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21話 イム副隊長、悩む

【女子寮半壊事件・イム副隊長視点・回想】

※王暦1082年4月22日。夕方。


 伝説の勇者の剣を、叩き壊そうとしている彼女を俺は見ていた。


 +++


 彼女は、俺の同期の親友オスカーの妹で、赤い髪に深い青い瞳をしていて、笑うと太陽のようにあたたかな光が差し込むような空気を感じた。


 名前は、ルーシー。


 +++


 その日(※4月22日)、勇者の剣が暴走し寮内の女の子が怪我をした。

 ルーシーは青い目から涙を零しながら、勇者の剣を階段の角に打ち付けていた。


 刀身を握る手から血が滲み、剣を叩きつけ、大きな声で怒鳴った。



「偉っそうに、勇者の剣が、女の子傷つけて何言ってんのよ!!!」


 続く彼女の言葉に俺は絶句した。


 “砕け散れ! 正義ぶりやがって! 封印してやる! ”


 元聖女が止めなかったら、本当に剣を破壊し、封印しかねない迫力だった。 



「フッ……フフフ」


「何笑ってんですか、イム副隊長」


「なんか、凄い子だね。フフフ」


 笑ってはいけないと思いながら、笑いが込み上げた。あんなふうに勇者の剣を扱った奴なんて、いまだかつて見たことも聞いたことも無かった。俺達が今まで崇めて奉ってきたもやもやした正義や常識を、バッサリと断ち切るような彼女の言葉に、様々なしがらみに締め付けられていた心のつかえが取れたように、腹の底から笑いが込み上げた。

 

 +++


 その夜、元聖女に付き添われ寮生たちは王宮へ向かった。

(半壊した寮の仮住まいとして、その日のうちに王宮に部屋が用意された。)


 勇者の剣を背中に携えた彼女の憂いをおびた横顔は、凛々しく、そして美しかった。


 15歳か。


 女の子で、しかも、あの小さな身体で、国を守る勇者になるという事はどれほどの重圧なのか俺には想像できない。きっともの凄く不安で仕方ないのだろう。


 1週間後には新人騎士見習強化合宿が始まり、しばらくの間姿を見ることさえ叶わなくなる。王宮までの道を護衛しながら、彼女の姿を瞼に焼き付けた。



 もう少し近くであの勇者を見ていたかった。


+

+

+



王宮の扉を開けた途端、彼女に飛びつきそうな勢いで出迎えた国王陛下。

 彼女の事を想像以上に気に入っているらしい。だったら始めから王宮に住まわせればいいものを……俺みたいな奴らの手の届きそうなところに置いたりなんかしたら、ふとした拍子に間違いが起こってもおかしくねぇのに……



【4月23日。朝】


 ……なーんて取り留めも無い事を当直室で考えていたら、いつのまにか朝になっていた。


 その時。

 低い地響きを感じ外に出ると、見覚えのある小人たちが俺に気付き手を振った!? 


 こいつら……!?

 

 そして、遠くで誰かが何かとやりあう声が聞こえた。

 走り、女子寮の裏手付近で、騎士見習いのごっつい筋肉の少年が、天使とその腕に抱えられた赤髪の勇者を掴み、こっちを睨んだ。



 マジか!?

 筋肉バカ!



 そいつは躊躇なく二人を俺の方に投げ飛ばした。

 魔力で草を強化し、どうにか受け止めたが、勇者のオスカーの”妹ルーシー”は死んだようにぐったりとしていた。


 腹の奥から怒りが湧いた。



 くそオヤジ!



 騎士見習い達に襲いかかる根を一掃しオヤジと、対峙した。


 ここでやり合うのも有りと考えたが、また被害が大きくなると躊躇した。

 視界の端に、王国騎士の黒い隊服がチラ……と、見えた。極秘に配備し、なにかしらの合図でここへ乗り込むようだ。



 俺は剣を鞘に収め深呼吸しオヤジに喧嘩を売った。


「はぁ、誰それ」


 オヤジと口をきいたのは何年ぶりだろうか……。


 意外にもオヤジは反抗した俺を攻撃する素振りも見せず、勇者を妻に迎える理由を短的に言った。それに対する不満も言い返してみたが、愛ゆえと、訳の分からない事を言い出す始末。恥ずかしすぎる。


