59話 クックックッ、”めんご”は、”ごめん”という意味だ!
【バンディ城血の大広間・オスカー視点】
控の間へ戻る陛下達を出入り口まで護衛していると、俺達3人の近衛騎士はアスモデウス殿下に呼び止められた。
「言いづれぇんだが、少し話がある」その直後、扉から出た陛下とスチュワート様の声が聞こえた。
すぐさま駆け付けようとした俺たちを、アスモデウス殿下の騎士たちが引きとめた。
「イフリートからの頼みでな……ルーシーの本心を知りたいと」
「ルーシーの!?」
「信じてくれ。悪いようにはせん」
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その最中、不意に聞こえた”勇者の剣”の声に俺は青ざめた。
『今、この場でサクッと全員倒しちゃう?』
ルーが剣を召喚し、誰かを倒す!? しかも全員倒す話をしている……お願いだ! ルーシー、踏みとどまってくれ!
『おけ』
”おけ”とは一体……事態の状況が呑み込めないまま俺は呆然と立ち尽くしていた。
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急遽、会場の使用人たちが慌ただしく動きはじめた。血の大広間のテーブルが片づけられ、広く空間が開けられた。その会場中央脇に用意された椅子に陛下と、イフリート殿下が腰を下ろした。スチュワート様とサミュエルさんがその後ろに控えているのが見えた。そこに、練習用の木刀を持った黒い甲冑の騎士が広間の闇から現れた。会場がどよめいた。そしてそのすぐ後を、近衛騎士の上着を脱ぎ、髪を結わえ白い半そでブラウス姿のルーシーが木刀を持ち思いつめた表情で歩いてきた。
俺の姿を見つけると、ゆっくりと俺の方へやってきて背負っていた”勇者の剣”を俺に預けた。
「兄さん、お願い預かってて」
「ルー、大丈夫か」
ルーシーは表情を変えずに俺の問いかけに頷き背を向けた。
「大丈夫、すぐに片づけるから」
見たことも無いルーシーの顔に、俺はなんて声をかけていいのか分からなかった。ただ、黒い騎士の前へと歩み出る小さな背中を見守るだけだった。
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【バンディ城血の大広間・ルーシー視点】
急遽、”血の大広間”に用意された武場には、四隅に篝火のような魔力の照明が灯され、中央に敷かれたロイヤルブルーの絨毯のランウェイは、さながらフェンシングの試合で使われるピスト(細長い台)のようだった。
騒然とする会場に入ってすぐにオスカー兄さんを見つけ、勇者の剣を預けた。私を心配してくれる兄さんのグレーの眼差しに頷き、背を向けた。
「大丈夫、すぐに片づけるから」
会場中央に座るイフリート殿下を睨みつけた。そして、その隣に嫌そうな顔をで座る国王べリアス。その後ろにスチュワート様とサミュエル副隊長が立っているのが目に入り安堵した。よかった……陛下の傷も、スチュワート様の投げ飛ばされた怪我もきっともう治癒が済んでいる。陛下は私と目が合うと顔をこちらに向け、厳しい表情で頷いた。
「只今より、ノール帝国親善交流の余興として、勇者ルーシー様とカース城第3部隊フォルネオス隊長の手合わせを行う。両者、構え!」
怒り心頭の私は、呼吸を落ち着かせ木刀を構え相手を睨みつけた。
同じく木刀を構えた黒い甲冑騎士フォルネオス隊長の目が赤く光った。
全身黒づくめのジュード団長補佐と姿が被る。
落ち着け、まず相手の力量を図りそれから挑まないと……。
「はじめ!」
タッ……
私に考えさせる時間を与えさせないつもりなのか、フォルネオス隊長が一気に間合いを詰め切りかかってきた。こんな小娘、さっさと片を付けようとしているのか、太刀筋が簡単に見え、甘く見られたものだと……更に怒りが込み上げた。
カッ……
一撃をかわしフォルネオス隊長の手元を掬い、私の得意技”木刀はたき上げ”が決まった!
すかさず、くるくると回り落ちてくる剣をジャンプして奪い取り、着地し、振り向きざまにクロスしてその甲冑の首元に差し込み、振り上げた。
ヒュン!
黒い兜が宙に飛び、ガランガラン……と音を立てて転がった。
うおぉぉぉぉぉ!!!!!
キャァーーーーっ!!!!
うおぉぉぉぉぉ!!!!!
悲鳴を含んだ野太い歓声があがった。
「勝者、ルーシー」
審判の声に一礼し、兜を拾い立ち尽くしているフォルネオス隊長へ歩み寄った。
秒殺されたショックだろうか、彼は赤い瞳を見開き、呆然と立ち尽くしていた。
兜の下は、顔だけ出るタイプの黒い金属製の保護用のニット帽のようなものを身に着けていて、そこから見えた顔はまだ若く、オスカー兄さんよりも年齢は下かなと感じた。それで隊長とは……
兜を返そうとフォルネオス隊長を睨みつけた。
一言も喋る気も、笑顔を向ける気も私は無い、あとはイフリート殿下に”謝罪”してもらうだけだ。
「ルーシー、会いたかった」
フォルネオス隊長が赤い瞳を潤ませて、私を何とも言えない表情で見つめていた。
目を合わせちゃダメだ、悪魔は幻術を使う。騙されてしまう。
「僕だよ」
黒い保護用のニット帽を脱ぎ、私と同じ真っ赤な髪を露わにし、ペタンコになっていた短髪をわさわさ掻いた。
「え!?」
何これ、実は生き別れた”兄さん”的な何か?
