53話 かっこいい騎士!
【北の神殿・アレクセイ王子視点】
王暦1082年5月17日。
夜の闇に突如現れたアクアブルーに輝く美しい城に、俺は言葉を失った。
+++
報告では、”その勇者はアレクサンドライト王国国王べリアスを救助し[聖なる光に選ばれし勇者]となった。現在、国王の寵愛を受けながら騎士見習をしている”と。どれだけ妖艶な魅力の女性なのだろうと期待していたが、勇者として紹介された赤い髪の娘の姿に、少々興が覚めた矢先だった。
まだ、子供じゃないか……。
この娘を国王が”寵愛“だと!?
アスモデウス殿下と、少し遅れてやってきたこの国の国王べリアスを一瞥した。
「アレクセイ王子、遅れて申し訳ない」
べリアス国王陛下が静かな声で謝罪し、私の隣の用意された椅子に腰かけた。
「王国の勇者、拝見いたしました。陛下にお似合いで実にお可愛らしいお方ですね」
皮肉を込めて言ったつもりだったが国王べリアスは嬉しそうに私の方を向き、
「そうだろう。私のルーシーだからな」
と言い放った。
「フッ、さっき勇者ちゃん怒らせて、ぶっ殺されそうになったのによく言うぜ」
その隣の椅子に腰かけていたアスモデウス殿下が呆れながら仰った。
え!?
ぶっ殺されそうになった!?
さっきの、あの子に!?
「あれはだな……ちょっと「陛下! はじまりますよ。あちらをご覧ください!」
国王べリアスが気まずそうに言い淀むと、国王の宰相兼執事スチューワート殿が国王の言葉を遮り、我々の視線を神殿の方向へ向けさせた。
何と申せばよいのか……この悪魔の国王、“殺されそうになった・言葉を遮られる”俺から見たらとんでもない部下たちの無礼に対して全く気にも留めていない。
“寛大“な性格なのか、それとも、あの勇者の小娘や宰相執事にコケにされているのに気づかない、ただの“阿保”なのか……。
同盟の件は、もう少し熟慮した方が良いのかもしれぬ。そう考え始めた矢先だった。
夜の闇に突如現れた、私の髪と同じ色のアクアブルーに輝く美しい城に俺は言葉を失った。
これをあの娘が!
なんと素晴らしい!
なのに隣にいる国王が顔色を変え立ち上がり、震えた声で叫んだ。
「ルーシー……なぜだ」
意味が分からなかった。
こんな素晴らしい城を……。
よくよく周りを見渡すと、我が国の騎士たちは驚き目を輝かせ感動していたが、王国の騎士の中には、震え泣き出すものまで現れ、その状況にアスモデウス殿下が宰相執事に叫んだ。
「スチュワート直ぐに勇者ちゃんに言え、それは”氷の魔女の城”だと!」
氷の魔女の城だと!? この美しい城が!?
驚いた宰相執事がすぐさま丘の頂上へ向かた。
しばらくすると、赤い光が地上から放たれた。
アクアブルーの城が粉々に砕け散り、キラキラとしたその光の中から金色に輝く城壁が姿を現した。
そして、その上に巨大な黄金の城が姿を現した。
声が出なかった。
素晴らしすぎる!
騎士達から歓喜の声が挙がった。
「アンフェール城だ! この国の勇者ルーシー様だ! ルーシー! ルーシー! ルーシー!……
騎士達がルーシーの名を連呼していると、黄金の城はさらに輝き光の粒になって夜空に降り注いだ。
「ああっ……」
あまりの美しさに衝撃を受けた俺は、考えるよりも先に勇者の彼女の元へ走りだしていた。
さっき俺は、あの勇者に対し酷く冷たい視線で威圧した。彼女もそれが分かっていたようで、明らかに怯え足が少し震えていた。
なんて事を俺はしてしまっていたんだ、彼女に謝らなければ。
周りの音が全く聞こえなくなっていた。
淡い光に包まれた神殿の前に、宰相執事の背中が見えた。そしてその先に、剣を泉に刺し、柄を握りがっくりと項垂れている彼女の姿が目に入った。
「王子、神殿には結界が」
宰相執事の声が聞こえたが、俺は躊躇することなく神殿の入り口に飛び込んだ。
ガンッ!
見えない壁に阻まれ、俺は後ろへ弾き飛ばされた。
しまった!
