68話 赤+青は?
【バンディ城迎賓館2階廊下・ルーシー視点】
オスカー兄さんと一緒に部屋を出ると、廊下の奥からこちらに向かって歩いてくるスチュワート様とサミュエル副隊長の姿が見えた。
「おはようございます」
スチュワート様が爽やかに微笑んだ。
おおっ!……スチュワート様の眩しい微笑みに、私だけでなく兄も驚いたのか、一瞬兄の言葉が詰まった。
「お、おはようございます。スチュワート様」
「おはようございます」
兄に続き敬礼した。
スチュワート様の後ろでサミュエル副隊長がニッと笑い小さく手を上げた。
「オスカー様、どこかへ参られるところでしたか?」
「スチュワート様のところへ、本日のスケジュールの確認をしに」
「ちょど良かった、これが今日の大まかな日程です」
左手に抱えた紙の束から1枚取り出し、兄に手渡した。
「ありがとうございます」
「ルーシー様は、これから何か御用などございますか?」
「いえ、特に」
「では、これからイナリ城のムラサキ様が、是非ルーシー様とお手合わせをしたいと仰られておりまして」
「ムラサキ様が!」
思わぬ嬉しいお誘いに私は嬉々とした。
「はい。そこの、迎賓館中庭でお待ちしているようですので……(窓の外をチラっと見て)、あ、もういらっしゃっておりますので、直ぐに向かわれて下さるとありがたいのですが」
窓の外の芝生で覆われた中庭で、長い黒髪を一つに結い、白いブラウスに黒のパンツスタイルのムラサキ様が準備運動をしているのが見えた。
「すぐ行きます!」
駆け出そうとする私を、スチュワート様が引き留めた。
「ルーシー様! お手合わせするのはムラサキ様お一人だけです。それ以上は、この後のご公務に影響が出ますので、くれぐれもムラサキ様以外の方とのお手合わせはご遠慮なさって下さい。よろしいですね!」
先ほどの笑顔から一転、強い口調で念を押された。
「はい!」
「陛下の支度が整い次第、私もそちらに向かいますので、オスカー様、サミュエル様、ルーシー様を頼みますよ」
「はっ!」(二人)
+++++
【バンディ城迎賓館2階・ソロモン視点】
「……いい事を聞いたぞ」
ミカエル様の用事を済ませ部屋へ戻る途中、勇者ルーシーとその兄、スチュワート様と、サミュエルの姿を見かけた。物陰に隠れ、話声に耳をすまして聞いていると……。なんと、これから中庭で勇者がイナリ城のムラサキ様と”手合わせ”をするらしい!
これは、我々ミカエル様直属護衛部隊”聖なる七つの光”の素晴らしさを知らしめる絶好の機会。
俺はすぐさまこの情報を皆に伝え、中庭へ向かった。
【バンディ城迎賓館中庭・ソロモン視点】
だがそこに勇者の姿は無く、美しき女剣士イナリ城のムラサキ様が、木刀を肩に乗せ怪訝な表情で俺達を睨んだ。
「なんの用だ?」
「わ、我々はミカエル様直属護衛部隊”聖なる七つの光”。勇者ルーシー様が手合わせをすると聞き参ってみたが。まだ、勇者ルーシー様は来てはおらぬようだな」
ドウェイン部隊長が、ムラサキ様に優しく微笑みながら仰った。ムラサキ様はその微笑みに一切表情を変えず飄々とドウェイン部隊長に尋ねた。
「お前たちもルーシーと約束していたのか?」
「約束はしていない。ですが、是非一度お手合わせ致したくこの場に参った所存です」
「フッ……今日、ルーシーとやり合うことが出来るのは一人だけ。この私だけだ。残念だったなハハハハハハ!」
勝ち誇ったように高らかと笑った。
「なっ! なんだと!」
「諦めろ」
「そこをなんとか!」
「ふーん。どうしても、って言うなら。この私を倒してみなよ」
ドウェイン部隊長に、ムラサキ様が薄ら笑いを浮かべ木刀の先を突き付けた。
「望むところです!!!」
ミカエル様直属護衛部隊”聖なる七つの光”の中でもトップクラスの剣技の才を誇るドウェイン部隊長が木刀を手に取り、ムラサキ様へ斬りかかった。
バシッ!
べしっ!
ボコッツ!
ビシッ!
ドスドスっ!!
スン!
ポカ……
魔物のような強さの女剣士ムラサキ様に、我々、ミカエル様直属護衛部隊”聖なる七つの光”は全滅させられた。
5番目の俺にだけ、やけに当たりが強いのは気のせいだろうか?
