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58話 血の大広間

 ※※晩餐会直前※※

【バンディ城”血の大広間”・ルーシー視点】


 王国議会での紹介が1分という短さで終えた私は、結局、誰が誰なのか分からない状態のまま、バンディ城”血の大広間”で行われる晩餐会で挨拶回りをすることに不安を覚えていた。


 だが一歩、足を踏み入れた会場の中の様子に私は驚きを隠せなかった。


 この”血の大広間”が凄い! 


 何が凄いかって、古代ギリシャの権威をシンボライズしたかのような、見事な装飾が施された半円アーチの白い柱が正面に立ち並び、両側に優雅なイオニア式の柱の2重回廊が組み合わさった、ビクトリア様式に見られる”グリークリバイバル”のような造り。柱の一つ一つには、等間隔に篝火のような炎が灯され、夜の”血の大広間”を仄かに照らしている。正面中央の一段高い場所に上座、そこから、王や王子が歩くランウェイとして、金色の縁取りのロイヤルブルーの長い絨毯が入り口まで一直線に敷かれ、そのランウェイの両脇に沢山の料理と灯りや花で飾られた長方形のテーブルがずらりとシンメトリーになるよう整然と並べられ、篝火の陰影と様式美が織りなす晩餐会の会場は厳かな雰囲気に包まれていた。

 優雅な管弦楽の演奏が始まり、国王べリアスと、ノール帝国のアレクセイ王子が入場すると、会場は更に華やかな輝きを増したように感じられた。眩い……。


 陛下が嫌がっていた”イフリート殿下”とは? ホムラの初恋の相手も気になる……会場を見渡そうとしたが、いかんせんこちらに向けられる視線の多さに思わず目を瞑ってしまった。


 どうしよう、ちゃんと出来るかな……。


 乾杯し、場が少し砕けたところで、思わず手渡されたグラスに入った桃のお酒を飲んでしまっていた。

 スチュワート様の唖然とした表情。オスカー兄さんの慌て様。アレクセイ王子の笑顔……幸い、はじめに挨拶に向かう予定だったアレクセイ王子のおかげで事なきを得たが、問題はここかららしい。


 +

 +

 +


 私は厳しい顔のスチュワート様と国王べリアスの間に挟まれ。そのすぐ後ろには、オスカー兄さんを含む3人のハンサム近衛騎士という布陣で、会場右奥の黒い甲冑スタイルの兵に囲まれた一団に歩を進めていた。


 王国北東部に位置するカース城城主、イフリート殿下である。


 国王べリアスの挨拶に道を開けた騎士たちの先には、炎の悪魔イフリート殿下が腕を組み大きな赤い椅子に深く腰掛けていた。熱を帯びたような赤黒い上半身の裸体に黒いマント。スキンヘッドからは二本の黒い長い角が伸びている。

 

 アスモデウス殿下は”悪魔”って感じだが、こっちはもう”THE・魔王”! 


 私はスチュワート様から言われた通り最敬礼し挨拶を述べ。そして立ち上がり、肩ぐらいを見つめ……(正直怖くて見られない)……陛下と殿下が会話するのを黙って聞いていた。淡々と飛び交う社交辞令……(怖い)。


 イフリート殿下から何かを聞かれることも無く、あっさり挨拶は終わった。

 その足で私たちは、南西の城を治めるバルべリス殿下の元へ向かった。



「バルべリス殿下」


 スチュワート様が声をかけた相手は、色白でくるんと曲がった二本の黒い角に、目まで隠れるもっさりとした黒いキノコヘアの小柄な悪魔で、会場の壁際で本を片手に骨付き肉を頬張っていた。


 あれ、なんか可愛らしい悪魔だ。


 傍らには、褐色の肌に濃い青い短髪のスチュワート様に似た感じの側近? のような方が立ち私たちに気が付くと胸に手を当て深く敬礼した。


 練習通り跪き最敬礼し立ち上がり顔を上げると、バルべりス殿下はこちらに一歩踏み出し、骨付き肉をポイと捨て、その手で私の顎をクイッと上げた。 ヌルっ……とお肉のソースが顎に付いた。



 ……え!? どうすればいいの!?



