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49話 王の仕事と勇者の仕事

【ロイヤルラグーンプライベートアイランド・べリアス視点】

 ※王暦1082年5月15日。


 ピカッ!!!

 ゴロゴロゴロゴロ

 ザアーーーーーーーーーーーーー

 ザアーーーーーーーーーーーーー


 突然の雷雨。



 ルーシーとの温水浴を楽しみにしていたのに、なんだこの仕打ちは!!!



 プライベートアイランドで近衛騎士の兄オスカーと共に私を待っていたルーシーは、窓の外を残念そうに見つめている。


「ルーシー、こっちへ」


 二人掛けのソファーに座らせ手を取った。


「こんな事になるなんて、すまない。ここでの温水浴をお前と共に楽しみたかったのに……ああ、夜のこの温水浴は最高にロマンチックなのに……」


「すごい嵐ですね……」


 ルーシーは、窓の向こうに視線を向けた。


 ピカッ!!!

 ゴロゴロゴロゴロ

 ザアーーーーーーーーーーーーー

 ピカッ!!!

 ゴロゴロゴロゴロ

 ザアーーーーーーーーーーーーー

 ザアーーーーーーーーーーーーー


 なんだこの殺伐とした雰囲気は。


 ルーシーの兄オスカーは近衛騎士の仕事の為ドアの前に立ち、スチュワートもその隣に無表情につっ立っている。何かこう大人なムード作りのような事はしてはくれないのか!?


 さっきから元気のないルーシーが、思い詰めた顔で私を見つめ口を開いた。


「べリアス、聞いてもいい?」


「なんだ」


「べリアスから見て、今の私は”王国の勇者”にふさわしいと思う?」



 ピカッ!

 バリバリバリバリバリバリバリ!!!

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ


 今度は()()!?

 呪われてるの!? ひどくない!?


 ふっ……と、落雷の衝撃で照明がいくつか落ちた。


「キャッ」

 ルーシーが叫んだ。


 超ラッキーーー!


「ルーシーっ」


 暗闇に乗じ怖がるルーシーを抱き寄せた。



 薄暗闇にテーブルの上の赤いキャンドルの炎が揺れている。


 幸い、今夜のルーシーはいつも邪魔するあの“勇者の剣”を背負っていない。 

 ああ、やっとこうしてお前に触れる事が出来る。

 うわぁぁぁぁーールーシーーーーーー! だーーーい―――好き!!!

 って、ダメだ!

 気持ちを抑えなければ。王として威厳ある態度を取らなければ、ルーシーに呆れられてしまう。




「……大丈夫か?」


 ルーシーが私を見上げた。

 はぅっ、近くで見ると、とんでもなく愛らしい。



「うん、大丈夫。……ねえべリアス、私は勇者として」


「ふさわしいに決まっている」


「でも私勇者として何もしてないのに……」



 ”勇者として何もしてない”


 なんて謙虚で正直な!

 そしてこの私を信頼し”王国の勇者”としての責務に苛まれている心境を吐露してくれるとは!


 ルーシーーーーーーー!!!!!


 もう、べちゃべちゃにキスをしたいぐらいの衝動を抑え、ルーシーの深い青い瞳を見つめた。

 キャンドルの明かりに照らされたルーシーがいつになく大人っぽく見える。


 ()()、ここには、スチュワートもルーシーの兄もいる抑えなければ。

 王としての威厳を保たなければ。



「私を見くびるな。お前が何もしなくてもいい国を作るのが私の仕事だ!」


「べリアス……」




 決まった!



 ピカッ!!!

 ゴロゴロゴロゴロ

 ザアーーーーーーーーーーーーー



 さあルーシー、私を羨望の眼差しで見つめて……!? 


 ん? 目をパチクリしている。

 どうした?



「勇者の仕事って……なんだっけ?」



 ん!?


 仕事? 勇者の?

 まあ、ざっというと、悪魔の封印……。


 ちょ、ちょっと、なんか話がおかしな方向へ向かってない?


