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74話 神は、お怒りになられている?

【バンディ城迎賓館・ミカエル・キング執事ダニエル視点】


 王国議会、ノール帝国親善交流並びに、勇者ルーシー様のお披露目を兼ねた晩餐会に参加なされました”天使族(おさ)ミカエル・キング様”は、翌日の午前、バンディ城を発ちデウス城へ戻られる予定でございました。


 朝食後、ミカエル様付護衛部隊”聖なる七つの光”の者達が、なにやら騒々しく動き回っておりました。


 様子を窺っておりますと、中庭でイナリ城のムラサキ様とお手合わせをなさっておりました。我が”聖なる七つの光”の実力の程はいかほどなのかと、私も気になり、静観しておりましたところ……彼らの、あまりの軟弱で脆弱な醜態に言葉を失いました。


 勇者ルーシー様を凌ぐほどに、イナリ城ムラサキ様のお強さは噂以上でしたが、それにもまして勇者ルーシー様のお兄様のお強さは、まさに伝説の軍神マルス様のようでございました。


 それはさておき、その兄と共に、勇者ルーシー様の側にお仕えしている、黒い隊服姿の天使族の騎士の能力に、私は驚きを隠せませんでした。


 ”至高(シュプリーム)癒しの光(ヒーリングシャイン)


 その騎士が施す、ミカエル様のそれよりも、いや同等クラスの、清らかで慈愛に満ちた”至高(シュプリーム)癒しの光(ヒーリングシャイン)”に、私は己の目を疑いました。その光に癒される、勇者ルーシー様の瞳はうっとりとその騎士を見つめられ、お心までもその騎士に奪われているようにさえ感じられました。


 あのような、ミカエル様に匹敵なさる能力を持った天使族が、何故、アンフェール城に、悪魔の王に仕えているのでしょうか!? 


 程なくして部屋に戻ってきた”聖なる七つの光”は、ムラサキ様に”惜敗した”とミカエル様に報告なさっておりました。

 私は、呆れました。ほぼ全員、秒殺されたのを”惜敗”などと……。


 続けて、ミカエル様が、あの天使族の騎士の男について訊ねられましたところ、ソロモン様が、今まで見せた事の無い陰湿な表情で語られた話に、私は、言いようのない嫌悪感を抱きました。そして、同時に、それに賛同し薄ら笑いを浮かべる”聖なる七つの光”の者達の神経も、疑わざるを得ないものでした。


 あの騎士の、清らかなる ”至高(シュプリーム)癒しの光(ヒーリングシャイン)”を目の当たりにしても気付かぬのか!? 


 外見の美しさばかりで何の役にも立たん、この馬鹿ども!


 即刻、”聖なる七つの光”の解任を言い渡したミカエル様のご判断は見事でした。


 一旦、”聖なる七つの光”を部屋へ下がらせ、ミカエル様がお部屋へ籠られている間に、取り急ぎ天使界諜報部へ、ソロモン・ゼフィリスとサミュエル・ヒューゴ・シンベリ-の素性調査を依頼した。


 あの騎士が、本当にソロモンの証言通りの人物なら、処分について再検討し。逆に、素行や家柄が申し分なく、ミカエル様に匹敵するほどの能力を秘めた者であるのならば、我々天使界は、その騎士をもう一人の”奇跡を司る者(ヴァーチェス)”として認定し、天使界への協力を要請しなければならない。


 あの騎士が我々の者となれば、その能力に魅了された勇者ルーシー様も、ご一緒に天使界へ戻って来ていただけるのかもしれない。


 元より”勇者の剣”の力は、天上天使が与えた天使界の”聖なる光(リュミエールサント)”。



 夕刻、ミカエル様がお笑いなさるお声が聞こえました。ノックしお部屋へ参りますと、ベランダへ腰かけ落日を見つめ、なんと、涙を流されておりました。そして、私に勇者ルーシー様の事を尋ねられました。既に、バンディ城をお発ちになりました旨を伝えますと、私にこう仰いました。



