67話 本当は怖い、花言葉
【バンディ城迎賓館・天使族長ミカエル様付”聖なる七つの光”ソロモン視点】
”聖なる七つの光”
これは、美しき天使族のみで構成された天使族長ミカエル・キング様直属の護衛部隊の誉れ高い名称。
厳正なる審査で選ばれし構成員は全部で七人。
ドウェイン・アナクレトゥス
レイモンド・フェリック
ミック・アンテルス
ファーディナント・カイウス
ソロモン・ゼフィリス
ラフィエル・ルキウス
ショーン・オリヴィエ
権天使の有力3大領主レリエル家配下ゼフィリス家の長男である俺、ソロモン・ゼフィリスは、幾多の選考基準をパスし、ミカエル様直属の護衛部隊、天使界でのエリートコースを約束されし役職”聖なる七つの光”に選出された。
お仕えしているミカエル・キング様(本名エリック・キング様)は、天上界・大天使ミカエル様より命を受けられし我らが天使族長。容姿、叡智、歌声、治癒能力、品行など全てにおいて完璧で、天上の神に最も近いといわれている天使界の若き統率者である。
我々”聖なる七つの光”は、バンディ城にて王国議会及び晩餐会に出席なさるミカエル様の護衛任務に当たっていた。
特に今夜の晩餐会には、新しい”聖なる光に選ばれし勇者”ルーシー様が出席すると知らせがあり、皆気合を入れてミカエル様の”聖なる七つの光”として身なりを万全に整え挑みました。
その現場で俺は信じられない人物に遭遇した。
”サミュエル”
醜い容姿で生まれつき”呪われた子供”とまで称された、実家の隣人。天使界5大能天使の一角をなすシンベリー家の長男”サミュエル・ヒューゴ”!
美しい悪魔王べリアス様の居城、アンフェール城で騎士をしていると聞いたが、あの醜さゆえ出世は出来ないだろうと踏んでいたが……何しにここへ。
会場中央から少し離れた柱の陰で、黒い隊服姿で佇むサミュエルを睨みつけた。
醜い上に片羽の半分がちぎれ、頭上で結わえられた艶のないもさっとしたくせ毛の長い金髪。
そのサミュエルが、ふっと表情を緩ませた。その視線の先に、勇者ルーシーの姿が見えた。
乾杯用の発泡酒を飲んでしまったらしい勇者ルーシーが赤くなり、宰相執事スチュワート様に睨まれていた。その様子を見てサミュエルは笑っているようだった。
あいつは、いったい何しにここへ来たのだ。
疑問を残したまま、勇者ルーシーの挨拶回りが始まった。その間もサミュエルは、決して近づくことなく陰に隠れるように勇者を目で追い続けていた。
”勇者ルーシー”
歴代最強クラスと噂されるその新しい勇者の娘は華奢で、赤い長い髪に深い青い瞳、そして、想像以上に可愛らしい容姿をしていた。
その勇者を、覗き見るかのように目で追うサミュエル。
あいつ……さては勇者ルーシーを……。
笑いが込み上げた。
その見た目で、あの勇者がお前を気に入る筈がないだろう。
ミカエル様にお仕えする我々”聖なる七つの光”を見た勇者ルーシーのあの表情を見たか? 我々の美しさに驚き目を輝かせていたぞ。
嘲笑と憐れみをかけながら醜いサミュエルを目で追い続けていると、会場がざわつきテーブルが会場の両端へ寄せられた。会場入り口に立つイフリート殿下の兵が大声で叫んだ。
「道をお空け下さい! これより、ノール帝国親善交流の余興として、勇者ルーシー様とカース城第3部隊フォルネオス隊長の手合わせを行う」
その声とともに現れた国王陛下とイフリート殿下。その国王陛下の宰相スチュワート様がサミュエルを呼び止めた。
「サミュエル様は、念のためルーシー様のお側にいらしてください」
サミュエルは手合わせを見守る最前列の陛下のすぐ後ろ、スチュワート様の真横に立った。
”ルーシー様のお側”だと!?