「あー……悪魔とかの封印だったかな?」


 ルーシーは、何故か私の顔を怪訝そうに見つめた。


 な、何?

 抱きしめたのアウトだった!? 

 変な妄想したから!?



「じゃあ、いったい私は何と戦うために訓練しているの?」



 国家的規模で考えると、現在のところは”南の氷の魔女”。


 だが、その事を知ったらルーシーは迷わず前線に立ち南の魔女に戦いを挑む。

 下手したら自ら南の帝国へ攻め込みそうだ。


 そのために、ルーシーが戦わなくてもいい未来を創るために、今度の同盟だって()()()()()奔走しているのに。



「教えて!」


()()ダメだ」


「お願い」


「いやだ」


「じゃなきゃ、勇者なんてやめる」


「なんで!?」


「勇者の剣のあんな強大な力、危なっかしくて普通に生活するうえで必要無いから」


「はぁ?」


「この国だって()()()滅ぼせるんだよ!」



 ルーシーは、涙を浮かべ私の腕を掴んだ。

 ”この国だって簡単に滅ぼせる”

 そうなの!?



「そんな威力なの!? あの勇者の剣」


 ルーシーの瞳から涙が零れた。


「……うん」


 辛そうな表情で涙を流すルーシーを、そっと抱き寄せ背中をさすった。



「約束してくれるか? 一人で飛び出さぬと」


「べリアス……」


「お前の事が心配なんだ。王国の勇者として皆を危険に晒さぬよう黙って一人で飛び出して行きそうで」


「それは……」


 俯き言い淀んだ。

 やはりルーシーは、有事の際は勇者として一人で敵に立ち向かうつもりなのだろう。こんな小さな身体で、なんと健気な。ルーシーの深い青い瞳を見つめた。


「お願いだ。約束してくれ」


「……べリアス、分かった。約束する。でも、私が勝手に飛び出したとしても、指輪の契約してるからすぐに召喚で戻せると思うんだけど」


「それもそうか……だが、私の知らぬところでお前の身に危険が及んでしまったら……」


「その時は、私がべリアスを呼んでもいいですか?」



 深い青い瞳を潤ませ、上目づかいで見つめた。

 いいに決まってる! 呼んで!呼んで!呼んで!呼んで!呼んで!いつでも呼んでーーー!

 昂る気持ちを抑え、ルーシーを抱きしめた。



「いつでも、呼ぶがよい」



 いい雰囲気ーーー。これはもしかして”キス”ぐらいいけるのかもしれない!?

 身体を離しルーシーと見つめ合った。ルーシーの深く青い瞳がキラッと輝いた。



「べリアス、じゃあ、教えて!」


「え……」


「この国は何と戦ってるの?」


 一瞬で空気が変わった。


 さっきのあの潤んだ瞳は何だったの!? 

 落胆しながら私は、ルーシーにしぶしぶ口を開いた。



「……南の帝国の氷の魔女だ」


「氷の魔女、南……」




 ピカッ!!!

 ゴロゴロゴロゴロ

 ザアーーーーーーーーーーーーー




「南……って、寒いんですか!?」


「 ルーシー知らなかったのか? 南は氷の大陸だ」


「じゃあ北の海は?」


「温かく美しい海の帝国だ」


「ここって、南半球?」


「みなみ……はんきゅう? どういう意味だ?」


「地球の赤道から南の事で……。15年前にこの国に攻め込んできたのは、その南の魔女なんですか?」


 地球? 赤道? 何のことを言っているのだ? 理解できぬが今は氷の魔女だ。


「ああ」


「何のために?」


「予言だ。”北の国に、氷の魔女を滅ぼす女の子が生まれる”」


「それ、私じゃないよね」


「そうとも言い切れん……今となっては、その予言した者の正体も内容も本当かどうか分からぬ。だが、確かなのは15年前、氷の魔女によってこの国と北のノール帝国のさまざまな種族の生まれたばかりの女の赤子が虐殺された」


