78話 生クリーム&フルーツ全部乗せ特大パンケーキとトロピカルソーダのマリアージュ(組み合わせ)
【ホテルホーリーウッド・ルーシー視点】
朝の大荒れの天気から一転、昼には雨は上がり青空が広がっていた。
昼食後。
明日からの訓練に備え、私はホムラとスカーレット先輩、そして、レイ兄さんとジョギングに出かけていた。
今回は、宿を出て湖の横を通り訓練場まで行って戻ってくる、”誘惑ゼロコース!”
宿→神殿の丘コースは食べ物屋さんが多いので、ついつい帰りに買い食いしてしまう。そして、レイ兄さんにおねだりするのも、流石に女子3人分はかわいそうなので今回は遠慮した。
いろいろな花が咲いている雨上がりの草原を走りながら、昨夜、私の部屋に現れた”レグルスちゃん”という女の子の事を思い返した。
あの子は、どこに住んでいるのかな?
この宿場町の子なのかな?
町の……例えばお花屋さんのお嬢様だったり、長期家族旅行で来てる変わり者のお嬢様だったり……。
ここから、少し離れた場所には樹海が広がっている。
まさかね……。
ないないないない、絶対ない。
合宿に来る前、アーサー団長補佐から”樹海で肝試ししちゃダメだよ”と注意されたけど、そこで肝試しとかマジ勘弁! 昼間でも薄暗くて不気味なのに、夜になったらどうなるのか想像しただけでもゾッとする。でっかい虫がわんさか出てきそう……。そんなところに、あのレグルスちゃんが住んでるなんて想像できない。
そうこうしてるうちに宿へ戻る途中、草むらの中から突然、白いTシャツ姿のウィリアム兄さんが目の前に現れ、私達には目もくれず凄い速さで宿の方へ駆けて行った。
「ウィル、来てたんだ」
「うん、昨日から。……ルーがいないって残念がってたけど」(レイ)
「え、でも、さっき私になんて目も止めなかったよ」
「あれでしょ、ウィルさんは、ロナ目当てでしょ。教会にでも行ったんじゃないの」
スカーレット先輩がニヤニヤした。
「まさか、出待ち!?」
「それも、偶然を装って」
ホムラが楽しそうに言った。
「じゃあ、ついでに教会まで走ってみる?」
レイ兄さんが、穏やかに微笑みながら鬼のようなことをサラリと言い出した。
「ええーっ、やだ! もう、疲れたー」
速攻、スカーレット先輩が断った。
「「鬼か!」」(ルーシー&ホムラ)
「フフフ、残念。ウィルが”待ち伏せしてる姿”見たかったのに」
本心なのかふざけているのか、いまいち分からない表情でレイ兄さんが爽やかに笑った。
+++
【ホテルホーリーウッドカフェ・ルーシー視点】
軽いジョギングを終え、宿の裏庭のカフェの前に到着した。
んん!?
パンケーキを焼くいい匂いがする。
なんだか、お腹が空いてきた!
”カフェの誘惑”
これは、完全に”誘惑”に屈してしまう展開……。
しかも、パンケーキを焼く香りで攻めてくるとは、えげつないっ!
「な、なんか、お腹空いてきたわね」
スカーレット先輩が、モジモジしながら私の顔を見た。
横にいたホムラも目が合うと、ニコッと笑った。
私は、大きく頷いた。
「レイ兄さん、カフェでなんか飲んで行こうよ。自分で払うから!」
「私も、もちろん自前で」(スカーレット先輩)
「じゃあ私も!」(ホムラ)
「いいけど、夕食前なんだからパンケーキとか頼んじゃだめ「はーい!」(3人)
「だから、パンケーキとか……
レイ兄さんの声なんて、もう聞こえていなかった私達は、パンケーキ、いや、カフェへ一目散に駆け込んだ。
そこで目にしたものは、
「ウィル……と、サミュエル副隊ちょ……」
奥のソファー席でパンケーキをガッツいているウィリアム、その隣に、私達を見て焦るサミュエル副隊長、そして、その横のベージュのフードを被った色白の天使族の……男の人が立ち上がり、こちらを見て金色の瞳を輝かせた。
「ブッ!」
急に、隣に居たホムラが吹きだした。
「え!? ホムラ? お知り合い?」
「マジ!? なに? その組み合わせ!?」
ホムラが手を口に当て笑いを堪えている。
「ね、誰なの?」
「ルー、この前城で会ってるだろ!」
「え? ええ??? 誰? この前、いろんな人に会ったから……」
天使族の、特にこの前会った人たちは、全員真っ白で、似た感じの人たちばかりで、いまいち区別と言うか誰が誰なのか……ミカエル様ぐらい特徴があったら分かるんだけどな。常に、髪がなびいているみたいな。
「ミカエル様だよ!」
「え……えええ!!!」
フード被っててわかんなかった!?