 ”もう一度、あの勇者に会いたかった”



 ミカエル様にお仕えして10年。

 聡明で優しく美しく、私利私欲に囚われることなく完璧に公務をこなし、つまらぬ我儘も、私を困らせる言動も何一つ仰らなかったミカエル様が……。

 ”もう一度、あの勇者に会いたかった”と、涙を零し頬を紅潮させて仰られる姿に、(わたくし)は、ひどく胸が締め付けられました。


 愚痴や不服等……仰りたいこと何もかも、今まで、そのお心にしまい込んでいたのでしょうか。

 

 驚いた私に対し「そんなに驚く事か」と、お顔を曇らせ不満げに仰いました。


 そのような態度をお取りになりながらも、アクアラグーンの場所や温泉の話に、瞳を輝かせるミカエル様は「食事の準備を頼む」と、至らぬ(わたくし)に、お優しく微笑まれました。



 夕食後、明日より3日ほど予備日を確保していた旨をお伝えし、明日、アクアラグーンへ向かう提案を申し上げようと考えておりました。ミカエル様がお喜びなさる姿を思い浮かべながら、お食事を持ち、お部屋に参りましたところ、ミカエル様の姿が見えませんでした。開け放たれたベランダのドアから、強い風が吹き込んでおりました。


 ミカエル様は、靴も履かず、しかも、朝食を召し上がってから何も口にしていらっしゃらない。お身体を壊されましたら、お怪我などなさいましたら……と不安が募り、私も物事を冷静に考えられなくなっておりました。


 すぐさま、バンディ城周辺を、ソロモン以外の”聖なる七つの光”と共に明け方まで捜索いたしましたが、見つかりません。



 一体、どこへ……まさか!?



 ”もう一度、あの勇者に会いたかった”



 もしや、”アクアラグーン”へ……。

 まさか……勇者ルーシー様に会いに、お一人で!?


 50kmの距離を、飛んで!?




 雨がポツポツと顔に当たり、次第に強く降り出してまいりました。


 ああ、神はお怒りになられている。


 ミカエル様を、ミカエル様を見つけ出さなければ……。


「急ぎ、馬車を用意せよ!」



 我々は、土砂降りの中、アクアラグーンに向け出発した。



 +++++

 ※アクアラグーンまであと約10km(もうちょっと!)

【樹海北入り口付近・ミカエル様視点】



 頬に何かが当たり、目が覚めた。


 ザザザザザザザザザザザーーーーーー



 雨だ。

 それも、大雨。



「やはり……神に、見放されたか」



 ザザザザザザザザザザザザザザーーーー


 夜は明けたようだったが、森の中は薄暗く人の気配もない。

 起き上がり、雨宿りできそうな場所を探しに、私は歩き出した。少し眠ったせいか身体が軽く、空腹だがなんとかなりそうだ。


 少し歩くと、森を抜け開けた場所に出ていた。雨に煙る緑の草原に、白い羊の群れが遠くに見えた。私は、迷わず羊たちの方へ歩き出した。

 羊たちの方へ向かう途中、道を見つけた。


 すると、向こう側から水しぶきを上げ、一台の馬車が走ってくるのが見えた。



「良かった。これぞ、神の思し召…… 


 バッシャッ!!!!


 その馬車は止まる様子もなく、私に泥を掛け通り過ぎて行った。

 ”無慈悲”