「ひどい……」


「私もその光景に耐えられず、氷の魔女に反旗を翻した」


「反旗って、ベリアス敵だったの?」


「言っておくが、私は悪魔だ。15年前まで、この国に数百年もの間封印されていた。氷の魔女は我々の仲間を次々と解放した。だか、全てが凍てつき白く何もない世界のどこが面白い!? 国が栄え町が都市になりさまざまな種族が平和に暮らし、人々が幸せになる。その幸せな()()()()を私は欲しているんだ。不幸で荒みきった魂など幾らあってもなんの価値もない。

 未来、美しく成長するであろう女の赤子を殺すなど私にとっては身を裂かれる思いだった。だから、まだこの国で希望を捨てず戦う者たちを集め、戦い、あの魔女を追い返した」


「……じゃあ、ベリアスがいなかったら私は殺されていたのかも! あ……あのっ、全身影みたいに真っ黒で目だけ赤い種族ってベリアスと同じ悪魔……」



 ピカッ!!!

 ゴロゴロゴロゴロ

 ザアーーーーーーーーーーーーー


 ルーシーの声が雷鳴でかき消されたが、”全身影みたいに真っ黒で目だけ赤い種族”に心当たりは……。



「全身影みたいに真っ黒で目だけ赤い。スチュワート、知っているか?」


「いえ、私も存じ上げませんが、その方をどこで?」


「赤ちゃんの時に、少し覚えてて。あっ、でも何かの勘違いかも知れないのでお気になさらないで下さい」


「幼い時の記憶があるのか?」


「少しだけ」


 魔力で窓際の小さな間接照明をいくつか灯していたオスカーが、驚いた顔でルーシーを見つめた。



「どうした? 話しても良いぞオスカー」


 オスカーはその場に跪き頭を下げ話始めた。


「私もその者を見た事がありまして。……妹を見つけた時に走り去るのと、それから何回か住んでいた家の近くで見かけました」


「その事は、誰か他の方に仰りましたか?」


 スチュワートが眼鏡をおさえながらオスカーに尋ねた。


「家族に……ですが誰も信じてくれなくて」


 スチュワートは少し考え、


「そうですね。この件は事情がハッキリするまで口外しない方がよろしいでしょう。と、ルーシー様、幼い頃の記憶というのはどのあたりまで遡る事が可能でしょうか?」


「記憶ですか」


 ルーシーは深い青い瞳を私に向け、そしてスチュワートの方を向いた。


「生まれたばかりの頃と、」


 言いかけてからルーシーは目を閉じた。

 稀に、幼い頃の記憶が残っている子供がいると聞いたことがあったが、ルーシーがそれとは意外であった。


「生まれたばかりの頃と、どうなさいましたか?」


「生まれたばかりの頃、子守唄を」


「子守唄ですか? それはどのような?」


 深い青い目を潤ませながらスチュワートを見上げた。



「歌っても、よろしいですか?」


「お願い致します」



 ♪~「んんん~ んんん~

(ブラームスの子守歌)



 ルーシーの歌う子守歌のメロディは優しく、私を穏やかな気持ちにさせた。



 ピカッ!!!

 ゴロゴロゴロゴロ

 ザアーーーーーーーーーーーーー


 それにしてもこの雷雨! ルーシーの歌が台無しじゃないか!?



