表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/300

65話 離れれば離れる程思いは強くなる法則

【バンディ城・ルーク視点】


 ホムラを探し回っていた俺の背後から声が聞こえた。


「ルーク急げ、ホムラ様はあの塔にいる」


 バンディ城騎士ケルビン隊長が、海岸の外れに建つ古い見張り塔を指さした。


「悔しいがルーク、ホムラ様が待ってらっしゃるのは貴様だ。さっさと行け!」


 バン!


 背中を叩かれ、俺は駆けだした。


 ザザザザ……ザザザザ……


 ルーシーにキスをしたのは、再会できたことが嬉しくて嬉しくて仕方なくて、それと同時に彼女がまだ赤ちゃんだった時を思い出し、彼女の顔に残る幼い頃の面影に懐かしさが込み上げたからだった。

 生きていてくれただけでも嬉しいのに、ルイーズさんを彷彿とさせる表情や、意志の強そうな深い青い瞳、剣技の素晴らしさ……。僕はあの時、ルーシーを彼等に託したことは間違っていなかったと、やっと心から”良かった”と思えた。


 15年前から続いていた後悔の日々から、僕は、ようやく解放されたのだった。


 でもホムラに、嫌な思いをさせてしまった。


 正直、ホムラが嫉妬してくれて僕は嬉しかった。

 だけど、よくよく考えたら、”婚約者の前でキス”というとんでもないことをしてしまった。


 僕は、最低だ。


 昔、一緒に遊んだ地下牢や、南の塔、北の塔のてっぺんの部屋も探した。途中で着ていた重い甲冑を脱ぎ捨てながら探したが、ホムラは見つからない。そこへケルビン隊長が黒い翼を広げ飛んできて、ホムラの居場所を僕に教えてくれた。この城では、ホムラやアレクセイ王子、妖精族の王子たちなど、親や国の事情で亡命してきた子供達を保護していた。ケルビン隊長は子煩悩で、その奥様と共に自身の子と同様に子供たちを可愛がっていた。特にホムラは身体が弱く特別手が掛かると嘆いていたが、「手のかかる子ほど可愛いものだ」としみじみ語ってくれた。ホムラと二人で遊びに出かけると、僕はまだ信用されていないのか、彼がこっそりついてきている事が何度もあった。


 本当は彼も、僕を殴り飛ばしたいと考えていただろう。


【回想】


 出会った頃からずっと、悪魔族なのに角も翼のない中途半端な僕を「大好き」と言ってくれるホムラが、僕の支えだった。


 ルーシーと同い年の5歳のホムラは、気が強いが恥ずかしがり屋で、小さくて、何をしても可愛らしく、僕がバンディ城を訪れると、ずっと僕の隊服の裾を掴んで放さなかった。トイレにまで付いてこようとするホムラを何度なだめたことだろう。


 カース城の連絡係の仕事から城内警備の仕事に就き、バンディ城を訪れる機会が減ると、7歳になったホムラから手紙が届いた。

 ”大好きなルークへ”から始まり、たどたどしい文字から幼いホムラが一生懸命書く姿が目に浮かび、僕も嬉しくて返事を書くのが楽しかった。大人になって、いつか好きな奴が現れたら、手紙も来なくなり、僕の事なんてすぐに忘れてしまうのだろうと……この()()であろうホムラの僕に対する気持ちを、大切にしたいとペンを走らせた。


 ”かわいいホムラへ”


 それから、何年もそんな日々が続いた。

 年を重ねるごとに大人になっていくホムラの成長は、僕の楽しみでもあった。年に3度、イフリート殿下の使いで父と訪れる僕にホムラは喜び、滞在中ずっと一緒に過ごした。騎士の仕事の話をすると、「弓を教えて」と言われ、子供でも扱える手作りの弓を作って地下牢で遊んだ。その翌年には、大人用の弓を自在に操り、的の中心を射る練習をしているホムラの急成長に驚かされた。


 黒い艶やかないい匂いのする髪に、大きな赤い瞳で僕に笑いかけるホムラは、13歳になっていた。

 ”かわいい”から”美しい”へ変貌していく姿に、自身の胸のざわつきを感じた。


 いつか、僕の事なんて忘れるくらい素敵な恋をして、どこか遠くへ行ってしまうのだろう。


 カース城のただの騎士である僕が、アスモデウス殿下の”娘”のホムラに釣り合うわけがない。

 でも、それでもホムラは僕に会うたび「ルーク大好き」といつもと変わらず抱きついてくる。

 ホムラは、どういうつもりなのだろうか?