「ふぅ~~~ん、かわいい子だね」


 前髪の奥から覗く赤い瞳がギラリと光り、真っ黒な舌を出し舌なめずりをした。


 ひぃぃぃぃ……。


 背中の勇者の剣がパチパチ火花を散らした。


「殿下、その辺で……」


 側近? の穏やかな声に、バルべリス殿下はすぐに顎から手を放し「じゃあね」と近くのテーブルに本を読みながらスタスタ行ってしまった。スチュワート様に顔を向けると、懐から取り出したナフキンで私の顎に付いたお肉のソースを拭ってくれた。


「あの、さっきの場合はどうすれば良かったのでしょうか?」


「……あの方は、ああいうお方ですので、お気になさらず」




 やや駆け足でアスモデウス殿下と黒のドレス姿のホムラへ挨拶を済ませ。

 次に、天使族族(おさ)ミカエル・キング様のところへ向かった。


 それにしても、白い! 

 全員が(アンフェール城神殿騎士の)ユリウスさんかと思われるほど()()イケメン天使集団に、ここは天国か? と声に出そうな自分を必死で抑えた。


 ミカエル様は、常に風になびいているかのような金髪ショートヘアに、パッチリとした金色の瞳。細身の身体に、発光しているかのような白く美しい翼が印象的だった。


 練習通り挨拶を済ませ社交辞令が飛び交い、そして「ごきげんよう」とその場を後にしようとしたその時、


「待ちくたびれたぞ」


 目の覚めるようなエメラルドグリーンの長い美しい髪をかき上げ、ローマ時代の彫刻のような顔立ち&肉体美のオジサマが私たちの前に立ちはだかった。上半身裸で腰には赤い布を巻き、深い緑の生地に金色の刺繍が施されたマントを羽織っている。


「これは妖精王様、お待たせいたしまして申し訳ございません」


 スチュワート様の言葉に、二度見してしまった。

 この人が、()()()!?


 すぐさま練習通り最敬礼し挨拶を済ませ立ち上がると、早速、超難問がぶつけられた。



「婚礼はいつの予定だ。子はいつできる?」



 !?婚礼……子ども……。



 イム副隊長との”婚約騒動”から約1カ月。

 結婚とか子供とか、人生の遥か彼方の地平線で起るような出来事を聞かれても、全く想像もつかない。逆にこっちが聞きたい、どの段階をどうすっ飛ばせば短期間(1カ月)でそうなるのか。


 スチュワート様の方を向き相談しようとすると、


「ルーシー、お前に聞いているのだ」


 と凄みを帯びた表情で私に問いただした。


「恐れながら申し訳ございません。そのまだ……」


 すると、妖精王様は悩ましげな表情で髪を指でクルクル触りながら、ニヤリと笑った。


「ん~~~じゃあ、この私が決めてやろうか?」


「え!? ……いえ、その」


「我が申し出を断るのか?」


「いいえ、そのようなつもりはございません。ただ、その……」


 考えるんだ、当たり障りのない、相手を傷つけない、それでいて納得してもらえる()()()を。


「なんだ?」


 妖精王様は苛立ち、私をいぶかし気に見つめた。


 マズい。早く答えないと……。

 転生前の世界で読んだ漫画・アニメの記憶、少ない恋愛経験を総動員して、必死に妄想に妄想を重ねた結果。




「その……まだ、ふ……二人だけの時間を楽しみたくて……」




 ーーーーうわぁぁぁぁぁ。なにそのリア充みたいな発言。

 自分で言ってしまった言葉の恥ずかしさで、思わず顔を覆ってしまった。


 嘘なのに。1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「……っ! す、済まない。私としたことが!?」


 ハッとしたように頬を染めて気まずそうに顔を逸らした妖精王様の姿に、その場に崩れ落ちそうなほどの罪悪感で一杯になった。

 後ろに控えているオスカー兄さんの顔を見ることが出来ない。


 その隙に、陛下は妖精王様とさっさと社交辞令を交わし挨拶を終えた。



 そして私たちは、次の挨拶相手イナリ城のムラサキ様の元へ向かった。


 そこには、スラリとした長身に真っ赤なノースリーブのドレープネックのドレスを身に着け、長い黒髪の美しい女性が佇んでいた。


 金色の三日月のイヤリングがキラリと輝き、こちらを見つめた瞳の色は綺麗な紫色だった。

 ”ムラサキ”という名前は、彼女のこの瞳の色から名付けられたものなのだろうか。


 彼女の両脇に立つお付きの人は学生服を豪華に装飾したような衣装を身に着け、一人は丸刈りの凛々しい顔立ちの男前、もう一人は長い白髪を一つに結わえた40代ぐらいの剣術の師範のようなオジサマ。そのオジサマが私を、ギロリと睨みつけた。恐らく、自分の主への挨拶の順番が最後の方だったのが気に食わないのだろうか? 