治癒要員か?
……にしても、近衛騎士にそこそこイケメンの天使族がいるじゃないか?
なぜ、わざわざあの醜いサミュエルを。
赤い髪を一つにまとめ、白いシャツ姿で現れた勇者ルーシーは、背負っていた勇者の剣をごっつい近衛騎士に手渡した。
「兄さん、お願い預かってて」(ルーシー)
お兄さんだったの、似てない!
会場がざわついた。
勇者が国王陛下の方を見つめると、陛下が微笑み、スチュワート様は頷いた。サミュエルは表情を変えずただ勇者を見つめていた。
なんなんだあいつ。
手合わせが始まったが、勇者の素早い剣技で一瞬で終了した。
それを見たミカエル様から驚嘆の声が漏れた。
「う、美しい……」
我々”聖なる七つの光”の視線がミカエル様に注がれた。
”美しい”と仰られた。
あの勇者を、ミカエル様が……
ミカエル様から発せられる”聖なる白き輝き”は、光を増幅させ周りの者達を包み込んだ。
その直後、とんでもないことが起こった。
対戦相手であるフォルネオス隊長が、勇者の頬に口づけをしたのだ。それに続いて、イフリート殿下の「私の”娘”」発言。あの勇者は、悪魔族なのか!?
ミカエル様が、美しい顔を曇らせ額に手を当てられた。
「あの勇者の娘は、何者なのだ……」
会場は騒然とし、気が付かぬうちに勇者ルーシーたちはその場から姿を消していた。
もちろん、サミュエルも。
「ルーシー……」
ミカエル様が勇者の名を、ぽつりと呟き胸もとに手を当てられ瞳を伏せられました。
「ああ、ルーシー」
また勇者の名を呟かれたミカエル様は、麗しい瞳を見開き輝かせ頬を薄い桃色に染められた。
「天使界に、ルーシーを、”勇者”を取り戻すのです」
「イエス マイ エンジェル!」(”聖なる七つの光”全員)
これは、我々”聖なる七つの光”の構成員規約で規定されているミカエル様への由緒正しき返答だ。
でもこれ ”イエスマイエンジェル!”だけは、少々恥ずかしい。
「それは聞き捨てならぬ。ルーシーは、我が息子の嫁だ」
肉体美を誇る妖精王様がミカエル様の御前に立たれました。
「まだご婚約の筈では? 所詮約束事。”破談”もありうるのでは」
ミカエル様が、いつになく強い口調で妖精王様に仰りました。
「焼き餅か? ルーシーは我が息子アークトゥルスと、もう既にいい仲だ。ルーシーの育ての両親への挨拶も済んでいる」
「イフリートとあの娘の関係は?」
「婚約の事を話したら、喜んでいたぞ」
「いつの間に……世迷言を。全てお前の独断で決めたのであろう」
妖精王様は大声でお笑いになり。
「ハハハハ! 残念だが決めたのは、我が息子アークトゥルスだ」
「……アークトゥルス」
「じきに子もできるだろう」
「子!? だと!?」
ミカエル様が、表情を歪ませました。
”子”とは、天上の神ガブリエル様のお力をお借りするのでしょうか?
「愛し合う者達を引き裂くような真似はするな。ミカエル、祝福してくれ」
明るい緑色の髪から、大きなピンク色の美しいバラをいくつも咲かせ、その一つをミカエル様に手渡した。
「棘のない、大輪のピンクのバラ……。古典聖母マリアのアトリビュート(持ち物)のつもりか」
美しいバラを見つめ、ミカエル様は「フッ」と冷ややかに微笑まれました。
その甘い香りを纏いながら、ミカエル様と共に我々”聖なる七つの光”は、会場を後にしました。
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後から、花に詳しいショーン (聖なる七つの光所属)に教えられ知ったのですが、ピンクのバラの花言葉にはこんなものがあるそうです。
「しとやか」「可愛い人」「愛の誓い」
そして、大輪のピンク色のバラの花言葉に我々”聖なる七つの光”は、ミカエル様が冷たくお笑いになられた理由がようやく理解できました。
「赤ちゃんができました」
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今宵、我々”聖なる七つの光”は、我らが長ミカエル様の為に一丸となり、勇者ルーシーを天使界に取り戻す決意を固めた。
目的はこの3つ。
①我らの魅力で、妖精王王子アークトゥルスとの婚約を解消させる。
②我らの魅力で、デウス城(ミカエル様の居城)へ誘い込み、勇者を洗礼させる。
③我らの魅力で、勇者を誘惑しデウス城に永住させる。
勇者奪還計画始動!
