。どうぞご自由にお使いください。ただいま、片づけますので」
「そうか、良かったー。それにしても凄いなこの部屋」
ウィルさんが私の部屋に入り、ベッドの上に設置したハンモックに寝転がった。
「窓は網戸! 虫よけのハーブにハンモックには蚊帳付! 虫対策はバッチリでございます!」
「アイザック、本当に良いのか?」
ミカエル様が目を輝かせて俺の部屋に足を踏み入れた。
なんたる光栄の極み!
質素な床に、ミカエル様の荘厳な足音が響く!
「よし、じゃあ部屋はここで決まりな! アイザック、マルクスさんに会ったら、この事を伝えといてくれ」
「はい」
コンコン
部屋の壁をノックして、ブラッド隊長とサミュエル副隊長が連れ立って顔を出した。
「部屋は、ここで……決まったのか?」
「はい!」
ビシッと笑顔で敬礼するミカエル様に、ブラッド隊長は表情を強張らせ荷物を手渡した。
「着替えと生活用品です。……本当に、こちらで宜しいのでしょうか?」
「ああ。昔住んでいた修道院を思い出すよ」
「修道院?」
「私の事は、騎士見習。そして、君の部下として扱ってくれ」
「……」
ブラッド隊長は困惑した表情で、小さく敬礼して戻って行った。
「サミュエル! 凄いぞ、ハンモックだ!」
ミカエル様は、ウィルさんが寝転がっているハンモックを楽しそうに揺らした。
「良かったな、エリック!……部屋は決まったし次は、風呂でも入るか?」
サミュエル副隊長が提案すると、ミカエル様は目を輝かせ大きく頷いた。
ふ、風呂だと!?
あの大浴場にミカエル様が、お入りになられる!?
俺もミカエル様と一緒にお風呂に入り、そのお背中を……ダメだ。恐れ多すぎるっ!
それに、この身が持つのかどうか分からない。
ああだけど、一目、そのミカエル様のお身体を拝むだけでも……うわああっ、これから神殿警備の仕事がああああっ!
休みたい!
でも、部屋貸しちゃったし。
同室!?
同室でも、か、可能だろうか?
寝る場所なんてどこでもいい!
椅子に座りながらでも部屋の隅でも、なんなら、その神々しいお姿を見上げられる床に寝てもいい!
「アイザックどうした?」
ウィルさんが葛藤を繰り返す俺の肩を叩いた。
「あ、そのっ」
何か休む理由を言い出そうとすると、ウィルさんは顔を近づけ耳元で囁いた。
「(小声)マスクスさんの部屋か……ルーにちょっかい出すなよ」
「出しませんよ! それよりミカエル様と、お風呂に……お風呂に……ご一緒したい!」
それを聞いたミカエル様が、輝くような微笑みで俺にこう仰った。
「アイザック。では明日、一緒に入りましょう」
パァァァァーーーーっ(効果音)
と、ミカエル様の周囲に後光が射した(感じがした)。
なんと、なんと、神々しい!!!
”一緒に入りましょう”
”一緒に入りましょう”
”一緒に入りましょう”
神聖なミカエル様の声が、何度もこだました。
「光栄至極に存じます! では、行ってまいります!」
跪き最敬礼し、”ミカエル様と明日、お風呂をご一緒するため”俺は神殿警備の仕事へ出かけた。
茜色に染まる空を見上げ、この奇跡に俺は感涙する。
「ああ、ミカエル様!」
+++++
熱狂的信者いた!
お付き合い頂きありがとうございますm(__)m
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※2021/11/2訂正しました。
※2024/2/13訂正しました。




