19話 葉っぱだけって危険だと思う
【アンフェール城元近衛騎士寮・ルーシー視点】
※王暦1082年4月22日。夜。
ノエルさんに案内され元近衛騎士寮に着いた。
ノエルさんによると、ここは前王国時代の近衛騎士の部屋で、現在は主に来賓の護衛騎士や執事などが待機される際などに使われているらしい。ちなみに、二人部屋。
部屋の中は広く、机が二つ中央の窓辺に置かれ、部屋の両壁脇にベッド。その横にクローゼットという作りだった。壁は明るくシンプルな白い漆喰で塗られ、床は濃いダークブラウンの木の床。その木の床の上に、私とホムラの名前が書かれた大きな木箱が4つ置かれていた。騎士見習の支給品と生活用品が入っていると説明された。
ノエルさんがいなくなると、トレーニングウェア姿のホムラがクローゼットから飛び出した。
「ルー!」
「ホムラ、ただいま」
ホムラは待ってましたとばかりに、私に飛びついた。
「ルーは、陛下とどういう関係なの?」
ストレートに聞いてきたので、私は指輪を見せ、
「勇者になる前に、川で会って”指輪の契約”をしたの。関係は、……今は、話し相手かな」
「話し相手?」
ホムラが首をかしげた。
「うん、今のところは……かな?」
私も首をかしげた。
「ルー、陛下にあんなに迫られてるのに……フフッ」
ホムラが笑った。
「どうしても私の魂と引き換えに“契約”をしたいみたいで。あ……でも今日は話がしたいって、いろいろ聞いてきた。そういえばホムラ、悪魔の契約って実際、”契約”したらどうなるの?」
私はパジャマ用のタンクトップを探し、箱の中身を取り出しながらホムラに聞いた。
「……魂を食べる? あと、コレクションしてる人もいる。まあ、だいぶ昔の話だけど」
邪魔な前髪をピンでとめ飄々と答えるホムラは、こうして話していると悪魔には見えない。
「ホムラは誰かと契約したことあるの?」
「無いわよ。人の望みを叶えられるくらいの魔力量が無いと出来ないことだから。ムリムリ」
「でもさ、私がホムラと小さい望みで“契約”してしまえば、べリアスさん諦めてくれるかも!」
我ながらいい考えと思っていたが、ホムラの目が赤く光った。
「ダメだよルー。簡単に契約とか。私でも絶対にダメ、危険だから! ちょっと間違えただけで私が死んだら、あなたも死んでしまうような契約になっちゃうこともあるから。だから、絶対にダメ!」
つい大声を出してしまった事にホムラはハッとして、辛そうな表情を浮かべ黙り込み、“疲れた”と呟きベッドに潜り込んだ。
「ごめん、ホムラ。”契約”って気軽にするもんじゃないってことがよく分かった。ホムラ、なんかごめん」
私が謝ると、
「ルー。……歌を、歌ってくれない?」
ベッドに入ったホムラが、小さい声で言った。
ホムラ……はじめて話したきっかけは、アニソンだった。
今は、夜なので小さい声でこの曲をハミングした。
♪~~~~~
んんんーーーんんんーーーんん んーん んんん……
ブラームスの子守歌
~~~~~♪
「……ルー。木の下で歌ったのがいい」
「え!?」
まさかのリクエストに照れながら、小声でささやいた。
「じゃあ、小さい声で歌うね ♪~~~~~(あのヒット曲を熱唱した)
王暦1082年4月23日。
早朝
ベッドが慣れないせいかあまり眠れず、朝早くに目が覚めてしまった。
ホムラはまだ眠っていて、スースーと寝息が聞こえた。
パジャマ代わりにしている支給品のタンクトップと短パン姿で部屋を後にし、トイレに寄りながら顔を洗った。そういえば……昨日お風呂に入りそびれた事を思い出した。
髪の毛、ちょっと臭い。
男の子の中でならあまり気にもしなかったが、今は女子部屋。女の子は衛生面に敏感だからお風呂入ってないのって結構厳しい。ロナなんて医療班だし、“不潔“とか思われたら、かなりショック。まあ、昨日の事件の後だから大目にみてもらおう。
誰もいない朝の空気は涼しく、元近衛騎士寮の廊下の先にある”南塔”に散歩がてら登ってみた。
前に、"南塔から私の部屋を誰かが覗いていた"とホムラに言われた場所まで来ると……確かに、樹々の隙間から半壊した私の部屋が見えた。
こんな所から覗く物好きなんて、べリアスさんぐらいだろう……なんて考えながらふと下を見ると、三角の赤い帽子をかぶり、茶色の髭を生やした小さな小人のお爺さんが佇んでいた。”白雪姫の七人の小人”のような小人である。
うわぁぁ……メルヘン♪
悪魔も天使も妖精もいる国だから、小人ぐらいで私は騒いだりしない。
螺旋階段を下りながら、窓から見えるその小人のお爺さんを見ていると、お爺さんは木を見上げ、両手を挙げてジャンプしていた。短い手足がなんともいえないくらい、いじらしく可愛い。何か困っているのなら、手伝ってあげよう。と南塔の小さな扉から外に出、驚かさないように、そぉ~っと、お爺さんの方へ向かった。
「おはようございます」
小人のお爺さんは私の声に反応し、振り向いた。
だが、また背を向け木の方を向いてジャンプした。
小人さんには、言葉が通じないのかな?
