表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/300

29話 新人騎士見習強化合宿スタート、そして、尋常ならざる胸騒ぎ!

【新人騎士見習強化合宿・ルーシー視点】

 ※王暦1082年5月1日。午前。

 

 合宿が行われる北の神殿の合宿施設は、王都より北の”アクアラグーン”という温泉地にある。


 ウィリアム兄さん曰く、


 ”魔力を含んだ源泉かけ流し温泉&山の幸食べ放題” らしい。


 謳い文句はいいが、宿泊施設は老朽化が進み、アリの巣があったり、ヤモリやネズミも住んでるし、雨が降ると雨漏りするらしい。部屋にも当たりはずれがあるので、部屋選びは重要だぞ!……と、言っていた。

 

 ”魔力を含んだ源泉かけ流し温泉&山の幸食べ放題”

 

 ……この響き、堪らない。


+

+

+


 ウィリアム兄さんからの合宿情報を、移動中の馬車の中、私はロナとホムラに話していた。


 基本、医療班志望者は合宿には参加できないと残念がっていたロナだった。

 だが、出身地での巫女経験を認められ、聖女ローラとともに神殿で祈りを捧げる”巫女見習”として参加を許可された。


 そして、騎士見習試験で友達になった、商家の息子ジュリアンもこの合宿に参加している。

 ジュリアンは、(こう言っちゃなんだが)見かけによらず頭がよく授業で分からないところをいつも教えてくれる。ドルトン隊長の授業も、いつも完璧に覚え成績は常にトップ! 今では同期の騎士見習たちにもすっかり打ち解けて、楽しい騎士見習生活を送っている。 


+

+

+


 話は戻って……


「ええ!!!、私、虫とかダメ。ルー、いざとなったら部屋変わってくれる?」


 ロナが青ざめた表情で私に頼み込んだ。


「いいよ! 最低限、壁と床があれば私大丈夫だから」


「ありがとう! ルーやっぱり男前!」


「いやいや~」


 と照れていると、横から殴るような怒声を浴びせられた。



「何言ってんの! バっカじゃない!」



 ”スカーレット()()”だ。



 去年、合宿初日に急病でリタイア。今年、私たちと一緒に()参加している。


 そして昨年、女性騎士見習1名が移動中体調を崩したため、今年の女性騎士見習は体調を考慮し合宿所まで”幌の付いた馬車”で移動するよう、陛下から通達があったらしい。


 ……というわけで、騎士見習全員の荷物が積まれた狭い馬車の中、向かい合わせで、ホムラとスカーレット先輩、その隣にロナと私の4人が膝を突き合わせ乗車している。

  


 先輩は合宿の出発式でも、何が気に入らないのか黙って私たちを睨んでくる。

 勇者の剣(シャルル)の件もあるけど、それは黙って勇者の剣(シャルル)を持って行こうとしたスカーレット先輩にも責任がある。


 私は、()()()先輩に謝るつもりはない。




 先輩の真向かいに座っているホムラは、完全に視線を逸らし一言も喋らない。


 最悪の雰囲気。気まずい。


 そもそもこの人は、2カ月もの間一緒に過ごす私たちと仲良くなりたいとか、考えていないのだろうか? 

 

 

「女子は、男子とは別の宿だから、虫とか動物が出るわけないでしょ! 信じらんない、壁と床って」


 昨年参加しただけあって、女子は男子と宿が違う事を教えてくれた。

 でも、言い方がキツイ。



「そうなんですか!」



 ロナが可愛らしく微笑んだ。

 ロナの美しさに、少し先輩が怯んだかに見えた。



「うっ……虫が出たくらいで騒ぐなんて、騎士になれると思ってんの! 考えが甘いのよ!」


「そんな……だって……虫よ……」



 ああ、ロナが悲しげな顔で下を向いた。

 私はすかさず、ロナに向った矛先を変えようと、


「ロナは今回、巫女見習として合宿に参加しているの。それに、レイ兄さんだって()苦手だよ」


「え!? ……そ、そうなの……それはそれよ。もういいわ!」



 思わず口に出してしまったレイ兄さんの名前に反応し、動揺したスカーレット先輩は、顔を荷物の方の真横に向け黙り込んだ。


 全員沈黙。



 パッカ、パッカ、パッカ、パッカ、パッカ、パッカ……


 外からは、馬の歩くのどかな蹄の音と、同じ騎士見習男子たちの楽しそうな会話が聞こえてくる。こんな雰囲気だったら、男子たちと()()の方がどれだけ気楽だったか。

 


