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40話 家バレしたので引っ越す!

【王都アンフェール城上級騎士寮・オスカー視点】


 ルーシーが合宿に行ってから1週間、王宮では新しい訓練棟の建設が始まっていた。


 陛下の計らいで、女性騎士見習は馬車で移動し、特別な宿に滞在すること。表向きは女性騎士の引率としてだが弟のレイがルーシーの護衛をするということ。ジュード団長補佐が剣術の相手になること。そして、元聖女エスタ様がルーシーの魔力の調整の訓練を指導なさることを、陛下の宰相兼執事スチュワート様より、先日口頭で伝えられた。


 陛下は、ルーシーが合宿へ行ってからしばらく体調不良で休養しておられたが、復帰なさると精力的に公務をこなし、近々、北のバンディ城でノール帝国を交えた王国周辺の海域についての会談も予定されている。陛下は、合宿を視察されながら北の城へ向かわれる予定で、近衛騎士として陛下の視察に同行出来れば、合宿地でルーシーやレイに近況を聞くこともできるのに……と頭の片隅で期待を膨らませていた。


 考え事をしながら寮の部屋で寝転がり、休日を満喫していると……北門の守備騎士のエドガーさんから呼び出しが来た。


「家の者が来ている。用事があるそうだ。それにしても、親父さんそっくりだな」


 父さん?


 +

 +

 +


 北門まで行くと、クリーム色の城壁の影で行商人風の格好に茶色のフードを被った父が、俺を見つけ小さく手招きした。



「父さん、どうしたんですか?」


 近くまで行くと、父は辺りを気にしながら小さな声で話し出した。



「(小声)オスカー。お前に相談したい事があってな。ルーシーが婚約したというのは本当か?」



 父の住む山奥にまで、その噂が広がっていたのかと、呆れていると。



「家に、妖精王が来たんだよ」


「え!?」


 ”家に妖精王”という単語に思考が止まった。


「だから、妖精王」


「あの?」


「そう、あの妖精王」


「なんで?」


「息子との婚約の記念に、これを……と」


 懐から巾着袋を取り出し、口を少し開け中身を見せた。中には、今まで見た事がないような大きな宝石の付いたネックレスやブレスレットなどかビッシリ詰まっていた。



「どうしよう、オスカー」


 至極、困った表情で俺に(すが)った。

 でも、待てよ……本当に妖精王なのか? ルーシーとイムの婚約話を聞きつけ、山暮らしをしている純朴な父を騙そうとしている悪い輩かもしれない。


「どうって、母さんは何て言ってる?」


「売っぱらって引っ越そうと、今街で家探してる」


「売っぱらう!? 引っ越し!?」


 母さんらしい考えだが、売るのはマズいだろ。


「妖精王に自宅知られちゃったし、また来たらと思うと怖くて。しかも、()だったから余計怖かった」


 とボヤいた。



 ()()()妖精王だ!

 右手で頭を抱えた。



「……ああ、何から話そう。まず、ルーシーは婚約してない。相手は俺の同期の親友。そいつも婚約するつもりは無いと言っている。宝石はやっぱり売るのは辞めといた方がいいよ、返そう」


「どこに?」


「イムに返す。その妖精王の息子。貸して」


 ずっしりと重みのある袋を受け取った。



「オスカー、新しい所が決まったら連絡する。じゃあ、頼むぞ!」



 父はホッとした様子で、足早にその場を後にした。

 それにしても、妖精王が実家にまで来て、宝石を置いていくなんて尋常ではない。急いで寮へ戻り、イムの部屋のドアをノックした。



 コンコン


 ……



 返事がない。今日は訓練か?

 もう一度ノックしてみた。


 反応がない。


 すると、隣の部屋の同僚の第2部隊クリスが顔を出した。



「イムなら、今週一週間休みで、戻るのは来週だとよ」


「どこへ行った?」


「さあ」


 イム……どこにいる!?

 俺にこの宝石の管理は無理だ!



 そして真っ先に頭に浮かんだのは、陛下の宰相兼執事。妖精族の”スチュワート様"だった。

 急ぎ黒い隊服に着替え、王宮へ向かった。


 今日、陛下は昼食後ベランダでティータイムをしている筈だ。スチュワート様がいらっしゃればいいが……。


 中庭を駆け抜け、ベランダが見える位置まで来ると、トレーを持ちポットでお茶を注ぐスチュワート様の姿が見えた。そして、すぐに私に気付き、小さく頭を下げた。


 俺はその場で跪き敬礼した。

 どうにかしてスチュワート様に相談したいが、気軽に声をかけることなど絶対許されない。


 1分ぐらいだろうか、頭を下げ続けていると、


「何かございましたか?」


 低く落ち着いたスチュワート様の声がした。

 見上げると、眼鏡越しに鋭い眼差しで俺を見つめた。


「スチュワート様、相談がございます。お時間宜しいでしょうか?」


「構いませんよ」


 表情を変えず静かに了承してくれた。

 ホッとするもこんな私事、頼んでいいのだろうかと今更ながら先走ってしまった自分の行動を後悔し始めていた。



「どうぞ、仰ってください」


 スチュワート様の問いかけに俺は大きく息を吸い、怖気付きそうな気持ちを噛み殺し声を振り絞った。


「恐れながら、先日、妖精王様が私の実家に来訪された際、婚約の証としてこの宝石を置いて行かれました。ですが、妹ルーシーはまだ15歳。本人も婚約したつもりもなく、その、頂いた宝石を両親が持てあましており、スチュワート様に預かって頂けないかとお願いに参りました」


