30話 温泉リゾート ”アクアラグーン”
【温泉リゾート・アクアラグーン】
※王暦1082年5月1日。夜。
アンフェール城騎士見習い一行は無事”アクアラグーン”へ到着した。
アスモデウス殿下は、王国の要人ということもありアクアラグーン一番の宿”ロイヤルラグーン”という言葉の響きからしてラグジュアリーなホテルに滞在する。
しばらく行くと、湯けむりの中ライトアップされた湖の先に、そびえ立つ巨大なホテルが姿を現した。
”ロイヤルラグーン”
温泉の湖に沿って三日月型に湾曲した客室が連なる壮大な建築物に私とロナは唖然とした。
殿下超おセレブ!
ホムラは殿下とよくここへ遊びに来ているらしく「部屋から温泉が近くて便利だ」とペロっと言っていた。それにどうやらホムラはアスモデウス殿下の”ご令嬢的”立場らしい。殿下の部下達が、いなくなったホムラを探している際、ホムラを”王女”や”様”付けで呼んでいたのを聞いた。これは後でじっくりホムラに事情聴取しないと。
私たち一行は、アスモデウス殿下をホテルにお送りし、ここから男子たちが滞在する[王国騎士団専用宿泊所]を経由。最後に女性騎士見習が滞在する宿へ向かう予定である。
【王国騎士団専用宿泊所】
カァカァ…カァ… カァカァ…カァ
夜なのにカラス?
鬱蒼と茂る糸杉の木立の奥に[王国騎士専用宿泊所]があった。
馬車から荷物を下ろす手伝いをしようと、暗く黒ずんだ建物の正面入り口の外観を見た私は固まった。
ん!?
宮大工が仕上げたような (合掌部の曲線が印象的な)日本の伝統的建築様式・唐破風造じゃん!
建物全体が和風温泉旅館のような佇まいに懐かしさを感じた。
中に入ると質素なコンクリート打ちっぱなしの玄関。木製の天井にドア、窓枠、カーブを描く階段の手すりなどが濃い茶色で統一され、ノスタルジックな雰囲気を醸し出していた。入り口を抜け、真正面の真ん中にガラス張りの大きな露天風呂が見えた。縁側のような回廊でぐるりと囲まれ、並んだ柱のひとつひとつには小さな照明が灯っていた。
星を見ながら露天風呂! ステキ!
和風建築なので、部屋は”畳敷き”では!? と、荷物を運び込む手伝いをしながら、部屋をみせてもらったら、中は普通のフローリングで、兄さん達の上級騎士寮と変わらない造りだった。
だが、古い!
ウィリアム兄さんが言っていた、アリやネズミはまだ序の口だった。
部屋にカラスがいた。
天使族のアイザックと、商家出身のジュリアンは青ざめた顔で玄関で立ち尽くし、マリオンは楽しげに部屋割りのあみだくじを入り口横の黒板に描いていく………。
今晩この宿には、騎士見習と北の城の騎士10名、引率の第一部隊ブラッド隊長が滞在する。彼らはさすがに慣れているのか、慌てもせずさっさと部屋を決め荷物を運び込んでいた。
ホムラとカラスを追い払う手伝いを終え、戻ろうと部屋を出ると。
傷だらけの身体に長い金髪、眉間に皺を寄せた目つきの悪い天使族のお兄さんが、腰タオル一枚で仁王立ちで瓶牛乳を飲んでいた。
ギョッとしている私と目が合うと。
「えっち」
と、一言。
くるりと背中を向け悠然と立ち去った。
その背中の、片方の翼は半分無くなっていた。
さっき、”えっち”って言われなかった?
「変な生き物だらけだなこの宿」
ホムラの言葉に吹き出した。
「じゃあ、ホムラが家に来たら大変だ。兄さん達、風呂上りは全裸かパンイチだよ」
「マジ? あの弓の副隊長も?」
「そうだね、でもウィルは小さい頃、裸ではしゃいで転んだ拍子に大事なところに丸太の棘が刺さってからは、ズボンまでちゃんと履くようになった」
「なにそれ、マジ怖い」
「痛そう……」
後ろで私たちの会話を聞いていたリンデとハリーが震え上がった。
「全裸って危険だから、いろんな意味で!」
ホムラがビシッと言い、[王国騎士団専用宿泊所]を後にした。
荷物が少なくなった馬車に乗り込んだ私たちは、自分たちの宿がどんなところだろうか……不安で仕方なかった。
+ + +
「ここって!?」
馬車が止まった場所は、石畳の道に沿って石造りの南仏風の宿や土産物屋が軒を連ねる小さな観光地のようだった。夜も遅い時間の為か、ほとんどのお店は営業を終了し辺りは真っ暗で、私達が滞在する宿の小さなランプの灯りが柔らかく揺れていた。
”ホテル・ホーリーウッド”
ドアの上の赤い小さな看板に白い文字が浮かび上がっている。畳まれた赤い日よけが付いた小さな窓が連なり、窓の下のプランターには花が植えられていた。
良かった、ちゃんとした”宿”だ!
私達の泊まる宿には、引率でレイ兄さんと、第7部隊神殿騎士マルクス副隊長が護衛として泊まる。
昼間に元聖女エスタ様が訪れ、女子たちが利用する部屋に結界を張り、各部屋のドアの前に注意書きを張っておいたそうだ。
”男子立ち入り禁止”
白い石造りの螺旋階段を上がり案内された部屋は、白いフローリングに金色の花の模様がプリントされた水色の壁紙、ベージュのカーテン、アンティークのような書き物机、濃い茶色の木製の小さなベッド。寝具は白で統一していて、様々な模様がキルティングされた薄いクリーム色のベッドカバーが掛けられていた。
”南仏リゾート”みたい!
部屋の設備は、トイレと簡易シャワー、タオル、シャンプー、リンス、ボディーソープ、ほか、十分すぎる程のアメニティが備えられていて、転生前の世界と変わらない文化水準の高さに驚いた。
窓の外は真っ暗で何も見えなかった。
私はカーテンを閉めシャワーを浴び、早々に就寝した。
明日からの訓練楽しみ♪
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お付き合いいただきありがとうございます!
※2021/7/28気になるところ直しました。
※2021/10/8気になる箇所直しました。
※2023/1/19気になる箇所直しました。日付とか加筆しました。