 ……そのまま馬車は、ゆっくりと合宿地へ向かった。



【合宿地まで移動中・休憩時間1】


 今回の合宿の指導騎士は、左目の黒の眼帯がトレードマークの、ジュード・クルー騎士団長補佐を筆頭に、第1部隊ブラッド隊長、第3部隊レイ副隊長、第4部隊サミュエル副隊長、第7部隊神殿騎士マルクス副隊長、第8部隊ハント副隊長、以上豪華な6名となっている。他に、元聖女エスタ様が参加する。


 ジュード団長補佐は、溜まった書類仕事が終わり次第合宿へ合流予定。(見た感じ事務系が苦手そう) 

 第4部隊サミュエル副隊長は、エスタ様と先に現地に入り、第8部隊ハント副隊長は任務が終了次第合流するという。



 合宿地までの護衛は、アスモデウス殿下のバンディ城騎士団10名と、第1部隊ブラッド隊長と第7部隊のマルクス副隊長と第3部隊レイ副隊長。


 第1部隊ブラッド隊長の次に自己紹介をした、神殿騎士マルクス副隊長は、私を妖精王から助けてくれた神殿騎士ユリウスさんのお兄さん。しかも双子のようにそっくり! 白さも同じ! 自己紹介してくれなかったらきっと気軽に「ユリウスさん!」と声をかけてしまっていたのかもしれない……危ない危ない。



 それに、レイ兄さんが一緒ってのが不安でしょうがない。

 いつどこで"ムニュムニュキス”をしてくるのか分からない。やはり「もうやめて!」と、強めに言った方がいいのだろうか。



 馬車が止まり、「休憩だよ」とレイ兄さんが幌を開けてくれた。



 出発から約1時間半、1回目の休憩。


 ホムラとロナ、ジュリアンやマリオン、そして爆発事件で仲良くなった妖精族のリンデとハリーらと、たわいもない雑談を満喫していると、不意にホムラの悲鳴が上がった。


「うぁぁぁぁっ! 放せ!」


 いつの間にかアスモデウス殿下が、ホムラの腕をがっちりと掴んでいた。

 殿下の突然の急襲に、私たちは硬直した。


「やっと捕まえたぜ」


 以前、王宮の客室にアスモデウス殿下が現れた時のことを思い出した。

 影になり気配を消して近づく……よく考えてみると凄い技術だ。この人を敵になんか回したら、私あっさり瞬殺されるだろうな……。



「アス、モ……殿下、放せ!」


「ハハハハハ!!! 楽しそうにしてるじゃねぇか。ホムラ!」


 ホムラを胸に抱き寄せ、グリグリとホムラの頭を撫でた。

 

「やめろ……はーなーせ!」


「城に行っても一向に”顔”見せねぇから心配したんだぜ。ハハハハ!」


「毎回こうするから逃げてんだ。もう、やめろ!」


 殿下に抱っこされて猫のようにかわいがられているホムラ。ちょっと可愛い。



 いやいやいやいやいや!

 他人ごとではない。

 近くで傍観しているレイ兄さん、お願い気付いて。この年頃の女の子は、人前で()()()()溺愛されるの嫌がるものなんですよ。




「勇者ちゃんの救助に、弓の優勝、よくやった! さすが俺の娘だ!」


 娘!?


「違う!」


「否定すんなよ、傷つくなぁ。まあ、そうだけどな、ハハハハハハ!」


 今度は、私にもやったように、幼子を高い高いするようにホムラを持ち上げた。

 ホムラは赤くなりながら、くるんと一回転し腕からすり抜けると殿下の前に降り立った。


「ホムラ、良かったな」


 殿下が優しい眼差しでホムラを見つめた。

 親子でもなさそうだし、どんな関係なのだろうか。


「アスモ……殿下」


 下を向き、顔を真っ赤にしながらホムラは、喉の奥から声を絞り出すようにこう言った。

 