下っ端のショーンなんか”ポカ”だったのに。
「口ほどにもない奴らめ……大丈夫なのか、こんなのが護衛で」
我らを冷たく見下ろすムラサキ様の背後から、天使のような愛らしく清らかな声が聞こえてきた。
「ムラサキ様----!遅れてすいませーーーん!」
勇者ルーシーーーーー!!!
勇者ルーシー様が、近衛騎士のお兄さんと、あの醜いサミュエルを引き連れこちらに駆けてきた。
我々、ミカエル様直属護衛部隊”聖なる七つの光”は、勇者ルーシー様を受け止めるべく立ち上がり両手を広げた。
バッ!
我らの姿に勇者は立ち止まり声を上げた。
無理もない、美しき我らミカエル様直属護衛部隊”聖なる七つの光”の眩しさに驚きを隠せないのだろう。
「わっ! どうしたんですか!? この方たちは?」
「ああ、ルーシーが来るまでの暇つぶし。ほら……」
勇者ルーシーは、ムラサキ様から木刀を受け取り、我らの方を向き微笑まれ敬礼なさいました。
「おはようございます。稽古のお邪魔をして申し訳ありません。恐縮ではございますが、皆さまのムラサキ様を、お借りいたしますが宜しいでしょうか?」
「あ、いえ、そのっ……どっ、どうぞ」
勇者ルーシーの類まれなる愛らしい笑顔に、俺ソロモン・ゼフィリスは、頭が真っ白になっていた。
「ああ、ええっと……お、おはようございます」(しどろもどろ)
俺だけではなく、ミカエル様直属護衛部隊”聖なる七つの光”はみな、その笑顔の魔法にかけられたかのように呆然と立ち尽くしていた。
「ルーシー、そんなことしなくていいから。……さっさとお前らは帰れ! 邪魔だ! 邪魔だ!」
ムラサキ様から木刀で中庭の隅に追いやられながら、あの醜いサミュエルと目が合った。
ゾクっ……
この世の者とは思えぬ恐ろしい形相で、この俺を睨みつけていた。
+++++
【バンディ城迎賓館中庭・ルーシー視点】
勇者の剣を取りに一旦部屋に戻り中庭へ向うと、ムラサキ様が、昨晩ミカエル様の護衛をしていた”白い天使集団”の方々となにやら話をしていた。”口ほどにもない”とか聞こえてきたので、剣の稽古でもつけていたのだろうか?
ムラサキ様の元へ駆け寄ると、その”白い天使集団”はサッと立ち上がり、皆一斉に両手をバッと広げたので、凄くビックリした。
ムラサキ様の”取り巻き”なのだろうか?
あれだけの美人、そりゃ”取り巻き”も沢山いる筈。天使族の”取り巻き”までいるなんて、ムラサキ様って凄すぎる。
ムラサキ様から木刀を渡され、手合わせの準備をしようと兄さん達の方へ振り向くと、異様な空気にギョッとした。
天使族の取り巻きを中庭の隅へ誘導しているムラサキ様達の方向を、サミュエル副隊長が険しい表情で見つめていた。
見つめて……?
いや、睨んでる?
もしかして……ムラサキ様を!?
これって、キメ顔!?
前に言ったじゃん、逆効果だよって!
怖すぎるからやめてあげて!
慌ててサミュエル副隊長の顔に両手を伸ばし、視線を覆った。
「うわ、なんだルーシー」
驚いて飛びのいたサミュエル副隊長の表情が元に戻った。
「(小声)サミュエル副隊長、その顔、怖いです」
「ああ、ごめん悪かった」
と、いつもの笑顔に戻った。が、またすぐにキッと眼光を強め睨みつけた。
「(小声)睨んでるんですか?」
「睨んでる」
「え!?」
再度振り向き睨んでいる方向を見ると、ムラサキ様がこちらに向かって笑顔で手を振りながら歩いてきた。
「サミュエル、昨夜は悪かった」
「お知り合い!?」
驚いてサミュエル副隊長に視線を戻すと、さっきまでの険しい表情は消え焦ったように目を逸らした。
「さ、さあ」
目が泳いでいる!
サミュエル副隊長、昨夜ムラサキ様と何かあったんだ!?
「身体を重ね、熱く見つめ合ったではないか」
と、ムラサキ様が妖艶な微笑みを見せた。
なにそれ!? なにそれ!? 何があったの!?
「誤解を招く言い方をするな!」
サミュエル副隊長が顔に手を当て深く溜息をついた。
「貴様が知らぬふりをするからだろう。ハハハハハハ!」
私は耐え兼ね、ワクワクしながらサミュエル副隊長に質問した。
「何があったんですか?」
「だから昨日の夜、ルーシーと手合わせしたいから部屋を教えろって、俺の部屋に木刀持って押しかけてきやがった」
木刀!?
