6話 封印は、封印されたものにしかわからない感覚がある。
【騎士見習試験・べリアス視点】
心待ちにしていた剣術のトーナメント戦が始まった。
ルール説明のアナウンスが流れた。
“……先に木刀を相手の身体に当てたら勝利。首から上は反則とする。”
怖いのは、“木刀を”のくだりである。
蹴りやパンチを食らっても負けにはならず、最悪な場合、木刀が当たるまでいたぶられる可能性もある。そんなイカレタ性格の奴を騎士見習にするとは思えないが、実際過去にあったらしい。
私のルーカスは、大丈夫だろうか……
45と描かれた小さな背中を見つめた。
だが、ルーカスは憂慮を感じさせることもなく、一瞬のうちに対戦者を打ち負かし勝ち進んでいった。
ルーカスの戦い方は、向かってきた相手を、舞を舞うかのようにひらひらと攻撃をかわし、一振りで相手の思いもよらない箇所に木刀を当てる。まさに奇跡のように美しい剣技だ(←べリアス目線)。
と、尊い……
ルーカスの一挙手一投足から目が離せず、ここ数百年ぶりの、なんとも幸福で充実した時を過ごした。
この時間がまだまだ続くとは!
準決勝前に休憩が入ると、見慣れない衛兵が私にメモを渡してきた。
“封印の地の極秘情報について報告あり。迎賓の間にいらしてください”
私が15年前まで封印されていた場所か。
スチュワートの文字ではないが、封印の地の極秘情報とは……気になる。
休憩は10分。
話を聞くだけなら、聞いてさっさと終わらせよう。
私は席を立ち、足早に歩を進めた。
迎賓の間の扉の前に到着するも、ドアの前にいるはずの衛兵も見当たらない。城をあげての騎士見習試験の観戦の為かと、仕方なく自身で扉を開け中に入ると……
「ううっ!」
異様な空気に力が抜け眩暈がし、強い力で前方へ引っ張られた。
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気が付くと、”迎賓の間”の中央の玉座に、なにやら見えない力で縛り付けられ、目の前にはスチュワートが、光る縄のようなモノで縛られた状態で倒れていた。
「この国を返してもらおう!」
”迎賓の間”で待ち伏せしていたらしい、白い髭を蓄えた大柄な初老 (?)の男が鈍く光る剣を構えた。
その横には、白髪に近い金髪を編み込んだ品の良さそうな女が、なにやらぶつぶつと独り言を呟き、弓を構えると、その矢が眩しく輝きだした。
これって、まさか!?
「聖なる光よ、この悪しきものの動きを止めよ」
矢を天井に放つと、部屋が、パァァァァァーーーっと光に包まれた。
魔力が使えぬ!?
これは、封印の際の”聖なる光”か!?
「待て! 話し合いで決めようではないか」
「悪魔の話に耳は貸さぬ」(初老の男)
「今よ!」(品の良さそうな女)
男が鈍く光る剣を振りかざし、切りかかってきた。
「やめろ~~~~!!!」(べリアス)
【騎士見習試験・ルーシー(ルーカス)視点】
剣術、決勝戦。
ルーカスVSアイザック(33番)
キラキラと見るからに見目麗しい天使族の青年が私の相手だった。
うぅっ……眩しいっ!
容姿は負けた。
まさか奴が、決勝まで勝ち上がってくるとは……
準決勝で彼の試合を見ていたが、私と同じくひらりと攻撃をかわし相手に一撃を加える戦法は、対戦相手としてはやりづらい。
非常にやりづらい。
案の定、お互い相手の出方を待ち、試合が始まっても私たちは動けずにいた。
先に動いたのは、アイザックの方だった。
右にふらりと傾いたかと思うと、私の身体の中心にむかって間合いを一気に詰めてきた。
チャンス! とばかりに、
ス……
と、木刀をかわしながら、それ(木刀)をはたき落とし、アイザックの背中へ回り込み、剣を振り上げ“やったぁぁ!”と思った途端、右手中指の指輪が赤く鋭い輝きを放った。
「え?」
キュイー――ン
異様な音と共に真っ赤な魔法陣が足元に広がり、私はそのまま魔法陣の赤い光の中に吸い込まれていった。
「えええっ!?」(アイザック)
武場は騒然となった。
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【迎賓の間・べリアス視点】
「……」
以前の記憶では、光る剣で切られ、一瞬のうちに封印されたはずだったが……
今回は、何度か光る剣で切りつけられるも、剣自体、輝きも鈍く切れ味が全くない。幸いなことに、いまだに致命傷は与えられてはいない。
……が、それも時間の問題。
いずれにせよ、じわじわと命を削られている事に違いはなかった。
目の前が霞み呼吸も苦しい……
”封印される”覚悟をした時であった。
右手中指の召喚リングが赤く輝きだし、呼ぶつもりのなかった、あの愛しい”ルーカス”が私の前に現れた。
私を見つめる、深い青い瞳が驚きで見開かれた。
ああ、だめだ殺されてしまう。
大事なルーカスが……。
「あ、ええっ、おっさん!? じゃなくて、べリアスさん!?」
木刀を構え、すっとんきょうな声で私を見て叫んだ。
だろうな、こんな状況。
もしかしたら、悪魔と一緒に殺されるかもしれない状態なのだから。
なのにルーカスは、私と、私と封印しに来た二人を交互に見て、不思議そうな顔で言った。
「今日って、ハロウィン?」
「ハロ……ウィ?……」(べリアス)
ご覧いただきありがとうございます。
※2021/6/17 行間とか気になる部分直しました。
※2021/9/14 気になる箇所訂正しました。