35話 ドキドキが止まりません
【ホーリウッド西樹海の入口・スカーレット視点】
※王暦1082年5月2日。
アクアラグーンに到着して翌日。午前。
私はレイ副隊長と同じ宿で過ごせる♪ と浮かれていた。
レイ様の事を考えながら窓の外を眺めていると、遠くの森で何かが動いた。
私達が滞在している宿から西。湖の先にある森から視線を感じる。
気のせい?と、思ったが、時折揺れる木立や、鳥や動物たちの様子がなんだかおかしい。気配を感じた方へ弓を放ってみたが、外したのか変化は無かった。
逆に、おかしい!
鳥や動物ならすぐにその場を立ち去り、僅かでも樹々が揺れるはず。変化がないなんて……。
気持ちの悪いこの感じ。一体、何なのだろう。
夕方。訓練が終わった後も気配は続き、隣の部屋のホムラも気にしているのか、私と同じ方向をずっと睨みつけていた。
+ + +
※王暦1082年5月3日。
翌早朝。
ホムラが窓から飛び出す気配に気が付き後を追った。
きっと、あいつを見つけ捕らえに行くつもりなのだと直感した。
夜明け前の澄んだ空気がピンと張りつめ、湖を渡る風の音が微かに聞こえる。
湖を回り込み樹海の入り口の方へ、音もたてずに進むホムラを私は追いかけた。
樹海の入り口で立ち止まり、スッと弓矢を構え木陰に入っていく……。
私も動きを止め、別の木陰へ隠れ気配を消した。
「き、君は!?」
そう声を上げ飛び起きたのは、妖精王の第三王子、神殿騎士イム副隊長だった。
え?
ええっ!?
これって!?
イム副隊長は、ホムラにバレてしまい焦った顔で、”陛下の執事のスチュワート様”に頼まれたと言っているが、違う!
絶対に違う!
これは……
王子が婚約者ルーシーを守りに来たのよ!!!
キャーーーーーーー!
なんて……なんて、素敵な展開なの!
”ルーシーは、変わりないか?”(キラキラが見える)
イム副隊長の控えめな質問に、声が出そうになり口を押える。
キャーーーーーーー!!!
もう、ルーシーの事が心配でしょうがないって感じじゃない!?
しかも、”このことは黙っていてほしい”とか、”何かあったら矢に恋文(※スカーレット先輩の聞き間違えです)付けて飛ばしてほしい”とか……。見かけによらずイム副隊長って”情・熱・的”!!!
ああ、もどかしい~~~
ドキドキが止まらない!
(以下スカーレット先輩の妄想)
婚約者”ルーシーに会いたい”という、熱い思いに身を焦がしながら、離れたこの場所から、雨の日も嵐の日でも密かに彼女を護衛するのね。
近くにいるのに会えない二人。
降りかかる恐怖の魔の手から婚約者を密かに守りに来た王子は、敵と戦い、傷つきながら、婚約者のいる窓辺に花を届け倒れ息絶える。知らずに幸せに過ごす婚約者ルーシーは一凛の花を見つめ、王子の名を呟く……。「イム王子」
(妄想終わり)
「ううっ……死なないでーーイム王子!」
「殺してないよ。それに、いろいろ聞こえてた」
ホムラが冷たい目をして、私の背後に立っていた。
「あ、そのっ……」
やだ、興奮してつい声に出てしまっていた。
「あの王子の事、先輩も見てたんなら黙ってて」
「わかった。私も応援する」
「?」
ホムラは微妙な顔をした。
「えっ? そういう事でしょ?」
「……なにが!?」
困惑した表情でホムラが私に聞き返した。まさかこの子、わからないの!?
「王子が婚約者ルーシーを守りに来たに、決まってんでしょ!」
「はぁ? 先輩寝ぼけてんのか!?」
「寝ぼけてるのは、ホムラの方よ!」
「私!?」
「あんた恋愛経験無いでしょ」
「はぁ!?」
「あれは絶対、婚約者のルーシーの事が心配で来たに違いないわ!」
「……まあ、そうとも言えるけど」
「でしょ! でしょ! ルーシーへの恋心駄々洩れだもの」
「フッ……そういやそうだな。フフッ」
ホムラが笑った。
「ね、ね、それで、
「はい!スト――――っプ! やめやめやめやめ……やめてーーー!」
突然現れたイム副隊長が、話に割って入った。
「君たち、もうお願いだから、ここで騒がないで。俺はルーシーとは婚約してないし、王子でもないから、本当にお願いだから、もうやめてね。絶対、やめてね! はいはい、宿にさっさと帰ってね!」
イム副隊長は憔悴しきった感じで言い終えると、木立の中に消えて行った。
顔、真っ赤だった。
ホムラと顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。
絶対、ルーシーの事が心配でここへ来たに違いない。
確定!
「だってさ、行こう先輩」
「うん」
ホムラが、私の事を先輩と呼んだ。ちょっと嬉しかった。
+
+
+
合宿が始まる前から、緊張で夜も眠れなかった。
ルーシーの勇者の剣を訓練所に届けようとして、剣の雷撃に弾かれ寮を壊してしまった。謝らなければいけないと思っているのに、あの子の顔を見ると余計なことまで言ってしまう。レイ様の大事な妹なのに。あの目を見つめると、緊張して言いたいことが言えない。
綺麗すぎる、深い青い瞳。
あんなに可愛いくて明るくて友達がいて、レイ様の妹。
田舎育ちで、可愛げのない、友達もできない私なんて、あの子たちと2カ月も一緒にやっていけるのだろうか。
暴言を吐かないように気持ちを張り詰める。
ルーシーが挨拶してくるのに、目を合わせられない。
”ごめんなさい”と、言いたいのに……。
唯一の救いは、レイ様。
女性騎士の引率担当になっているので、四六時中一緒に居られる!
レイ様はいつもルーシーばかり見ていて、部屋もルーシーの隣。そして、常に何か警戒しているように見えた。
ルーシーは勇者。
彼女はこの前、妖精王に攫われかけ、イム副隊長と婚約した。
はじめは、意味が良く分らなかったが、妖精王からルーシーを助けたのがイム副隊長で、それで二人が婚約したという噂を聞き、
ときめいた!
今、ルーシーは恋をしているのね。
なのに。その話もしたいのに、目を合わせると上手く話せない。
夜の魔獣討伐が始まってからは、ホムラとは少しずつ話せるようになってきた。
口は悪いけど、率直に私に意見をぶつけてくれる。
少し、おかしいのかもしれないが、口喧嘩も楽しい。
樹海からの嫌な視線を感じていた私に、ホムラも気が付き、無言で目配せしてくれたり。さっきも、私が追ってくることをちゃんと分かった上で、飛び出したに違いない。
私を信頼してくれているみたいで嬉しかった。
明日から、後輩たちと出来るだけ挨拶できるように、話すことができるように頑張ってみる。
そして、先輩として、ルーシーの恋を応援しないと!
お付き合い頂きありがとうございます!
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※2021/10/12 誤字脱字訂正しました。
※2023/1/19 気になる箇所直しました。