「ありがとう……騎士になるの許してくれて」


「ホムラ……」


 殿下は、嬉しさから泣きそうな表情になり再びホムラを抱きしめようと手を伸ばした。

 ホムラはそれをヒョイとかわし、タタッ……とどこかに駆けて行った。



 アスモデウス殿下は、駆けて行ったホムラを嬉しそうに目を細め見つめていた。


「お前ら、あいつを頼むぞ」


 と、私達に言い残し颯爽と持ち場へ戻って行った。


 あの内気で人見知りのホムラを溺愛する殿下。耳まで真っ赤にして恥ずかしがるホムラ。殿下に感謝しつつもベタベタしたくない距離感……場が和んだ。



 5分後



「おい! もうすぐ出発だぞ! ホムラ戻ってこーーーい!!!」


 戻ってこないホムラを、皆で手分けして探し始めた。



 その後、ホムラの捜索に30分費やした。



 アスモデウス殿下は「やべぇ、俺のせいだ」と皆に平謝りし、木の上で見つかったホムラをまた懲りずに抱きしめていた。



 馬車の前でスカーレット先輩が、ホムラを怒鳴りつけた。


「何やってんのよ! 出発が遅れたじゃない! どうしてくれんの!」


「……うるせぇんだよ、このチビ!」


 とうとうホムラが、先輩を睨みつけ低い声で言い返し、黙って馬車に乗り込んでいった。

 私達も驚くまさかのホムラの逆ギレに先輩は怯み、「あんたが前に座りなさいよ」と先輩と場所を入れ替え私がホムラの前に座った。


 ホムラには色々聞きたいことがあるのに、スカーレット先輩がいるので聞けない。

 

 険悪な時間が流れる。

 全員沈黙。


 パッカ、パッカ、パッカ、パッカ、パッカ、パッカ……


+

+

+


【合宿地まで移動中・休憩時間2】

 

 出発から約4時間半、2回目の休憩。


 湖に到着した。

 約90分の無言の時間から解放され、私たちは馬車の傍でレジャーシートを広げ、引率担当のレイ兄さんと昼食付の休憩をした。


 先輩も一緒なので、相変わらず沈黙が続いた。

 そんなことも一切気にしていないのか昼食後レイ兄さんは、私たちの隣に広げたレジャーシートに、のんびり寝そべり空を眺めている。

 

 

「ルー見て、あの雲パンツの形に見えない?」


 思わず全員吹き出した。


「見えないよ」


 忘れていた……レイ兄さんは、少し天然だった。

 正直、第3部隊副隊長としているときは凄くかっこいいのに、なのに、どうしてこうなるのか……。



「フフフっ、で……ルー、どう馬車の乗り心地は?」


 レイ兄さんが涼やかな微笑みを浮かべた。


「どうもこうも……歩きでも全然平気なんだけど。私も、みんなと歩いてもいい?」


「ごめん、決まりなんだ。女の子たちは馬車で移動させるって。その方が、兄としても安心だからね」


「そんな~~、あと何時間ぐらいかかるの?」


「あとちょっと、ん~~6時間かな」


「6時間!? ちょっとじゃないじゃん!」



 6時間と聞き、絶望的な表情でため息をつくロナと、頭を抱えるホムラ。スカーレット先輩は、背中を向けているので表情はわからなかった。


 6時間て……。



「じゃあさ、歩いてないで、走ろうよ! 走ったら早く着くよ!」


「フフフ……ルー騒がない。さあ、休憩も終わるよ。馬車に乗って」



 涼やかに諭され、馬車の荷台へ押し込まれる。

 

 幌を閉める直前、マリオンたちがこちらを見て手を振ってくれた。

 ああ、私もそっちへ行きたい。

 ロナとホムラと一緒にジュリアンと城下の話をしたい。マリオンのめんどくさい筋肉の話も、今ならちゃんと聞いてあげられそう。


 パッカ、パッカ、パッカ、パッカ、パッカ、パッカ……


試練は続く。



 ……そのまま馬車は、ゆっくりと合宿地へ向かった。



【アンフェール城王宮・べリアス視点】

 


 ルーシーが合宿へ行ってしまった。


 

 寝室のベッドの上でボンヤリと考えていた。

 昨日、訓練棟で受けた傷はまだ癒えず、声を出すだけでズキズキと痛む。

 ルーシーの顔見たさに痛み止めを飲み、出発式に参加したが、ルーシーが合宿へ行ってしまった寂しさで……


「胸が張り裂けそうだ」


「実際、胸が裂けておりました。具合はいかがですか陛下」


 いつの間に部屋に入ってきたのかスチュワートが、新聞とカットフルーツを乗せたトレーをテーブルに置き「召し上がりますか?」と訊ねた。


 首を振り、ため息をついた。



「私も……「なりません」


 スチュワート、まだ何も言ってないよ。

 

「確かに、アクアラグーンの泉質の効能は、切り傷、火傷等に効果があります。ですが、陛下の傷は、かなり深手です。傷口が塞がってから行かれるのはいかがでしょうか?」


 まさかの、スチュワートからの提案に声が上ずった。


「いいのか!?」


「はい。合宿の視察と療養を兼ねて、とこちらを……」



 手渡された新聞の一面には大きな文字でこう書かれてあった。


 【勇者による光の加護!か】

【(本文)昨日アレクサンドライト王国より正式発表がございました。


 「一昨日、王都カルカソに降り注いだ光は、アンフェール城訓練棟内におかれまして”聖なる光に選ばれし勇者”が、国王べリアス陛下によって”聖なる力の解放”を成し遂げた結果によるものでございます。王都、及び王都近郊にお住まいの皆様。突然の出来事に驚かれた皆さま、王国政府より謹んでお詫び申し上げます。」


