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48話 ルーシーに近づく虫どもめ!

【新人騎士見習合宿が始まってから15日目・解説】


[解説]

 ここ数カ月の間。

 アレクサンドライト王国の南に位置するジェダイド帝国が不穏な動きを見せていた。


 これに憂慮した国王べリアスは、ジェダイド帝国の軍事的行動を牽制すべくノール帝国との同盟を打診。先月から同盟締結に向けて両国間の協議が始まり、今日アクアラグーンで両国代表による会談が行われる。

 

 国王べリアスは、国賓として招待したノール帝国丞相アレクセイ王子と共にアクアラグーンへ到着。


 忙しい外交日程の合間に、国王べリアスはアクアラグーン訓練場で行われている新人騎士見習強化合宿へ視察に訪れた。



【アクアラグーン訓練場・ベリアス視点】

 ※王暦1082年5月15日。


 移動用魔方陣でアクアラグーン訓練場へ到着するなり、騎士見習たちから手厚い歓迎を受けた。

 赤い絨毯を歩きその先に置かれた椅子に座ると、なんとルーシーが跪き私に冷たいお茶を「宜しかったらどうぞ」と差し出してくれた!


「ルーシー!」


 お茶を受け取りながら、その右手を取るとルーシーは微笑み、


「お元気そうでなによりです、陛下」


()()()()だ」


「あ、べリアス」


 ルーシーは照れたように、私の名前を小さく言い頬を赤くした。


 うわぁぁぁぁーーーもうダメかも。


 久々の”生ルーシー”に飛びつきたくなるのを抑え食い入るように見つめた。


 気持ちよ鎮まれ!

 ここで()を出してはいけない! 私はこの国の王! 威厳ある王としてルーシーに接しなければ。



「ゆ、勇者の剣の訓練はどうなっている?」


「はい、防御壁を張れるようになりました」


「防御壁とは、意外だな」


「……陛下にお詫びしなければならないことが」


 ルーシーの表情が曇った。


「どうした?」


「申し訳ございません! 北の神殿を防御壁で破壊してしまいました!」


 可愛らしく目をギュッと瞑って大声で謝った。

 かわいいーーー! 

 

「なんだそんな事か、気にするな」


「でも……」


 申し訳なさそうに俯くルーシーの手を引き寄せ、小声でささやいた。


「(小声)お前の兄、オスカーも来ているぞ」


「え!?」


 ルーシーの表情がパッと明るくなった。


「あとで会うといい」


「はい、陛下、あり「()()()()だ」


「べリアス、ありがとうございます」


 か~~~~~わいい!!! 

 悔しいが兄の名前は()()()()だったようだ。

 右手の指輪に触れ手を放すと、ルーシーは敬礼し訓練へ戻って行った。

 一つに結わえられた赤い髪を揺らしながら走る小さな後姿を食い入るように見つめた。



「陛下、よく堪えられましたね」


「スチュワート、完璧だったろう」


「はい、この調子でお願いいたします。基礎訓練の後、ルーシー様とジュード団長補佐との手合わせがございます」


「ジュード……あの男か。大丈夫なのか?」


「魔力抜きでの剣術においては、ルーシー様を上回っていると聞いております」


 フン……信じられん、私のルーシーが一番に決まっている!


 +

 +

 +


 私のルーシーとジュード(悪魔族)の手合わせが始まった。


 なんだあの男は!? 


 私のルーシーがコテンパンにされている。


 ああっ!!!

 飛び上がったルーシーを、木刀で叩き落とした!?

 なんてことを! 