 通常通り最敬礼し挨拶して立ち上がると、ムラサキ様が私を紫色の瞳で見つめ質問してきた。


「こんなに可愛らしいのに、剣術の実力は相当なものと伺っている。どのような訓練をなさっておるのだ?」


 スチュワート様の方を見ると、自由に答えていいのかニッコリと頷いた。


「滅相もありません。私は決してムラサキ様が考えられているような腕前ではございません。訓練も基礎訓練と、手合わせでのみです」


「それでいて謙虚か。ぜひ、手合わせ願いたいものだ」


 ムラサキ様は、ため息をつき握手を求め満面の笑みを向けた。

 てっきり社交辞令と判断し私は手を握り返事をした。


「はい、喜んで」


 目を輝かせたムラサキ様は嬉しそうに微笑んだ。


「挨拶は私で最後だろ! じゃあ今から、行こう! いいだろカハク」


「ええっ!?」

「今はいけませぬ。ムラサキ様!?」


 カハクと呼ばれた白髪のオジサマが彼女を制すると、ムラサキ様は”ちっ”と舌打ちをした。


「冗談だって。それじゃあ勇者ルーシー、後で必ず私と手合わせしてくれ。約束だ!」


 と、私を抱きしめようとして勇者の剣に弾かれた。


「うわっ、なによこの剣!」


 なんだかどこかで見た事のある光景に和んでしまった。



 +++


 何事もなく一通り挨拶を終え、控室へ戻ろうと会場の血の大広間から廊下へ出ると……。


 黒い甲冑集団に私達3人はあっという間に取り囲まれてしまった。しかも、後にいた筈のオスカー兄さん含む近衛騎士3人の姿が見えない。


 いつの間に、引き離された!?



「何事です!?」



 臨戦態勢に入る国王べリアスを制止し、スチュワート様が声をあげた。

 すると、一人の騎士が最敬礼し大声で叫んだ。


「恐れ入ります! イフリート殿下より、余興として”勇者ルーシー様とわが国の精鋭フォルネオス隊長との手合わせ”をご所望しております!」


「なんだと!?」


 陛下が目を光らせ牙を剥いた。



 ズ……ズズズズズズ


 巨大な黒い影が床から立ち上がり、イフリート殿下()()()が私たちの目の前に立ちはだかった。熱く黒い重い空気に押しつぶされそうになる。



「勇者ルーシー、お……お前の事は、ジュードから聞いている」



 ジュード……ジュード…………ジュード団長補佐!? どういう事!?


 とにかくスチュワート様の判断を仰ごうと視線を向けると、怖い顔で首を横に振った。

 ”ダメ”って事だよね。

 うん、断ろう!



「お手合わせのお申し出、大変光栄に存じます。ですが今はどうかご容赦ください!」


 最敬礼し、とにかく丁寧に断った。 



「は……!? やるのか、やらねぇのか、どっちだ!?」


 イフリート殿下が低い声でまた私に聞いた。

 いや、さっき丁寧にお断りしたんだけど……


 ジュード団長補佐の名前が出た時点で、なんだか薄々勘づいていたけど……これって、もしかして”()()”一択の流れじゃない!?


 やだやだ、()()、やりたくない!



「や、やりません!」


 今度はハッキリと断った。すると、


「はぁぁ!? さっき、そこのムラサキと話していただろう、()()()()()()()と。我が部下では不服か!」



 聞いてたの!? めっちゃ地獄耳!

 スチュワート様は、険しい顔で首を横に振っている。



「誠に申し訳ございませんが……できません」



 ボカッ! 


