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45話 夜警、寝起き、仲直り

【アクアラグーン宿場町教会前・ルーシー視点】

 ※王暦1082年5月10日。夜。

 

 レイ兄さんとマルクス副隊長を伴い、集合時間10分前に教会へ到着した。既に待ち合わせ場所に来ていた水色の隊服姿のアイザックが私と目が合うなり大声で怒鳴りつけた。


「ルーシー! この裏切り者!」


「アイザック、さっきはごめんなさい! 本当、許して!」


 とにかく爆睡あれは、完全に私が悪かったので手を合わせ謝った。


「許さん!」


 アイザックは目を血走らせ仁王立ちで私を見下ろした。


「だからゴメンなさい!」


「この俺様がどれだけ焦ったか分かってるのか!?」


「大変だったね。ごめん!」


「ハント副隊長には殴られるし、死ぬかと思ったぞ!」


「なんで!? ハント副隊長に!? うわっ、怖っ」


「だから俺は、お前を許さない!」


「分かった。ごめんなさい!」


「分かってない! 全部、お前のせいだ」


「なんで!?」


「お前が眠ったせいで、計画が狂った」


 この”俺様”……こっちが下手に出たとたん、ここぞとばかりにガンガン責め立てる。しかも、よくわからない因縁まで付けてきた。


「だからこうして謝ってるの! それに結果的に成功してるんだから良かったじゃない」


「よくない。お前のその態度だ。俺様の気がおさまらない」


 気持ちの問題か……。

 これは、既にある怒りが新たな怒りを生んでしまっている状況。とにかくアイザックの気持ちを理解してあげれば少しは落ち着いてくれるかな……。

 

「じゃあ、どうすればいいの?」


 極力、腹立たしさを抑え()()()聞いた。



「ルーシー裏切った罰だ! 今日からお前は俺様の()()になれ!」


 アイザックが大声で宣言し、どや顔で私を見下ろした。


「は?」


「俺様が認めてるんだ! ()()にしてやる」


「舎弟とか何それ?  私、()だよ。まさか、()だと思ってた!?」


 指摘され、アイザックも間違いに気付いたのか、顔を真っ赤にして固まった。

 近くで私たちの言い合いを聞いていたレイ兄さんとマルクス副隊長が、肩を震わせ笑いを堪えている。



「う、うるせえ」


 途端に口数が減りプイッと顔を背けた。


「確かに、初対面はルーカスとして会ったからね。君にとって私は()に見えても仕方ないか」


 アイザックは思春期真っただ中の15歳。精神年齢(一応)22歳である私の冷静な返しにたじろぐのは無理もない。


「なんだその言い方」


「フッ、こっちの台詞よ!」


 結局いつもどおりの感じでアイザックと睨み合った。




「フフフっ、君たちその辺にしといてね」


 ふわりとした白い手が私とアイザックの肩に触れた。


「北の神殿騎士隊長のロストン・ラビエルだ。宜しく」


「「は、はい!」」(ルーシー・アイザック敬礼!)



 私とアイザックはその天使族のロストン・ラビエル隊長の姿に釘付けになった。


 目に飛び込んだのは、顔を横切る大きな傷。

 それをものともしない程の整った顔立ち。金色の瞳に短い金髪をオールバックにして、スラリとした長身スレンダーボディに真っ白な羽が僅かに発光していた。

 神々しい輝きに私とアイザックは息を飲んだ。


 

「今日から、見習の子が来るって言うから来てみたら……フッ、二人とも仲いいね」



 良くない!

 心の中で叫んだ。


 +++


 北の丘の神殿警備が始まった。


 神殿騎士は、皆白い隊服を着用し夜間の森の中でも目立つようランタンを持って巡回する。

 警備は、基本二名一組になり丘の麓から北の神殿の周りを周回し、主に大型の魔獣及び不審者への警戒。神殿の丘全般の安全確認をするという任務である。


 私はレイ兄さんとマルクス副隊長の3名で、アイザックはロストン隊長と神殿騎士のジャン・ベレトさん。そして、ルイ・オファニエルさんとヴィクト―・サキエルさんの二名。三つの組に分かれて巡回することになった。


 北の神殿の聖女ローラさんが祈りを捧げている20:00〜22:00の間、私たちは山の麓を巡回した。

 鬱蒼とした森で時折、鹿や狸を見かけたが大型の魔獣などは見当たらなかった。


 +++


「お疲れさまでした」


 無事警備の仕事も終わり二人に敬礼した。マルクス副隊長は微笑み、アイザックは敬礼しながら、


「ルーシー、同じ宿だからって気安く俺様の名前を呼ぶんじゃねぇぞ」


 笑顔で捨て台詞を吐いた。余程、ちゃんとした宿で眠れることが嬉しいみたいで、顔と言葉がちぐはぐで面白い。

 15歳、まだまだ子供だ!

