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22話 忌々しいが使えるものは使う

【アンフェール城南塔・べリアス視点】

 ※王暦1082年4月23日。午前中。


 朝食へ誘った妖精王は、何か思い悩む様子で息子に手紙を残し、小人たちを連れ早々に帰って行った。


 女子寮が半壊し、結界が十分に張られていない王宮へルーシーが移った所を狙うとは……。すぐにでも女子寮へ赴き、ルーシーの無事を確かめたいのに、あの女子寮の結界には、私とて入ることが出来ない。弾かれるばかりでなく、許可なく入り込もうとした者には、洗っても落ちない黄色いペイントで印が付けられるという、恥ずかしい仕打ちが待っている。王である私がそのような行為をしたとルーシーが知ったらどう思うだろうか。


 南塔から女子寮を眺めていると、こちらに向かって走る人影が見えた。



 ルーシー!!!



 ……と、緑髪。妖精王の三男か!?



 え!? ちょっと、なに!?


 何やら走りながら、楽しそうに話をしている。

 魔力で南棟の入り口まで移動すると、ちょうど二人と鉢合わせになった。


「ルーシー」


「へ、陛下!」


 緑髪が跪き敬礼をすると、それに続きルーシーもその傍らで跪き敬礼した。

 私とルーシーの仲だ、敬礼などせずとも良いのに……緑髪の上級騎士がいる手前、私に対しフランクな態度をとれないのであろう。

 だか、何故この男と一緒なのかと、モヤモヤドロドロしたものが腹の中に湧いてくる。


 ルーシーが、パッと顔を上げ俺の名を呼んだ。



「ベリアス、これからどうしても休みたくない講義があるので、行っても宜しいですか?」


 ルーシーから私に話しかけてくれるとは! あまりの嬉しさに息が止まった。



「……体調はどうだ? 」


「大丈夫です」

 

 ルーシーがニッコリと微笑んだ。


「うん、いいぞ。早く行くが良い」


「ありがとうございます!」



 あまりの可愛いさに無条件で了承すると、ルーシーは、すぐさま立ち上がり一礼し跳ねるように南棟へ駆け込んで行った。


 なんとも可憐な……私の近衛兵になるために、頑張ってくれているのだな。私もルーシーに尊敬されるような、立派な王とならねば! 拳を胸に当て、決意していると、妖精王の第三王子が、突然叫びだした。



「恐れながら陛下! 先程は家の者がとんでもない事をしでかし、王国に甚大な損害を招く事態となり深く陳謝いたします。どのような処分であっても受ける覚悟であります」



 短く刈られた緑の髪に、スッキリとした目鼻立ちの整った顔立ち。細身ながら相当な剣の使い手と聞いている。この城で騎士をしている事は知っていたが、こうして話をするのはこれが初めてである。


 父親である妖精王の暴挙に対して、責任を感じているのだろうこの王子と、妖精王の仲が悪い事は周知の事実。今朝の事件とは無関係である事も調べはついている。逆に、今回この王子が加勢しなかった場合の被害の方が甚大だったとスチュワートから聞いている。


 双剣を鞘に収め、飄々とした態度で妖精王と親子喧嘩した妖精族の第三王子。厄介な妖精王とのいざこざを穏便に済ませ、何の見返りも要求もなく奴を黙らせる事が出来たのはこの王子の、そうだ、あの一言だった。


"俺が貰う"


 若さとは恐ろしいものだ。

 もしもルーシーに意識があり、あのような状況で、目の前でそのような台詞を言われたりなどしたら、純粋なルーシーの事だ、こいつを恋愛対象として見てしまうに違いない! ダメだ! 危険だ!


 それに、今しがた二人で何やら楽しげに話しながら(妄想です)走って来た姿を目撃したばかりだ!


 もう、手遅れかもしれん!!!



