66話 悪魔のささやき、天使の癒し
【バンディ城迎賓館特別室・べリアス視点】
んんんんん~~~んんん~~~♪(べリアス鼻歌)
”「べリアス、ここからは、私の仕事です」”
晩餐会でルーシーが、私のかわいいルーシーが! イフリートから私を守ってくれた~♪
ああ~~~~~~っ!
いろいろ心配していたが、ルーシーは危なげなくフォルネオス隊長を負かし、あのイフリートに謝罪の言葉”めんご”と言わせた。
それだけでも嬉しいのに、ルーシーが、かわいいルーシーが!
ルーシーを奪い取られる恐怖で、胸が張り裂けそうだった私の手を、なんとルーシーは握り、情熱的に見つめ「大丈夫べリアス」と微笑んでくれた。
しかも、”私の元で騎士として仕え、勇者の訓練をしたい”と言うではないか!?
ルーー―――シーー――――!!!
嬉しすぎて、もうその場で抱きしめ、べちゃべちゃにキスしたくなるほどの勢いで手を握った。
だが、「手に”べちゃ”ってキスしたり、いやらしい事はしないでね」って、ルーシーに真顔で言われ少々ダメージを受けた。
私の心からの熱い口づけを、嫌がっていたとは。
……まだまだお子ちゃまだからな、私のルーシーは♪
いやらしくしなければいいのだろう。
容易い……。
それにしてもだ、あの日、イフリートの城で見た絵の女の娘が”ルーシー”だったとは……。あと数年もすればあの絵の女のような”色っぽい”女性に成長すると想像するだけで、胸の高鳴りが抑えられない。
「フフフ……ああ、ルーシー♪」
ベッドに寝ころび、私はルーシーを無事取り戻せた喜びに耽っていた。
イフリートの事だ、無理をしてでも我を通しルーシーを奪い獲るであろうと予想していたが、ルーシーに対しては、どうやら弱いようだ。ルーシーの性格や、私に対する率直な言葉に、無理にカース城へ連れて行くことを諦めたようだ。
いや、本当に諦めたのか!?
「なあ、スチュワート。イフリートは本当にルーシーから手を引いたと思うか?」
明日の式典のスケジュール確認をしているスチュワートが、顔を上げた。
「……手を引くとは?」
「私からルーシーを奪うことを”諦めたのか”って聞いてるのだ」
「……諦めたわけではないと思われます。陛下、その逆でございます」
「は、どういうこと?」
書類の束をトントンとまとめたスチュワートが、こちらを向き口を開いた。
「この度のイフリート殿下の発言により、ルーシー様はイフリート殿下の”所縁”の者として、今後扱われるものとお考えになって宜しいでしょう」
「と、いうと?」
「イフリート殿下は、ルーシー様の御父上という立場になりますので、何か不測の事態が起こった場合、即刻ルーシー様をカース城に連れて帰られると、私は考えますが」
「不測の事態とは、なんだ?」
「ルーシー様の”身”が危険に晒された場合などです」
「危険!?」
「ですので陛下。これだけは約束して頂きたいのですが」
「なんだ?」
「ルーシー様に対して、過度のスキンシップは今後一切控えて頂きた「いやだ!」
ベッドに突っ伏して叫んだ。
血も涙もエロさもないスチュワートの悪魔のような言葉。
「ですが、先ほどルーシー様から釘を刺されたでのではありませんか!?」
「だって……私は、王なのだぞ……手を握るぐらいは」
「手は、良しとします。ですが、肩をお抱きになる、手の甲に深く口づけをする、抱きしめる、食事を口元まで運ぶ、耳元で囁く、ビキニを強要する……などは全くもって常識の範囲外です!」
ほぼ全部じゃん!