 そんなアイザックが可愛らしくて大きな声で叫んだ。


「おやすみ、アイザック!」


「今、言ったろ! 俺様を…


 ゴッ!


「静かにしろ」


 マルクス副隊長に、軽く小突かれ大人しく帰って行った。



 私とレイ兄さんはお腹が空いたので、ホテルの近くの屋台で売っている棒付きパンを買いに出かけた。粉砂糖をまぶした揚げパンに棒が刺さっているタイプで、これが安くて美味しい! 庶民の味方! 


 生まれて初めての合宿生活も、精神的にも経済的にも頼れるレイ兄さんが一緒で本当に良かったと思った。



【ホーリーウッド・マルクス副隊長の部屋・マルクス視点】


 神殿警備の仕事を終え、アイザックを連れて部屋に帰った。

 私の部屋は、ホテルの角部屋で一般の部屋よりも少し広く出来ている。そこに小さめの簡易ベッドを宿の主人に運び入れてもらった。この部屋は、女性用なのか壁紙はピンクでドレッサーや姿見まであり、女の子の部屋のようで慣れるまで落ち着かなかった。アイザックもこの部屋を見た時、吹き出して一緒に笑った。



「アイザック、ルーシーにあの言い方は無いぞ」


 アイザックは軽くシャワーを浴びた後、バッグを開け寝具を取り出しさっそく着替え始めていた。


「でも、なんかあいつ偉そうだから」


「あのなぁ……」


「勇者の力は”天使族”が与えたものなんだから、もっと天使族の僕を敬って欲しいよ」


「君が与えたわけじゃないからね。アイザック、ルーシーは君に比べたら全然大人で落ち着いてるよ。君は彼女に対してどうしてそんな態度になるんだ?」


「……分からない」


「名前で呼ばれるのが嫌なのか?」


「……嫌じゃない。けど、あいつに名前を呼ばれるとなんか胸がざわざわするっていうか、なんか……あ~~~もう」


 着替えを終えたアイザックは、部屋に置かれた簡易ベッドに潜り込んだ。


「だってさ俺より強くてかっこいいし王国の勇者だよ、()()()!」


「そうかな、ルーシーは勇者になったばかりに、ジュード団長補佐との手合わせや夜の訓練。そして……」


 ……天使界の勢力争い。これはまだアイザックには言わない方がいい。


「……いろいろ悩んでいる。王国の勇者としての重圧が彼女の小さな肩に乗っかってるんだ。逆に、なんで守ってやれない?」


「だって……俺、嫌われてるし」


「そんなこと無いよ、さっきも君の事をちゃんと名前で呼んだだろう」


「……うん」


「明日からは、ルーシーとちゃんと話せるかな?」


「うん、やってみるよ」


「おやすみ、アイザック」


「おやすみなさい」


 直ぐにアイザックの寝息が聞こえてきた。


 アイザックは、商業で財を成した天使界ラミエル家の次男。長男ディランは、天使族至上主義という考えを持ち続ける男でいけ好かない奴だった。彼も兄と同様に偏った考えを持っていると思っていた。

 だが、訓練にも真面目に取り組み我慢しながらあの合宿所で過ごしていた。それに耐えられずルーシーに泣きついてきたのは意外だった。カフェで涙の跡を残して眠るアイザックと、テーブルの上でノートに技名を書き取りながら眠るルーシーを見た時、アイザックは”奴”とは違う人格だと気づいた。


 今なら、まだ彼を変えることが出来ると私は考え始めていた。


 ”あいつに名前を呼ばれるとなんか、胸がざわざわする”


 アイザックの言葉から、まだ彼が自分では気が付いていない感情がルーシーに対して芽生え始めているのを察知した。その気持ちに気付き向き合いそして、どうするべきなのか考え行動してほしい。


「大丈夫かな……」


 気持ちよさそうに眠るアイザックを見ながら呟いた。


 +++

 

 翌朝


 目を覚ますと、着替えを済ませ荷物をまとめ寝具を綺麗に畳んだアイザックが、部屋のドレッサーの前で長い金髪をとかしていた。こうしてみると、アイザックはこの部屋の雰囲気に馴染んでいるように見える。



