4話 騎士見習試験を、記念受験する人もいる。
【王都アンフェール城・ルーカス(ルーシー)視点】
※王暦1082年3月30日。
騎士見習試験当日!
騎士見習試験は、終日行われる。
午前は、体力測定並びに持久走(城の城壁の間の道を3周)。午後は、体術・弓・剣術のトーナメント戦。
この午後のトーナメント戦は、観衆の中行われる。
城内・城下の人々にとって格好の娯楽で、各優勝者には国王より名誉と金一封が贈られる。
参加者は、約60名。
私以外、女の子の参加者は見たところいないようだった。
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アンフェール城内・訓練棟で行われる体力測定がはじまった。
懸垂や握力……男子たちと比べ腕力のない私は、終始周りの参加者に嘲笑されていた。
その中でも、取り巻きを二人連れた町一番の商家の息子らしい(自分で言っている)、色白金髪、そばかす、そして小太りの少年が私に言った。
「お前、記念受験なのか? だとしても、こんな事もまともに出来ないんじゃ、試験官の騎士に失礼じゃないか」
こういった輩は関わると面倒なので、終始無視し続けると、出っ歯の“取り巻き1“が騒ぎ立てた。
「お前、ジュリアンさまに失礼だぞ!」
「ブッ!」
見た目と名前のギャップに思わず吹き出した。
「今笑ったな!? なんて奴だ!」
ひょろひょろの長身の“取り巻き2“が私に掴みかかろうとした。
その腕を、誰かが掴んだ。
「やめないか!」
いい声! イケボ!?
辺りが一瞬静まり返った。
見ると浅黒い肌に茶色の髪の、大柄なガチムチの青年が“取り巻き2”の腕をつかみ、すごい形相で彼らを睨みつけていた。
「さっきから見ていたが、我慢ならなかった。君たち、いい加減にしないか」
やっぱり、イケボ!
「すっ、すいません!」(3人)
「この子に謝れ!」
イケボ!
声の響きに、胸の奥がじーーーーんと熱くなる。
「す、すいません」(3人)
「声が小さい!」
声が最高!(心の声)
「すいませんでした!」(3人)
3人は謝罪すると、その場をそそくさと離れた。
「俺は、マリオンだ」
爽やかな笑顔で、マリオンと名乗る青年は右手を差し出した。
その容姿でイケボはずるいっ。
私は焦りながら手を握り、その深い緑色の瞳を見つめた。
「ルー、ルーカスだ。ありがとう」
偽名を使っていること、そして、男として参加していることを心の中で猛烈に後悔した。
「それにしても、お前、華奢だなぁ、ちゃんと食べてるのか?」
「ええ、まあ……」
「ここで騎士になれば、腹いっぱい食べられる。お互い頑張ろう!」
「お、おう」
私の背中をポンと叩き去って行った。
”正義のイケボ”
彼の番号は、“46”。”マリオン君”ね。
立ち去る彼の背中に向け、私は心の中で叫んだ。
イケボ最高!
+++
体力測定も無事に終わり、今度は持久走。
受験生たちは、アンフェール城を二重に取り囲んでいる城壁の間の道を3周(約10キロ)する。
魔力は使えないように、試験中城壁の中は魔力無効の術がかけられている。
パァーーーン!!!