 イフリート殿下が何の前触れもなく、私の隣に居る国王べリアスをぶん殴った。



「痛てぇっ……」(べリアス)


「ええっ!?」(ルーシー)


「これでも断る気か?」(イフリート)


 イフリート殿下が黒い手袋を嵌めた拳を振り上げた。

 

「そんな……やめて下さい!」


 イフリート殿下を止めようと、べリアスを庇うように腕を広げると、


「ルーシー、これぐらい……平気だ。だから、手合わせはダメだ。奴にのせられるな」


 べリアスは跪き頬を押さえ口から血を流し、もう一方の手で私の腕を掴み引き留めた。


「でも……」



 陛下がもの凄くイフリート殿下を嫌がっていた意味がやっと分かった。

 この人(イフリート)は、たとえ自らが選んだ王でも自分の意向に背いたものには容赦がない人だと。陛下の美しい顔が歪み、涙を浮かべた赤い瞳は恐怖で震えている。



 ドカッ!!!


「うっ……」


 今度は蹴りが陛下の腹部に当たり、陛下はお腹を押さえ蹲った。


「べリアス!」(ルーシー)

「陛下!」(スチュワート)

「だ……い……じょうぶだ。ダメだ。ルーシー」(べリアス)


 蹲りながらもべリアスは私の手を引き寄せ、イフリート殿下から私を庇うように私の背中に覆いかぶさった。勇者の剣(シャルル)がバチバチと火花を散らした。


「殿下、お願いです。これ以上は……」


 私たちの前に立ちふさがってくれたスチュワート様は、殿下に胸倉をつかまれ黒い甲冑部隊の方へ投げ飛ばされた。



「ごちゃごちゃと……勇者ルーシー、そいつから離れろ!」



 イフリート殿下が、真っ赤に燃えるような目で私たちを見降ろした。



 ドカッ!


「うっ……」


 私から引き剥がすように、国王べリアスを蹴り飛ばした。


「ダ……ダメだ、……ルーシー……これは罠だ」

「べリアス!」


 蹴り飛ばされた陛下に駆け寄ろうとした私にイフリート殿下が言った。


「おい。てめえの主がぶっ飛ばされて、黙ってんのか? まさか、その男の色香に惑わされ協力しているのか、()()()!」



「は!? 何言ってんの!?」




 勇者の剣(シャルル)が右手に自動召喚され、鋭い青い輝きを放った。




 もう、許せない!



 一生懸命この国の為に働いているべリアスを簡単に傷つけ、自分の我儘を通そうとするなんて。

 しかも、私がべリアスの色仕掛けに引っかかって”協力してる”って考えてるなんて! 酷い!



 絶対に許さない!




 『ルーシー、どうする?』



「……ダメだ、ルーシー! ダメだ」


 床に這いつくばったべリアスが、うめき声をあげながら力なく叫んでいる。



 

 ……深呼吸をした。


 シャルル、ありがとう。


『今、この場でサクッと全員倒しちゃう?』


 それは出来ない。この国が大変なことになっちゃう。

 なんか、シャルルの声が聞こえてホッとしたの。もう少し自分で頑張ってみる。だから、もしものことがあったらお願い。


 『おけ』


 




「わかった。手合わせするから。その騎士に私が勝ったら。べリアスに謝って!」


 イフリート殿下を睨み、勇者の剣(シャルル)を突き付けた。


「クックックックッ……いいだろう。じゃあこっちが勝ったら、お前を俺の部下にする。それで良いな」


「はい」


「クックックックッ……」


 イフリート殿下は、満足気に笑い私たちを見下ろした。




「ルーシー、どうして……、ダメだ」(べリアス)


 勇者の剣(シャルル)を鞘に納め振り向き、悲痛な表情の陛下の手を取った。




「べリアス、ここからは、(勇者)の仕事です」



 +++++

お付き合いいただきありがとうございますm(__)m

ブクマ★いただけましたら励みになります!応援よろしくお願いしますm(__)m


※2021/6/3 脱字訂正とミカエル様の名前間違えてました。

※2021/11/2 訂正しました。

※2021/11/24 訂正しました!

※2023/2/6 訂正しました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 投稿お疲れ様ですm(_ _)m ルーシーが勇者の務めを果たそうと努力する姿がカッコいいです! 「ここからは、私の仕事です」と宣言した所が特によかったです。
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