「おはようございます、マルクス副隊長」


「ああ、おはよう。早いね」


「いつもこれぐらいの時間なので……」



 意外としっかりしているな。


 アイザックの行儀のよさに感心し着替えをしていると、髪をとかし終えたアイザックがソワソワしながら廊下を覗いていた。


「どうした?」


「もう6時半過ぎてるのに誰も起きてこないから」


「ああ、彼女たちは7時ごろに部屋から出てくるかな。ああでも、フフッ。でもルーシーは、彼女たちに起こされるまで起きないみたいだよ」


「はぁ!?」


 アイザックが部屋から飛び出して行った。




 ドンドン! ドンドン!!


「ルーシー! 俺様より遅くまで寝ているとは許せん! 起きろ!」


 あまりの突拍子の無い行動に、慌ててアイザックを追いかけ止めた。


「(小声)おい! 女の子の部屋のドアをぶしつけに叩くな」


「俺様が起こしてやってるんだ」


「(小声)あのなぁ……」



 ガチャ



 髪をボサボサにし起きたばかりの顔つきのルーシーが、支給品の短パンにタンクトップ姿でドアを開けた。


 アイザックと目が合うなりしばらく固まり、


「あれ、ロナ髪伸びた?……って、アイザック!!! なんで!? マルクス副たいちょ……」


「お、お、お前!? 」


 ルーシーは深い青い目を大きく見開き驚きの表情で、バン! とドアを閉めた。

 ドア越しに叫び声が聞こえた。


「いやぁぁぁぁ!」



 寝起きのルーシーを見たアイザックは、やってしまった事に気が付いたらしく涙目で私を見つめた。隣の部屋のレイが騒ぎを聞きつけ顔を出した。


「マルクスさん、おはようございます。ってお前、ルーシーに何かしたのか!?」


「ルーシーをその、起こそうとしたみたいなんだけど、その……」


「なに!?」


「あんまり……か……変わってて」


 怯えた表情のアイザックの言葉に私とレイが固まり、ルーシーの怒鳴り声が聞こえた。



「悪かったわね!」



 +++++


「ゴメン、これは私の監督不行き届きだ。すまない」


 レイに謝り、早々にアイザックを合宿所へ帰らせた。


 アイザックは……なんというか、もう少し大人としての振る舞いを身に着けて欲しい。そうでないと彼自信が苦労する。まだ間に合う、ここで私がきちんと指導してやるべきと考えるのであった。


 それにしても、ルーシーの寝起き姿をアイザックは”あんまり……変わってて”と怯えていたが、私には可愛らしく見えた。毎日、ルーシーのそんな姿や表情を見られる友人たちやレイが羨ましい。私にもこんな妹がいたら、オスカーやレイのように全力で可愛がっていただろう。


 王国の勇者として重圧に負けず、地道に頑張っているルーシーを、私は陰ながら支えてあげたいと思っている。そして、彼女が戦場で戦わずに済む平和な未来を願っている。



【訓練場・アイザック視点】



 何が起こったのか分からなかった。

 ただ、ものすごく悪い事をしてしまったということは理解できた。

 全力で走り合宿所へ戻った。


 朝食を食べ、早くに合宿所を出て訓練場で一人、ルーシーの事を考えていた。



 信じられない。



 あんな姿で俺様の目の前に出てくるなんて。

 

 あんまり……変ってて、あんまり可愛くないけど、嫌いな顔じゃなかった。


 マルクス副隊長には、ちゃんと謝るように言われてるけど、僕にできるだろうか……?

 なんて言えばいいんだろう、


 ”ルーシー、今朝はごめんなさい”

 ”ルーシー、もうしません。ごめんなさい”

 ”ルーシー、




 今度こそ、嫌われたかな……。



 ”ルーシー、許してほしい”