「そこ! デカい声だすな! まず、こっち来い。エリックも座るんだ」
なんだかいつもと違ってピリピリした雰囲気のサミュエル副隊長に呼ばれた私達4人は、小さく敬礼し彼らの前に腰を下ろした。
エリックって?
+++
「ミカエル様……とは?」
レイ兄さんが、サミュエル副隊長に小声で尋ねた。
「(小声)天使界のトップだ」
「(小声)!?……そんな方がなんで?」
「(小声)なんか、よくわかんねぇけど、騎士になるって…」
「(小声)え!?」
「(小声)で、今朝、それで宿泊所に、天使界の上層部の奴らがルーシーの居場所を聞きに来て、ジュード団長補佐と揉めて……」
「(小声)は?!」
「(小声)一応、さっきウィルに頼んで、宿泊所で待機している団長補佐に報告して、スチュワート様に連絡したらしいが……
「サミュエル、そちらの方は?」
ミカエル様がレイ兄さんの方を見つめた。
「ルーシーの2番目の兄、レイだ」
「2番目の、お兄様!?」
ミカエル様は驚いた顔で、レイ兄さんとウィリアムを交互に見つめた。
レイ兄さんは、スッと立ち上がり跪き敬礼した。
「お初にお目にかかり光栄です」
「お、お兄様。私に対しそのような挨拶は無用です。どうぞお座り下さい。そして……ゆ、勇者ルーシー殿と、バンディ城のホムラ嬢、そちらの麗しいお嬢さんは?」
「あ、ス、スカーレットでございます。お初にお目にかかり、こっ、光栄です!」
スカーレット先輩が赤面しながら立ち上がり胸に手を当て敬礼した。
「堅苦しいのはよしてくれ、エリックだ。よろしく」
ミカエル様が柔らかく微笑むと、スカーレット先輩がキャーと叫んだ。
……で、エリックって?
「スカーレット、少し静かにしてくれ」
サミュエル副隊長が真顔で注意すると。
「はーい♡」
スカーレット先輩は、またうっとりとミカエル様を見つめた。ミカエル様は頬を赤くして目を逸らし、サミュエル隊長の袖を引っ張った。
「なあ、サミュエル。君はいつも、こんな女の子たちと、か、会話をしているのか?」
「は、あ、ああ。合宿の引率だからな」
「引率……?」
「(小声)レイ、話を戻すぞ」(サミュエル)
「(小声)それで、どうするんですか」(レイ)
「(小声)どうもするも、私は、騎士になりたいのだ」(ミカエル様)
ミカエル様が会話に入ってきた。
「(小声)だから、なんで?」(サミュエル)
「(小声)お前のように、勇者の側に……一緒に居て、傷を治す、その……医療騎士に……」(ミカエル様)
「(小声)はぁ?」(サミュエル副隊長)
「(小声)とにかく、私は、その……騎士になって……」(ミカエル様)
私達3人は耳を澄ませ、そのヒソヒソ話に聞き耳をたてていると、ターナーさんが生クリームとフルーツがたくさんのったパンケーキと、花やフルーツで盛大にデコレーションされた飲み物をミカエル様の前にそっと置いた。
「「「凄ーい! 美味しそう!」」」(女子3人&ウィリアム)
「当店自慢の”生クリーム&フルーツ全部乗せ特大パンケーキと、スペシャルトロピカルソーダ”で、ございます。宜しかったら、どうぞお召し上がりください」
「おい、ターナー、頼んでねえぞ」
やっぱりピリピリしているサミュエル副隊長がターナーさんに、ぶっきらぼうに言った。
この二人は、知り合いなのかな?