いつも以上に、冷ややかで心に突き刺さるようなスチュワートの厳しい指摘に泣きたくなった。
「お前は悪魔か!」
「宰相兼執事です。陛下! 今後もルーシー様を傍に置きたいと願われるのであれば、先ほど申し上げました過度のスキンシップを控え、王として威厳ある行動を心がけて頂きたいのです!」
最後の方は、軽く怒鳴り声になっていた。
スチュワートは、私のルーシーに対する”愛情表現である一連のスキンシップ”に、怒っているようだ。
何の気なしに私はルーシーに、心からの愛情を注いでいたつもりであったが、それが第三者であるスチュワートから見れば”非常識”と判断されるものだったとは……。今夜のルーシーからの指摘と、スチュワートの言葉に、私は各個人の”愛情表現”の受け取り方の違いがある事を、今この瞬間まざまざと思い知らされた。
スチュワートもここのところ忙しく、いつ休んでいるのか分からない程、王国の為に働いてくれている。今回、軍事協定並びに王国会議の準備や、昨夜の”氷の魔女の城”の後始末、荒れた議会の収拾に晩餐会、イフリート……この働き者の色男が怒鳴る姿を見るのは久しぶりだ。
スチュワートは、私を怒鳴りつけた後、ハッとし、気まずそうに沈黙した。
そして、深呼吸し、少々やつれた表情で言葉を続けた。
「少々取り乱し申し訳ございません。ですが、何卒お願いいたします。陛下のお心遣い一つに懸かっております」
「わかった。お前も疲れただろう、もう休め」
「お気遣い感謝いたしますが「いいから今夜は、ちゃんと休め。お前に倒れられたら、それどころじゃない。今夜は休むんだ!」
私の言葉に、やはり相当疲れていたのかスチュワートは静かに頷いた。
「……では、お言葉に甘えて」
失礼しますと、書類を片づけ部屋を出て行った。
いつになく生気のない背中に申し訳なさを感じた。
スチュワートは、私の間違いを遠慮することなく指摘してくれる数少ない優秀な人材。大事にせねば……。
今回、スチュワートからの指摘で、私はルーシーに対する”愛情表現”について考えさせられた。
”人によって受け取り方が違う”
ならば、ルーシーの好む”愛情表現”を知れば良い!
ルーシーがときめくシチュエーションや、胸キュン行動、ときめくプレゼント……などなど。
ルーシーの好みに合わせた”愛情表現”を調べ上げ、絶対に私の虜にしてやる!
題して……”ラブ・リサーチ”。
……ダサッ。
ネーミングはダサいが、私は本気だ!
ルーシーは、どんな男がタイプだ? いったいどんなシチュエーションが好みなんだ? キュンとするってどんな時だ? 何を言われたら嬉しいのだ?
ああああっ、早く明日にならないかな。
会って色々聞きだし、理想の恋愛シチュエーションを仕掛けまくり、我が魅力の虜囚にしてやる!
痛手を負っていた心に、新たな希望の光が射し込んできた。
明日も、ルーシーとずーーーーっと一緒だ。
+++
【バンディ城迎賓館特別室・スチュワート視点】
疲れておりました。
ここ数日、想定外の出来事の対処に明け暮れその上、ルーシー様に対し、周りの目をはばかることなくなされます陛下の過剰なスキンシップを目の当たりにしながら、周囲の者達の手前止める事もできず、焦燥し、先ほど思わず陛下をきつく諫めてしまいました。
そんな私に陛下は、逆にお気を遣われ「お前に倒れられたら、それどころじゃない。今夜は休むんだ!」などと仰られる。
どこまでも、素直で正直でお優しい陛下に、私は……。
陛下の、ルーシー様への揺るぎない愛情は理解しております。ですが、陛下が王としての品格を保っていただけないことには、統率力が失墜し国も何も立ち行かなくなります。最悪な場合、その混乱に乗じて南の帝国が攻めてくる可能性もございます。
パタン
(ドアが閉まる音)
「陛下が戻られました事に気が付かず、申し訳ございませんでした!」
陛下の部屋から特別室の中央に位置するリビングへ戻ると、バンディ城本殿から走って戻られた、近衛騎士ジン様と、クリス様、サミュエル様が私に謝罪いたしました。
「問題ありません。……あまり楽しそうに談笑しておりましたので」
「もっ……申し訳ございません!」
クリス様が顔を赤面させ最敬礼し謝罪すると、それに続き、ジン様、サミュエル様も最敬礼し、頭を下げられました。
クリス様にジン様、そしてサミュエル様。
この3人は確か同期入隊。今回、急遽サミュエル様がルーシー様の万が一のサポート役として同行する旨を伝えましたところ、この二人はとても喜んでおりました。
「仲が良いのは宜しいのですが、内々の話を他城で口外するのは極力お控え下さい。よろしいですね」
「「「はっ! 以後気を付けます!」」」(3人)
ジン様は、何事においても優秀ですが、少々話好きなのが難点。クリス様は無骨なところがありますが、真正直で忠誠心が強い。
サミュエル様は、容姿は強面ですが、治癒能力は王国騎士団一と噂され、その能力もさることながら武術面でもかなりの腕前と報告を受けておりました。
私から見れば3人ともまだお若く、これからまだまだ伸びしろがあるアンフェール城の優秀な騎士達。
「クリス様は、陛下の部屋。ジン様はこのリビングの扉前で、警護をお願い致します」
「「はっ!」」(クリス、ジン)
二人はスッと立ち上がりすぐに持ち場に就き待機した。
「そして、サミュエル様は明日に備え、こちらでご用意させて頂いたお部屋で、どうぞお休みください」
「はっ!」
サミュエル様はすっと立ち上がり、鍵を受け取り敬礼をし、鋭い眼差しでキッっと私を睨みつけた。
!?
