73話 レグルスふたたび!
【ホーリーウッド・ルーシー視点】
「……ちょっと、寒いな」
女子会の後、部屋に戻り何も被らず寝ていたことに気づき、窓を閉め足元の毛布を引っ張り上げた。
月明かりが窓から射し込んでいた。
今夜の月は明るいな……と何の気なしに思いながら、そのままベッドの中でぼんやり今日あったことを考えていると、窓がスッと開いた。
ん!?
月明かりを背に、誰かが部屋の中へ入ってきた。ホムラかな?
長い髪に、華奢な女の子……。
「スカーレット先輩?」
声を掛けると、その子は驚き、顔をこちらに向けた。
よくよく目を凝らして見ると、明るい緑色の長い髪に、パッチリとした金色の瞳。白のゆったりとしたブラウスに、丈の長い青いスカートのようなズボンをはいていた。
驚いた拍子に緑の髪から、白い花が湧き出すように咲き、床にこぼれた。
わぁ……!
「あ、そのっ、」
困ったように後退りする女の子に、私は起き上がり。
「あの窓の白い花、もしかして、あなたが咲かせてくれたの!?」
窓枠の白い花を指さすと、その女の子は、恥ずかしそうにコクンと頷いた。
うわぁぁ、かわいい!
「やっぱり! ありがとう、私、ルーシー。あなたの名前は?」
驚いた表情から、不意に恥ずかしそうに下を向き、その女の子は小さい声で言った。
「レ、レグ……ルス」
鈴を転がすような可愛らしい声を発した彼女は、顔を両手で覆った。
年齢は10歳ぐらいなのだろうか?
その容姿で恥ずかしがり屋って、無条件でお姉さんモード発動しちゃうよ。
「レグルス、すてきな名前ね!」
そう答えると、レグルスという女の子が顔を上げ瞳をパァっと輝かせた。すると、足元から黄色い星の形をした小さな花が次々咲き出した。
「きれい! あなた妖精族?」
その女の子は頷き、モジモジし私をチラチラ見ながら小さな声で言った。
「あ、ル、ルーシー。ボ、ボク、……き、君と、は、は、話がしたくて」
”ボク”!?
かっわいい〜〜〜!
まさかの”ボクっ娘妖精”に心が躍った。
「うん、私も! ここ座って!」
レグルスの手を取り、ベッドに座らせた。
月明かりに照らされたレグルスは、驚いた顔で私をしばらく見つめていた。
私の髪が赤いのに驚いてるかと思い「赤い髪、珍しい?」と聞くと、首を横に振った。
「あ……あんまり、ルーシーが……きれいで……その」
そう言い恥ずかしそうに俯くと、今度は髪から青い花がいくつも咲いた。
きれいって言われて、照れる!
でも、レグルスちゃん。あなたの方が何百倍もきれい。
レグルスは、溢れ出る花を手に取り私の髪に飾り、大きな垂れ目がちな金色の瞳で美しく微笑んだ。
これは夢なの!?
そう思える程、神秘な美しさのレグルスにため息が出た。
「きれいなのはレグルスのほう。凄いステキ、花も……あっ、あの花、なんて名前なの?」
窓枠に咲いた、白い花の名前を尋ねた。
「ジャスミン」
「やっぱり! 先輩がそうじゃないかって言っててね、でも花びらの形が少し違うから、」
「そういう種類のジャスミン、夜になると香りが強くなるんだ」
「うん、すごくいい香りで、私いつも癒されてたの。ありがとう、レグルス」
お礼を言うと、レグルスはまた私の顔を輝くような金色の瞳で見つめた。
妖精族の女の子って、こんなにきれいなの?
こんな美しい女の子が存在する妖精族の王子と婚約だなんて、形だけとはいえ、改めて大それたことをしてしまったと後悔した。もしかしたら、この子はイム王子が好きで、王子と婚約した私を”品定め”に来たのだろうか?