 悪魔族の王による、”聖なる光に選ばれし勇者”の力の解放は前代未聞。

 べリアス陛下は勇者ルーシー様と良好で親密な関係を築かれ、更なる王国の発展のために尽力なさっておられるご様子。約2週間後に行われる王国議会では勇者ルーシー様のご紹介が行われ、ノール帝国との協議の場にも勇者ルーシー様が参加されるという噂も有り、蜜月ぶりが伺える。】

 


 蜜月ぶり……か、世間に”勇者ルーシーは()()()()だという事を知らしめてくれたのか。素晴らしい記事だ!

 それに、その記事の下に私の肖像画と、鉛筆で素描きされたルーシーの似顔絵が載せられていた。 


 よく描けている。


「スチュワート、この記事はお前が指示したものか?」


「はい。女子寮半壊までならまだしも、各所に被害が及んだ訓練棟の全壊事故は、流石にうやむやにはできません。正式に、陛下の命であると伝えなければ、ルーシー様に非難が及ぶ可能性もございます」


「そうだな、ルーシーが責められては可哀そうだ。で、この似顔絵、誰が描いた?」


「それは……王宮のメイド長ノエル様でございます。ルーシー様が王宮にお見えになられた折に、メモ帳に描かれておりましたのを拝借いたしました」


「意外な特技を持っているのだな。実によく描けている」


「ノエル様のお父様が、宮廷画家だったそうで腕前は確かなものです」


「あとでノエルに頼んでみよう。私とルーシーが一緒に並んだ肖像画を! ……痛っ」


「畏まりました」


 傷は痛むが、ルーシーの似顔絵を見つめているだけで幸せな気持ちになる。食べて早く傷を治さねば!

 

「スチュワート、フルーツだ。よこせ!」





 ”アクアラグーン”


 王国最大級のスパリゾート。

 魔力を含んだ温泉が広がる神秘の大地!


 ルーシーと温泉に浸かり浴衣で食事をし、そして一緒の部屋で寝る! 

  

 この前の別れ際、ルーシーは、”()()()()で私の目を見つめていた。”


 次に会ったときに、”ベリアス会いたかった”と言って抱きついてくれそうなレベルだ!

 間違いない!

 やっと、私の魅力に気づいたようだ。

 フフフフ……



「陛下、今日明日は。予定を延期いたしますので、傷の療養に専念なさってください。では失礼いたします」



 パタン



 スチュワートが、()()()笑みを浮かべ部屋を出て行った。

 どうしたものか、スチュワートが()()に優しい。




 ルーシーに得意の幻術かけ、返り討ちにあった私を()()に思っているのか?


 そもそも、私があの“勇者の剣”に敵わぬ事ぐらい了承済みの筈だが……それとも、無謀に挑んでしまった私を、王に見合わぬ器と判断し見放そうとしているのか?


 表情が乏しいせいか、全く分からぬ。

 だが、奴はさっき療養に専念しろと言っていた。





 ルーシーとスパリゾート、アクアラグーンでのデート!

 

 バァーーーーーーーーン!(効果音)



 妄想を繰り返し、スケジュールを綿密に練り上げ、今度こそルーシーの()を我がものとしてやる!


 フフフフフ、ハハハハハ!!!



「っ…痛い」





【王宮・スチュワート視点】

(回想)


 一昨日。

 陛下が、わが国の勇者ルーシー様と手合わせをなさいました。


 魔力の使い方をまだ理解できていないルーシー様に対し、魔力の使い方をご指導なさった陛下の、性的嫌がらせ紛いの行動に少々失望していた矢先の出来事でした。


 陛下渾身の”幻術”を勇者ルーシー様に、あっさりと返り討ちにされてしまい、陛下もさぞかし傷付いておられると思っておりました。


 ですが、さすがは陛下。


 訓練棟を破壊され自身も負傷なさるも、ルーシー様を悲しませないよう傷を隠し、紳士的な態度でルーシー様の成長を喜ばれました。勇者ルーシー様を尊重しその身を案じる姿に、(わたくし)はいたく感銘を受けました。