 そんなホムラを僕は意識せずにはいられなくて、少し距離を置こうと騎士の昇進試験に集中する為暫くバンディ城へは行かず、ホムラに会えない日々が続いた。


 距離を置けば時間が解決してくれる。


 送られてくる手紙に、”しばらく忙しくなる”と返事と書いた。

 その翌年、3番隊副隊長へ昇格し、少し自信を付けた僕は、14歳になったホムラに会いに行った。


 何も解決しなかった。


 ますます美しくなっていたホムラは「ルーク会いたかった!」と泣きながら僕に飛びつき昇進を喜びキスをしてくれた。


 ”離れてしまえば僕の事なんて忘れてしまう”という考えは浅はかだった。


 想像以上に泣きじゃくるホムラを目の当たりにして、僕は酷く後悔した。それと同時に、ホムラの僕に対する思いが”本物”なのかもしれないという、期待が入り混じり、”もっと強く偉く、ホムラに釣り合う立派な男”になって、君に結婚を申し込みたいと願わずにはいられなかった。


「ホムラ、待っていてくれ。今度は、()()になってやる!」


 僕は、ホムラの涙に誓った。


 その翌年、僕は3番隊隊長に昇格を果たし、15歳になったホムラに報告しに行った。

 バンディ城にホムラの姿は無かった。


「ホムラ様は、4月より王都アンフェール城の騎士見習になり、同期のご友人たちと楽しく過ごしてらっしゃる」


 ケルビン隊長が寂しそうに僕に伝えた。


「騎士見習!? なんで!?(声が裏返る)」


 ホムラが騎士になろうとしているなんて、考えてもみなかった。


「突然、その……”騎士”になりたいと仰られまして……」


「それに、あの人見知りのホムラが、友人たちと楽しく過ごしているって!?」


「私も心配でしたが、お気に入りのご友人もたくさんいらっしゃるご様子で、王都アンフェール城で楽しそうに過ごされていて安心しております。それに、ホムラ様の弓の腕前は騎士見習の中で1番だったのです。練習に付き合って頂いたルーク様のお陰です」


 ケルビン隊長は、ホムラの成長が嬉しいのか泣き笑いしていたが、僕は笑えなかった。そんなつもりで弓を教えたわけじゃない。騎士の話だって……。


「アスモデウス殿下が仰るには、アンフェール城には国中の優秀で素晴らしい人材が集まっており。そこで学び見聞を広げる事もホムラ様には必要であると……」(ケルビン)


 王都アンフェール城の騎士。

 イフリート殿下の使いで訪れたアンフェール城【謁見の間】で、国王べリアスの脇に控える目の覚めるような青色の隊服を身に着けた、様々な種族の()()()()()の近衛騎士達を思い出した。


 嫌な想像が頭の中で湧き上がる。



 それから約1カ月。


 ホムラから手紙も来ない。


 ホムラは僕の事を忘れてしまったのだろうか。

 副隊長に昇格した時、キスだってしてくれたのに……あんなに泣いて、僕との再会を喜んでくれたのに……僕を、忘れてしまうなんて。 



 ”いつか、僕の事なんて忘れるくらい素敵な恋をして、どこか遠くへ行ってしまうのだろう”


 ついに、この時がきてしまったのだと、僕は悟った。


 +++


 ホムラが騎士見習になり約1カ月半。

 イフリート殿下がバンディ城を訪れる際、随行した僕は、アスモデウス殿下の正式な御令嬢となった、15歳のホムラと再会した。



 ホムラは、()()()()()()()僕に飛びついてはこなかった。



 正式に令嬢になったホムラには、縁談の申し込みが殺到していた。その相手選びの為、ホムラは一時城へ帰還していた。


 イフリート殿下の脇に控えながら、ますます綺麗になっているホムラを見つめた。



 そうか……ホムラは、”御令嬢”だ。


 その辺の城仕えの騎士なんかと”結婚”なんてことはできない! 