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【迎賓館客室・ルーシー視点】
翌朝
オスカー兄さんに早めに起こされた私は、ボンヤリしながら顔を洗い髪を整え着替えを済ませ、まだはっきりしない頭でベッドに腰掛け、オスカー兄さんからダメだしを受けていた。
「ルーは、女の子なんだから俺の前で着替えない」
「ん」
「脱いだ服は、ちゃんとたたむ」
「ん」
「スリッパ左右逆だぞ」
「ん」
「ボタン掛け違えてる」跪き、私のブラウスのボタンの掛け違いを直しながらため息をついた。
「あ…ほんとだ」
「ルーは女の子なんだから、もっと身なりに気を付けないと」
「ん、分かってる……」
私が朝弱いって分かってるくせに、オスカー兄さんの、こういうところがお父さんみたいで、正直めんどくさい。
「それに、イムに会ったのか」
「ん?」
イム副隊長?
「会っているのか!?」
そういえば兄さんからの手紙で”会うな”って言われてた。そんなに嫌だったのかなイム副隊長に会った事。
「うん、偶然。騎士団宿泊所で、アイザックに謝りに行ったときに」
「だから、会って何をした!?」
「え、ジュード団長補佐と手合わせしてることを話したら、”やめろ”って言われた」
「は?」
「レイ兄さんも一緒だったし……」
「レイも……じゃあ、なんで妖精王様にあんな事言ったんだ」
「あ……」
次第に目が覚めてきた私の顔を、オスカー兄さんはグレーの瞳で睨みつけた。
「”二人だけの……”って、そんな言葉、どこで覚えた!?」
「それは……その、いろいろ考えて。妖精王様を傷付けたくなくて。……ごめんなさい! イム副隊長にも申し訳ないです」
これ以上弁明する気力もなく、正直に白状した私は顔を下に向けため息をついた。
フワッ……と兄さんが私の肩に手を置いた。
「……分かった。でも、これだけは言っておく。俺はこの婚約に賛成だ」
「へ!? なんでそうなるの?」
「だって、お前イムを見るとき、目をキラキラさせ「それね。双剣が珍しかっただけ。それにイム副隊長”王子様”でしょ? 他に恋人や許嫁とかいるに決まってる。熱狂的なファンとかもいそうだし……揉め事に巻き込まれるのは絶対にイヤ!」
「あいつはそんなにモテてないぞ」
「いや、モテるって。あの容姿で、王子で、双剣だよ」
「ルー、お前イムの事好きだろ」
兄さんがニッと笑った。
「どっちかって聞かれたら好きだけど、そういう好きじゃ……」
「俺はいいと思うぞ」
簡単に言うな。
「でもね兄さんが良くっても、イム副隊長にだって選ぶ権利があるんだから。婚約破棄する可能性だってあるよ」
「ハハハっ、そん時はそん時だ」
なにが面白いのか大声で笑い、私の座るベットを背もたれにし隣に座った。
「それにしても、15で婚約って早っ……」
「早くも無いぞ。だいたい女の子は15~20ぐらいで結婚するからな」
「そうなの?」
「母さんは19で俺を生んだからな」
「若っ! っていうか兄さんには、結婚を約束してる人とかいるの」
「いるように見えるか?」
私を笑顔で見上げた。
「全然」
「俺は、お前の花嫁姿を見るまでは結婚はしない」
「えーやだ、私責任重大じゃん。下手したら兄妹でずっと独身だったりするかもよ。兄さんかっこいいんだから、兄さんだけでも結婚して!」
「なんでルーはそんなに悲観的な考えをするんだ? ルーを欲しいって奴はごまんといるぞ」
「五万……」
「人数じゃないぞ、”沢山いる”って意味だ」
「知ってる。でも、”勇者”を嫁にしたい人っているの?」
「いるよ。ルー、世界は広い。大丈夫だ!」
親指を立て白い歯を見せニッと笑った。
これは、慰められているのかな。
「それと、ルー。実の母親の事が分って良かったな」
正直、母親が”人魚族”っていわれても、全くピンとこなかった。
川で泳いでいるときも、海に入ってもアレクセイ王子のような鱗や足ひれも現われないし、水中で呼吸するなんて考えられない。外見は母親で、体質は父親似という事もありうる。じゃあ、”実の父親”はどんな人だったのだろうか?