……サミュエル様は天使族で、王国騎士団一と噂される治癒能力者。自尊心が高く、私のような他種族のものが、談笑を注意しましたのが面白くなかったのでしょうか?
ですが、私もこの国の”宰相兼執事”後に続く者達の為にも、引き下がるわけにはいきません。
「そんなに睨まないで下さい。前途ある若者の為に、あえて苦言を呈したまでです」
その言葉に、サミュエル様は驚いた表情をし焦ったように口を開いた。
「に、睨んでなど……睨んだように見えておりましたのなら、「ぶっ……」
リビングの扉前に控えているジン様が吹きだし、肩を震わせ笑いを堪えられました。
「睨んでらっしゃらない?……と」
「元からこういう顔ですので、その……真面目な顔をすると睨んでいるように見えてしまうので……」
顔を紅潮させ、サミュエル様は俯いてしまわれました。
その困ったように俯く姿に、これは私の勘違いだと瞬時に判断いたしました。
「サミュエル様。それは私の方が……大変、申し訳ない事を致しました」
「そんな構いません。いつもなんで」
申し訳なさそうに照れ笑いをなさるサミュエル様を、よくよく拝見すると、額に頬、首筋に残る無数の傷跡がいくつか見て取れました。その容姿でどれだけ苦労なさっていた事か、察するには余りあるものでした。
「そのように仰らないで下さい。サミュエル様は、この王国の未来を担う大切なお方でございます。なんとお詫び申し上げれば……」
「いいんですって、お気遣いありがとうございます」
あらぬ疑いをかけた私に対しサミュエル様は、屈託なく笑い頭を下げられました。
ああ、私としたことが、こんなにも寛容なサミュエル様に、なんと失礼な事を……
「……誠に、申し訳なく「ああっ、気になさらないで下さい」
「ですが「スチュワート様、失礼します」
サミュエル様が私の左手を取り両掌で握りしめ光を放った。
「え……」
温かく全てを包み込む柔らかな感触が全身に広がり、身体全体の細胞が生まれ変わったかのような清々しさに、張り詰め絡み合っていた緊張の糸が、一瞬で”青い空”に溶けて消えていった。
「とてもお疲れのようでしたので……あまり無理をなさらないで下さい。では、失礼します」
私に敬礼した後、ジン様に”じゃあお先”と声をかけ颯爽と部屋を出て行かれました。
私に笑いかけた、柔らかく優しい空色の瞳。
あの”空”は、その”瞳”の色だと、気がつくまで時間がかかりました。
王国騎士団一と謳われても過言ではない!
サミュエル様の治癒能力を体感した私は、ジン様に話しかけられるまで暫くその”空”のような解放感に浸っておりました。
正直、特化した”癒しの光”がこれほどのモノとは思ってもおりませんでした。精神にまで働きかけるものとは……。
「スチュワート様は、はじめてだったんですか?」
「……なんと申しましょうか、素晴らしい能力ですね」
「はい!」
ジン様が嬉しそうに微笑まれました。
「ジン様……なぜ、サミュエル様が、王国の騎士になられたのかご存じですか?」
「え?」
「あれほどの能力をお持ちのお方を。天使界が放任してるとは信じがたいと思われますが」
「……そういや。……あ、でも、」
「どうなされました?」
「はっきりとはしないのですが……」
「構いませんよ、どうぞ仰って下さい」
「なんか、容姿があれなんで王国の騎士になったって聞いたけど。能力の方は、見習の時にわかったみたいな……隠してたとか……」
「つまり、天使界が能力を把握する前に、騎士になられたのですね」
「そうですね」
「ありがとうございます」
隠されていた? 後から分かった? 天使界が何も言ってこないのが疑問ですが……。
「あの、スチュワート様、ひとつお聞きしてもよろしいですか?」
思案していると、ジン様が畏まり小さな声で質問してきました。
「はい、なんでしょうか?」
「ルーシー様は、その……カース城へ行かれるのでしょうか?」
いつもは冷静沈着なジン様が、仄かに頬を高揚させ、私の顔を真剣な眼差しで見つめられました。
全くもって”ルーシー様”は、この短期間で、ジン様のお心まで掴んでしまうとは。