 どこかの元貴族や要人の子息じゃないと釣り合わない。


 確実にホムラは、僕の手の届かない遥か遠い存在になっていた。


 なのに、忘れよう、もう最後にしようと決心したのに、顔を見たらもうそれは無理だと諦めるしかなかった。


 忘れるなんて出来ない。


 君がいたから、僕は騎士を続け隊長にまでなった。ホムラが「大好き」と言ってくれたから、僕は、悪魔族らしくない自分の容姿に誇りを持つことが出来た。僕を、その輝く瞳で見つめてくれるホムラが僕の全てだった。


 僕は、どうしようもない苦しさに耐えきれず部屋の外へ逃げ出した。その部屋の扉の前で、ホムラが縁談相手を決めるのを気持ちを押し殺し、唇を噛み締め待っていた。


 バン!


 部屋から凄い勢いで飛び出してくるホムラに驚き、とっさに腕を掴んだ。部屋の中には紙屑が散乱し、アスモデウス殿下が呆れた顔で笑っている。


 これは、もしかしてホムラがやったのか!?

 全部破いたのか!?

 気に入らなかったのか!?

 こんな事思っちゃいけないが、この状況にホッとしている自分がいた。


 だけど僕は心を無にし、我儘を言うホムラを諭そうとすると、ホムラは瞳を光らせ激高した。


「私は、ルークが好きなの。令嬢になれば好き勝手出来ると思ってなったのに、なんでルークは……縁談を、申し込んでくれなかったの!」



 嬉しかった。

 だけど、僕は……。


 ”身分違い”だとホムラに言い聞かせるも、ホムラはまた突拍子もない事を言い出した。


「じゃあ令嬢なんて辞めて、騎士になって、私がルークに縁談を申し込む」

「ええっ!」

「私の事、好きじゃないの!?」

「好きだよ。でも、もっと外の世界を見ていろいろな人と関わって、そして、それでも僕の事を好きでいてくれるなら」


「なによそれ」


 呆れたような表情のホムラに、僕は自分が思い違いをしていたことにようやく気付いた。


 ”私は、ルークが好きなの”

 ”騎士になって、ルークに縁談を申し込む”と……。


 もしかしてホムラは、前と変わらず僕の事を思ってくれている!?


 そこから堰を切ったように、これまでホムラに抱いていた考え()()を白状した僕は、あろう事か騎士隊長であるのに泣き出していた。


 ………………今日は、本当は最後のつもりで……」


 美しいホムラが頬を染め輝く赤い瞳で僕を見つめ、怒った。


「なによ最後って……いい加減に「ホムラ!」


 もう、我慢が出来ず、()()()()僕からホムラを抱きしめた。



「ホムラ……結婚してくれ」










「聞いたか、イフリート」


 廊下で僕たちの様子をうかがっていたアスモデウス殿下の声に我に返った。

 どうしよう、身分違いの相手に手を出してしまった。しかも、結婚を申し込んでいるところまで見られた。


 でも、もう引き返すわけにはいかない!

 こうなったら”二人で駆け落ち”という言葉が浮かんだその時だった。


「クックックックッ。ああ、仕方ねえな。ルークは、お前の婿にくれてやる。対価は、”聖なる光に選ばれし勇者”。これでどうだ?」



 イフリート殿下が楽しそうに笑い、アスモデウス殿下に、僕の”婿入り”? を提案した。

 え……ホムラと結婚していいの!?

 でも、対価の”聖なる光に選ばれし勇者”って……。



「勇者ちゃん!?」


 アスモデウス殿下が驚いた表情でイフリート殿下に聞き返した。


「ああ、その”勇者ちゃん”の名は、何という?」


「ホムラ、勇者ちゃんの名前は、確か……”ルーシー”だったか?」


 こっちに顔を向け、ホムラに確かめると腕の中のホムラが頷いた。



 ”聖なる光に選ばれし勇者”


 ルーシー!?

 ルーシー!?



「ルーシー……。やはりな」


 イフリート殿下が、クックックッと笑った。


「でもな~~。べリアスが偉くお気に入りでな。簡単に手放すとは……」


「そこをなんとか頼む」


「あの”勇者ちゃん”とんでもねぇぞ」






「ルーシー……」


 僕のつぶやきにホムラが目を輝かせた。


「そうなの! ()()ルーシーが、生きていたの!」


 イフリート殿下が懐から新聞の切り抜きを大事そうに取り出した。


 【勇者による光の加護!か】

 【アレクサンドライト王国より正式に発表があり、昨日、王都カルカソに降り注いだ光は、アンフェール城訓練棟で”聖なる光に選ばれし勇者”が、国王べリアス陛下によって”聖なる力の解放”を成し遂げた結果によるものと報じた。悪魔族の王による力の解放は、前代未聞で、べリアス陛下と”聖なる光に選ばれし勇者”の親密ぶりがうかがえる。】


