34話 童顔のドは、ドSのド♪
【アクアラグーン西訓練場・ルーシー視点】
※王暦1082年5月3日。
合宿3日目。
朝、訓練場に着くと、私達と同じくらいかな? いや、年下かな? と、思えるくらいの小柄で、肩に届く長さのウェーブがかった緑髪の可愛らしい少年が来ていた。
白いTシャツにベージュの七分丈のパンツにサンダル履きで、訓練場の中央のベンチにちょこんと座り、足をブラブラさせている。
訓練を見学に来た町の少年かな? ……と考え私たちは声をかけてみた。
「おはよう、君、どこの子?」
「家は?」
「今から訓練始まるから、危いよ」
「騎士になりたいの?」
「何歳?」
声をかけると少年はニッコリ笑うだけで何も話さない。
逆に私たちは、その少年に何か事情があると考え、質問攻めにしていると、さっきまでニコニコしていた少年が大声を上げた。
「お前ら、誰と思って話しかけてんだ!」
太い声!?
「え!?」
焦ってレイ兄さんの方を見ると、肩を震わせ口元を手で隠していた。
「ハント副隊長、その辺で」
後からやってきたブラッド隊長の声に、私たちは愕然とした。
上官だった〜。
ハント副隊長って、第8の特殊部隊の!
さっきまで幼く見えていた顔は豹変し、落ち着いた青年のような顔つきになっていた。
これは詐欺だ!
「人を見かけで判断しない! いま僕1人で、君たち全員を無力化する事もできたよ。じゃあ、全員仲良く訓練場10周!」
その後も、私たちの体力を見るためと称し、懸垂やら、腕立て、スクワット、などそれぞれ200回……しかも、苦しむ私たちを見て楽しそうに微笑んでいる。
ドSなの!?
「これぐらいで疲れたなんて言うんじやねぇ、休憩終わったら北の神殿まで走るぞ!」
ジュリアンが悲鳴をあげた!
「ひぃぃぃ〜」
私は声も出なかった。
+ + +
休憩中、レイ兄さんが話しかけてきた。
「ルー、ハント副隊長はオスカー兄さんと同期なんだよ」
「ええっ!」
あんな可愛い顔してるのに、25歳!?
しかも、ドS!?
なんかのアニメであったな、童顔でドSって。
その時は、面白いなーと思って見てたけど、される側はたまったもんじゃない!?
……実際にいるんだ。
「任務経験が豊富で、国中の地形とか頭に入っているし、急な作戦変更でも臨機応変に対処出来る、すごく優秀な騎士なんだよ」
レイ兄さんが尊敬の眼差しでハント副隊長を見つめた。
兄さんはそっちに行っちゃダメだからね、その涼しい顔でドSとか、絶対怖いから!
「君たちに副隊長だって言わないでって言われて、笑い堪えるの大変だった」
「……」
疲れて喋る気にもなれずにいると、ホムラが目を赤く光らせ小声で私に言った。
「あいつ、この前の……なんとなくわかってきた」
「ホムラ、どうしたの?」
「ルー……あ、やっぱり何でもない」
スカーレット先輩もホムラ同様、すごく怖い顔でハント副隊長を睨みつけていた。
いきなりこれじゃあ、睨みたくなるのもわかる!
+ + +
「さあ、神殿まで走るよ!」
楽しそうなハント副隊長の掛け声で、私たちは神殿へつづく坂道を駆けあがった。
【ホーリウッド西樹海の入口・イム副隊長視点】
※時は少し遡り、合宿2日目午後。(5月2日)
勇者ルーシーの滞在先の宿が見える樹海の西の入り口にたどり着いた。
とりあえず態勢を整えるため手ごろな茂みに身を潜め準備していると、第8部隊ハントが木の上から俺を見つけフッと笑った。
「やっぱり、来たんだね。イム王子」
「王子じゃねぇよ!」
俺の幼なじみで同い年。ウェーブがかった肩ぐらいの深緑の髪。青い瞳に小柄で童顔。そばかすが余計に奴を幼く演出し、大概の奴はこいつをナメてかかり返り討ちにあう!
