33話 3人の似た者同士
【北の神殿の森・レイ副隊長視点】
※王暦1082年5月2日。夜。
(レイ回想)
合宿前、第1部隊ブラッド隊長からある相談を受けた。
北の神殿付近の住民からの、”聖なる森”の小型魔獣の討伐依頼だった。
北の神殿には結界が張られ魔獣は近づけなくなっているが、神殿以外の森には夜になると夜行性の魔獣が出没し、街まで降りてくるものもあるらしい。
依頼は、"麓付近に現れる魔獣を駆除して欲しい"というものだった。
今回、合宿の引率の中で一番年下で、女性騎士引率担当として北の神殿近くに滞在している僕に白羽の矢が当てられたらしい。
騎士見習何名かで手分けし駆除しても構わないというわけで、ルーシーの神殿までの警護に支障が出ないよう、打って付けの人材に声を掛けた。
騎士見習スカーレットとホムラ。
彼女達は、去年と今年の弓のトーナメント優勝者。
訓練での立ち回りも見ていて問題な点は無く、二人とも恐ろしく目がいい。夜間の森で、どれだけ実力を発揮できるのか試してみたいと考えていたところだった。
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※王暦1082年5月2日。
合宿2日目、夜。
天気は、晴。
ここ1カ月間の大型魔獣の報告も無し。
「今日は腕鳴らしに、アーミーイノシシの駆除をしてもらう。いい? 決して深追いしないこと。狙うのは山の中腹より下の場所ね。気を付けてね」
「はい!」
二人は返事をし、別々の方向へ駆け出して行った。
さて、どうなることか……。
15分後。ホムラが、約1メートルほどのイノシシを仕留め、その両後ろ脚を持ち引きずり戻って来た。急所を狙いづらかったのか、矢が何本も刺さっている。
うわ……血がいっぱい出ていて気持ち悪い。
それから30分後、スカーレットが戻ってきた。
仕留めたその場で作ったのか、丈夫な蔦で編んだソリに乗せて体長1.5メートルほどのイノシシを大事そうに引き運んできた。
そのイノシシは、頭部に矢が1本だけ刺さっていて、よくよく話を聞くと、仕留めて頸動脈を切断し血抜きし、その間に蔦でソリを作り、沢まで運び内臓を取り、沢の水で洗い、そして今の時間になったと報告してくれた。
「どういう事?」
唖然とする僕にスカーレットは、真面目な顔で答えた。
「駆除って殺すことでしよ。命を粗末にしてはダメ……だから」
イノシシの脳天に刺さった一本の矢を見て、ホムラが悔しそうに目を光らせた。
「よし、今日はここまで。スカーレット、それで、それどうするの?」
「宿に持って帰ってシェフに聞いてみる。あと、そのイノシシも捌くから手伝って下さい。ホムラは早くこのお肉を宿まで運んで」
捌くの!?
スカーレットは手慣れた様子で、ナイフでアーミーイノシシの頸動脈をサクッと切りつけた。
「ーーー僕が!? 無理無理、血とか絶ーーっ対! 僕が運ぶから、ホムラ手伝ってやって」
あまりのことに、僕は蔦のソリを引き宿まで駆け出した。
夜の温泉地の賑わいをみせる街道沿い。道行く人が、脳天に矢を1本刺しソリの上で両手足を広げ内臓を取られたアーミーイノシシを見て声をかけてきた。
「見事な仕留め方だ」
「立派なイノシシだ! 君はハンターかい?」
「いくらで譲ってくれる? 」
「君が下処理をしたのかい?」
山に暮らす者にとってイノシシなどの野生動物は貴重なタンパク源。町の人々の意外な反応に僕は、スカーレットが言った言葉を思い出した。
命を粗末にしてはダメ。
あの子は、駆除と言いながらイタズラに命を奪う事に理不尽さを感じていたのだろう。
きっと、誰よりも命の大切さを理解している。
弓の問題児。
と、彼女は呼ばれているが、僕も見習の頃、陰でそう言われていた。
スカーレットはもともと、そんなに悪い子ではないと思っていたので、彼女の卓越した技術を褒められた僕は心から嬉しく感じた。
宿のシェフにアーミーイノシシを渡すと、大喜びで解体作業を始めた。値段を聞かれたが、訓練の一環で駆除しているからお金は要らないと言うと、今度、この肉を使った料理を振る舞う約束をしてくれた。後から、もう一頭来る予定も伝え。僕は、ソリを持ち森へ戻ろうとすると、宿のシェフが、木製のリアカーを貸してくれた。
森へ戻ると、スカーレットとホムラが沢の水で洗ったアーミーイノシシの脚を一緒に掴み、運んできた。
少しは仲が良くなったかな? と思いきや、帰る道すがら二人はずっと無言のまま、目も合わせない状態だった。
まだ初日。
ここからお互いを知り切磋琢磨し、もっと成長してほしいと願うのである。
【樹海・レグルス視点】
♪~(鼻歌)
樹齢数千年の巨木が生い茂る森に、古代の遺跡や遺物を集めたお気に入りの場所がある。
三角の建物や沢山の綺麗な彫刻、巨大な門に、豪華な装飾の馬の乗り物、……ボクはそれを、
"おもちゃ箱" と、呼んでいる。
あの勇者を連れてきてこれを見せたら、きっと驚くだろうな〜♪
今夜こそ、あの勇者をここへ連れてくるんだ♪
金色のライオンの装飾が施された縁の大きな鏡の前で身なりを整えようとして、ボクは目を疑った。
薄暗くなった森に浮かび上がる、光る文字!?
「なんだこれ!?」
ボクの顔に黄色い光るインクで "エロ"と、縦書きで描かれていた。
エロ!?
「!?」
きっと昨夜、勇者の部屋から弾かれたときにつけられた物だ!!!
あっのクソ聖女!!!
樹海に湧き出る泉で洗い流すもその文字は一向に消えず、暗闇にますます光り出した。
「カッコ悪!!! こんなんじゃ、あの勇者に会いに行けないじゃないか!」
身体が怒りで震えた。
こんな屈辱……生まれて初めてだ!!!
タオルで顔を覆い、樹海の城の部屋へ戻り小人を呼びつけた。
「このインクを消す方法を見つけろ! 早く! 急げ!」
小人たちは、慌てふためき散り散りになりどこかへ駆けて行った。
怒りは治まらない。
暗く渦巻く深い緑色の荊棘の蔓がボクの周囲を覆い尽くした。
ああ、あの勇者に会いたい、顔が見たい。
今夜も会えると思っていたのに!
なんて事だ!!!
こんな顔で、あの勇者に会いになんて行けない。
+ + + + +
レグルスしばらく離脱!?
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※2021/10/12 誤字訂正しました。
2023/1/19 気になる箇所訂正しております。まだまだありそう……。