「……フッ、ご心配には及びません。ルーシー様は、今後とも変わらず、アンフェール城騎士見習として陛下の元で訓練に励まれます」
「やった!……あ、すいません」
ジン様は瞳を輝かせ小さく片手でガッツポーズをした後、照れ笑い致しました。
「フッ……ジン様。今後とも気を引き締め、陛下及びルーシー様をお支え下さいますよう、よろしくお願い致します」
「はっ!」
+++
サミュエル様の”癒しの光”のお陰でしょうか。
疲が取れたせいか先ほどまで昂っていた感情が抑えられ、物事を冷静に考えられるようになってきました。
特別室のリビングで、明日の細かな予定をまとめながら、今夜の出来事を思い返しておりました。
今夜の晩餐会でのご挨拶回り。そして、止むを得ずお受けになった”お手合わせ”。勇者ルーシー様の磨き上げられた鬼気迫る剣技に、恐らく、多くの者達が魅了された事でありましょう。
フォルネオス隊長は決して手を抜いていらしたわけではない。相当な速さで向かってこられた剣を、ルーシー様は即座に見切り、剣を弾き飛ばし、それを奪い、容赦なく相手の首に差し込み、兜を跳ね上げました。瞬間、私も魂が揺さぶられるような衝撃を受けました。
”恐ろしき魅力を秘めた、聖なる光に選ばれし勇者”
その後の、フォルネオス隊長からのキスに驚き、オスカー様の背中にお隠れになった姿は、先ほどの剣技の時の鬼気迫る表情とは全く別で、なんともお可愛らしい表情に少々口元が緩みました。そして、イフリート殿下の謝罪に対し躊躇せず不満をぶつける様子に、心底ハラハラさせられました。
様々な表情を魅せるルーシー様の一挙一動から、私は目を離すことが出来ませんでした。
イフリート殿下から語られました、ルーシー様の御母上の話をお聞きし、ようやく納得がいった次第です。
”人魚族”
古代の伝説では、”セイレン”といわれる人魚族は、その美貌と歌声で船乗りたちを惑わせ、海へ引きむと語り継がれておりました。
”生まれつき人を惹きつける能力”
幼少期のオスカー様がルーシー様を一目で気に入り、連れ帰ってしまったというのにも納得がいきます。そして、陛下や妖精王様も一目で……。
そのルーシー様を、15歳になるまで守り育てられたそのご両親とは、どのような方なのでしょうか?
3人の優秀なご兄弟そして、ルーシー様を育てられたご両親様に、是非ともお会いしたいと思いました。ルーシー様の、あの年齢の割に落ち着いた物腰、大人びた発言。さぞかし、そのご両親様の教育が素晴らしいものだったのでありましょう。ぜひ、機会がございましたらお会いして教育理念等いろいろとお伺いしてみたいと思いました。
+++
明日の予定をまとめ、ノール帝国のアレクセイ王子のカール首席補佐官へ書類を届け、その帰路、イナリ城ムラサキ様とその側近カハク様にお会い致しました。
ムラサキ様は、晩餐会の衣装から黒いシャツに黒のスラックスに着替えられ、2本の木刀をお持ちになり、カハク様に羽交い絞めにされながら、何故かサミュエル様のお名前を叫んでおります。そういえば、余興の後、ルーシー様とお手合わせをしたいと仰っておりました。
でも、なぜサミュエル様を?
「サミュエル様とお知り合いなのでしょうか?」
と声を掛けましたところ。
「スチュワート様ではありませんか!」
カハク様がムラサキ様から腕を振りほどき、深々と私に最敬礼いたしました。
ムラサキ様も、その横でスッと腕を胸に付け敬礼いたしました。
「どうなされたのですか?」
・・・
災難続きのサミュエル様に、ご同情いたしました。
カハク様よりこれまでの経緯を伺い、明日の朝食後、ルーシー様の空き時間中に”お手合わせ”をするお約束を致しました。
ルーシー様の魅力に釣られ、次から次と……ですが、これも王国を守る大事な仕事の内。
明日は大事な”軍事協定の調印式”。
南の海の安全を確保し、ジェダイド帝国への牽制となれば宜しいのですが。
+++++
お付き合い頂きありがとうございますm(__)m
休んでいいんだよスチュワート様!
4/27 誤字脱字直しました。
見落としているところがまだあるかもしれません、気付き次第直しますm(__)m
7/2 天使界→王国騎士 訂正しました。
11/2 訂正しました。




