表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/300

64話 拗れてます!

【バンディ城・海岸・ホムラ視点】


 今夜の月は半分しかないのに、青い月の光が城から逃げ出した私をどこまでも追いかけてくる。

 それから逃れようと必死に走り、気がつくと海岸の外れにある今は使われていない古い石造りの”見張り塔”に辿り着いていた。それほど高くないこの見張り塔は、幼い頃の私の絶好の隠れ家だった。塔の上に登り、誰にも見つからないよう膝を抱えしゃがみ込んだ。


 ルークがルーシーを、愛し気に見つめ頬にキスをした。

 あんな場面、見たくなかった。


 ザザザザ……ザザザザ……ザザザザ……

 ザザザザ……ザザザザ……ザザザザ……


 静かな波の音が、激しく揺さぶられた感情を、次第に落ち着かせた。


+++

【ホムラ回想】


 ルークに似た赤い髪色の女の子を見つけた時、これは運命だと感じた。


 両親は私が生まれてすぐに戦争で亡くなり、身寄りのなかった私は、氷の魔女の殺戮から”生き残った女の子”としてアスモデウス殿下に引き取られ育てられた。

 

 ルークと初めて会ったのは、私が5歳の頃だった。


 アスモデウスと一緒にカース城へ訪れた際、私の遊び相手となったのが、騎士見習になりたてだった”ルーク”だった。

 カース城の騎士見習用のグレーの隊服を身に着け、私の前に現れたルークは、真っ赤な髪に白い肌、キリっとした赤い瞳をしていて、角も黒い翼も無かった。本当に私と同じ悪魔族なの? と思えるほど華やかで爽やかで、かっこいい。

 こんな悪魔、今まで見た事なかった!

 恥ずかしさで逃げ回る私を、ルークはどこまでも追いかけ、そして、疲れて動けなくなった私を城までおんぶして帰ってくれた。ルークの背中は大きくて暖かくて、赤い髪からは汗の香りがした。


 ルークは、歩きながら私の歳を聞き嬉しそうに「ルーシーと同い年だね」と笑った。

 ”ルーシー”って誰? と聞くと「僕と同じ赤い髪の、妹みたいな子だよ……」と話してくれた。

 

 それから、カース城の連絡係に命じられたルークは、バンディ城へ頻繁に訪れるようになり、その度に私と遊んでくれるようになった。海水浴や、馬に乗って遠出してみたり、弓の練習も付き合ってくれた。いつも別れ際に泣く私に、ルークは頬にキスをしてくれた。

 ルークが17歳になり正式に騎士になってからはバンディ城へ来る機会が減り、1年ぐらい会えない期間もあったけど、それでも私は、ことある毎に手紙を書きルークへ送った。そんな私の拙い手紙に、ルークはいつも丁寧に返事を書いてくれた。そして、歳を重ねるごとにルークは逞しく成長し、カース城騎士団3番隊隊長にまで上りつめた。


 重い女と思われてしまうかもしれないから、絶対に言わないけど。

 この10年間ずっと、ルークに対する気持ちは変わることは無かった。


 15歳になった私は、もっとルークの近くに行くため”騎士”になってみようと考えた。


 でも、カース城やバンディ城では、私の”顔”が知れてる。それに絶対、反対される。それどころか、余計な配慮がなされ、御機嫌取りで()()に”騎士団に入隊”なんて茶番、かっこ悪すぎる! 


 私の顔が知られていない、悪魔が城主のアンフェール城かキャージュ城が候補になった。

 そこで丁度、騎士見習を募集していたアンフェール城へ、私はやってきた。

 王都アンフェール城の騎士見習試験に合格した実績があれば、カース城へ騎士見習として迎え入れてもらえる可能性だってある。ダメだったとしたら、仕方ないがバンディ城で我慢するけど……とにかく、ルークと同じ騎士になりたかった。


 そのアンフェール城で、ルークに似た赤い髪色の女の子を見つけた時、これは”運命”だと感じた。


 騎士見習の試験会場で見つけたその女の子は”ルーカス”と名乗り、男の子として参加していた。でも私には、顔立ちや体つきで、一瞬でその子が”女の子”だと分かった。正義感が強くて、男の子相手に立ち向かうその女の子は、ルークが言っていたイフリート殿下の妻の娘、”ルーシー”なのかもしれないと、私は直感した。赤ちゃんを預けた家が水害で流され、行方知れずになってしまったと残念がっていたが、”絶対、あの子は生きてる”とルークはずっと信じていた。


 その()らしき女の子が、今、私の目の前にいる!


 すぐにでも駆け寄り、声を掛けてみたいと考えたが、私は黒い角を持った悪魔族。種族や環境によっては忌み嫌われる存在だったりする。見たところ彼女は、誰にでも優しく接してくれそうに見えたけど、下手したら怖がられる可能性だってある。いきなり声をかけることは止め、暫く様子を見ることにした。


 剣技の決勝で召喚の魔法陣に吸いこまれてしまった女の子を、兄らしき弓の騎士が目を血走らせ、対戦相手を射殺すような勢いで脅し、その弟と、何人もの騎士に止められていた。


 確かあの子には、兄が二人と姉が一人いるはず。その兄の一人が、たぶんさっきの”弓の騎士”。止めに入ったのがその二番目の兄かな? それにしても、いったいどこへ彼女は消えてしまったのだろうか?


