75話 二人の王子に狙われるって、どんな感じ。
【ホテルホーリーウッド・ルーシー視点】
ザーーーーーーーーーーーー
朝からの大雨で、訓練は中止となり、私とホムラ、スカーレット先輩3人は、のんびりホテルの私の部屋で過ごしていた。巫女見習は雨でも講義があるので、ロナは朝食後、教会へ行ってしまった。
昨夜、妖精族の美少女”レグルスちゃん”が残して行った花を見たスカーレット先輩が、花辞典を持ってきて、花の名前と、花言葉を調べてくれた。もちろん、レグルスちゃんの事は秘密で、朝起きたら、この状態だったと説明した。
「白い花は、小さいのはエリゲロン、花言葉は、”遠くから見守る”。花びらがフワフワしたのがガーデニア。”喜びを運ぶ”。青い花は、矢車菊。花言葉は、”信頼”。黄色い花は、万年草。”私を思って”。ピンクの花は、オエノセラ。花言葉は……なんですって!? ”新しい恋人””無言の愛””固く結ばれたた愛”!!!」
「そんな深い意味は、無いと思うんだけど……」
”かわいい妖精族の女の子が置いていった花”と言いたかったが、今はまだ言えない。
「フフフッ……なかなか、頑張ったわね」
と、スカーレット先輩は小さく呟き、興奮しながら窓辺に立ち、ガッツポーズをした。
ザーーーーーーーーーーーー
「”矢車菊”って、こんな花なんだ」
イフリート殿下の話の中で出てきた”花の名前”に、私も少し興奮した。
”矢車菊”……という花の名前を聞いても、ただ”青い花”という認識しかなく、正直、教えてもらうまでどんな花なのか全く想像できなかった。
改めて実物を見てみると、濃い青色の、丸みを帯びた可愛らしい”矢印”のような形をした小さな花びらが、たくさん集まって車輪のような形になった、とても綺麗でキュートな花だった。母が、この花を”貰って喜んだ”というのが分かる気がした。
ホムラは、スカーレット先輩の話を聞きながら何やらメモっていて、聞いてみると、結婚式のブーケの花を選ぶ際の参考にしているそう。
「ブーケかぁ~素敵ね。私だったら、ドレスに合わせた花色を選ぶわ。白だったら、白百合とか白い薔薇、アクセントでアイビーとか混ぜてもいいし、ムラサキのトルコギキョウとか、あとブルースターなんかも素敵ね」
スカーレット先輩が、うっとりしながら話し出した。
「ドレスは、何色?」
「……白」
少し頬を赤くして、ホムラが小さく答えた。
「キャー―――!!!」(私&スカーレット先輩)
「黒がいいって言ったら、無いって言われて仕方なく……」
ホムラなら、少し頑張って頼み込めば、黒のドレスぐらい作ってもらえそう……なんて思ったけど。ホムラもまんざらでもないようで、ドレスの絵を私達に見せてくれた。
「楽しみだね」
結婚式には、もちろん私達3人も行く予定。式に参列する際は、隊服でも可。しかも、移動用魔法陣でケルビン隊長がアクアラグーンへ迎えに来てくれるという。もう楽しみで仕方ない。
「式は城内の神殿。披露宴は血の大広間。ノールの王子も来るよ」
「ノールの王子様!?」
スカーレット先輩の声が裏返った。
「アレクセイ王子ね」
「ルーシー知ってるの?」
「うん。爽やかで優しい王子様だけど……」
「だけど?」(スカーレット)
「なんかオスカー兄さんを、狙ってるみたいで」
「フフフっ! 確かに」
ホムラが苦笑いした。
「なんで?」
スカーレット先輩が驚き、私に詰め寄った。
「ノールへ来ないかって勧誘したり。帰り際も、顔をこーんなに近づけて、時間ギリギリまで迫ってたから」
距離感が分るように、スカーレット先輩に顔を近づけた。
「マジで!?」(スカーレット)
「あれは、マジだ!」(ルーシー)
私が断言すると、残念そうな表情でスカーレット先輩は、ため息をついた。ホムラは、フフッと笑ったが、表情を少し強張らせ私達に言った。
「あの王子は、マジだろう。ノール帝国は今、水面下での後継者争いが激しいらしいから、王子といえども、いつどこで命を狙われるか分からない。あの最強の兄を、王子が欲しいと考えるのも、無理ないと思うよ。しかも、勇者の妹も付いてる」
「後継者争い?」
「うん。だから亡命がてら、うちの城に来てよく遊んでもらった」
「……そうだったんだ。もしかしたら、調印式の時、王宮内だけの移動で終わらせたのも、そのせいだったのかな」
「かもね、15年前の戦争で前王が亡くなってから、国内情勢は不安定だって聞いたことがある。だから、今回の軍事同盟の件も、国内の不安定な情勢を考慮して、本来ならノールの大王が、この国へ来るべきところを、陛下と王国の勇者が、ノール帝国を訪問することによって、大王の求心力の向上を目指したんじゃないかって……アスモが言ってた」
ホムラの言葉に、私は自分の考えの浅はかさを思い知った。
アレクセイ王子は私達に対して、自国の深刻な状況を一切感じさせることなく明るく振る舞い、強大なノール帝国の王子として、ゆくゆくは”威厳ある王”を目指し努力していた。
国の為を考え、オスカー兄さんを勧誘していたとしたら、私はなんて失礼な勘違い(男好き)をしていたのだろう。
「そっか、アレクサンドライト王国最強の騎士と、王国の勇者ルーシーが王子のバックについたら、ほぼ無敵だものね。ねぇ、ルーシー。二人の王子に、”狙われる”ってどんな感じ!?」
スカーレット先輩が、ニヤニヤし変な事を聞いてきた。
「え!?」
「だって、そういう状況でしょ!」
「どこが!?」
アレクセイ王子から、プロポーズされたことは皆には話してない筈なのに、恋愛に関する事になると敏感に働くスカーレット先輩の察知力にドキリとしてしまう。
だが、二人の王子に”狙われる”感は、……無い。
アレクセイ王子のあのプロポーズは、さすがにドキドキするほど驚いたけど、すぐにオスカー兄さんの方に行っちゃったし、イム副隊長に至っては、なんか「成り行きで……」とか言ってたし。しかも、まともな会話も2、3回程度で、いまだに”妹”呼びで、名前で呼ばれた事は一度も無い。
断言できる!