駆け上げってきた坂道からそのまま転げ落ちる覚悟をした時、誰かが俺を受け止めた。
「お怪我は、ございませんか?」
青い隊服を身に着けた王国の騎士だった。
グレーの瞳が印象的な青緑の髪の精悍な顔立ちのその騎士は、追いかけてきた我が国の騎士に俺を預けると、神殿の中へ颯爽と駆け込んで行った。
あいつ、なんで入れるの!?
「ルー!」
「にい……」
バッシャン
その騎士の問いかけに、ハッと顔を上げた彼女の深い青い瞳は涙で濡れていて、握っていた剣の柄から手を離すと、そのまま泉の中に倒れ込んだ。その騎士は迷うことなく泉に入り、彼女を抱きあげ名を叫んだ。
「ルーシー!」
その光景は、まるで本物の勇者が少女を救いに現れたようだと、俺は思った。
あの騎士、超かっこいい。
「ルーシー、ルーシー、お願い、目を覚まして」
抱き上げられた勇者の傍らで、ショートヘアの小柄な聖女が彼女の頬に光る掌を当て、必死に名を叫んだ。
「ルーシー……そうだ、サミュエルさんを……」
呼びかけにも反応せず、死んだようにぐったりとする彼女の姿に不安を覚えた。
もしかして先ほどの城は、彼女が自らの命を削りその魔力で作ったものではないかと。
俺達はただ、その光景を呆然と立ち尽くし見守るだけだった。
俺に、何か出来ることは無いのか?
「オスカー様、こちらに」
宰相執事が、騎士を呼びつけた。
オスカーというその騎士は、瞳を金色に光らせ凄まじい魔力を放ちながら宰相執事をキッと睨みつけた。
「恐れながらスチュワート様。お約束していただきたい。今後、妹ルーシーが勇者の剣を使ってこのような事をなされる場合は、必ず、私とサミュエル副隊長を同行させると」
その騎士に威圧された宰相執事は驚きながら頷いた。
「分かりました。オスカー様こちらに」
一介の騎士の言葉をすんなり受け入れた!?
彼はいったい何者なんだ!?
ぐったりとした彼女を抱き神殿から出てきた騎士は、俺に一礼すると後から駆け付けた片羽の天使の騎士と一緒に、宰相執事と移動用魔法陣で消えて行った。
聞けば、彼は勇者ルーシーの兄だという。
まったく似ていないと思ったのは俺だけだろうか?
そんな事よりも、彼女は大丈夫だろうか……。
倒れ込む直前、ぐしゃぐしゃになった彼女の泣き顔が脳裏から離れなかった。
「アレクセイ王子」
アスモデウス殿下が立ち尽くす俺を呼んだ。
祖父の友人で、幼い時からよく知っている殿下は俺に優しく問いかけた。
「どうした?」
「あの勇者は、なぜ泣いていたんだ?」
「そうか~泣いてたか~。あれだ、最初に造ったあの城だ……勇者ちゃんは責任感が強いから」
この国の一部の騎士たちの怯え方を見て、あの城がとんでもないモノだったことは理解できた。知らなかったとはいえ、一部の人々を恐怖に陥れてしまったのは事実だ。だがそれを回避すべく、更に巨大で黄金に輝く城を造り出し、怯えた者たちの心を立ち上がらせた彼女の“勇者の力“は疑いようがない。
「あれだけのことが出来るのに、なぜ涙する。理由がわからん」
「お前、分かってないな。勇者ちゃんは“いい子”なんだ、強大な力をひけらかしてふんぞり返るどこぞの女王とは違う」
「“いい子”だと……」
“いい子”それで片を付けていいのだろうか。
「めーちゃくちゃ”いい子“だ! よし! ホテルに戻って飲みながら語り合おうぜ!」
アスモデウス殿下に肩を叩かれ、俺はロイヤルラグーンへ戻った。。
そして、そこでまた意外な形で彼女に再会するのだった。
【ホテルロイヤルラグーン・べリアス視点】
[ラグジュアリースウィートルーム]
神殿から戻ったずぶ濡れのルーシーは兄オスカーに抱かれ、本当は私の寝室用だった部屋へノエルと入って行った。急遽ここへ招集された、ルーシーと仲が良いあの天使族の男が神妙な顔で戸口に立っている。
それにしても、ルーシーは大丈夫なのか。
”氷の魔女の城”についても、色々聞きたいのだが。
何をするにも落ち着かず、ダイニングの周りをグルグル歩き回っていた。
「陛下、後の事は我々で対処いたします。別のお部屋を準備いたしましたので、どうぞそこでお休みください」
疲れ切った表情のスチュワートが静かに私に勧めた。
「そんなこと出来るか!? お前の方こそ少し休め!」