 「そんな奴にやるくらいなら、俺が貰う!」

 と、言った後、オヤジが驚き目を見開いた。


 その直後、王国騎士と国王陛下ベリアスの介入により事なきを得、オヤジは陛下と共に王宮へ去っていった。


 ホッとし、俺をどついたオスカーは「時間稼ぎサンキュ」と礼を言い、すぐさま妹の元へ駆け寄った。


 天使族の癒しの光で怪我の回復はしているものの、一向に目を覚さない彼女の額や頬を撫でていた。そして勇者を守った彼女の友人達に感謝の言葉を口にしていた。



 あのクソオヤジのせいで……彼女や親友まで失いかけた。



 オスカーの妹ルーシーは、女子寮の医務室に運び込まれた。

 女子寮の中へは入れないオスカーは入口で妹と離れ、騎士見習いの少年と深刻な表情で戻って来た。


 俺は彼らの前に跪き謝罪した。


「オヤジが、君の妹に申し訳ない事をした。悪かった。許してくれ」


「よせよ、気にするな。お前がいたから、ルーやその友人たちが無事だったんだ、ありがとう」


「あなたが加勢してくれなかったら、俺たち死んでてもおかしくないって、さっき上の人から言われました。だから、謝らないで下さい」



 騎士見習いの筋肉の少年が、透き通るような声で言い、跪く俺の前に片膝をつき敬礼した。



「……気にするよ、俺の家のゴタゴタに巻き込んじまって、本っ当に悪かった」


「お前も大変なんだな」


 オスカーがしゃがみ込み俺の肩を叩いた。


「大丈夫、ルーはぐっすり眠っているようだから、今日一日ゆっくり休ませる。昨日の剣の暴走事件の疲れもあるみたいだしな。それにここに来て慣れない事ばかりで、疲れも溜まっていたんだろう。イムも、全然休んでないだろ、少し休め」



大事な妹が大変な目に合ったというのに、オスカーは俺の心配までして……



「けど、妹の結婚相手としては認めねぇぞ」


 オスカーは睨みながらニヤリと笑い、俺の頬をグリグリ拳骨で押した。


「フッ、お前も、そんな顔出来るんだな…」


「ああ、分かったら、とっとと行くぞ」


 オスカーに促されるまま騎士寮へ向かった。


 本当は……あのオヤジに何かされていないか、怪我の具合も、体調も、出来れば彼女が目覚めるまで待ち、元気な姿を確認し、本人に謝罪しようとしていた。



「イム、妹の事は気にするな。ゆっくり休め」


 朝食の後、部屋へ戻る俺にオスカーが言った。


「気にするよ。なんかあったら俺が()()と「妹はやらん!」


「そーゆー意味じゃねぇ! お父さんか!? オスカー、怪我とかあいつの幻術とか面倒な事になっていたら()()()()()対処する、ってことを言おうとしたんだ」


「なんだ。だが、お前はそんなに思い詰めるな、柄じゃ無いだろ」


「柄とかじゃねぇ、ただ親友の妹をあんな目に合わせて平気でいられっか、って」


()()…」


 オスカーが顎に手を当て、ニッと笑った。


「なんだよ」


()()


 ますます嬉しそうに微笑んだ。


「ああ、言ってなかったけど、俺はお前を()()だと、お、思ってる。だから悩むんだ」


 うわぁ……、恥ずかしさで部屋に駆け込むと、オスカーが部屋の中へ入ってきた。


「良かった、俺もそう思ってたから。だから俺も、心配なんだ。お前が妹の事で思い詰めた顔してんの。ルーシーが目覚めたら、一緒について行ってやる。だから、今はゆっくり休め! いいな!」


 目の前に拳を突き出した。


「おう」


 拳を合わせ、オスカーは”おやすみ”と言って去って行った。


 なんというか……非の打ちどころのない男が本当にいるもんだと、オスカーを知れば知るほどそう思う。


 +++

(イム回想・10年前)


 オヤジが騎士見習試験に現れ『妖精王の三男』と暴露したお陰で、俺は早速孤立した。

 誰も俺に話しかけてくる奴がいない中、オスカーは俺に言った。



 "騎士になって、一緒に魔王を倒そうぜ!"



 バカなの!? と思った。

 

 だが、体術、剣術、弓は上級騎士クラスに引けを取らず、学業の成績もトップ。仲間思いの努力家で、それでいて面白い。”大事な妹のため”と言い、誰よりも早く出世し、2番隊副隊長、そして近衛騎士となった。


 俺は、オスカーがいなければ騎士になるのを諦めていたかもしれない。

 


 だから、困っている。

 どうしていいのか分からない。


 俺は親友の妹を、好きになってしまった。


お付き合いいただきありがとうございます。


ブクマ★いいね! いただけましたら励みになります!応援よろしくお願いしますm(__)m


※2021/9/30 誤字脱字訂正しました。

 2023/1/16~18 一部訂正しております。

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