54話 無尽蔵にとめどなく与えられる優しさ
【ホテルロイヤルラグーン・ルーシー視点】
※王暦1082年5月17日。深夜。
また、あの時の夢を見ていた。
前世で亡くなる1週間前から始まる、卒業旅行の夢。
「ドイツロマンティック街道と華の都パリ」
ノイシュバンシュタイン城が”氷の魔女の城”に似ていることを知り、改めて夢の中でその壮麗な城を観光した。
この城が、今いる世界の”恐怖の象徴”になっているなんて……。
雪が薄く積ったノイシュバンシュタイン城は、相変わらず美しかった。
「ごめんなさい」
涙は止まらず、頭が割れそうに痛い。
夢の中の旅は、何一つ変わることなく淡々と進み、旅の終着点パリに到着していた。
曇り空のパリは寒く、泣いても泣いても涙が止まらなかった。どんなに叫んでも喚いても変わらない旅が走馬灯のように過ぎていくだけだった。
”ルーシー”
声が聞こえ、温かな風が頬に当たった。
柔かな陽射しを感じて空を見上げると、綺麗な青空が目に飛び込んだ。
”ルーシー……大丈夫だ……ルーシー”
サミュエル副隊長?
---キキ――――っ!!!
スリップしてきた車が私にぶつかってきた!
「うわぁぁっ!!!」
ゴン!
「……っ……ぅぅ」
ベッドの横で悶絶する声と、サラリと私の顔にかかった金髪、傷だらけの腕、そして温かい手の感触に懐かしさが込み上げた。
「痛っ―――! あれ? サミュエル副隊長……なんで」
状況が分らなかった。ここはどこだろう?
「……っ、とんでもねぇ石頭だな、大丈夫か?」
相当痛かったのか、アクアブルーの瞳に涙が浮べながら笑ってくれた。
「サミュエル副隊長こそ大丈夫ですか? ごめんなさい」
「俺は平気だ、痛むか?」
「う、うん。少し痛いけど」
「よし、見せろ」
サミュエル副隊長は、笑顔で私の額に手を当てた。
私は、何度この人の優しさに救われているのだろうか……それに比べて私は、氷の城を出現させ人々を恐怖の底へ叩き落とすような真似をしてしまった。あんなに取り乱すスチュワート様や、恐怖で動けなくなったエスタ様……きっと、もっと多くの人が同じように、言い知れぬ恐怖と悲しみに襲われたに違いない。
王子を驚かせてやろうなんて、考えなきゃよかった。
本当に私は勇者として、何をやっているのだろうか。
そもそも、勇者なんて私には向いてない、もう勇者なんて辞めたい!
(小声)「あの水色の城、ルーシーが考えたのか?」
サミュエル副隊長が顔を近づけ小声で聞いてきた。 私が頷くと、サミュエル副隊長は笑顔になり瞳を輝かせた。
(小声)「凄いじゃねぇか、俺はいいと思った。よく頑張ったな、偉い偉い」
温かい手で、額をそっと撫でて笑ってくれた。
無尽蔵にとめどなく与えられる優しさに、涙が溢れた。
やってしまった事は変わらない、国王べリアスに謝らないと。
多分、一番の被害を被ったのはこの国。ノール帝国の軍事同盟も白紙に戻されるかもしれない。
涙を拭い、サミュエル副隊長にお礼を言い、陛下に土下座謝罪した。
なのに陛下は、むしろ褒めて下さりあっさり許してくれたが、これからはもっと慎重に行動しなければと胸に誓った。
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そのあと、土下座はやりすぎだとサミュエル副隊長に注意された。
前に、サミュエル副隊長だってしてたよね! って反論しようとしていたら、”特に女の子はそんなことするな”って優しく言うので言い返せなかった。そして、急遽サミュエル副隊長も明日バンディ城へ同行することになり、荷物を取りに行くため早々に帰って行った。
オスカー兄さんは、同じ部屋で報告書や雑事を片づけ、ふかふかの絨毯の敷かれた床に布を敷き寝そべった。部屋にはソファーもあるが、こっちの方が落ち着くらしい。こうして同じ部屋で眠りにつくのは久しぶりで、うるさい兄の寝息に苦笑いするのだった。
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様々な諸事情と、慣れないベッドのせいで眠りが浅く何度か目を覚ました。
明け方ベランダの方から物音が聞こえ、しばらくすると人の気配がし、ベランダのドアの取っ手が静かに回った瞬間! 部屋の隅で眠っていた兄が凄い速さで飛び起き、ベランダのドアを引き、何者かを一瞬で羽交い絞めにしていた。
「うっ……放せ」
聞き覚えのある声に私は焦って叫んだ。
「ホムラ!? 兄さん、それホムラだから!」
「あ、ええっ!?」
兄さんがガッチリと絞めつけていた腕から解放すると、黒いフードに猫耳の付いたパジャマを着たホムラが、ピョンと床に降り立った。
「申し訳ない。大丈夫か?」
「何を言ってる。悪いのは、突然入ってきた私の方。すまない」
ホムラが謝っている!?
「ドアの前で一言仰って頂ければ」
オスカー兄さんが呆れた顔で頭を掻いた。
「試してみただけ。あの弓の兄貴も、気配消して窓に近づいただけで、とんでもない早さで弓矢構えて出てくるからね」
「ええっ」
私は驚いたがオスカー兄さんは、笑って黙って頷いた。
「さすがに、5回連続失敗すると心折れたわ」
私の寝ていたキングサイズのベッドにパフン!とダイブした。
「だから最近、窓から来なかったんだ」
「あれだけガッツリ警護してるし心配ないと思ってね。と、ま、いろいろあって……」
オスカー兄さんの方を見た。何かを感じ取った兄さんは、そそくさと部屋の隅のソファーへ移動し、目を閉じた。
ホムラの隣に寝ころぶと、ホムラがうつぶせになり、顔をベッドに押し付け話し出した。
「わたし、正式にアスモの娘になった」
「知ってる! 昨日、スチュワート様から聞いた」
「で、縁談がきた」
「縁談!?」
「それでね…………」
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