 俺の話にスチュワート様は、眉をピクリと動かし信じられないというような表情をなさった。


「妖精王様が、宝石を……ご実家に……」


 呟くように俺の話を反復し、しばらくお考えになっていた。


 ・・・・・


「妖精王様にお返しするのも無礼になります。いいでしょう。私が預かっておきます。必要な時はいつでもお返しいたします」



「ふーん、あいつ、君の実家まで来たのか」


 黒髪をサラリと靡かせ白いブラウスに黒のスラックス姿の陛下が突然、スチュワート様の背後から現れた。


「陛下!」


「私のルーシーを、どうしてもあの息子と結婚させたいのだな。先走りやがって……」


 どうやら陛下はルーシーの婚約は、まだ()()とお考えのようだ。


「陛下、少しばかり口を慎んで下さい。ルーシー様のお兄様の前ですよ」


「ならば、ここではっきりさせておこう。ルーシーは、()()()()()。誰にも渡さぬ。安心しろルーシーの兄」



 ああ、陛下はルーシーを"王国を守護する勇者"として、大切に思われていらっしゃる。まだ未熟で頼りないルーシーを、()()() とまで仰られるなんて、さすが一国を治める王。器が違う!!!



「ありがたきお言葉、恐縮であります」


 胸が熱くなり、涙で声が裏返った。


「オスカー殿!?」


 なぜかスチュワート様は慌てた表情で俺を見つめた。



「来週から私は、アクアラグーンに滞在する。ルーシーの兄。お前も一緒に行かないか?」


「陛下! 近衛騎士の人選は騎士団に一任しております。勝手な人選はご遠慮頂かないと」



 ああ、陛下が、まだ副隊長の階級の俺に気をお使い下さるなんて…



「お、恐れながら陛下! 身に余るお気遣い、誠にありがとうございます。陛下()()の近衛騎士並びに、ゆくゆくは騎士団長になれるよう日々精進して参りますゆえ、並々ならぬご好意、お気持ちだけ頂戴致します。では、失礼致します」



 これ以上、副隊長の分際で、陛下にお気を遣われるなんて滅相もない、ルーシーの為にも、そして陛下のためにも俺は、騎士団長になってやる!!!




 +++++

【王都カルカソ、アンフェール城王宮・ベリアス視点】



「オスカー様…!?」



 スチュワートが信じられないモノを見たような顔で彼を見送った。


 ルーシーの兄、”オスカー”といったな……私の言葉に、涙を浮かべ至極喜んでおった。実に忠誠心の強い、犬の様な男だ。


 ルーシーと私が晴れて結ばれた暁には、あの兄を騎士団長に推してやってもいいだろう。


「フハハハハ!!!」


 しかもあの兄、()()()()()を受けている。



 あの兄を使い、合宿中のルーシーを部屋から()()()()連れ出す事も可能かもしれぬ!

 夜のアクアラグーンでランデヴー、大人の魅力でルーシーを必ず()()()にしてみせる!!!



 待っていてくれ、ルーシー!



「陛下、何を笑っておられるのですか? 妖精王だけではありませんよ、これは私の憶測なのですが、天使界でも”勇者”争奪戦が水面下で始まっているとの情報もございます。急がなければなりませんよ」


「いよいよ来週だな。合宿視察。ルーシーと温泉に入り語らい共に就寝する時間は、もちろん予定に入っておるのであろうな?」

 

「はい?」虚を突かれたような顔で私を見返した。


「まさか、入っておらぬのか!?」


「……アクアラグーンの温泉に入り、ルーシー様と語らうお時間はございますが、共に就寝なさるのは、陛下の日程上厳しいかと……」


「なにが!? なにが厳しいのだ!?」


「早朝より訓練を視察なさった後、ノール帝国の大臣との昼食。その後、南の海洋の防衛について話し合いが行われ。終わり次第ディナー。その後、ルーシー様と夜のアクアラグーンでのプライベートエリアで温水浴をお楽しみいただけます。そして、その後、条約締結書類()()に目をお通しいただき、ノール帝国との交渉内容を把握し、「まだあるのか」


「はい、国同士の大事な取り決めですので、陛下にも()()()ご確認して頂かないと」


「……で、ルーシーとの語らいの時間は?」


「3日目、夜です。その次の日、向かわれるノール帝国との会談から、ルーシー様がご同行する予定ですので、ルーシー様の隊服を新調いたしましたので、裾直しを一緒になさいます」


「そうだった! あの北の海の王、勇者を見せろ! 見せろ! とうるさく言いやがって。お陰でルーシーと一緒の時間が増えて私は幸せだ! で、隊服はどのような……」


「少々お待ちください」


 スチュワートが、部屋へ戻り、仮縫いしたばかりの隊服を持って戻ってきた。


「こちらです」


「!こ、()()騎士の隊服じゃないか!? スチュワート! 以前、お前はルーシーを近衛騎士にするのを反対したはずだが」


「はい、そうでしたが、ノール帝国との同盟締結という公の場で、騎士見習の隊服では我が国が勇者をぞんざいに扱っていると思われかねません。そして、改めてルーシー様の実力を鑑み、熟慮した結果、()ですが陛下直属の近衛騎士としてご同行して頂くこととなりました」


「私()()の近衛騎士かぁ~~~」


 ルーシーが私を護衛する、決して側を離れぬ近衛騎士に……。


「ですので陛下、国王としての務めを最優先にお考え、ご公務に集中していただけるよう私も、御助力いたします」


「わかった♪」



 ルーシーが私の近衛騎士♪

 王としての威厳を傍で見せつけるチャンスだ! 

 あれこれ面倒な、ノール帝国との同盟締結も、ルーシーが一緒ならば決して挫けたりしない! 

 来週が楽しみだ~♪


+++++

ご覧いただきありがとうございます!


※2021/10/26 気になる箇所訂正しました。

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