至極迷惑そうな表情でムラサキ様を見やった。
「酷い言い方だな!」
「酷いのはどっちだ」
「なんだよ、この下っ端!」
「うるせぇ、非常識」
「なんだと!」
淡々と言い返すサミュエル副隊長に、キレ気味のムラサキ様。
結局、ロマンス要素皆無の殺伐とした言い争いになってしまった。
「ムラサキ様! おやめになって下さい。サミュエル様、大変申し訳ございません」
慌てて駆け付けたカハク様に止められ、その場は無事に収束した。
だが、またサミュエル副隊長はキッと険しい表情をしてある方向を睨みつけた。その視線の先には、あの”白い天使集団”が、全員こちらを真顔で見つめていた。
なんか怖い。
私がムラサキ様の相手をするのが、気に入らないのだろうか?
でも、せっかくのムラサキ様の申し出を辞退するわけにもいかない。
オスカー兄さんに”勇者の剣”を預け、ムラサキ様と向き合った。
「悪いが、全力で行くぞ」
美しいムラサキ様の、紫色の瞳がキラリと輝いた。
「よろしくお願いします!」
ザッ……
ガンガンガン!カっ……!ガン……ガンガンガン!
開始直後から、間合いを詰めた激しい打ち合い。
しなやかで長い手足から繰り出される見た目以上に重い打撃と、ジュード団長補佐を彷彿とさせる鋭い突きを、紙一重でかわしながら、攻撃を繰り返す。弾かれながらも態勢を立て直し、足元を狙うと見せかけ、背後に回り込むも背中に目でもあるかのように木刀でガードされる。ムラサキ様は、時折「フフ……」と笑いながら際どい角度を狙い斬りつけてくる。ガードし、跳ね返すも、木刀とは思えない程重たい剣技に、自分に足りないものが何なのか、ようやく分かってきた。
”戦う筋力”
今回、ムラサキ様と手合わせをしてみて希望が湧いた。
女性でもこんなに強くなれるのなら、まだまだ私の努力が足りていないだけ。もっと鍛えて、ムラサキ様のような”戦う筋力”を身に付けたい!
ガンガンガン……!
ズザッツ……
「あ……」
スパ―ン! ビタン!
20分ぐらいでバテて集中力が切れてきた私は、跳躍の高さが足りずムラサキ様の木刀にスパ―ン!と足を取られ、派手に顔面から中庭の芝生の上にすっころんだ。よくジュード団長補佐にやられるパターン……と自分の至らなさを反省しながら、意外に硬い芝生の地面を拳で叩いた。
「大丈夫か?」
「はっ、はい」
ムラサキ様から差し出された手を握り立ち上がると、ムラサキ様がフッと吹き出した。
汗ばんだ白い肌に美しい顔立ち、フェロモンだだ洩れしてるの? ってくらい色っぽい大人のムラサキ様の微笑みに、私は思わず見とれてしまった。
「ルーシー、その辺にしとけ」
駆け付けたサミュエル副隊長が、白いタオルを顔に押し付けた。
「あぇっ」
サミュエル副隊長は間抜けな声を出した私に笑いながら、「鼻血出てる」と後頭部に手を添え顔を上にそっと持ち上げた。
やだ私、鼻血出しながらムラサキ様を見つめていたなんて……。
「ベンチで手当てする。歩けるか?」
「うん」
サミュエル副隊長に付き添われベンチへ腰かけると、「手洗ってくる」とサミュエル副隊長は中庭から出て行ってしまった。ムラサキ様は、オスカー兄さんのところへ歩み寄り何やら話をしていて、その横でカハク様が心配そうな表情でムラサキ様を見つめている。
「よし、じゃあオスカーと言ったな。よろしく頼む」
「かしこまりました。手合わせのお相手、努めさせて頂きます」
”勇者の剣”を私に手渡し、サミュエル副隊長が戻ってきたのを確認すると、オスカー兄さんは「じゃあ行ってくる」と微笑んだ。
「ルーシー、怪我は顔だけか?」
「はい、ああっ急いで、今から兄さんとムラサキ様の手合わせが始まるから」
「わかった。前置きは省略な」
サミュエル副隊長が目の前に跪き、私の頬を白い光を放つ両手で包み込んだ。
おおっ、この感じ!
どこまでも続く晴天の空のような温かな感覚と共に、顔の痛みが無くなっていった。
「ちょっとタオル貸せ」
私の鼻の下と頬を軽く拭い、「よしっ!」と笑った。
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後半へ続く!
お付き合い頂きありがとうございます(^^♪
※2021/11/2 訂正しました。