「スチュワート、あいつ()()にしろ」


「は?」


「いますぐ暇を出せ!」


「ですが、ルーシー様は、止める気は無さそうにお見受けしますが」



 ルーシーは何度倒されても打たれても立ち上がり、砂を払い、剣を構え肩で息をしながら叫ぶ。


「お願いします!」


 ああだが、どうしよう。

 あの男を睨みつける深い青い瞳が輝いている。


 見るに堪えない筈なのに、瞳を輝かせ戦うルーシーの姿をもっと見たいと思ってしまう私がいる。

 舞を舞うかのように剣を避けながらあの男に食らいつき、一瞬の隙も見逃さず打ち込んでいく。あの男も全力でルーシーの剣を跳ね返し、口元を緩ませ楽しそうに激しい斬撃を浴びせる。


 睨み合う視線と絡まり合うような剣技に嫉妬さえ湧いてくる。


 今、ルーシーはあいつの事しか考えていない。



「あっ」


 ルーシーの足がふらついた。


 どうやら集中力が途切れてきたようだ。

 それをあの男は見逃さず、容赦なくルーシーの左側面に一撃を加えた。


 バシィッッッッ!!!


 ルーシーは剣でガードしたものの、近くで二人を見守っていた天使族の騎士の方へ吹っ飛ばされた。


 ドザザッーーー


 尻もちをつきルーシーを抱きとめた天使族の男は「うわっ、ルーシー大丈夫か?」と光を放った。

 ルーシーはすぐさま立ち上がり、その男の手を掴み引き起こした。


「ありがとうございます、サミュエル副隊長」


 と、笑顔でルーシーは抱きとめた天使族の男の手をギュッと握り深呼吸した。


「ふぅ……少し生き返った」


「無理すんなよ」


 その男に言われ笑顔で小さくガッツポーズし、手合わせに戻って行った。




 なに?

 今のなに!?



「サミュエル様は、特化した治癒能力の持ち主です。ジュード団長補佐と手合わせをなさる際は、()()、彼、立ち合いのもと行うよう伝えてあります」


「治癒能力!? あいつ凄いのか?」 


「はい、彼に治せない怪我や病気はありません」


「じゃあ私の怪我も」


「”聖なる光”から受けた傷に、”癒しの光”は逆効果になりますが……」


「あ、そうだった」



 それにしても少し目を離しただけで、私のルーシーにつぎつぎと変な虫が寄ってくる。油断ならぬな……。


 +++


 結局ルーシーはボロボロになりなりながら、倒され立ち上がりを何度も繰り返した。


「ゔあぁぁぁーーーお願いします!」


 なかなか勝てないことを悔しがり大声を上げ立ち上がったが、そのまま気絶し2番目の兄に背負われ医務室へ運ばれていった。()()天使族の男も一緒だ。



「フフフッ……」


 スチュワートが小さく笑った。

 そこ、笑うところ?


「何が可笑しい」


「フッ……失礼いたしました。ルーシー様のご様子があまりに可愛らしいので」


 スチュワートが笑っている。そして、()()()()()? 

 こいつは懸命に戦い、気絶したルーシーを()()見ているのか?


 約15年。スチュワートは私の傍に仕えているが、常に無表情すぎるゆえ感情が読み取れぬ。それに、こいつの私生活に対して全く興味も無かったのでスチュワートの趣味嗜好など今まで考えた事など無かった。


 それにしても戦い気絶したルーシーを、”可愛らしい”とは……こいつは。

 

「お前、変態か?」


「は?」


 スチュワートが呆気にとられた顔をした。どうやら自覚はまだないらしい。そっとしておこう。



「それで……ルーシーは大丈夫なのか?」


「サミュエル様が付いてらっしゃいますので」


「その男が心配なんだ! だって治癒するとき()()()()じゃん。なんか、ルーシーと仲良さそうだったし」


「……そうですが、ルーシー様のお兄様も一緒ですのでその心配は無用かと」


「あの優男(やさおとこ)にルーシーが守れるのか?」


「はい、とても()()()の優秀な騎士と伺っております……あの、陛下そろそろお時間です。ノール帝国の大臣との昼食がございます」


「ええっ!? もうそんな時間!? ああ、もっとルーシーと…………次会えるのは、夜の温水浴だったな」


「はい」


「よし! 温水浴で存分に触れ合ってやる! ルーシーの水着の用意は出来ているか?」


「ホテルの方に、すべての種類・サイズの水着を取り揃えております」


「フッ。スチュワート流石だ」


「では、陛下参ります」



 後ろ髪を引かれながら、さっきまでルーシーの姿があった訓練場を一瞥した。

 ジュードといい、あの天使族といい、ルーシーに近づく虫どもめ! 