 この先も、この王国を導いていく国王としての威厳を保てるよう、私は尽力するつもりです。



 気がかりなのは、陛下が立ち去った後、(わたくし)の前に跪き謝罪した”勇者ルーシー様”に、対してです。



 尋常ならざる胸騒ぎがいたしました。



 弱冠15歳。

 聖なる光に選ばれし勇者として、膨大な魔力を行使し訓練棟を破壊してしまった事を悔やみ、深く謝罪する姿に、(わたくし)は胸に痛みを覚えました。



 暴走する陛下を()()()制止せず傍観した事。幻術をかけられ焦燥しながらも応戦されるルーシー様の鬼気迫る表情が()()()()、不本意ながら()()してしまい、手をお貸しすることが出来なかった事。……大変、心苦しく感じました。


「……(わたくし)の立ち合いの元で行われた事です。陛下を止めなかった(わたくし)にも責任がございます。ルーシー様、頭をお上げください」



 そして(わたくし)を見上げた、光輝く涙を湛えた深い青い瞳に……



 ドクン! ドクドクドクドク……


 尋常ならざる胸騒ぎがいたしました。


 幻術!?

 ……と目を逸らすも動悸は治まらない。勇者であるルーシー様は”幻術”は使えない筈。

 では、これはいったい……。


「フッ……フフフフ」


 湧き出す感情に抗えず、思わず笑ってしまっておりました。

 

「フ……陛下もルーシー様の実力に満足しております。新人騎士見習強化合宿、どうかお気を付けて行ってらっしゃいませ」


「は、はい」


 恐らく、許された事に驚き、(わたくし)を見つめる勇者の顔を、もう一度確かめるように見つめ返されました。


 ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!……

 鳴りやまぬ、周囲に聞こえそうなほどの拍動。


 そして、アスモデウス殿下に背中を叩かれ安堵し、幼子のように泣き出すルーシー様。

 胸の中が掻きまわされ息が苦しい。罪の意識からでしょうか、それとも……元聖女エスタ様と同様、この勇者に”心”を取り込まれてしまったという事でしょうか。


 動悸を抑えようと胸に手を当てますと、ドクン!ドクン!ドクン!……


 これまで監視(みて)きたルーシー様のお姿や、お声や言葉が頭の中で熱を発するかのように響き、身体が熱くなっていく感じがいたしました。


 陛下が深手を負わされながら、それでもルーシー様を大切に思われる理由が、やっと理解できた気がいたしました。


 そして確信いたしました。



 彼女は、恐ろしき()()を秘めた”聖なる光に選ばれし勇者”であると。




(回想終わり)



 ルーシー様が向かわれました合宿地、アクアラグーン。


 その東には妖精王管轄の広大な樹海が広がっております。

 近年、合宿中の騎士見習数名が迷い込み、救助されたと報告を受けておりました。


 その樹海には、妖精王の第一王子がお住まいになられております。


 心配し過ぎだとアーサー団長補佐にご注意を受けましたが、”聖なる光に選ばれし勇者”ルーシー様を、その第一王子が黙って見過ごす筈が無いと私は考えております。騎士団会議の場において、イム第三王子を女性騎士見習の護衛として合宿へ同行することを提案致しました。ですが婚約騒動の2人を一緒に参加させることに難色を示され、残念ながら却下されました。この件につきましては別の部署を通し、もう一度提案させていただく予定です。


 そして、もう一つ気がかりがございます。


 今回の引率の隊長副隊長の約半数が天使族であり、その天使族の中でも大天使系に近い3つの一族の者が選ばれていること。当初、不参加予定だった、ルーシー様のご学友天使族ロナ様が巫女見習として急遽参加なさったこと。しかも、有名な天使族ラミエル家のご子息も合宿に参加なされ……。


 勇者ルーシー様の身辺を天使族で堅め、我々の目の届かぬ合宿の地で密かに”懐柔(かいじゅう)”しようと画策しているのではないでしょうか。


 憂いは増すばかりですが、幸い大きな案件も落ち着き、各部署への指示や対応も部下たちか率先してこなしてくれている。一刻も早く合宿地へ向かい懸念になりうる芽を摘み取り、勇者ルーシー様を、お守りする体制を整えなければなりません。

 ご覧いただきありがとうございます。


 新しく登場しました人物の設定です。

 妖精族のリンデは、トゲトゲの緑の短髪に茶色の目の170㎝のやせ形。剣術が得意でイム副隊長に憧れ、双剣を使いを目指している。ハリーは緑の髪のキノコヘアーに180cmのガチムチ。マリオンと筋肉仲間。


追加で、物語の合宿所の気候は、温帯で一年を通して気温と降水量の変化の少ない、西岸海洋性気候。一応、四季があります。

 

※2021/10/4 気になる箇所訂正しました。

 2023/1/19 一部訂正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