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20話 公開処刑か!?  親子喧嘩で家庭の内情を知られる

【女子寮前・騎士見習マリオン視点】

 ※王暦1082年4月23日。朝。



 目の覚めるような純白の隊服を纏った“神殿騎士“。


 彼らを戦闘経験のない軟弱者と勘違いしている者たちも多い。だが前の大戦中、各聖地を守り抜いたのは他でもない神殿騎士たちだった。少数精鋭で、持ち場を完璧に守り抜く戦い方は、一人で一小隊を壊滅できるレベルと聞いている。



 鮮やかな緑色の髪に、両手に握られた剣。

 城内でも最強と言われている。



 ”双剣の神殿騎士、イム副隊長”



 今、俺達は、勇者ルーシーを狙う想定外の()と対峙している。

 負傷した金髪の神殿騎士。騎士見習のホムラと俺。そして、イム副隊長。

 4人か……



 

 その()は……すさまじい魔力に揺らめく長く艶やかなエメラルドグリーンの髪。筋肉質の体に陛下程ではないが美しい顔立ちをしていて、木の根で出来た馬のような不気味な乗り物に跨っていた。


 その男が、イム副隊長に手を差し伸べた。






「さあ、勇者を差し出せ、我が息子よ」





 イム副隊長は、ゆっくりと双剣を鞘に納め頭を掻きながらめんどくさそうに答えた。

 


「は、誰それ」


「妖精王に逆らうのか、()()()()アークトゥルス」



 妖精王!?


 息子!?


 えええええっ。


 髪色、同じだ!


 副隊長のお父さんが妖精王!? 

 はじめて見た!

 妖精王若っ!


 まさかのワードの連発に、俺とホムラはお互い顔を見合わせ固まった。





「だっさ、それ言えば誰でも言う事聞くと思ってんの」


「ああ、お前以外な。さあ、早くその勇者を」



 妖精王が余裕からなのか、ニヤリと笑った。





「あのガキ、連れてってどうすんだよ」


「私の()にする」



 妻って!? ルーシーはまだ15歳だぞ! 本気で言ってるのか!? この()()()





「はぁ!? アホか、バカおやじ」



 アホ。

 バカおやじ。


 お願いだから、イム副隊長。妖精王をむやみに刺激しないでほしい。



「バカではない。優秀な種を残す為に必要だからだ」


「種って!? それで何人嫁がいるのか分かってんのか!?」



 緑色のオーラを発し、イム副隊長が怒りを露わにした。

 無理もない、俺もオヤジが皆の前でそんなことを言いだしたら恥ずかしさで死にたくなる。



「ああ、みんな私の愛する妻たちだ」


「それで色々と揉めてんだろうがぁ!」


「愛ゆえにな。(ウィンク) ……まあ、喜べ。その娘も、我が一族の一員になるんだ」



 妖精王のウィンクに更に怒り、イム副隊長は大声で宣言した。



「うるせぇ! あいにく、こいつは友人の妹なんだよ。お前にやるぐらいだったら、()()()()!」




 妖精王は目を見開き、驚いた表情でイム副隊長を見つめた。

 


「やるか!」

 ドカッ


「っ、オスカー!?」



 突然現れたルーシーの兄さんがイム副隊長をどついた瞬間、青い魔法陣から黒い隊服を着た騎士が次々と現れ、取り囲み、妖精王の前にべリアス国王陛下が立ちはだかった。



「我が城で、勝手な振る舞いをされては困るんだが……」(べリアス)



 ルーシーの兄さんが、イム副隊長に「時間稼ぎサンキュ」と言っているのが聞こえた。時間稼ぎのために、あの親子喧嘩をしていたとは。



 怖がった~~~。



「べリアス……」


 眉間に皺を寄せ、妖精王が陛下を睨んだ。

 陛下はそんな事には慣れているのか、ニッコリと笑みを浮かべこう言った。



「いらっしゃるとご連絡してくだされば、ルーシーを交え楽しいお茶会などいかがかと」


「お、お茶会!?……だと」


 妖精王は、明らかに戸惑っているようだった。



 ”ルーシーを交えての楽しいお茶会”


 明朗快活なルーシーとの何気ないおしゃべりは、俺も楽しく元気を貰える。

 陛下にまで気にいられているとは、ルーシーはやっぱり凄い。



「昨夜もルーシーとお茶会をし、楽しい夜を過ごしたばかりだ。子を作るだけが愛ではないぞ」


「お前、本当にべリアスか?」


 妖精王の金色の瞳が、疑わし気に陛下を見下ろした。



「ここで立ち話もなんです、さ、王宮で朝食でも」


「……ああ」


 妖精王は、木の根の乗り物を解除し地面に降り立ち深呼吸すると、動く根によって掘り返された地面から、色とりどりの花が咲き乱れた。


「「「おおおおお」」」


 騎士たちの野太い歓声に気をよくした妖精王が”パチン”と指を鳴らすと、樹々の葉が金色に輝きキラキラと舞い落ちた。



「「「「おおおおおおおおおお」」」」


 