 その横に、描かれていた”聖なる光に選ばれし勇者”の似顔絵の少女は、赤い長い髪に、パッチリとした深い青色の瞳で、目元がルイーズ様によく似ていた。

 (※国王べリアスの肖像画は、指で穴があけられていた。)



「私、ずっとルーシーを守ってたの。それで、ルークに手紙書けなくて」


 ホムラとの婚約や、思いもよらない嬉しい知らせに、僕の気持ちは今までにないくらい浮足立っていた。


 もう少し僕は、慎重に行動しなければいけなかったのに……。


 (回想終わり)


 +++++


 頬はまだズキズキ痛むが、鼻血は止まった。

 こんな痛みなんでもない! 

 ホムラの方がもっと傷ついてる!


 飛べない僕は、海岸の外れにある見張り塔へ走った。


 ザザザザ……ザザザザ……

 ザザザザ……


 波の音に交じりホムラの泣く声が聞こえる。

 石段を駆け上がると、塔の上には膝を抱え泣いているホムラがいた。



「ホムラ! ごめん!俺……」


「ルーク……」


 泣きはらした目で見上げたホムラが、僕に飛びついた。

 抱きしめた黒いドレスを纏った華奢な身体は、海風で冷え切っていた。


「グスッ……私こそ……いっ……痛かったでしょ……ルーク」


 もう一発ぶん殴られる覚悟で来たのに、ホムラの思いもよらない言葉に、僕の胸は締め付けられた。


「悪いのは俺だ。ホムラ、済まない」


「グスッ……もういいの……来てくれて……うれしいの」


「さ、戻ろう、風邪ひくぞ」


「ヤダ!」


 子供のようにホムラは頬を膨らませた。


「冷たくなってるじゃないか……ほら、これ着て」


 シャツを脱ぎホムラに着せた。必然的に僕はTシャツ1枚になったが、この状況で寒いとか言ってられない。


「……あったかい」


「だろ、じゃあ城に戻るぞ」


「ヤダ!」


「おんぶか?」


 僕がふざけてホムラに聞くとホムラは首を振り、僕のシャツの袖で涙を拭き、”フフっ”と可愛らしく笑った。


「ん?」


 そして、僕の首に両腕を伸ばし、大きな赤い瞳を潤ませ僕を見上げ顔を近づけた。長い睫毛に涙のかけらが光り、ゆっくりとその宝石のような真っ赤な瞳が閉じられていく魅惑的な光景に僕は、目を奪われながら重なった冷たい唇に、息が止まった。

 海風や波の音が掻き消え、冷えた感触が次第に温かさを増していくのを感じながら思った。



 こんなに幸せでいいのだろうか。



 +++



「そういえばルーク、どうして私がここに居るってわかったの?」


「ケルビン隊長に、……あっ」


 ”見られていたかも!?”


 我に返り辺りを見渡すと、城壁の上に人影が見えた。


「ケルビンさんね、フフフっ、あの人、凄く目がいいから見てたのかも」


 そういうホムラもめちゃくちゃ目がいい。


「……怒られるだろうな」


「大丈夫よ。婚約してるんだから」


「だからだよ。”ホムラを泣かせたって”さっき睨まれたもん」


「じゃあ、ルークに付き添って、一緒に怒られてあげる」


「それカッコ悪くない?」


「カッコ悪っ……罰として城まで”おんぶ”!」 


「え!?」


「あ……足が痛いの」


 ホムラが恥ずかしそうに僕を見上げた。


「はいはい、お姫様。その靴で、こんなところまで走るから」

「もとはといえばルークが「はい。姫様、申し訳ありません」

「フフッ、姫じゃないし」

「ホムラはずっと僕の姫様ですよ」

「なにそれ」


 ・

 ・

 ・


 ホムラをおんぶして城へ戻ると、ケルビン隊長が呆れた笑顔で出迎えてくれた。

 殴られはしなかったが滅茶苦茶怒られた。でも、最後にこう言ってくれた。


「今日からお前は俺達の仲間で、ホムラの婿だ! よろしく頼む」


 バンディ城の騎士、そしてホムラの婚約者として、僕は更に気を引き締めケルビン隊長に最敬礼した。


「はっ! 誠心誠意、努めさせていただきます!」


 +++++

お付き合いいただきありがとうございますm(__)m

次回、べリアスのターン! 


※2023/2/15一部訂正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