「お心遣いありがとうございます。ですが……明日は、大事な王国議会です。お休み「いやだ!」
私は、戸口に立つ天使族の男の隣に立ち宣言した。
「今夜、つきっきりで私がルーシーの看病をする!」
「ええっ!?」(サミュエル)
「えっ!?」(スチュワート)
スチュワートと、天使族の男が声をあげた。
ガチャ
扉が開きノエルが顔を出した。
「只今、お着替を済ませベッドで休んでおります。サミュエル様どうぞ」
「私も、良いか?」
「はい、陛下。スチュワート様もどうぞ」
沈んだ表情でノエルは、私たちを招き入れた。
ベッドの横には、兄オスカーが跪きルーシーの手を握り祈るように顔を伏せていて、私たちが来ると立ち上がり敬礼した。
天蓋の付いたキングサイズの大きすぎるベッドの端に横たわるルーシーは、息も絶え絶えに涙を流し、眉間に皺を寄せ辛そうな表情で何かにうなされていた。
「サミュエル様。お願いします」
スチュワートに促され、天使族の男が緊張した面持ちでルーシーの傍らに立ち、隊服の袖を肘までまくり上げ、屈みこみ「ルーシー、大丈夫だからな……」と小さく呟き、両掌を光らせルーシーの頬を包み込んだ。その包み込まれるように温かで柔らかな眩い光に、悪魔である私は眩暈を感じた。
ルーシーの呼吸が次第に落ち着き、穏やかになっていく。
だが、私の心は穏やかではなくなっていた。
ルーシーを見つめる天使族の男の優しい眼差しに俺は、とてつもなくいやな胸騒ぎがした。
そして、ルーシーが幸せそうな表情をしたかと思ったら、
「うわぁぁっ!!!」
急に目を覚まし声をあげ起き上がった。
ゴンっ!
治癒していた天使族の男の頭に頭突きをくらわせた。
「……っ! ……ぅぅ」
「痛っ―――! あれ? サミュエル副隊長……なんで」
頭突きをくらわされた男は、痛みでそのままルーシーの横に頭をがっくりと落とし悶絶していた。
フフフッ、ざまあみろ。
「……っ、とんでもねぇ石頭だな、大丈夫か?」
「サミュエル副隊長こそ大丈夫ですか? ごめんなさい」
「俺は平気だ、痛むか?」
「う、うん。少し痛いけど」
その男は「よし、見せろ」と笑いかけ、ルーシーの額に掌を当て光を発した。
その間ルーシーは周囲を見渡し、私やスチュワートがこの部屋にいることに気付いたようだった。天使族の男と一言二言言葉を交わし、治癒が終わるとその男に礼を言い起き上がった。
ルーシーはスチュワートが止めるのも聞かず白いネグリジェ姿でベッドから降り、私の前に跪き手を床に付け頭を下げ、震える声で謝罪した。
「大変、申し訳ありませんでした」
はぁぁぁぁぁ~~~~、ネグリジェ姿のルーシーーーーーが!
さっきは確かに、めちゃくちゃビックリしたけど、あの王子も感動してたみたいだしそんなに気にすることでもないのに。
「ルーシーそんな事もうどうでもいい。身体は、大丈夫か?」
「知らなかったのです。あの城が“氷の魔女の城”だったなんて。ごめんなさい」
屈みこみ、泣きながら謝るルーシーの肩に恐る恐る手を伸ばした。
「陛下!」
ビクッ! 伸ばした手を引っ込めた。
兄オスカーがルーシーの横に同じように跪いた。
……増えた。
「申し訳ございません! 今回の妹ルーシーの不手際、兄である私の責任でもあります! どのような処分でも受け入れる覚悟であります」
「もうよい。結果、氷の城を滅ぼし、我が居城アンフェール城を出現させ皆を圧倒した。あの歓声が聞こえなかったのか?」
オスカーは、ハッと顔を上げ私を見つめた。
「フ……怒っているのではない。褒めているのだ」
まあ、少々焦ったけど。
「へ……陛下、そんな……もったいないお言葉……ううっ……ズッ……」
オスカーが感極まり涙を浮かべた。相変わらずだがこの男は、私に対する忠誠心が半端ないな。
「そんなに心配するな、立てルーシー」
私の言葉に、袖で涙を拭きながらルーシーが立ち上がった。
高揚した頬に深く青い瞳からこぼれる涙、小さく可憐な唇に今すぐにでもキスをし、ルーシーを安心させてあげたい衝動が湧き上がった。
…………でも、さっき耳元で囁いただけであれだ、ましてやなんの了解もなしに触れようものなら、俺は今度こそ封印されてしまうかもしれぬ。
だが、今、ルーシーは落ち込んでいる!
