7話 ガチ勇者!
【アンフェール城迎賓の間・ルーシー(ルーカス)視点】
突然、指輪で召喚された私は、目の前の状況を理解するのに必死だった。
なにかの映画で見たソードマスターみたいな白髪&髭のおじさん?と、光る弓矢を構えたローマ風ドレスの小ぎれいな婦人。そして、悪魔のような角を生やし、魔王のような衣装で玉座(っぽい椅子)に座る“血まみれのべリアスさん”。
まさかとは思ったが、この世界にも“ハロウィン“という行事があるのかと、聞いてみたら……そのソードマスターの風のおじさんが突然、怒り出した。
「魔王め! 仲間を呼びやがったな!」
「待ってフィン、あの子は……」
婦人が止める声も聴かず、ソードマスター風のおじさんが、光る剣で斬りかかってきた。
〇イトセーバー!?
それを、サッとかわすと、剣が床に当たりガキン! と重たそうな金属音が響いた。
剣を持ち上げるのもやっとなのか、剣先を床につけながら、ソードマスター風のおじさんはよろめき、息を切らしながら私を睨んだ。
「ちょっと、待ってよ。べリアスさん、どういうことですか?」
「この者達は、どうやら私を封印する気だ。私の事はいい、とにかく逃げるんだ……ルーカス……はやく……逃げろ……」
「え!? 封印って……!? まさか、冗談!? って実際にあるの?」
よくよくべリアスさんを見てみると。本当に剣で斬りつけられたのか、べリアスさんは頭から血を流し、青白い顔でぐったりとしている。ふと周囲を見渡すと、光るロープで縛られた執事らしき男の人が、同じように頭から血を流し倒れていた。
なんだか、冗談ではないみたい……。
「ごちゃごちゃうるさい、魔王の手先の、醜い赤髪の悪魔め!」
さらにソードマスター風のおじさんが私に向ってきた。
「なに魔王とか言ってんの? (剣をかわし)べリアスさんは、街の為に治水工事とか担当しているいい人なんだから」
「ええい、うるさい! 俺は”勇者“だ! 悪魔に魂を売った醜悪な赤髪め!」
「えっ! 勇者!? うそ!? だからってこの髪の事、そんなに貶す(けなす)!? ひどい!」
「悪魔の使いめ!」
「フィン! ……聞こえないの……フィン!」
品の良さそうな婦人はどうやらソードマスター風のおじさんを止めようとしている。
ならば……
キィン!
“勇者”の一撃をかわし、その手から光る剣を弾き飛ばした。剣は宙を回転しながらべリアスさんの座る玉座の前の床へ突き刺さった。
「うっ! 剣よ! シャルル! 戻ってこい」
勇者が手を伸ばし叫ぶも、剣は反応せず光も消えていた。
「エ、エスタ、弓だ! 弓でその悪魔を射るんだ! さっさとしろ!」
「…………」
婦人からは、殺気のような嫌な気配は全くせず、静かに落ち着いた目で私をじっと見つめている。
「なにをやっている!」
勇者の言葉に、眉を寄せ顔をしかめ、私を見つめながら渋々弓を構えた。
矢の先端が光り、徐々に輝きを増していった。
すごい……普通に魔力を込めたって、こんな風にはならない。
私は息を止め木刀を構えた。
でも、これって木刀で何とか出来るレベルなの!?
その時声が聞こえた。
『あの矢は木刀じゃ無理だ、剣を使って』
瞬間、玉座の前に刺さった勇者が持っていた”剣”が目に入った。
「おけ」
木刀を捨て、滑り込むように床に刺さった”剣”を抜き取ると、タイミングを計ったかのように光の矢が放たれた。
ガキィィィィィィィンン!!!!!
弾き返した矢は鋭い金属音を発しながら勇者の頬をかすめ、壁を破壊し塵となって消えた。
「ひぃ!!」
勇者はその場にへなへなと尻もちをつき、泣きそうな顔で私を見つめた。
「ぅわ……」(ルーシー)
手に握られた”剣”は、先ほどとは比べ物にならないほど、青く鋭い輝きを纏っていた。
「フィン……もう、やめましょう」
「バカな、剣が、聖なる光が……」
「剣の声が聞こえなかったの!?」
婦人が怒鳴った。
息を切らしながら勇者は、忌々し気に私を睨んだ。
「あんな、小僧に……」
「女の子よ!!!」
「「え?」」(勇者フィンレー&べリアス)
破壊音を聞きつけ、兵たちが駆け付けてきた。
その中に、青いアンフェール城の近衛騎士の隊服を着た一番上の兄、オスカーが青ざめた顔で剣を構えていた。
近衛騎士の兄さんがいるってことは、ここは王宮!?
「ルーシー!! なんでお前がここにいる!?」
「兄さん!」
まずい……
この状況は、非常にまずい!
私がべリアスさんを斬りつけた剣を持っているということは、私が犯人にされてしまう!
証言してくれそうな、べリアスさんも、その執事みたいな人も意識があるのかどうかも定かじゃないし……
手に持っていた”剣”を投げ捨て跪いた。
カラン……
「兄さん、ごめん。でも私じゃない」
あっという間に剣を構えた近衛兵たちに囲まれ、覚悟した私は下を向き目を閉じた。
「お前が兄か」
しっかりとした、べリアスさんの声が部屋に響いた。
怪我、大丈夫だったんだ。よかった……
「はい、陛下。この度は妹が「剣を降ろせ! お前らも全員この者から、離れろ!」
「ですが、陛下!」
「この者ではない、あの二人が今回の首謀者だ! さっさと捉えろ!」
「はっ!」
べリアスさんの怒号で、バタバタと近衛兵たちが私の周りから遠のくのが分ったが、怖さで動けず目も開けられずにいると、フワッと頭に手が触れた。
「顔を上げよ。お前のお陰で、助かった。礼を言う」
「…………」
安心したのと同時に、聞こえてきた皆が“陛下、陛下”と言う、べリアスさんの呼び方。
まさかとは思うけど、その、まさか!?
「どうした?」
「……陛下」
「ああ、なんだ」
「陛下って、この国の王様のことですよね」
「ああ、そうだが。ルーカス……。お前は、男ではなかったのだな」
あーーーーっその事もあった!
嘘なんてつくもんじゃない!
頭痛がしてきた。
「申し訳ありません! 妹には、”女”であることを隠すよう幼い時から言い聞かせていたので」
オスカー兄さんが私の横に跪き頭を下げ、謝ってくれている。
兄さんは悪くないのに。私のせいなのに。兄さん、ごめんなさい。
「“聖なる光に選ばれし者“か」
「へ?」
私と兄は顔を見合わせた。
「まさか、この悪魔の私が、”新しい勇者”に守られるとはな……」
血を頭から滴らせながらべリアスさんは、悪そうにニヤリと笑った。
オスカー兄さんが、困惑の表情で私を見た。
「新しい……“勇者”って?」
ズキ…………
頭痛がし、また、さっきの声が聞こえた。
『ぼくは、シャルルマーニュの、リュシエール・サント。よろしく!』
「え……シャルル……リュシエール……」
なにもかもが許容範囲を超えたのだろうか、そのまま目の前が徐々に暗くなっていった。
ドサッ……
「ルーシー!!!」
ご覧頂きありがとうございます。
ラノベの勇者もの大好きです。ゲームとか…最近だと○ルダ無双してました。でも、あれは、一人でクリアするの大変だった。
※2021/6/17 行間等、少し訂正しました。
2021/8/31 文字、訂正しました。
2021/9/16 文字訂正しました。