「兄さん、それなんだけど」
コンコン
「ノエルでございます。朝食をお持ちいたしました」
オスカー兄さんがドアを開けると、笑顔のノエルさんが朝食のカートを押して部屋へ入り、テーブルの上に手際よく料理を並べた。
「ルーシー様、今日のご朝食はお兄様とご一緒にお召し上がり下さいとのことです。そして、国王陛下よりご伝言でございます」
小さなカードをテーブルの端に置き、ノエルさんは一礼し部屋からカートを押し出て行った。
カードにはこう書かれてあった。
”おはよう、私の愛しいルーシー。
昨夜の手合わせ見事であった。
ルーシー、私の一方的な行動でお前を傷付けていた事深く詫びよう。
これからは、お前が望む愛の形を知り、
お前が求める愛を与えられるよう、王として最大限努力する所存だ。
それでは、兄との久しい朝食、楽しんでくれたまえ。
べリアスより”
「なんだこれ?」
私がカードを読んでいる間にオスカー兄さんは、ガツガツと速攻で朝食を食べ終え、食後のデザートのプリンを一口で飲み込んだ。
……うわ、楽しむとかってレベルじゃない。
「ルー、食べないのか?」
「食べるよ。ね、この内容って?」
カードを手渡すと、それに一通り目を通した兄はフフッと笑った。
「陛下はルーを大切になさっている。ダメだぞ。手にキスぐらいで嫌がっちゃ。社交の場で、女性の手の甲にキスはあいさつ代わりだからな。陛下がルーに教えたかったんだろう?」
「”べちゃ”はイヤだ」
「陛下はルーを女性として扱ってくれているんだ。いやらしいとか言わない」
「え~~~私が悪いの?」
「ルーは、まだまだ子供だな」
カードをテーブルに置くと、カードがきゅっと小さく丸まり……
ポン
と、赤い小さいバラの花に変った。
「わっ、かわいい!」
その花に触れようと指を近づけると、サラサラと砂のように崩れ消えてしまった。
”女性として扱ってくれているから”
オスカー兄さんの言葉に、昨日べリアスさんに、「べちゃってキスしたり、いやらしい事はしないで」ときつく言ってしまった事を後悔した。
べリアスさんが、あんなに気にしていたなんて、なんだか凄く申し訳なく感じた。
王の仕事も大変なのに、私のせいでイフリート殿下から暴力まで受けたのに……手紙や、兄さんとの朝食まで配慮してくれるなんて。
デザートのプリンを食べ終えると、兄さんが「よしっ」と声をあげ立ち上がった。
「ルー、スチュワート様のところへ今日のスケジュールを取りに行くから、一緒に付いてきてくれないか?」
「うん」
「陛下がいらっしゃるといいな」
「うん、お礼も言わないと」
オスカー兄さんが満面の笑みを向け、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「ああっ、せっかく整えたのに!」
「ゴメン、つい」
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※ちなみに、赤いミニバラの花言葉は、「愛情」「情熱」「猛烈な恋」「内気な愛らしさ」。
お付き合い頂きありがとうございますm(__)m
※2021/11/2 訂正しました。