 きっと、逃げ出した私に対し、神はお怒りになられている。




 ザーーーーーーーーーーーー



 天を仰ぎ、顔にかかった泥を雨で洗い流した。

 泣き出しそうな自分を抑え、涙をのみ込んだ。



「もう少しだ!」



 先ほど、泥をかけて行った馬車の向かった方を睨み付け、私は、その()()方向へ歩みを進めた。




 ザーーーーーーーーーーーー

 パッカ、パッカ、パッカ、パッカ、パッカ、パッカ……


 程なくして、雨音に交じり、後ろから今度はゆっくりと歩くように進む馬の蹄の音が聞こえてきた。

 だが、私は神から見放された身。期待などしない。



「おーーーい、そこの兄ちゃん、どうしたんだべ?」


 温かな声に、私は泣き出したいのを堪え立ち止まった。



 ザーーーーーーーーーーーー

 パッカ、パッカ、パッカ、パッカ


「こんな雨ん中、どごさ行くだ?」


 カッパを着た初老の行商人らしき男が、私の横で馬車を止め優しく語りかけた。


「……アクアラグーン」


「は? こっちでねぇ、はんてぇの方角だべ」


「はんてえ?」


「すまん、すまん、訛ってたな。”反対(はんたい)”のことだ」



 ザーーーーーーーーーーーー


「反対!? ああっ……」


 ガクッ


 私は、あまりのショックに、その場に崩れ落ちた。

 神は、神はお怒りで、逃げ出した私に対し”無慈悲”なまでに罰を与えてらっしゃる!



 ザーーーーーーーーーーーー


「神に逆らうとは、こういうものなのだな……」


 バシャ……!

 ぬかるんだ地面に拳を叩きつけた。



「なーにを、大げさに、ゆーとる(言ってる)」


「ゆーとる?」


「そげな恰好で、アグアラグーンに、なんの用だべか?」


 その男はギラリと、怪しむように俺を見つめた。

 私は目的を思い出し、行商人を真っ直ぐに見上げ叫んだ。


「ルーシーに、会いに!」


 すると行商人の表情が、笑顔に変わった。


「じゃあ、乗っていげ。そげな格好じゃ、怪すい奴だって、アグアラグーンの入り口で止められるべ」


「でも、反対じゃ」


「いまがら、荷物さ取りに行ぎ。午後がら、まだ、アグアラグーンに向かうで、でぇじょうぶだ」


「でぇじょうぶ?」


()()()()()()()!」



 ザーーーーーーーーーーーー

 パッカ、パッカ、パッカ、パッカ、パッカ、パッカ……



 衣服はぐっしょり濡れていたが、カッパを着せられ荷馬車に揺られながら、アクアラグーンのとなり町”コルド”に着いた。

 行商人の名は”ロック”という、短い白髪で体格のいい妖精族。その妻”シェリー”さんは、自宅で仕立て屋をしていて、細身で飾り気はないが品の良さそうな身なりをしていた。

 ロックさんは、酒類などを取り扱う行商を生業としていて、コルドの街からアクアラグーンまで、毎日何往復もしているという。

 ロックさんの自宅で、衣服を洗濯して頂いている間、着替えや、お風呂、温かい食事まで用意して頂き、私は感謝の思いでいっぱいだった。



「見ろ、おらの見立でだどおり、男前だべ」


 ロックさんが、若い頃に着ていた衣服を私に着せ、奥さんのシェリーさんに言った。


「あらー、着る人によって、こうも違うのね」


 奥さんは、訛ってはいない。



 鏡の前、私は感動で震えた。

 白いシャツに、黒いズボン、ベージュのブーツ。

 元王国軍の騎士をしていたというロックさんの衣服に、私の心は高鳴った。ルーシーも、あの、サミュエルという天使族の騎士も、このようなズボンとブーツを身に付けていた。なんという巡り合わせ。しかも、ロックさんの妻シェリーさんは、私の羽に合わせるため、白いシャツの背中に、わざわざハサミを入れくれた。

 この夫婦の未来に幸多かれと願い、私は祈りの光を捧げた。




「さあ、行ぐべ! 男前!」


 バン!


 ロックさんに背中を叩かれ、荷馬車に乗りアクアラグーンへ向けて出発した。

 雨は上がり、雲の間から光が射し込み、さっきまで暗く重く沈んでいた景色は、美しく色を取り戻し輝き出した。




 +++++

 GO!GO!ミカエル!

お付き合い頂きありがとうございますm(__)m


※2021/11/2訂正しました。

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