でも瞳の色は違うし、顔立ちもなんか違うけど……。
混乱している私にフォルネオス隊長は、涙を浮かべ残念そうにフッと微笑んだ。
「ムリも無いか。まだ赤ちゃんだったもんな」
タッ……と近づき、片手で私の頬をギュッと摘まみ、顔を近づけた。
チュッ!
遅れて頬に感触がした。
「っ……いやっ!」
ゴン!
持っていた兜を彼の顎にぶつけ、駆け付けた兄さんの背へ隠れた。
兄さんを見て、フォルネオス隊長は涙を拭いながら嬉しそうに笑った。
「やあ、君、僕の事覚えてるよね!」
「知るか!?」
オスカー兄さんが凄い形相で睨みつけた。その目の前を黒い影が横切った。
バチン!
「このキス魔! 最低!」
泣きながら黒いドレス姿のホムラがフォルネオス隊長を引っ叩いた。
「ホムラ、酷いよ」
頬を押さえ言い返すフォルネオス隊長に、ホムラは瞳を光らせ声をあげた。
「酷いのはどっちよ! ルークなんて大っ嫌い!」
バキィ!
今度はグーで殴った。
殴られたフォルネオス隊長は倒れ込み、痛そうにうめき声をあげた。口元から流血している。
「ゔぅぅ……ホムラ、その違うんだルーシーは知り合いの」
ホムラのパンチによろめきながら立ちあがり、弁解するも、泣きじゃくるホムラには全く聞こえていないようだった。
「私との約束……グスッ……ルークなんて……あんたなんて……もう知らない!」
タタッ……
ホムラが駆け出した。
「ホムラっ!」
ルーク……って、まさかホムラが言ってた初恋の人!?
待って待って待って、どういうこと!?
「静かにしろーーーー!」
イフリート殿下の太い怒号に会場は静まり返った。
「まず勇者ルーシー。見事だった。そして、ルーク・フォルネオス。今よりお前はこのバンディ城アスモデウスの部下となることを命じる。さっさとホムラを追え!」
「はっ!」
イフリート殿下に対し不満とか特にそういった気持ちが微塵もないのかフォルネオス隊長は、笑顔で敬礼すると血の大広間から足早に出て行った。
どうして!? アスモデウス殿下の部下に?
”ホムラを追え”!?
……何となくだけど、裏でなんらかの策略、もしくは取引が行われていて私たちはそれに巻き込まれた、という構図がうっすら見えてきた。
嬉しそうに出て行くフォルネオス隊長を見送るイフリート殿下がニヤリと笑った。そして、私に向き直り張りのある太い声で、
「貴様の主に対する非礼を詫びよう。済まなかった、べリアス、めんご」
国王べリアスの方を向き、顔の前に右手の掌を立てた。
軽っ!
陛下をボッコボコにして ”めんご”だけって無い!
「ちゃんと、謝って下さい!」
思わず叫んだ私を、ギロリとイフリート殿下が見下ろした。
「ルー、逆らうな」小声でオスカー兄さんが忠告したがもう遅い。
イフリート殿下がニヤリと笑いこう言い放った。
「”めんご”は、”ごめん”という意味だ」
この人は天然なのか?
「主に、友人同士で使う言葉だ」
と、イフリート殿下は付け加えた。
”友人”をボコボコにするの?
いろいろ突っ込みたい衝動を抑え答えた。
「……知ってます」
「そうか、じゃあ何が不服なのだ」
だから、”軽すぎるから”そこのところを言いたいんだけど。
言ったところで通じるかどうか不安になってきた、それに、陛下は首を振り”もういいから刺激するな”的なリアクションを取っていて、スチュワート様も”早く切り上げて戻って来い”と言うような表情でこちらに小さく手招きしている。サミュエル副隊長に至っては、口に手を当て気の毒そうにこちらを見つめている。言葉にすると、”あー、やっちまったな”って感じだ。
「……もういいです。でも、今度同じ事したら、私があなたを封印します」
イフリート殿下の燃え盛るように輝く赤い瞳を睨みつけた。
シーン……
会場内は静まり返り、オスカー兄さんも陛下も……この会場内にいる者達全てが凍り付いたように動きが止まった。
封印は……まずかったかな。
嫌な汗が額から流れた。
「クックックックックッ、ハハハハハハ……威勢がいいな、さすがはルイーズの娘だ!」
”ルイーズ”?
そして、続けて信じられないことを言いだした。
「ルーシー、お前は私の娘だ」
「ええええっ!?」(一同)
「……みたいなものだ」
付け加えた。
「えーーーっ!?」(一同)
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※2021/11/2 訂正しました。