いやいや……そんな悪い子じゃない、そう考える私の心が歪んでる!
ここ数日、王国上層部の大人社会にどっぷりと漬かっていた影響だ!
今、ここでお花を咲かせているレグルスは、そんな子じゃない!
「ルーシー……本当に君は、勇者なの?」
少し憂いを帯びた、金色の瞳が揺らいだ。
「うん、なんか成り行きでそうなっちゃって。今日はその仕事で、ノール帝国まで行ってきたの。もうクタクタ」
レグルスはハッとし、申し訳なさそうな顔で私を見つめた。
「ゴメン、疲れてるのに」
「何言ってるの、この花を咲かせてくれたあなたに、やっと会えたのに」
レグルスの手を握るとパッと瞳を輝かせ、髪の間からまた白い花が咲きこぼれた。
ああっ、なんて可愛いんだろう。
「ルーシー、いいから身体を休めて。さあ、横になって」
レグルスはそう言うと立ちあがり、手のひらからフワフワした白い花びらの花がモコモコ飛び出した。言われるがまま横になると、その花を枕元に散りばめた。
「この花はガーデニア、ジャスミンと同じく安眠効果のある花だよ」
「安眠効果?」
「うん、それじゃあ、ボク帰るね……」
そして、思いつめたように俯き、躊躇しながらこう言った。
「ねえ、ルーシー。また……来てもいい?」
「もちろん! 今度はホムラたちを紹介するね」
「……え!? でも、ボク…………」
急に瞳の輝きが消え、表情を強張らせた。
もしかして、人見知りのボクっ娘妖精!
まずい……もうここへ、来てくれなくなったらどうしよう。
慌てて起き上がり、レグルスの肩に手を置いた。
「ご、ごめんなさい。嫌だったらいいの、ごめんね」
「そんな、でも、でも、……できれば……、ボクのこと、皆には、ひ、秘密に……し、してほしい!」
両手を身体の横で握りしめ、小さな身体で声を震わせた。一生懸命、私に訴えるレグルスのいじらしく可愛らしい姿に、胸がきゅっとなった。
「わかった、約束する」
「約束?」
「うん。じゃあ指切りしよう!」
「指切り?」
「うん、小指をこうして……(小指を繋ぎ)♪ゆびきりげんまん、嘘ついたら、……カフェのパンケーキ奢ーる 指きった!」
さすがに“はりせんぼん(針千本)飲ます”は怖いだろうと、思いついた”罰”がこれだった。”罰”になってないようだけど、お財布にはかなりの打撃だ。
「パンケーキ?」
レグルスが瞳を輝かせた。女子は、パンケーキに弱いよね。
「この下にあるカフェのが凄く美味しいの」
「美味しいの!? 凄く!?」
「うん」
「ボク、食べたい! でも……秘密にして……ああっ、破っても、でも、秘密に……」
「フフッ、そんなすぐに約束破らないよ。あと1カ月はここに居るから。あとで一緒に食べようね」
「一緒に!」
レグルスの表情がパッと華やぎ、ピンク色の花がいくつも咲いた。
「あ……あっ……ああ、花が……。じ……じゃあ、おやすみ。ルーシー」
花が零れ落ちるのを止められないのか、レグルスは花を咲き零しながら、焦った顔で可愛らしく小さく手を振った。
ダメだ、かわいい。かわいすぎる!
「おやすみ、レグルス。またね!」
音も立てずに、かわいい妖精レグルスは窓からどこかへ帰って行った。
月明かりに照らされた部屋には、夢のようにいくつもの花が咲き乱れ、眠りを誘う甘い香りに、次第に意識が遠のいた。
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【バンディ城より南30km・ミカエル様視点】
どのくらい飛んだのであろうか?