「私からの、ささやかな献上品でございます」
ターナーさんは、平然と胸に手を当てミカエル様の前に跪いた。
「は? 献上品……」
呆れるサミュエル副隊長の横で、ミカエル様は瞳を輝かせパンケーキとトロピカルソーダを見つめ嬉しそうに微笑んだ。
「ターナー殿、有難く頂戴いたす。だが、私には少し多すぎる。皆に取り分けてもらえないか」
「畏まりました」
ターナーさんがパンケーキを8等分し、取り皿に綺麗に盛り付けていくのを、ミカエル様が率先して名前を呼び皆にお皿を手渡した。
「どうぞ、ごゆっくりお過ごしください」
+++
「パンケーキ……何年ぶりであろう!」
「食べた事あんのか?」
サミュエル副隊長の、まさかの突っ込みにミカエル様は表情ひとつ変えず「ああ、幼き頃に……」とつぶやき、嬉しそうにナイフとフォークでパンケーキを小さく切り口へ運んだ。
「……なんと! なんと素晴らしい!」
この二人は、以前からの知り合いとか?
同じ天使族で親戚とか? 友人だったとか? ミカエル様って何歳なんだろう? サミュエル副隊長より若干、年下に見えるけど……。
……なんだろう、いまいち状況がつかめない。
スチュワート様からは、ミカエル様は晩餐会の挨拶回りの要注意人物で、”余計なおしゃべりはしないように”と、厳しめに忠告を受けていた。そんな王国の重要ポストに就くお方に、こんなに気軽に口を開いていいのだろうか。しかも、タメ口で……。
”生クリーム&フルーツ全部乗せ特大パンケーキ”は美味しいはずなのに、不安ばかりで味がよく分らない。
「サミュエル、さ、君も食してみよ!」
「ああ、じゃあ……」
サミュエル副隊長は、両手を合わせて軽くお祈りし食べ始めた。
「サミュエル、この飲み物も不思議な味がするぞ。飲んでみよ」
ミカエル様が微笑み、ストローが1本刺さったトロピカルなグラスをサミュエル副隊長の方へスッと寄せた。
天然なのか素なのか……普段から天使界ではそういう感じなのか、とんでもない事を極々自然な感じでサラリと行動されるミカエル様に私は驚きを隠せなかった。
その突然の申し出に、サミュエル副隊長は顔を真っ赤にしてグラスを戻した。
「お、男とシェアなんてするか」
「そこは、じゃあご一緒しますでしょ!」
スカーレット先輩がサミュエル副隊長に軽く突っ込むと、ミカエル様は微笑み頷いた。
サミュエル副隊長が赤面し物凄く怖い顔で睨んできたけど、めちゃくちゃ優しい性格だって分かってるから、スカーレット先輩は吹き出して、その横でホムラとウィリアム兄さんが肩を震わせて笑っていて、私も思わず苦笑いした。
「そうだよサミュエル、遠慮しないでくれ、私には多すぎるから、ほら……」
ミカエル様は、その白く細く美しい手で、ストローの飲み口をサミュエル副隊長の口に向けた。
飲むのか? 飲むのか? 飲んでしまうのか?
「飲めるか!?」
「じゃあ、僕が!」
ウィリアムがサミュエル副隊長の脇の下からヒョイと顔を出し、ストローに口を付け”ズズズッ”っと一気に飲み干した。
「ーーーーふぅ。美味い! ありがとうエリックさん!」
ウィリアムがくりくりした瞳を輝かせ、驚き呆気にとられているミカエル様にお礼を言った。
「どういたしまして。驚きました。いい飲みっぷりですね」
「サミュエル副隊長のファーストキスも守れましたしね」
「ファースト……キス?」(ミカエル様)
「はぁ!? ウィル!てめぇ何言ってんだ」
サッと、サミュエル副隊長がウィリアムの首を抑え込み、腕で締め付けた。
おっ! 速い!