 あの15年前の戦火を掻い潜って生き延びた女の子だ、そうやすやすと死んだりはしない。


 2日後、私の予想通り女の子は無事だった。

 そして彼女の名前を知り、私は確信に至った。


 ”ルーシー”


 しかも彼女は、悪魔族の国王べリアスを守り、”聖なる光に選ばれし勇者”となっていた。

 ”聖なる光に選ばれし勇者”が、悪魔族の王を守るなんて……


 任命式の後、彼女が友人たちに頼まれ、歌っていた歌に私は涙した。

 今までどれだけ苦労し、辛い思いをしてきたのだろうか、そして”勇者”となり王国を守ろうと決意しているであろう歌の詩の素晴らしさに、更に感動し思わず抱きついてしまった。


「……勇者としての覚悟、聞かせてもらった」


 そして、これからは”私が、ルーシーを守る”。


 本当は、騎士見習の試験()()受けてみたいと、この城へやってきたが、私もここでルーシーと一緒に騎士見習として、彼女と過ごしてみたいとアスモデウスに頼んだ。



 それからの毎日は、楽しく驚きの連続だった。

 女子寮半壊事件に妖精王の誘拐騒ぎ、実験棟&訓練棟爆発事件……なんだか危なっかしくてルーシーから目が離せなかった。

 

 早くルークに会って教えてあげたい!


 ルーシーがイフリート殿下の探していた”娘”であるのなら、国王べリアスよりも悪魔族間での序列が上のイフリート殿下は、”カース城でルーシーを引き取る”と必ず言い出すに違いない。


 国王べリアスは、異常なほどルーシーを()()している。


 ルーシーがイフリート殿下の探していた”娘”であると知ったら、きっと国王べリアスはそれを殿下に知られる前に、なりふり構わずあらゆる手段を使いルーシーを我が物にしようとする筈。


 この件はしばらく伏せておき、頃合いをみてルークに知らせるつもりだった。


 アクアラグーンでの騎士見習合宿が始まりその休暇中、”縁談?があるからと、バンディ城へ戻るとイフリート殿下とルークが来ていた。


 縁談の相手はてっきり”ルーク”だと喜んでいたら、ルークはスタスタと部屋から出て行ってしまった。テーブルに、似顔絵や経歴が書かれた紙が広げられ、なぜかイフリート殿下が見守る中、「この中から選べ」とアスモデウスがぶっきら棒に言った。


 一縷の望みを懸け広げた書類を一つ一つ見てみたが、ルークの名前は無く知らない人ばかりで、好きとか嫌いとか考える事すら無駄に感じた。


 黙ってその紙を全て引きちぎり逃げようと廊下へ飛び出した私を、扉口に控えていたルークが捕まえ、こう言った。


「ホムラお嬢様、あなたの将来の為です。真剣にお考え下さい」

「なんで!? 」

「あなたには、幸せになって頂きたいからです」


 いつもとは違う他人行儀な言い方に、私はブチぎれた。


「私は、ルークが好きなの。令嬢になれば好き勝手出来ると思ってなったのに、なんでルークは……縁談を、申し込んでくれなかったの」


 ルークは一瞬嬉しそうな表情になったが、すぐにハッとし俯き。


「ホムラお嬢様、私はカース城の騎士。身分が……違います」


 ”身分!?”

 それだけで諦めるの?


「じゃあ令嬢なんて辞めて騎士になって、私がルークに縁談を申し込む」


「ええっ!」


「私の事、好きじゃないの!?」


「好きだよ。でも、もっと外の世界を見ていろいろな人と関わって、そして、それでも僕の事を好きでいてくれるなら」


「なによそれ」


 なんだか遠回しに振られているのかと思っていたら、ルークの顔が見る見るうちに真っ赤になっていった。


「きっ、君が他の男に目移りしたんじゃないかって、……心配で」


「え!?」


「アンフェール城には、優秀な騎士が沢山いるって聞くし、ホムラが戻ってこないのは、きっとその城で好きな奴を見つけたと思って」


 更に赤面し目に涙まで浮かべた。



「ばっかじゃないの!?」



 スカーレット先輩みたいなことを言ってしまった。

 呆れたけど、ホッとした。

 いつものルークだ。


「心配だったんだ。……君が、ずっと戻ってこないから。だから今日は、本当は最後のつもりで……」


 直立し両手を握りしめ、私を見つめるルークの白い頬に涙が伝った。


「なによ最後って……いい加減に「ホムラ!」


 ルークが私を抱きしめ吐息が耳にかかった。

 彼の胸が深呼吸するたび、短い赤い髪が頬をくすぐった。


「ホムラ……結婚してくれ」


+++


 それなのに。

 ルーシーにキスするなんて。

 よりによって、親友のルーシーに……。


 あの涙のプロポーズは何だったの!?


 ザザザザ……ザザザザ……ザザザザ……

 

 「大っ嫌い!」


 ザザザザ……ザザザザ……ザザザザ……

 ザザザザ……ザザザザ……ザザザザ……

 

 ルークは追ってこない。


 ザザザザ……ザザザザ……ザザザザ……ザザザザ……ザザザザ……


 血が出てた。


 ザザザザ……ザザザザ……ザザザザ……


 思い切り、殴ってしまった。

 私の事なんて、もうきっと、嫌いになってる。



 ザザザザ……ザザザザ……ザザザザ……ザザザザ……

 ザザザザ……ザザザザ……

 

 きっと、ルークに嫌われた。

 私なんて、ここから、いなくなってしまいたい……


 ザザザザ……ザザザザ……ザザザザ……ザザザザ……ザザザザ…

 ザザザザ……ザザザザ……

 

 

 +++++

お付き合いいただきありがとうございますm(__)m

ブックマーク登録感謝です!


※2021/11/2訂正しました。

※2023/2/15訂正しました。

 王女→令嬢に変更

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