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23話 忙しいって時に限って何か起る

【アンフェール城女子寮医務室・ルーシー視点】

 ※王暦1082年4月23日。午前中。


 夢を見ていた。

 この世界に来てから、もう何度も同じ夢を見ている。

 転生前の世界。


「ドイツロマンティック街道と華の都パリ」


……というヨーロッパ観光の定番ツアー。

このツアーの最終日、私は不慮の事故に遭い他界するのである。


ヨーロッパのお城に憧れて、必死にバイトして貯めたお金でやっと申し込んだドイツ旅行。うっすら雪に覆われた、壮麗なノイシュバンシュタイン城の景観にどれほど感動したことか……転生しても忘れられない。


 ああ、でも、忘れるなんて、もったいない!

 自分の執着心の強さに呆れる。

 優雅で美しい城……一つでもいい、この国に建てる事が出来たならどんなに、素晴らしい事か!


なんて思っている間に、私の死へのカウントダウンが始まる。


華の都パリ。

私は雪でスリップした車にはねられ、あっけなく他界する。


毎回これはキツいな。



+

+

+



「うわぁぁぁ!」


 大声をあげて飛び起きた。



「大丈夫?」(アリア)


「ひっ……!?」


 神官長アリアさんの声に、また驚く。


「あれっ、ここは?」


「寮の医務室よ。朝ご飯食べる?」



 柔らかく微笑みながらアリアさんが、ベッドの横のサンドイッチが乗ったトレーを指差した。壁に掛かった時計を見ると、9時半を過ぎを指している。確か今日は10時から、ドルトン隊長の講義がある……行かないと。


「急な案件に巻き込まれて、大変だったわね。それで、陛下から伝言よ。"今日はゆっくり休むがよい"。だから、ここで休んでいて構わないわ、無理しなくていいわよ」


「はい。あ、でも、大事な講義があるので。食べたら行ってきます」


「無理しないでくださいね」


 サンドイッチを頬張りながら靴を履き、飲み込む前に部屋を飛び出した。

 ドルトン隊長の講義を休むと、次回覚える量が2倍になる!!!

 私の能力じゃ絶対無理……急がないと……。


 外へ出ると、神殿騎士のユリウスさんが私を見て吹き出した。


 光り輝く突然のイケメンの笑顔に、一気に赤面した。

 本当、天使族って眩しいくらい麗しい。


「フッ! ……よかった、大丈夫そうですね」


 何のことか分からず首を傾げると、ユリウスさんはニッコリと微笑んだ。意味が分からないまま私は食べていた物を飲み込んだ。


 ゴクン……


「すいません、今、急いでおりますので、また」


 頭を下げ、着替えのある王宮の元近衛兵寮へと走った。

 王宮へ戻る道の途中で、あの兄の同期の双剣騎士イム副隊長にバッタリ遭遇した。



「おい、大丈夫か?」



ユリウスさんもそうだったが、イム副隊長まで大丈夫かと聞いてくる……私は何かしたのだろうか?


アリアさんは”急な案件に巻き込まれた”と言っていたが、一体何なんだろうか?



「大丈夫ですけど、どうかなさったんですか?」


「はじめに謝る。済まない事をした!」



???


「え! いや、何? 何の事なんですか?」


「っと、その……」

 


 糸目を更に細くし、難しい顔で頭を掻き言葉を濁した。

 ???

 今は糸目の副隊長より、ドルトン隊長の講義優先よ!



「あの、今、急いでおりますので」


 一礼し、走り出すと、イム副隊長が追いかけてきた。



「申し訳なかった!」


「だからなんなんですか!?」



 王宮の南側の入り口へ向かうと、突然ベリアス陛下が魔法陣から現れた。



「ルーシー」


 イム副隊長に続き敬礼するも、時間がない……無礼かもしれないが、逸る気持ちからベリアス陛下に私から話しかけた。


「ベリアス、これからどうしても休みたくない講義があるので、行っても宜しいですか?」


 まずい、に願い事をしてしまった。契約や対価とか言ってこなければいいけど。

 !? 

 べリアス陛下は私の言葉に固まり、いつになく無表情に私を見つめている。


 もしかして、イム副隊長の前で馴れ馴れしく名前で話しかけてきた私を、場をわきまえない無礼者だと思われただろうか……ああ、もう口に出してしまった手前、後戻りなんて出来ない。


「……体調はどうだ? 」


 体調? 

 陛下まで体調の事を聞くなんて……でも、全く心当たりがない。


「大丈夫です」


「うん、いいぞ。早く行くが良い」


 表情がまた一変し、陛下はニッコリと微笑んだ。良かった、怒ってもいないみたい。


 

「ありがとうございます!」



 急いで着替え、道具を持ち、剣を背負い、さっきの入り口から外へ出ると、まだベリアス陛下とイム副隊長が何やら話し込んでいた。どうやら、陛下はイム副隊長に何か用があったようだ。



「あ、まだいらしてたんですか!?」


「ルーシー、どうした!?」


「講義が北の実験棟なので、それじゃあ、ベリアス、イム副隊長また」


 そう言うと、陛下は足下に魔法陣を展開させた。


「ルーシー、北の実験棟まで送ってやろう、さ、こっちへ」



 私の手を取り、すぅっ……と、美しい顔を近づけた。

 ぅわ!

 魅力的な悪魔程厄介なものはないな……赤く輝く瞳から目が離せなくなっていた。



「陛下!」


 スチュワートさんの声に我に返った。


 危なかった。しっかりしろ! ルーシー! 