「ギ、ギブです。すいません。許じ……で…」
「サミュエル、ルーシーのお兄様に暴力はいけないよ」
「……」
サミュエル副隊長は、すぐにウィリアムの首から手を放し残りのパンケーキをガッと口に入れた。
「凄い。ウィルを一瞬で」
初めて見るサミュエル副隊長の体術に驚いていると、ウィリアムが照れ笑いをしながらソファーに寝転がった。
「そうなんだよ。副隊長って、めっちゃ隙がありそうに見えて、全然無いんだよ。あーあ、今年の副隊長昇格は無理かなー」
「ウィル、副隊長昇格狙ってるの?」(レイ)
「もちろん! レイ兄さんを超えるんだ!」(ウィリアム)
「サミュエル副隊長って、そんなに強いの?」(ルーシー)
「失礼だな」(サミュエル副隊長)
「すいません」(ルーシー)
「4番隊に入ってから、ずっと張り付いてるけど、勝機が見出せなくて……」(ウィリアム)
「ずっと!?」(レイ)
「1年以上も?」(ルーシー)
「レイ、頼む。お前からも辞めるように言ってくれよ」(サミュエル)
「サミュエル副隊長、弟がすいません。でも僕が言って、やめるかな………ウィル、迷惑だって、やめようね」(レイ)
「やだ!」(ウィリアム)
ウィリアムがサミュエル副隊長の胴に抱きついた。
ウィリアムがこんなにサミュエル副隊長に懐いているなんて全然知らなかった。
でも、分かる気がする……あの”癒しの光”は最強で、しかも、う~んと優しいから、あの光で治癒を施された騎士見習たちほとんどは、サミュエル副隊長の事が好きだし。サミュエル副隊長を悪く言う人なんて見たことがない。あの時(キメ顔事件)の、レイ兄さんを除いて。だから正直、ああやってストレートにサミュエル副隊長に甘えるウィリアムが、なんだか少し羨ましく思えた。
「はぁーーー」
サミュエル副隊長は、ため息をつき頭を抱えた。
「サミュエルは、モテるんだね」
ミカエル様が優しく微笑んだ。
「あのなエリック。これは、モテているとは言わない。副隊長の座を奪い獲るための、実力行使ってやつだ」
「でも、騎士見習は全員、サミュエル副隊長が大好きですよ」
私がフォローを入れると、サミュエル副隊長は「ありがとな」と照れながら笑った。
「で、さっきから気になっていたんですけど、”エリック”って……?」
サミュエル副隊長に尋ねたつもりが、ミカエル様が目を大きく見開き私を見つめて口を開いた。
「ああ……わ、私の本名エリック・キングの”エリック”だ。ゆ、勇者ルーシー」
「そうなんですか。かっこいい名前ですね」
「か、かっこいい!……そ、そうか! ルーシー、ありがとう!」
ミカエル様は微笑み、嬉しそうにパンケーキを優雅に口に運んだ。
なんだか心配していたけど、ミカエル様は意外と”いい人”なのかもしれない。
傲慢でもなく命令口調でもない上品で優雅な物腰に、育ちの良さそうな控えめで優しい自然な微笑み、身体全体から滲み出ているような神聖な輝きを纏った声、まさに天上から舞い降りた純真無垢な天使がそのまま成長したかのような”天使界長ミカエル・キング様”。彼の聖なる魅力は、素直で、真面目で、優しい、(エロくない時の)国王べリアスさんに、どこか似ているなと思った。
そのような方が、どうして急に”騎士”になりたいなどと、お考えになったのだろうか?
それに、サミュエル副隊長のタメ口が気になる!
いったい、二人は、どういう関係なのだろう。
「で、これから、どうするんですか?」
レイ兄さんが、サミュエル副隊長に尋ねると。
「そうだな、ジュード団長補佐からの連絡待ちと、ブラッド隊長とマルクスが来てからだろうな……。スチュワート様がなんとかしてくれるとありがたいんだが。あの人も忙しいからな」
「なあ、ルーシー。騎士宿泊所とは、どんなところだ?」
ミカエル様が、目を輝かせて聞いてきた。
「ん!?」
突然の質問に目が点になった。
「ぶっ!」
ホムラたちが吹きだした。
「まさか!? そこへ泊りたいなんて言うんじゃ」
「泊まってみたい」
ミカエル様が眩しく微笑んだ。
「頼むからやめとけ」
サミュエル副隊長は止めた。
「うん、ミカエル様じゃ「その名で呼ぶのは、やめてほしい、”エリック”と……」
「ああ、ごめんなさい。エリックさんじゃ無理です。死にます。絶対無理です」
私も止めた。
絶対、あの宿泊所はやばい。
1日だってもたない。いや1時間もつのだろうか……。
「大袈裟だなー。私をバカしているのか」
「そういう問題じゃなくて……」
「男の騎士たちは、その宿泊所に寝泊まりしておるのだろ?」
「……ああ、でも、あのなあ……」
サミュエル副隊長が頭を抱えた。
「サミュエル! 」
汗だくで息を切らし血相を変えた、ブラッド隊長が外から駆け込んできた。
ミカエル様を見つけると、さっと跪き敬礼した後サミュエル副隊長に小声で耳打ちした。
「問題が起きた……すぐに合宿所へ」
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お付き合い頂きありがとうございますm(__)m
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※2021/11/2訂正しました。
※2024/2/11少し訂正しました。