フフフフ……気持ちが弱っている今がチャンスだ!
「その、抱きしめても」
「陛下」
あろう事か、スチュワートが私とルーシーの間に立ち視界を遮った。
「明日の準備がございます」
「ええええっ」
「ルーシー様のご無事も確認いたしましたのでもう十分かと」
「でもっ、もっとルーシーと話したい」
「明日は、ルーシー様とご一緒にバンディ城に滞在いたします。空き時間に、ルーシー様と海水浴など楽しまれるのであれば、お早めにお休みなさることをお勧めしますが」
「海水浴……そうか、あそこの海も美しいからのう……わかった」
するとルーシーがスチュワートの背中越しに潤んだ瞳で私を覗きこんだ。
「ルーシー!」
私が微笑むとルーシーは照れたように微笑んだ。
「ありがとうべリアス、おやすみなさい」
「おやすみ~ルーシー!」
スチュワートに促されるまま私は、用意された別室で明日の予定を確認しそして、海水浴の時間をちゃんと確保した。
明日こそ、思いっきりルーシーと触れ合ってやる!
【ホテルロイヤルラグーン・スチュワート視点】
ルーシー様が造りだした美しい城が、“氷の魔女の城”だったとは……。
先の戦争中、王都カルカソで王城を防衛していた私には知る由もありませんでした。
陛下を休ませ、私は急ぎ町の新聞社へ向かいました。
今夜の事で、ルーシー様の悪い噂が立つ前に、今夜の出来事を王国から正式に発表しなければなりません。
“アクアラグーン北の聖なる森の神殿において、国王べリアス並びに、ノール帝国丞相アレクセイ王子が、聖なる光に選ばれし勇者ルーシー様の勇者の剣による防御壁の訓練の様子を拝見なさいました。氷の城を打ち砕き、続いて王都カルカソの城壁と黄金に輝くアンフェール城を出現させた演出に、陛下とアレクセイ王子は大変感銘を受けられました。ノール帝国との軍事同盟強化の後押しにつながるものと期待される。なお、一時の間ではありましたが”氷の城“の出現に驚かれました皆様、王国より深く陳謝いたします。”
雑務を片づけソファーで横になり、しばしルーシー様の事について考えました。
ルーシー様は、”氷の城”をどこで見知ったのでしょうか?
15年前の赤子の時でしょうか?
陛下が仰るまで“氷の魔女”の事もご存じないようでしたし、そもそも、南が寒いという事にひどく驚いておりました。
前世の記憶を持つ者。
ルーシー様が、そうであったのなら色々と辻褄が合うのですが。
陛下のルーシー様に対する誘惑は、一昨日こそ自制して頂けたのですが、今夜のディナーの際、オスカー様が近くにいらっしゃらないのを良いことに、少々行き過ぎたように思われました。それに対しルーシー様が次第に、心動かされている様子にいささか憂慮しておりました。ですが、耳元で囁かれただけで勇者の剣を召喚なさったルーシー様の可愛らしい姿に思わず口元が緩んでしまいました。
「好き。だけど契約はしたくない」(ルーシー)
”好き”……。
好みというのは人それぞれ、ルーシー様は一体どのような定義付けで陛下を”好き”と仰ったのでしょうか?
そして、”契約”についてです。ルーシー様は陛下の”契約”の意味をご存じなのでしょうか?
陛下の”契約内容”を一体どこまで理解しているのでしょうか?
後日、改めて確認させて頂かないと、そして陛下の暴走を止めるのも私の務め、明日の海水浴の水着の選定にも気を配らなければなりません。
そして、オスカー様。
ルーシー様を抱きかかえ、神殿で私を睨みつけたあの瞳。普段柔和な彼から想像もつかない程の凄まじい魔力の威圧に心底驚かされました。私がもしあの場でオスカー様の申し出を断っておりましたら、彼はあの後どのような行動を取っていたのでしょうか。
……明日は、バンディ城……そして……ノール帝国へ……
……Zzzz
……Zzzz
+++
お付き合い頂きありがとうございます。
☆彡並びにブックマーク登録感謝です!
※ブクマ★いただけましたら励みになります! 応援よろしくお願いしますm(__)m
※感想、ご要望、誤字脱字報告随時受け付けております! 遠慮せずどうぞ。
※2021/11/2 訂正しました。
※2023/2/1 気になる箇所訂正しました。