南へ、南へと、飛んでいるのだが、アクアラグーンにいまだ辿り着けずにいた。
南へ50km。
時速20km程で飛べば、約2時間半で辿り着く距離のはず……。
月明かりの中、飛ぶのに疲れどこかの山の上の岩場に降り立った。
今、何時なのだろうか?
辺りは暗く、民家の灯りひとつ見えない。
だが、不安よりも、何にも縛られることのないこの自由に私は満足していた。
ルーシー……君に会えたら、私は今日の事を話そう。
君に会うため城を飛び出し、月光に照らされながら飛び、そして、君に再び会えた喜びがどのようなものだったのか……。
「待っていてくれ」
ぐぅぅぅぅ~~~~
朝食を食べてから、全く何も口にしていないことに今更気付いた。
せめて、夕食を済ませた後に飛び立つべきだったのだろうか……。
だが、これも試練。
空腹など、私とルーシーを隔てる壁ではない!
再び空へ飛び立った。
待っていてくれ、私の勇者ルーシー!
ぐぅぅぅぅ~~~~ぐぅぅぅぅ~~~~
「ああっ……」
力が抜けた私はフラフラとどこかの森の中に着地し、その場に座り込んだ。
「行かないと……ルーシーに……」
バタッ
鬱蒼と生い茂る森の中で、空腹と疲れで私は意識を失った。
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【樹海入り口・レグルス視点】
「やった! やったーーーーーっ! 勇者と、ルーシーと話ができた!」
走っているのに、あまりの嬉しさから花が溢れ出るのを止められない。
「一緒に、パンケーキも! やったー!!!」
月明かりの中、花が咲く湖畔を通り過ぎ、樹海の入り口で気持ちよさそうに眠るアークトゥルスの顔を覗きこんだ。
「アークトゥルス、羨ましいだろう?」
ボクは樹海のおもちゃ箱へ戻り、聖なる泉に飛び込んだ。
泉に仰向けで浮かび、夜空を見上げた。
「ハァ、ハァ、ハァ、……」
なんて素敵な夜なんだ。
ルーシーがボクを、ボクの事を見つめて……ボクの名前を”すてき”って言ってくれて。
「かっ……わいい~~~~!
ああああっ……どうしよう。また来ていいって……ゆびきり……して……パンケーキを一緒に……」
……ブクブクブク…… ザバッ
ああ、幸せ過ぎて泉に溶けてしまいそうだ。
今度は、失敗しないぞ。
女の子の身体でいる限り、弾かれないし、光るインクも付かない。
また、会いに行って、今度はこう言う。
「ボクと、友達になって!」
でも、1回だけ話しただけなのに、ボクと友達になんてなってくれるのだろうか?
いいや、ルーシーは優しいから、絶対友達になってくれる!
友達になったら、今度はこう言う。
「見せたいものがあるから、一緒に付いてきて」
外に連れ出せばこっちのもの!
この”おもちゃ箱”に連れてきて、ずっと二人だけで遊んで、ずっとこの森で二人だけで暮らして……。
今度は、何を話そう。ルーシーが好きな花とか聞いてみようかな。好きな……
弟アークトゥルスの顔が浮かんだ。
”勇者と婚約”
婚約するって、やっぱり”好き”だから……。
ルーシーは、アークトゥルスのことが”好き”なのか?
ボクも、弟アークトゥルスが好きだ。
小さい頃は、シリウスやハントたちと、よくこの森で一緒に遊んでいた。でも、あの戦争で……ボクたちは、バラバラになった。
「この森を、守って」
母さんの、最後の言葉が頭に響く。
ボクは……この場所を離れられない。
一番幸せな記憶と、一番残酷な記憶が混在するこの樹海からボクは離れることが出来ない。
ルーシーがボクを好きになれば、ずっと一緒にいられるのに……。
ルーシーがボクを好きになって、アークトゥルスを忘れて、ボクを……
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レグルス再始動!
お付き合いいただきありがとうございますm(__)m
※2023/3/14少し訂正しました。




