43話 縦社会の怖さも、優しさと面白さがあれば乗り越えられる!
【アクアラグーン訓練場・ルーシー視点】
※王暦1082年5月10日。
合宿10日目。
10:00。
基礎訓練が行われている最中。土埃で煙るグラウンドに黒いTシャツに黒のパンツ、黒い編み上げブーツ、全身真っ黒コーデのジュード団長補佐が現れた。
空気が一気に重量を増したかのように息苦しくなった。
今日こそ勝とう! と決意して来たのに姿を見た途端に怖くなる。
もう、命の危険さえ感じる!
+++ +++
基礎訓練が終わり、グラウンドの半分を使い”ジュード団長補佐vsルーシー”の手合わせが始まった。
「よろしくお願いします!」
先週末、レイ兄さんとの手合わせで、もう少し慎重に相手を見極めて闘うよう言われたことを思い出しサッと身構えた。
「なんだ? 今日はかかってこねぇのか?」
ジュード団長補佐は余裕の表情で木刀を肩に乗せニヤっと笑った。
「じゃあ、俺から行くぞ!」
凄い速さで間合いを詰め、刃先で正面胸元を突いてきた。それを木刀で受け流し、そのまま木刀を振り向きざまに下へ振り下ろし団長補佐の左脚を狙った。
バシッ…
あっさり剣が当たった。
「お」
ジュード団長補佐が小さく声を上げた。
当てた事に驚いてジュード団長補佐の顔を見ると、眼帯をしていない方の赤い瞳がギラっと光り口角がグッと上がった。
「ほう、今日は大いに楽しめそうだな」
ひぃぃぃ……今の、まぐれです!
「行くぞ!」
今度もまたすぐに間合いを詰め、真横に剣を振ってきた。ギリ首元を掠めるも、回避。今度は下からを、回避。回避。受け流してからの回避。……
避けているとはいえ、剣先が僅かにかすめた肩からは血が滲んでいる。疲れてきたせいもあり集中力が切れそうになる。
とにかく避け続けるも、一向に隙が出来ない!?
距離を取り息を整えた。
ザッツ……タタッ
また、一瞬で間合いを詰めてきた!
ザッ……
後ろへバク転し避け切ったと思ったら、
グキッ!!!
着地に失敗し右足首をひねった。
ビタン!
そして、思いっきり地面に顔からぶつかった。
すごく痛い、泣きたいっ!
「ルーシー!」
サミュエル副隊長が声を上げこっちへ来るのがわかりホッとした。
一旦、休める!
「これで終わりか?」
!?
いつの間にか真横にジュード団長補佐が立ち、私の首元に木刀を突き付けていた。
冷たい目で私を見下ろし、嬉しそうに口元をニヤリと歪めた。
「くっ……」
くっそーーーー!!!
悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!!!!!
避けるだけじゃダメなのも分った。だからといって、正面からぶつかるのはもっとマズい。じゃあ、どうすればいいのだろう。
次第に大きくなる足の痛みを堪え立ち上がった。
「っ……」
痛い。骨折したかな……。
「ルーシー! ダメだ、やめろ!」
サミュエル副隊長が止めようとして、私とジュード団長補佐の間に割って入った。すると、
「サミュエル! お前は下がっていろ! 俺とこいつの勝負だ!」
ジュード団長補佐が怒鳴った。
「で、でも」
サミュエル副隊長は不安そうな顔で私を見つめた。
「やるのか! やらねぇのか! どっちだ!!!」
ドスの効いた声で叫び、赤い瞳でギラリと睨みつけた。
やりたい! けど、足がすごく痛い!
悔しいけど、この状態じゃ満足に動けない、それに、これ以上レイ兄さんやサミュエル副隊長に心配もかけたくない。
「やめます、やっぱ痛いので」
きっぱりと断った。
人生には断る勇気も必要だ!
「はぁーーーーーー?!そこは、やりますだろうがーーー!!!!!」
怒声と共に、ジュード団長補佐が凄い形相で飛びかかってきた!
どっちにしても、”やる”ほうだった!
上官命令! 縦社会怖いーーーーー!!!
「キャーーーーーー!!!」
殺されるーーー!!!
振り降ろされる木刀をガードしようと木刀を構えた瞬間、手元が輝き勇者の剣に変った。
ジュード団長補佐の動きがピタリと止まった。
『”キャー”じゃない、僕を呼べ』(勇者の剣)
爽やかなイケボが脳内に響いた。
シャルル、ありがどゔ、死ぬかどおぼった~。(ルーシー心の涙声)
手に握られた輝く勇者の剣が、姫を救いに来た王子様のように思えた。
『実際は、勇者を救いに来た、勇者の剣なんだけどね』
シャルルの言葉に、さっきの感動が吹き飛んだ。
『で、縦社会って何?』
それは、後で……
「フン。……魔力を使いやがって……ルーシー、医務室に行っていいぞ」
つまらなそうな顔で木刀を肩に乗せ、ジュード団長補佐はクルリと背を向けた。
「はい、ありがとうございます! では、失礼します!」
一礼すると、すぐにレイ兄さんとサミュエル副隊長が飛んできて、その場で私のブーツを脱がせ足首を診てくれた。
「こりゃ酷いな。あそこでやめてくれて良かったよ」
足も痛いが、別の事も気になった。
足、臭くないかな……。
心配しながら足首に触れるサミュエル副隊長の顔を見ていたが、表情は特に変化しない。セーフだった?