 少しでも手を出したら最後、地獄へ叩き落としてやるからな。覚悟しろ!


 移動用魔法陣を展開し、我々はホテルロイヤルラグーンへ向かった。

 


 +++++

【医務室・ルーシー視点】



 柔らかな光に包まれる感覚に、赤ちゃんの頃を思い出していた。

 ぼんやりとしたそこはかとない安心感にまどろみながら、ブラームスの子守歌が聞こえてくる……。


 本当の母は、どんな人だったのだろう。



 ……シー

 ?


 ルーシー


「ルーシー……」


 目を開けると医務室のベッドで、レイ兄さんが私の顔を覗きこんでいた。


「良かった。お弁当食べる?」



 医務室ではサミュエル副隊長がお昼のお弁当を食べていて、起きた私と目が合うとニッと笑った。


「ルーシー。具合はどうだ?」(サミュエル)


「大丈夫です。あ、もしかして寝てる間に治癒したんですか?」


「ああ、痛そうだったからな。嫌だったら、今度からやめるけど」


「いいです。ありがとうございます。なんか気持ち良くて、昔の夢見ちゃって」


「やっぱり、ルーなにか歌ってたから」(レイ)


 レイ兄さんが、椅子を運び机の前に置いた。

 この前レイ兄さんが壊したこの机は、取れかけた足をガムテープで補強し今も大事に使われている。

 サミュエル副隊長と兄さんが向かい合わせで座る間に置かれた椅子に腰かけると。


「ルーは小っちゃい時から変わらないな」


 ニコー――っとレイ兄さんが笑いかけるので、思わずのけ反り頬をガードした。


「今はしないよ、さ、食べようね」


「いただきます!」


 ホテルホーリーウッドカフェ特製のハンバーグとカツのサンドイッチに心が躍った。

 ここでの昼食は、王国騎士専用宿泊所の食堂とホテルホーリウッドのカフェのお弁当が日替わりで出されるシステムで、どちらのお弁当もボリュームがあってとっても美味しい。



「美味っしーーーい! このカツも最高! レイ兄さん今度の休みは、カフェでランチね」


「うんそうだね。あとルー。今晩だけど、国王陛下から招待状がきてる」


「え? 招待……状?」


「5日後、ノール帝国との同盟の調印式に、正式に勇者の紹介をするらしいからその打ち合わせ諸々と、スチュワート様が……」


「いよいよだな。勇者」


 お弁当を食べ終わったサミュエル副隊長が、親指を立てフッと笑った。


「……ノール帝国?」


 あまりピンとこない国名に首をかしげると、サミュエル副隊長が説明を始めた。


「北の海にあるデカい国だ。15年前の戦争の際、共に被害を受けた国で、南の海での不穏な情勢を考慮して陛下が同盟を打診したんだ」


 北の海……。

 あの、コーヒーの!!!