 一瞬でもべリアス陛下に心を奪われそうになった自分を奮い立たせた。



「直ぐにお戻り下さい、北の海洋国ノール帝国からの大使がお待ちです!」



 ええっ! こんなところに居ていいの!?

 


「ベリアス、お気持ちだけで十分です。ありがとうございます。それでは、今夜エスタさんの部屋でのお茶会楽しみにしてます!」



 走り北の実験棟へ向かう。


" 北の海洋国ノール帝国"


 "海"という言葉にワクワクする。

 どういった交渉で来たのだろうか? 海だから美味しい海産物の取り引きだったら最高!

 今夜のお茶会、べリアス陛下が何を話してくれるのか少し楽しみになってきていた。





 って、またイム副隊長が追っかけてくる!


 追いつかれまいと速度を上げ、イム副隊長を振り切り、北の実験棟まで全速力で走りきった。

 


 よっしゃー!




 時刻は10時。

 私は無事に講義に間に合った。






【北の実験棟前中庭・イム視点】

 



 足早くね?



 陛下より北の実験棟までルーシーを護衛する命を受けすぐに後を追ったが、結局追いつけなかった。俺も足には自信があったが、女の子であれだけ早く走れるなら護衛は必要ないように思えた。

 ルーシーが実験棟に入ったところを見届け、振り向くとオスカーが真顔で仁王立ちしていた。

 

 うっ……


 体全体から滲み出る黒いオーラが見えそうなほどの形相で、俺を睨みつけた。



「ストーカーか!?」


「違う! 陛下に護衛を頼まれたんだ」


「どう見てもお前に迫られ、逃げているように見えたぞ」


 そぉ見えたの!?


「……っこの!」


 オスカーが俺の胸ぐらをつかみ詰め寄った。普段はグレーの瞳が金色をおびた光で輝く。こいつは本気になるとこの目になる。ヤバい、はやいこと誤解を解かないと殺される。



「妹に手ぇ出すんじゃねぇ!」


 ガン!


 有無を言わさず、頭突きをくらわされた。



 知らなかった。

 こいつがここまでシスコンだったとは。

 


「手も何も、喋ったのだってついさっきなのに、なんでそうなる!?」


「ルーは俺の大事な妹だ!」


「それは知ってる」



 オスカーが俺の腰を指さした。



「この前、ルーはお前の()()をキラキラした目で見ていた。だからだ!」


 ?まさか?


「見てただけで!?」


「それに、その飄々とした態度が気に食わねぇ……”()()”とか簡単に言いやがって」



 こいつやっぱり今朝の事、めちゃくちゃ気にしてたのか!?



「悪かった。オスカー、金輪際お前の妹には近づかない、これでいいか?」


「へらへら簡単に言うな!」


「だから、()()()って!……悪かったって……近づかないって……」





「……いいわけねぇし、俺はお前がいい奴だって知ってるし、強ぇし、かっこいいし、嫌いになれねぇし……ごめん、……イム」


 オスカーは泣き崩れ、今まで見たこともないような悲壮感を漂わせていた。


「……ルーは、騎士なんてならなくていいのに、なんでここへ来たんだ」



 両手で顔を抑えしゃがみ込んだ。



「俺が隊長になったら、王都に家を買って家族を呼んで何不自由のない暮らしをさせてやりたかったのに……。ルーには綺麗なドレスを着せて、普通の女の子の行く学校に通わせたかったのに。俺が、まだまだ偉くなれないせいで、ルーを騎士なんかに……それに勇者にまで……なるなんて……訓練とか戦場とか行かせたくねぇのに……」


 

 あの妹の為なら、早く出世するはずだ……



 完璧だと思っていたオスカーにとっての心の支えは、あの妹の存在なんだと改めて知った。


 妹の話は()()()聞かされていたが、俺の想像では、オスカーに似た”ごっつい女の子”とばかり思っていたので興味も湧かなかった。だから、ルーシーを連れて現れた時、俺は目を疑った。


 本当に兄妹か!?

 

 赤い綺麗な長い髪に意思の強そうなパッチリとした深い青い瞳。華奢な体つきで、飾り気はないが笑うと、オスカーのようなあたたかさを感じた。

 


「”陛下”も”聖なる光”も気に入る筈だ」


「うるせぇ。当たり前だ、俺が世話してたんだ。赤ちゃんの頃から」




 そう、その話も()()()聞かされた。

 俺じゃないと妹が泣くから、俺がいつも面倒をみていたと。

 可愛いし言葉を喋るのも早くて、物覚えも良く歌も上手い。親バカならぬ、兄バカと話半分に聞いていたが、寮から聞こえてきた彼女の歌に、正直胸が熱くなった。



 騎士になんかさせたくねぇよな……。ましてや勇者になるなんて……。




「…考えるんだ。……戦いで、あいつに何かあったら俺は……正気じゃいられない……グスッ」


「それが普通だ」



 オスカーにタオルを渡すと、それで濡れた頬を拭った。そして、スッキリした顔で俺を睨みつけた。



「でも……お前なら許せるかも



 !!!!!ボン!!!!!




 北の実験棟が爆発した。






「は!?」





 俺たちは青ざめた。

 オスカーの目が金色に輝き、叫び声を上げた。



 「ルーーーーー!!!」





 ご覧いただきありがとうございます!

 

※2021/9/30 誤字脱字訂正しました。

ブクマ★いただけましたら励みになります!応援よろしくお願いしますm(__)m


 2023/1/18 気になる箇所訂正しました。

 

 

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