その後、レイ兄さんに背負われ医務室へ向かった。
+++
道すがらレイ兄さんの背中で、勇者の剣との会話を再開した。
『それで、縦社会って?』
ああ、役職や階級など上下の序列が重要視される社会の事。
基本的に階級が下の者は上の者の命令を聞くのが当たり前、という感じかな?
『ふぅ~ん。つまり、今の王制も君の言葉でいうと”縦社会”って言うんだね』
うん。
『君はあの悪魔が王で、本当に大丈夫だと思ってる?」
うん、べリアス陛下はああ見えるけど、真面目で優しいよ。
『ふぅ~ん』
+++
【医務室】
「いまから”癒しの光”で治癒する為に、君に触れても宜しいですか?」
「フフッ、はい」
サミュエル副隊長が診察台に座る私の頬に両手で触れた。
ぽわ〜
じんわりと暖かい光に包まれ、顔の痛みが引いていった。
癒しの光、最高! 気っ持ちいい!
……と、例によってサミュエル副隊長と目が合った。今回は睨んではこなかったが、アクアラグーンの温泉の色に似た水色の瞳を少し曇らせ、なんだか困ったような顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「ん〜~、そんな目で見つめられると、照れちゃう」
と、さらりと言って笑った。
この人は、本心なのか冗談なのかよく分からないことをいつも言う。
そんなに見つめるのがダメなら……。
「だったら閉じてますね」
と仕方なく目を閉じると今度は、
「ああっ、だっ、だめ、もっとだめ! 目あけて!」
サミュエル副隊長の慌てる声に目を開けると、更に困ったような表情でため息をついた。
「君といると心臓がもたないよ」
「ん? どういう意味ですか?」
サミュエル副隊長は、諦めた感じで更にため息をつきこう言った。
「俺は、君のことが好きだからな」
困った顔でニッコリ微笑んだ。
あまりにもさらっと言うので、“重い好き”とは違う、レベルで言うと“ベーコン好き”ぐらいの好きと判断し私も軽く返した。
「フフッ、私も好きですよ」
バンッ!!!
もの凄い音に振り向くと、レイ兄さんが目を光らせ医務室の机を拳で殴りつけていた。
「ルーシー相手に、なにイチャついてるんですか!」
「あーー、つい。深い意味は無い」
サミュエル副隊長が、焦った顔で両手をパッと放し手を上げた。
「フフフっ。兄さん、怒らないで。サミュエル副隊長は私を笑わせようとしてるだけだから」
サミュエル副隊長は、さっきまでのジュード団長補佐との手合わせの恐怖さえもすっかり忘れさせてしまう程優しくて面白い。
前回の”キメ顔”騒動も思い出すたびに笑ってしまう。
ホムラたちに話せないのが残念でならない。
「ルーも、簡単に好きとか言わない!」
レイ兄さんが、ほっぺを摘んだ。
「でも、嫌いとか言われるより、全然いいと思う……嬉しいよ」
「ダメだ! 勘違いされたらどうするんだ! まったくルーは、世間知らずだからそうやって、簡単に……」
パンパン……兄さんの説教が始まる前に、サミュエル副隊長が手を叩いた。
「はいはい。今度は、足な。腫れてんだろ」
サミュエル副隊長は、捻って赤く腫れあがった右足首を、大きな手で包み込んだ。
温かく柔らな光が手全体から溢れ出、痛みが和らいでいく。
「少しかかるかもな……」
うっすら額に汗をかきなががら、治癒しているサミュエル副隊長の横顔をボンヤリ見つめた。
普通にしていればかっこいいのに……。
+++
「よし……どうだ?」
治療が終わり足首を動かしてみると、痛みも違和感もない。もちろん腫れもすっかり治まっていた。
「大丈夫です」
「今日一日は、様子を見て安静にして。あと、そのボロボロの訓練着は、あとで注文しといてやる。サイズは一番小さいSSでいいな」
騎士見習用の水色の半袖の訓練着は、何か所か破け血の跡や土汚れが付いていた。
「はい、ありがとうございます」
「サミュエル副隊長、すいません。机壊しちゃいました」
「ええっ!?」
さっきレイ兄さんが叩いた机の脚が1本外れかけ、斜めになっていた。
ドアの次は、机。
規模は私ほどではないが、兄妹こういうところが似てしまうのもどうなのかと、ちょっと考えてしまう。
「お前な~ここ来るたびに物壊しやがって、まあ……俺のせいでもあるからな」
「すいません。ブラッド隊長には報告して謝っておきます」
「わかった。じゃあルーシー、今日は安静だぞ!」
「はい」
サミュエル副隊長に念を押され、私はレイ兄さんと訓練場へ戻った。
午後は、元聖女エスタさんの魔力強化訓練がある!
そして、”アイザック爆睡神殿警備計画”!
成功するといいな!
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※医務室のドアは、修理業者が忙しくしばらく来られないとの事で、取り外され現在ドアは無い状態です。
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※2021/10/26気になる箇所訂正しました。
2023/1/23気になる箇所訂正しました。