「陛下この天気ですので、明後日に予定しておりましたルーシー様の隊服の裾直しをなさっても宜しいでしょうか?」


「おお、そうだ。スチュワート頼む」


 +++


 スチュワートがハンガーにかけて持ってきた近衛騎士の隊服に、ルーシーは驚き立ち上がり言葉を無くした。


「ルーシー喜べ。3日後、バンディ城でお前のお披露目式を行う。そして翌日、ノール帝国でお前を我が国の勇者として紹介する」



 てっきり、大喜びすると思っていたルーシーは慌てた表情で私に言った。



「こ、近衛騎士って!? ほ、本当に私なんかで、よろしいのでしょうか!?」


「何をいまさら。自信を持て!」


「けど、近衛騎士って……」


「案ずるな皆にはもう伝えてある。ノール帝国にはお前の兄も、スチュワートも、アスモデウスも同行する」


「近衛騎士の細かい決まり事などは、私とオスカー様が付いておりますのでご心配なさらずに」


 スチュワートの言葉にルーシーが兄の方へ視線をむけると、兄オスカーは大きく頷き微笑んだ。

 その表情に安堵したのかルーシーは深呼吸し、スッと私の前に跪き頭を下げた。



「べリアス、私の為に様々なお気遣い誠にありがとうございます!」


 ああっ……そんな律義に礼とは。 


「ルーシーそのような事はせずともよい。さ、着てみろ」


 パッと頭を上げ輝く笑顔を見せたルーシーはスチュワートのところへ行き、近衛騎士の隊服に袖を通した。スチュワートが裾に糸でしるしを付け、腕を横に広げたり下げたりしながら、鏡の前で何度も入念にチェックしている。そして、ブーツ、グローブ、帽子のサイズを確認し、私の前にルーシーを連れてきた。


 仮縫いではあるが、普段は一つに結わえられている赤い髪を下し近衛騎士の帽子をかぶり、華奢な身体にロイヤルブルーの青い隊服を纏った凛々しく美しい姿にしばし見惚れた。


 ーーーーーっ、かっわいいーーーーーー!


「す、素晴らしい。今すぐにでも私の近衛騎士にしたいくらいだ」


 堪らず、ルーシーの手を取った。


「ルーシー、今晩は嵐だ。ここへ泊るといい」


「え? でも、もう雨は……」



 は!?


 さっきまでピカゴロザーザーしていた天気が嘘のように治まり、外は静まり返っていた。



「あれっ!?」


「陛下、そろそろお時間です。明日の協議の資料に目をお通しいただいきたいのですが」


 スチュワートが分厚い紙の束をドサッとテーブルに置いた。

 こんなに多いの。

 ルーシーもその量に驚き、私と目が合うと申し訳なさそうに微笑んだ。


 王として、王として、あああっ……この手を放したくない。

 すると、ルーシーのもう片方の手が握っていた私の手に添えられた。

 はうっ……柔らかい。


「べリアスは王国の為に、こんな夜遅くまで働いてらっしゃるんですね。私もこの国の勇者としてこの国の為にこれからも努力いたします」


 努力とかいいから、もっとルーシーと一緒に語り合いたいのに。


「ルーシー、お前がいてくれるだけでいい、だから今晩はここに「陛下、ルーシー様は、明日も訓練がございます。休養をしっかりとって下さらないと、お身体にご負担がかかりますので」


「うっ……わかった。ルーシー、名残惜しいが今晩はここまでだ」


 手を引き寄せそっと抱きしめ、右手を頭に添えた。


 !?


 なんとルーシーの腕が少しだけ私の背にまわされ、きゅっ……と抱きしめてきた!


 はぁーーーっ……感動で目を閉じると、ルーシーの柔らかな感触と静かな呼吸を感じ、身体に溜まっていた魂が全部抜け出てしまいそうなほどの恍惚感に襲われた。


 ああ、なにもかも捨て、ずっとこのままこうしていたい。

 王なんてやめてルーシーを妻にしてひっそり暮らし、たとえ死んだとしても、ずっと永久にその魂を我がものとし愛おしむのに……。



 我慢だ。王国の情勢が落ち着いたら王などいつでも辞めてやる!

 ルーシーそれまで、それまで私を待っていてくれ。




「じゃあ、べリアス。おやすみなさい」


 移動用魔法陣で、スチュワートと兄と共にルーシーは帰って行った。

 

+++++++

お付き合い頂きありがとうございます。

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※2021/10/29 気になる箇所訂正しました。

※2023/2/1 気になる箇所訂正しました。


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[良い点] こんばんは。投稿お疲れ様ですm(_ _)m 南の帝国との戦いが今後どうなるかとても楽しみです(^^)/
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