「ゴメン……」



「アイザック! 早いな」


 黒い隊服姿のサミュエル副隊長が、訓練棟のカギを回しながらこっちに歩いてきた。

 この人も朝は異様に早く来る人だった。一人になりたかったのに……。


「あ、お、おはようございます」


「泣いてんのか?」


 僕の肩をポンと優しく叩いた。この人はこういう事にすぐ気づくから厄介だ。


「いえ、その」


「昨日の神殿警備で何かあったのか?」


「いえ。ただ、今朝ルーシーとまた喧嘩して。もう仲直り出ないかもしれなくて……」


「は?」


 サミュエル副隊長に事情を話すと彼は明るく笑った。


「大丈夫だ! そんな事であの子は君を嫌ったりしないよ。だからちゃんと謝るんだ。謝るときは、”俺様”は使うなよ。いいか。じゃあ、やってみろ」


「え!?」


「見てやる」


 サミュエル副隊長に促され僕は大声を出した。


「ルーシー、今朝はゴメンなさい!」


 声に出すと、なんだか気持ちがスッキリした。

 ニコニコしながらサミュエル副隊長は僕の肩を叩いた。



「それでいいんじゃねぇか。お、来たぞ! 頑張れよ」


 振り向くと、ルーシーがホムラたちとこっちに歩いてくる。ヤバい、心臓がバクバクしてきた!


「ルーシー「アイザック、ちょっと」


 ルーシーに声をかけようとすると、なぜか弓の先輩(スカーレット)が僕の腕を掴み、訓練場の隅の方へ引っ張られた。



「先輩? アイザック?」


 ルーシーの声が後ろから聞こえる。




()()()()()()!?」


 歩きながら弓の先輩(スカーレット)が凄い形相で俺を睨みつけた。



「だから……ルーシーに謝りたくて」


「え!?」


「だから、謝りたくて。今朝の事」


 弓の先輩(スカーレット)は驚いた顔で俺を見上げた。


「なんだ、私は、てっきりまた……その”俺様が”……ってルーシーに噛みつくと思って」


「ひどいな、僕だって反省してる。だから……ちゃんと謝るから」




「アイザック、もーいいよ。気にしてないから」


 背後から聞こえたルーシーの声に僕は泣きたいくらい嬉しくなった。



「でも寝起きドッキリは、もうしないでね」


「フッ。本当、ルーは朝ひどいからな」


 ホムラが呆れたように笑った。




「ごめん。もうしない!」


 頭を下げた。


「だから、もういいってアイザック」


 僕の手をルーシーが掴んだ。

 小さく柔らかい感触にハッと顔を上げると、ニッコリと笑うルーシーと目が合った。


「あ、お前……手、小さいんだな」


「そう? 女の子はこんなもんだよ」



 ”逆に、なんで守ってやれない?”



 マルクス隊長の言葉が頭に浮かんだ。

 こんなに小さくて柔らかい手のルーシーに、僕は”打ち勝ち””優位に立つ”ことばかり考えてきた。こんなに小さな手でルーシーは国王を守りそして、あのジュード団長補佐に何度打ちのめされても挑み続けている。


 ”なんで守ってやれない?”


 ルーシーの手を両手でそっと握りしめた。本当に小さくて俺の両手にすっぽりと隠れた。


「ルーシー、俺はお前が嫌いじゃない!」


「そう、良かった」


 ルーシーがまた笑った。

 胸がざわざわするのに嬉しくて仕方がない。


「だから……」



 何を言いたいのか分からなくなっていると、その上にまた小さな手が乗せられた。



「アイザック、気持ちわかる!」


 弓の先輩(スカーレット)が笑った。


「ほら、ホムラも手乗せて」


「え!? なんで!?」


 僕も”なんで!?”と思ったが、ホムラが渋々片手を乗せると、


「せーのっ! なっかなーおり!」


 弓の先輩(スカーレット)が、つないだ手を上下に揺さぶり手を放した。


「アイザック、あんたいい奴ね」


 弓の先輩(スカーレット)が背中をバンと叩いた。


「フフフッ、”なかなおり”って子供の時みたい」


 また、ルーシーが僕の目を見て笑った!


 僕は嬉しくて堪らなくて、でも、顔に出すのも恥ずかしくてどうしていいのか分からなくなっているところに皆が集まってきて、余計に恥ずかしくなり訓練棟に駆けだしていた。

 訓練棟の医務室に行くと、サミュエル副隊長が笑って言った。


「大丈夫だったろ」


 僕が頷くと、「よく頑張ったな」と肩を拳で軽く小突いた。

 暫く治まらない胸のドキドキを静めてから、僕は訓練へ向かった。

 僕だって君に負けたままじゃ、男として恥ずかしい。



 今日こそ、剣術でルーシーに勝つ!


お付き合い頂きありがとうございます。

ブクマ★いただけましたら励みになります!応援よろしくお願いします!


※2021/10/29 気になっていた箇所、誤字脱字訂正しました。

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