 胸騒ぎが治まらなかった。

 俺の知らないところで何かが起こり始めている。


 ルーシーは、大丈夫だろうか。




【女子寮 医務室・ロナ視点】

 ※王暦1082年4月23日。朝。



「……なんか、凄かったね」(ロナ)



 女子寮の医務室のベッドに横たわるルーシーを見つめながら、私はホムラに話しかけた。

 頬に傷を負いながらも、弓で果敢に妖精王に立ち向かっていくホムラに、私はルーシーを連れて逃げる事しかできず情けなく感じた事を伝えた。



「ロナがいたから出来たんだ。でなければルーはあっさり攫われてた。あの変態に! フッ……で、あそこ隠してんの”葉っぱ”だけって、ヤバっ」



 ホムラが呆れた顔で言い、私も吹き出した。


「まさか妻にするって! 本当に信じられない」


「双剣の息子、あのオヤジの事でいろいろ苦労してんだろうな。でも、“俺が貰う“とか……プッ」


「フフフフフ……ルーに、目が覚めたら教えてあげようね。……で、双剣騎士ぶん殴ったルーのお兄さん、近衛騎士もしてるんでしょ」



 ルーシーには、お兄さんが3人いて、2番目と3番目は見知っていたが、一番上のお兄さんは今日見たのが初めてだった。



「うん、あと、第2の副隊長みたいだよ」


「優秀なんだね。それに、ルーに似てかっこいい。外見は全然似てないけど、なんかどこかが同じような……」


「雰囲気かな、似てるとこ」


「そう! そうかも!」



+

+

+


 

 私の人生で、()()()()()()() ”友人” ルーシーとホムラ。


 ずっと、ずっと、夢見ていた生活がここにある!



+++

 (ロナ回想)


 私は、修道院で育った。

 母の再婚相手に邪魔者にされた私は、物心つく前に修道院に預けられた。


 ”一生、神殿で祈り身を捧げろ”


 多分、自分は一生そこで過ごすものだと思っていた。

 勇者に選ばれたのがルーシーでなかったら私は一生、あの修道院から出られなかった。


  

 ”ロナ。何も聞くな。お前はこれから王都へ行き、新しい勇者ルーシーと友人になり、勇者の情報を報告しろ”

  

 義父から言われ、一族のコネを利用し、医療班枠でこの城の女子寮へ送り込まれた。


 何としても勇者とお友達にならないといけないのに、勇者にはもう悪魔族の友達がいた。その子と勇者は、夜も、眠るときも、いつも部屋で一緒に過ごしているようだった。二人の間に、私なんか入り込む余地なんてあるのだろうか……それに、悪魔族は天使の私と友達になってくれるのだろうか……必死に考えた。どうすれば友達になれるのか、仲間に入れてもらえるのか……。


 

 憂いは一瞬で消し飛んだ。

 


 勇者ルーシーは、”様”なんて付けないで、ルーシーと呼ぶまで離さない! と言って、すぐに私を”ロナ”と呼んでくれた。笑うとあたたかく、冷たく固まっていた私の心が一瞬で解けていく感じがした。男兄弟の中で育ったせいか男前な性格で、卵サンドが大好き。


 ホムラは、きれい好きで素直で恥ずかしがり屋な女の子。白く美しい肌に漆黒の黒髪、そこから覗く赤い瞳。黒い角も彼女を引きたてるミステリアスな魅力の一部になっていて、戦闘能力もずば抜けていて、立ち回りに無駄がない。さっきも襲い掛かる木の根をかいくぐりながら、妖精王相手に弓矢で応戦していたホムラを思い返していた。私は、悪魔族がこれほどまで強く美しい種族だという事を分かってなかった。ホムラを知るまで……。



 勘のいいホムラは、もう気付いているのかもしれない。

 私が秘密の手紙を飛ばしている事を。




 ”……何も聞くな。……勇者ルーシーと友人になり、勇者の情報を報告しろ”




 報告しなければ、この生活が続けられない。

 でも、はじめてできた友人を売るようなことはしたくない。

 


 ”勇者ルーシーは、毎日、腕立て伏せを200回している”

 

 幸いにして義父からは、命令の主旨も目的も知らされていない。

 そうであれば、多少、ずれた報告でも問題は無いと私は判断し、そのままウソ偽りのない報告を続けていこうと考えている。

 極力、回数を少なく、短く、どうでもいい情報を書くようにしている。


 バカな子と思われても構わない。

 生まれて初めてできた同年代の友達を私は守りたい。

ご覧いただきありがとうございます。


感想や、アドバイスありがとうございます!

スマホで書くのが苦手で、PCが家族共用なので、感想の返事等がすぐに返せなくて申し訳ありませんm(__)m


※20021/9/30 気になる箇所訂正しました。

 20023/1/16~18 気になる箇所訂正しております。日付など。

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