そっと、お爺さんの隣に歩み寄ると、膝丈ぐらいのお爺さんが、また可愛らしくピョンピョンとジャンプした。
「かわいい~~~」
木の上に何があるのかと見上げると、急に背後から太い男の声が聞こえた。
「さあ行こう、我と共に」
え!?
振り向く間もなくピンク色の煙に包まれた。
「これって!?」
驚きのあまり、その煙を思い切り吸い込んでしまった。途端、眩暈がした。
フラ……
霞んでいく意識の中、緑色の大きな影が私を覗き込み、遠くの方で私を呼ぶホムラの声が聞こえた。
【王宮元近衛騎士寮ルーシーとホムラの部屋・ホムラ視点】
「ルー……!?」
異様な気配に、身ぶるいし飛び起きた。
ルーシーがいない!
弓を持ち、窓から飛び出し気配のする方へ走った。
「ルー!!!」
塔の傍の大樹の前で、ほぼ全裸の明るい緑色の長い髪の男がルーシーを肩に担ぎ、いままさに立ち去ろうとしていた。
葉っぱ!?
僅かに茂った”葉っぱ”が、絶妙な感じで恥ずかしい箇所を隠していた。
もうヤバさしか感じられない! いかがわしさ全開!
あいつ、まさか!?
シュッ…………バシッ!
頭を狙い放った矢は、地面からうねうねと生える茶色い根っこに叩き落とされた。
奴がこっちを向き、ニヤリと笑うと幾本の根が私に向って飛びかかってきた。それを除けながら矢を放った。
シュッ……
バシッ!
「無駄だ!」
襲いかかる無数の根をかわしながら、機を伺い頭めがけて今度は魔力を込め矢を放った。
ヒュン!
惜しい、奴の頬をかすめた。
「ほう、なかなかやるな」
奴は私を睨みつけ、しゃがみ込み地面に両手をついた。
「ルーっ!」(ロナ)
奴の手が肩に乗せたルーシーから離れた瞬間、空からロナがルーシーを掴み空へ舞い上がった。
「……ッ、天使族まで加担してんのか」
何本もの根が凄い勢いで地面から伸び、ロナの足に巻き付いた。
「きゃあ!」(ロナ)
ズザァァァァァ……
地面に叩きつけられる寸前、見回り中の金髪の神殿騎士が駆け付け、ロナに絡みついた根を一気に切り、無事ロナを救出したが。ルーシーは、その衝撃で前方へ投げ出された。
「君は、逃げろ。助けを呼べ!」
神殿騎士が剣を構え、襲い掛かる根を薙ぎ払う。
「嫌よ、ルーは私の友達だから」
「急げ!」
ロナがルーシーに駆け寄ると。私に向ってきていた木の根は、一斉にロナ達に襲い掛かっていった。
ザシュ……
根の一撃が、金髪の神殿騎士の肩に当たった。
「くそっ」
騎士は追撃をかわしながら、別の腕で根を薙ぎ払いロナを必死で援護している。
私も魔力を矢に込め、動く根の隙間から本体頭部を狙い撃つ。
ロナはルーシーを抱え、結界の張られた女子寮に向って走り出した。
「ロナー!!!!」
寮の方から走ってきたマリオンが、ロナとルーシーを掴むと、信じられないことに女子寮の方へ放り投げた。
「きゃあああああ~~~~」(ロナの悲鳴)
寮の前にいた緑髪の神殿騎士が、妖精族の能力で草を伸ばし二人を受け止めたのを確認すると、マリオンが私に言った。
「よし! 逃げるぞ!」
なにが ”よし”なの!?
化け物のような根が、私とマリオンと神殿騎士に向って襲い掛かってくる。
もう少し……。
女子寮の結界の前に、先ほどロナとルーを受け止めてくれた明るい緑髪の神殿騎士が、身構え異様な殺気を放った。
あいつは……!?
来る!
「伏せて!!!」(ホムラ)
ジャキィイィィィィィィーーーーーー
彼の双剣から放たれた一撃はマリオンの頭上をかすめ、後ろに迫った木の根を一掃した。
「すげぇ」(マリオン)
「早く、結界に入りな」
緑髪の神殿騎士が手招きした。
後ろにはルーシーを癒しの光で介抱するロナの姿が見えホッとしたのもつかの間、木の根の化け物の本体が姿を現した。
「さあ、勇者を差し出せ、我が息子よ」
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※2021/9/30 誤字・そのほか気になる箇所訂正しました。
20023/1/16 気になる箇所訂正しております。