銃声とともに受験生たちは、一斉に走り出した。
魔力を使わなくても普段から身軽な私は、あっという間に先頭集団のトップをあのマリオンというイケボの青年と二人で走っていた。
余裕からなのか、マリオンが話しかけてきた。
「やっぱり、お前は身軽だから速いな」
「君こそ、どれだけ鍛えてるんだ!?」
何を食べたらそうなるのか、筋肉量が半端ない。
っていうか……なんというか、どうしても、剝き出しのムキムキの筋肉に目がいく。
「寝るとき以外全部鍛錬だ!」
「え!?」
「冗談だ、ハハハハハハ」
冗談に聞こえないし、それに……
「なんで上着着てないの?」
「暑くてな……お前は暑くないのか?」
「そっ、それほどでも……」
私はイケボのムキムキに気を取られながら、あっという間に3周目を走り終えようとしていた。
そのゴール直前。
目の前に、さっきの太った商家の息子ジュリアンが、土埃にまみれ足を引きずりながら歩いていた。
取り巻き1・2の姿は見当たらない。そうしてるうちにジュリアンは、よろめき倒れ込んだ。
「おい、大丈夫か?」
私がジュリアンに声をかけると。マリオンが、
「放っておけ、自業自得だ。ルーカス行くぞ」
「でも、こいつ、めっちゃ泣いてる。……誰にやられた?」
「……うっ……転んだら、誰かに何度も蹴られて、気付いたらオーウェンも、ディランも誰もいなくて……」
ボロボロに破けた上着に、引きちぎられた番号札。転んだだけで普通は、こんなふうにはならない。
こいつの事は好きじゃないが、弱い者いじめをする奴はもっと嫌いだ。
涙でぐちゃぐちゃになったジュリアンに、私は言った。
「立てるか?」
「俺の事なんか、放っておいてくれよ!」
ジュリアンが手を払ったが、強引に肩に腕を回した。
「うるさい! お前ん家“でかい商家”なんだろ! 騎士になれなかったら、お前の家で働かせてもらうからな! いいな! 約束だ!」
「!?……はぁ?」(ジュリアン)
「ハハハハ! そういう事なら、俺も」
マリオンが、もう片方のジュリアンの肩を持ち上げた。
さすが、正義のイケボ!
『行くぞ、せーの!』(3人)
……と、もう一周私たちは走り出した。
次々に、騎士見習試験受験者がゴールする中、私たち3人は一番最後にゴールした。
もしかして、失格になり、午後のトーナメント戦に出場できなくなったらどうしようかと心配していたが特にお咎めは無く、私たち3人はホッと胸をなでおろした。
【アンフェール城訓練棟西の木陰・ルーカス(ルーシー)視点】
受験生たちは昼食を食べ終え、皆思い思いの場所で昼休憩を過ごしていた。
私は、友達になったマリオンとジュリアンと、訓練棟西側の涼しい木陰に寝ころんだ。
「……ずっとお前を見ていたんだ」(マリオン)
「ぶっ!」(吹き出すルーカス)
マリオンが唐突にイケボで話しはじめた。
「王都へ来る途中、宿場町で歌を歌っているお前を見て、俺は感動したんだ」
「へ……へぇ、そうだったの」(汗汗汗汗)
(回想)王都の近くだから観客が多くて嬉しくなって、調子こいてアニソンメドレー歌ってたりしたな。
いったい、いつからいつまで見ていたの!?
マリオンの登録番号46……って、まさか。
とにかく、とにかく、落ち着け、女子ってバレてないよね。
「で、試験場に着いたら、お前がいて驚いたよ。男だったとは、はぁ~~~(ため息)」
「なになに?」
ジュリアンが身体を起こし、マリオンに詳しく話を聞こうと詰め寄った。
「ルーカスは歌がすごく上手いんだ。あれは自作の詩か?」
「違うけど、その話はもう、……恥ずかしいよ」
顔を手で覆うと、ジュリアンが面白そうに、
「なんか可愛いなルーカス。ねえ、なんか歌ってよ」
と笑った。
「いやだよ」
「なあルーカス、午後のトーナメント戦でどれか一つでも優勝出来たら、俺に一曲歌ってくれないか?」
マリオンも起き上がり、寝転がる私を真面目な顔で見下ろした。
「やだ!」
「賞金を半分やる」
賞金半分!? そうきたか~!?
「ううう……じゃあ僕が優勝したら、マリオン、君に僕が教えた歌を歌ってもらう!」
どうだ! とばかりに飛び起き提案すると、マリオンはニヤリと笑い手を差し出した。
その手を横からジュリアンが握った。
「じゃあ僕が優勝したら、二人の歌、聞かせてね」
「出来るのか!?」
二人が驚くと、ジュリアンが嬉しそうに
「弓だったら、俺、負ける気ないよ」
と、テーピングされた大きな両手を広げた。
言われるまで気が付かなかったが、ジュリアンは肩周りがガッチリしていて、姿勢もいい。聞くと、商家の慣習で小さい頃から弓の鍛錬は人一倍していたらしい。
「じゃあ、トーナメント戦頑張ろうね!」
私たち3人は、拳を合わせトーナメント戦の会場へ向かった。
お付き合い頂きありがとうございます。
※2021/6/16 行間とか少し気になるところ訂正しました。
※2021/9/14 気になる箇所、訂正しました。
2021/10/14 訂正しました。
2021/11/20 訂正しました。
2023/1/15 訂正しました。