「絶対、誰かいると思ってたが、お前か……」
音を立てずスルスルと木から降り、俺のいる茂みに入り身を屈めた。
「(小声)スチュワート様に頼まれてね。助かったよ~。任務を理由に訓練指導休んでるから。で、勇者の部屋は、二階の右から3番目。ほら、窓枠に植物が生えてる」
指射す方向には、花や植物で囲まれたような2階建ての宿が見えた。その2階の部屋の窓の一つに、白い花をつけた植物が見えた。1階は、湖に面した庭があり、藤棚で木陰を作り、椅子やテーブル、ソファーを設置し、カフェとして営業している。
「……わかった」
「で、いつまで居られる?」
「8日までかな。その後は誰か来るのか?」
「わからない。スチュワート様は、早めにこっちに来るようなことを仰ってたな」
俺もあの執事の命令でここへやってきた。やはり、ルーシーの安全を危惧しているようだ。
「何か、不審な点はあったか?」
「……それなんだけど、昨日、僕が到着する前にもう誰か来たみたいで、聖女の女の子が結界を張りなおしてた。……大丈夫、勇者は無事だよ」
「あの黄色いインクの?」
「そう! ここのは蛍光色だってさ。笑える。誰だろう」
ハントは楽しそうに、いたずらっ子のような笑顔を見せた。
「ああ、あと勇者と一緒にいる悪魔族の女の子二人。凄く目がいいから気を付けてね」
「わかった」
音を立てずにハントは、湖沿いの新緑の木々の緑に溶け込むように姿を消した。
+ + +
草木に紛れ監視を始めた。
青い空は次第に夕闇が迫り星が輝きはじめた。
ルーシーの部屋の明かりがついたのは、23時過ぎだった。そしてすぐに灯りは消えた。
兄が現れるなら”夜”だ。
身を潜め樹海に神経を向ける。
さまざまな花の香りや木々のざわめき、動物の鳴き声……睡魔と戦いながら監視を続けた。
"我が国の勇者を極秘に警護して頂きたい"
スチュワート様から頼まれたとき、俺は飛び上がるほど嬉しかった。会って話をすることは叶わないが、こうして遠くから見守っているだけで心が満たされた。俺がここに居ることで、勇者ルーシーに対する兄の興味を逸らせるのであれば、いくらでも相手になってやる!
(※5月3日)
東の空がようやく白んできた頃、俺はやらかしていた。
いつもルーシーの傍にいる悪魔族の女の子が、寝転がって監視していた俺を、弓を構え見下ろしていた。
「き、君は!?」
慌てて飛び起きた俺を警戒し、目を赤く光らせた。
「気配バレバレ。妖精王の王子がどうして? ルーのストーカー?」
「違う! あ〜、もう、なんで?」
彼女の気配に全く気が付かなかった。
「他の奴は?」
彼女は周囲を注意深く見渡した。
ハントの事まで気づいてたのか?
だからか気を付けろって、あいつバレてんじゃねーか。
「……交代した」
「ルーシーの見張り? それとも、拐かしにきたの?」
「スチュワート様の命で来た。うちの兄貴がそこにいるんで、対処してくれと」
樹海を指さした。
彼女は弓を構えながら樹海をチラと見、すぐに俺に視線を戻した。
俺、信用されてないのかな……。
「ふーん。ヤバイ奴なのか?」
「ああ、厄介だ。君も、気をつけろ。幻術を使って樹海に騎士見習を誘い込んだりする」
「…幻術か」
「ルーシーは、変わりないか?」
俺の問いかけに、やっと彼女は矢を向けるのをやめ小さく頷いた。
「ここに俺が来ている事ルーシーに黙っててもらえると、ありがたいんだが」
彼女は、少し考え、
「わかった。けど、もう少し上手く気配を消さないと、バレバレだよ」
「そうかーー。しばらくぶりだからな。何かあったら連絡する。君も何か気になる事があったら、その矢に、手紙でも付けて飛ばしてくれ」
彼女は頷き、木立の奥のもう一人が隠れているいる方向に消えて行った。
あの悪魔族の女の子は、ルーシーが攫われそうになった時、妖精王相手に戦闘していた。気配の消し方や動きにも無駄がない。優秀な子だ。
それにしても簡単に見つかっちまうなんて、不覚だった。木の上に移動し、擬態用の草を生やし息を潜めた。
このままあと6日か……厳しいな。
「………………
「…………
ん……!?
さっきの悪魔族の女の子たちの声が聞こえる……
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※2021/10/12 誤字脱字訂正しました。
※2023/1/19 気になる箇所直しました。