二人の王子に”狙われる”感は、全くない!
ううっ、本当の事が言えないって、もどかしい……。
「絶対、アレクセイ王子は、ルーシーを狙うわ。間違いない! ……結婚式、楽しみだわ!」
スカーレット先輩が嬉しそうに笑う隣で、私は今度アレクセイ王子に会ったら、失礼な目で見ないようにしようと決意するのだった。
ザーーーーーーーーーーーー(雨の音)
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【バンディ城→アクアラグーン・天使界長執事ダニエル視点】
ザーーーーーーーーーーーー
パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ、……
アクアラグーへ向け速度を上げながら進む馬車の中。ソロモンを除く”聖なる七人の光”は、夜通しの捜索に疲れ切り大半は眠り、私はひたすらミカエル様の御無事を神に祈り続けておりました。
この雨の中、ミカエル様はどこへ行ってしまわれたのでしょうか……
ザーーーーーーーーーーーー
パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ、……
アクアラグーンには、ラグジュアリーなホテルが立ち並ぶリゾートエリアと、庶民的な宿が立ち並ぶ下町エリアがあり、王国騎士団専用宿泊所は、その中間地点にある。
まずは、その騎士団の宿泊所へ行きルーシー様の居場所を聞き出し、そこへミカエル様がいらしていないか確認を……。
ザーーーーーーーーーーーー
パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ、……
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昨夜、諜報部から伝えられた二人の素性が記された内容に、ため息を隠せなかった。
[報告書]
サミュエル・ヒューゴ・シンベリー、ソロモン・ゼフィリスは共に天使界ロドス出身。
サミュエル・ヒューゴ・シンベリー。
生家シンベリー家は、広大な土地に、訓練施設を併設した天使界天使軍”能天使”五芒星の一角。武芸に優れた一族の、6人兄弟の長男。
ソロモン・ゼフィリス。 ”権天使”名門レリエル家配下、”守護騎士”。ゼフィリス家、3人兄弟の長男。
幼少の頃、二人は仲が良かった。ある時期から仲たがいし、ソロモンが一方的にサミュエルに敵意を向け始め、傷害事件にまで及んだらしい。
近隣に住む者の証言によると、ソロモンの嫌がらせを無視し続けていたサミュエルだったが、ソロモンがサミュエルの幼い弟に手を出したのに耐え切れず、サミュエルがソロモンを殴り飛ばした。……といった内容のものだった。
悪い噂が絶えなかったのはソロモンで、それを隠すかのようにサミュエルの悪い噂を方々に触れ回っていたとの証言が数多く取れている。
それ故、サミュエルは学校へ行かず、家の訓練所で”能天使”の騎士たちから勉強や武術を教わっていた。
サミュエル、13歳。
町を襲ったジェダイド軍と戦い、左の翼の半分を失う。窮地を救ってくれた現王国軍の”悪魔の騎士”の素晴らしさに感動し、15歳でアンフェール城の騎士見習となる。
ソロモンは学校を卒業すると、その容姿と頭の良さで数々の難関を突破し”聖なる七つの光”に選出され現在に至る。
※嘘を述べた者の命を奪う、”誓約の呪文”により証言されたし。
[以上]
幼少の頃の過ちはいくらかは目を瞑る。
だが今になってまで、ありもせぬ噂をまことしやかに平然と述べるような輩を、天使界上層部が、この私が、認めるわけにはいかぬ。このような心根の者を見抜けず選出し、ミカエル様のお傍に置いてしまった事は、痛恨の極みでしかありませんでした。
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お付き合い頂きありがとうございますm(__)m
※ブクマ登録ありがとうございます!
2021/5/27 脱字、発見したので少し直しました。
※2021/11/2訂正しました。