「……あの、陛下」


「何故、ルーシーと一緒にいた?」


「え?」


「さっき一緒に走って来ただろう」


「は、はい。教会の神殿騎士の部屋に替えの上着を取りに行った帰りに、偶然会ったので謝罪を兼ねて王宮まで護衛しておりました」


「そうか。……ルーシーとは以前から面識があったのか?」


「はい、ルーシーの兄、第二部隊オスカー副隊長と同期で、以前彼女が入寮する際、彼から紹介されておりました」



 兄の紹介か……恋愛にありがちなシチュエーションにモヤモヤする。



「ルーシーとは、どういう関係だ」


 俺の質問に、何か勘づいたのか第三王子は緊張を解き深呼吸してきっぱりと答えた。



「関係も何も、ただの友人の妹です」



 本当か?



「妖精王の三男、名は何という」


「…イム・……ア、アークトゥルスであります」



 アークトゥルス。星の名前。”クマを守るもの”か……。



「顔を上げよ、アークトゥルス王子」



 よほどその呼び名が屈辱的らしいのか、僅かに表情を歪ませた。



「今朝の件に関してお前には何の責任もない。よって処分するつもりもない。むしろ、穏便に事を済ませる事ができ感謝している。王の説得、見事だった。それと、これは妖精王からだ」



 預かった手紙を渡し、立ち去ろうとすると、背中からビリッビリッと紙を破く音がした。振り向くと先程渡した手紙が小さな紙屑となって地面に散らばっていた。


 そんなに妖精王が嫌いなの? 



「いいのか? 」


「はい、読むだけ無駄です。私は家を出、この王国の騎士となった身です。陛下、アークトゥルス王子ではなく、イムとお呼び下さい」



「……イム。お前は王の後継ぎだと聞いているが? 」



 はぁ……と驚き顔に手を当てため息をつき、独り言を口走った。



「また勝手に決めやがって」



 ガチャ!!

 不意にドアが開き、凄い勢いでルーシーが飛び出して来た。



「あ、まだいらしてたんですか!?」


「ルーシー、どうした!?」


「講義が北の実験棟なので、それじゃあ、ベリアス、イム副隊長また」


駆け出すルーシーを引き留め、魔法陣を展開させた。


「ルーシー、北の実験棟まで送ってやろう、さ、こっちへ」


 バチッ!


 肩を抱こうとし、またあの勇者の剣に弾かれた。くそっ!

 仕方なく、ルーシーの小さな手を取り引き寄せる。


 ああっ! たまらず、俺を見上げるルーシーの顔に手を添えようとした時、



「陛下!」


「スチュワート!?」


「直ぐにお戻り下さい、北の海洋国ノール帝国からの大使がお待ちです!」



「ベリアス、お気持ちだけで十分です。ありがとうございます。それでは、今夜エスタさんの部屋でのお茶会楽しみにしてます!」



 俺の手をパッと放し、ルーシーはあっという間に行ってしまった。

 ああ、ルーシーーーーー(放心状態)。



「陛下!」


「わかった! スチュワート! さっさと終わらせて、茶会の準備だ!」


「畏まりました」


「あ、あと、イム、安心しろ我が王国は、優秀な騎士を簡単に手放したりはせぬ。私の元で良ければの話だが……」



 忌々しいが、わが国にとって有益な奴だという事は理解している。城に仕える妖精族との兼ね合いもある。私の感情だけで、この王子を手放すわけにもいかぬ。



「あ、ありがたき幸せであります!」


「さっさとルーシーを北の実験棟まで護衛しろ!」


「はっ!」



 すっと立ち上がり一礼すると、イムは凄い速さでルーシーの後を追った。




「陛下、宜しいのですか?」


「ああ、もう一人適任なのがついてきているだろう」



 木の影からこちらの様子を伺っていた人影が、イムを追い駆けて行った。



「フッ……。それでは、陛下参ります」



 スチュワートと共に、魔法陣で移動し公務へ戻った。

 いささか不安要素もあったが、今夜のお茶会でまたルーシーに会える。そう考えるだけで心が弾み、面倒な公務も楽しく思えてきた。


 ノール帝国との交渉、心して挑まねば!!!


お付き合いいただきありがとうございます!


ブクマ★いただけましたら励みになりますm(__)m応援よろしくお願いします♪

2021/9/30 誤字脱字訂正しました。

     北の海→ノール帝国に変更しました。

2023/1/18 一部訂正してます。日付入れました。


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