 以前、王宮でスチュワートさんに淹れてもらったコーヒーを思い出した。



「でも、サミュエル副隊長。まだ()()()()の私が、そんな外交の場に顔を出して大丈夫なんでしょうか?」


「ん~~そこは多分、陛下の方でも考えていると思う……。これは俺の憶測なんだけど、君、合宿前からずっと団長補佐クラスと手合わせしてるでしょ」


「うん」


「何かしら実績を作り、騎士団内で君の実力を周知させ、一時的にでも君を昇格させた形での”紹介”っていうのも有りうる。王の独断で君を勝手に昇格したりすれば、それこそ騎士たちの反感を買うからな」


「だから、ジュード団長補佐と手合わせを……なんとなく分かってきた。じゃあもしかしたら、兄さん達と同じ、騎士の”黒い隊服”とか着れたりするの?」


「そうかもな、そうなったら俺ともお揃いだ!」


「やったあー! ジュード団長補佐との手合わせは()()()()()だったって分かったら、ますますやる気出てきた!」


「おい、まだ喜ぶな! 決まったわけじゃねぇからな……おっ、昼休み終わっちまうぞ」



 サミュエル副隊長に急かされ、昼食を食べ午後の訓練へ向かった。



 +++++

【ロイヤルラグーン“プライベートアイランド”・ルーシー視点】



 夕食後、スチュワート様とオスカー兄さんと共に移動用魔法陣でロイヤルラグーン“プライベートアイランド”という場所へ向かった。



「陛下のお計らいで、“ルーシーに温水浴で疲れを癒やして欲しい”との事だそうだ」


 近衛騎士の青い隊服を着たオスカー兄さんが笑った。


「え!?」


 てっきり、5日後のノール帝国の件での”打ち合わせ”と考えていたので、少しガッカリしたが、このプライベートアイランドが凄い!


 ロイヤルラグーンの半月状の建物から少し離れた場所に造られたラグジュアリーな……日本語で言う()()()()()()()()()


 ”プライベートアイランド&スパ!”


 部屋の中も豪華で、白い大理石の床に高い天井。ピカピカのグラスが逆さに並べられ収納されているバーカウンターに、落ち着いたダークブラウンの家具やソファーセット。テーブルにはフルーツやオードブルが並べられ、水の入ったグラスに浮かべた小さな赤いキャンドルが揺れている。部屋に飾られた花々もゴージャスで、ユリやカラーまでは分かったが、見たこともない南国風の花ばかり。部屋の灯りは魔力で光る間接照明がいくつか置かれ、淡い光を放っている。


 素敵!


 前世でもこんな凄いリゾートに行った事のない私は感動しながらも、ベリアスさんは、”私と契約する為”にここへ呼んだのでは!? と考えてしまう。いくらリゾートスパが楽しくても、警戒は怠れないなと思うのであった。


「疲れを癒す……か」


 べリアスさんを待ちながら、大きなガラス張りの窓を眺めた。外は真っ暗で、部屋の明かりがガラスに反射し鏡のように私の姿を映し出していた。成長すると見越して用意された騎士見習の隊服は、まだ少しブカブカでなんだかカッコ悪い。



 ”ノール帝国との同盟の調印式で、正式に勇者の紹介”



 一時的にでも昇格し”兄さん達と同じ黒い隊服が着られるかもしれない”と浮かれていが、よくよく考えてみると、私は国王べリアスさんを助けて勇者となってから、建物をいくつか壊しただけで、何もしていない。


 そもそも自国の要人の顔も名前すら全然分からない。それでいきなり他国の王に紹介とか……これも、勇者の仕事なのだろうか? 


 つい最近山奥から出てきたばかりの小娘が、国王であるべリアスさんが”いいよ”と言っただけで、シビアな国際外交の現場に()()()()出て行っていいわけがない。


 もしも、行った先で勇者の剣が暴走したら同盟どころではない。戦争だって起こりかねない……。


 そういえばサミュエル副隊長は、”南の海で不穏な動きがあり、それで同盟を打診した”と言っていた。


 雲行きが怪しい。

 また、戦争が起こるのだろうか。




 遠くのほうで、雷鳴が聞こえた。



お付き合いいただきありがとうございますm(__)m

ブクマ★いただけましたら励みになります!応援よろしくお願いしますm(__)m


※2021/10/29 誤字脱字気になる箇所訂正しました。

※感想誤字脱字報告、随時受け付けております。遠慮なくどうぞ!


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