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17話 寮半壊、賠償金で借金地獄か!?

【アンフェール城女子寮・ルーシー視点】



 それから2週間ほど経った頃、事件が起こった。


 +++

 王暦1082年4月22日。


 午後の剣術の訓練を終え寮に戻ると、見慣れない色の隊服を着た騎士たちの姿があった。

 そして、白と黄色い隊服姿の救護班に囲まれ、毛布を掛けられ担架で運ばれていくスカーレット先輩の姿が目に入った。



 胸騒を感じ部屋へ続く中央階段を駆け上がると……。


 焦げ臭い匂いと、焼け焦げた廊下が目に飛び込んだ。

 そして、私の部屋の横にある廊下の突き当りの壁が丸々無くなり、ぽっかりと開いた空間からは外の新緑の景色が見えた。



「なんで……」



 私たちが立ち尽くしていると、調査班の黒と緑色の隊服を着た人物が頭と顔を覆っていた防護マスクを外した。現れたもじゃもじゃの頭に見覚えがあった。



「君! 勇者の君! こっちへ来たまえ!」


 科学班隊長のドルトンさんだった。



「ドルドン隊長」


 規制線のロープをくぐりドルトンさんのところへ行くと。

 黒く焼けごげた床板の中心部に、(シャルル)が全く無傷の状態で転がっていた。


 私の部屋は、ベッドも机もクローゼットも真っ黒。レジーナ先輩から頂いたあの可愛いバックも、おそらく燃えてしまっただろう。

 ああっ……(泣)悲しいし悔しくて言葉が出ない。



「これ、君じゃないとダメみたい」


 ドルトン隊長がお手上げと言わんばかりに両手の平を上に向け笑っていた。

 この人は、何を楽しんでいるのだろうか。



 剣を持ち上げると、微かに声が聞こえた。


 『僕を持ち去ろうとした。だから、警告した』



「警告で、ここまでするの?」



 『当たり前だよ……選ばれし者以外触れたから』



「……ひどい」


「え!? ぼく!? ぼくじゃないよ」

 (シャルル)と話す私に、ドルトン隊長が驚き大げさにリアクションした。



「すいません。ドルトン隊長。今、”剣”と話していたので」


「剣……?」




 『ひどい……どっちが。僕を置いていったくせに』


 もしかして、寂しかったの!?


 『さ、寂しくなんて……』


 (シャルル)に心を読まれた。


 『読むよ、だって君の剣だから。分るよ。今の君がすごく悲しんでることも……』




「だったら、なんで」


 『そうしてきたから、いままで』



 いままで……って、誰かを傷付けてまで?



 『うん、()()のためだ』



 その言葉に私は(シャルル)を掴み、寮の外へ走り出した。




 勇者の剣(シャルル)を鞘から取り出し、グリップと刃と握りしめ思いっ切り階段の角に叩きつけた。



 ガン!


 『わ、マジで!? ちょ、やめ……よせ! やめろ!!!』



 ガン!


「へし折って、()()してやる!」


 ガン!


 『待ってよ!』


 ガン!


「偉っそうに、勇者の剣が女の子傷つけて何言ってんのよ!」


 ガン!


 『ああ、やめて……たすけて』


 ガン!


「せっかくの、私の部屋まで!」


 ガン!


 『ゴメン、悪かった、……だから』


 ガン!


「砕け散れ!」


 ガン!


 『すいません、……お願いだから……やめろ! やめてください……助けてください……ごめんなさい、ごめんなさい』



 消え入りそうな 勇者の剣(シャルル)の声と同時に痛みを感じ手を止めると、剣の刀身を掴んでいた私の左手から血が流れていた。


 すごく痛い。

 でも、毛気の状態から察するに、スカーレット先輩はもっと痛かったに違いない。



「ルーシー、許してあげて」


 エスタ・フロライトさんが駆け寄り私の左手を取った。


 それでも、怒りは収まらなかった。

 せっかく手に入れた安住出来る寮の部屋が焼失。レジーナ先輩のバックも、騎士見習の隊服も、本もノートも……そして、苦手だったけど、スカーレット先輩まで傷つけたくせに。


 やっぱり許せない!


 怒りが込み上げる。 


 エスタさんの手を振り払い、思いっきり叫んだ。



「正義ぶりやがって!」


 ガン!


「お前こそ、封印してやる!」


 『……ごめん、だから、ごめん。もうしないから』


「ルーシー、その子は、すでに封印されているようなものなの。だから、やめてあげて」


 エスタさんが後ろから私を抱きしめた。

 温かく柔らかい感触に、そこでやっと自分が泣いていることに気が付いた。



「うわ~~~~~~~~~~~っ!!!」



 エスタさんの腕に抱きついて泣いた。



 理不尽さと行き場のない怒り。

 勇者は、こんな自己中な剣に振りまわされるから、強く逞しくなるのだろうか?


 気が付くと、ロナやホムラ、ドルトン隊長、神官長、神殿騎士が私を遠巻きに見ていた。

 怖い娘だと思われてしまっただろうか。だがしかし、この(シャルル)の態度に、怒りを抑えられなかった。



『そんなこと言われたの、……はじめてだよ。……傷つけて……ごめん』



 勇者の剣(シャルル)は、泣いているような消え入りそうな声で謝った。



+

+

+


 女子寮が半壊し、騎士見習の私たちは陛下の計らいで、急遽、王宮に仮住まいすることになった。


 1週間後、新人騎士見習強化合宿に出発するまでの限定的な扱いで、くれぐれも失礼の無いよう、振る舞いには気を付けるよう神官長エルザ様に()()()要望された。


 ロナとレジーナ先輩、私とホムラのそれぞれ二人部屋。

 先輩騎士のダリアさんと、オルキデさんは、仕事場に近い上級騎士寮に引っ越した。


 スカーレット先輩は、幸い大きな怪我もなく、すぐに意識を取り戻したが()()()()()から、寮の改修が終わるまで城内の療養所に入院することとなった。



 夕食後、私とホムラとロナ、レジーナ先輩とエスタさんの5人で王宮へ向かった。



+++



 王宮に仮住まいか……。



 勇者の剣(シャルル)が寮を壊してしまった。


 当然、勇者の剣の管理を疎かにした私の過失責任も問われるだろう。



 右手中指の指輪を見つめた。


 陛下べリアスさんは、あれから私に契約を迫るどころか近づいても来ない。ばったり”遭遇!”すらない。


 そもそも国王と騎士見習、普通に生活していて接点などある筈もない。この前の状況が異常だったわけで、陛下は陛下でさすがにこれ以上勇者と関わるのは遠慮したいとお考えなのだろう。


 願いを叶える契約も、もしかしたら善意で仰っていたのかもしれない。だとしたら、完全に私の被害妄想なのかもしれない。ああ、でも押し倒されたし、なんか色っぽい目で迫られたような……これも被害妄想かな……。


 私としては、“陛下は真面目でお優しい”との兄たちの話から、王としての陛下べリアスさんに多少興味が湧いたのも事実。お互い呼び捨てで話したのでさえ、陛下の私への配慮だとすれば、王として騎士見習までも慮る姿勢は尊敬に値するものと考えてもいいわけで……。



 ああ……あの晩、陛下に勇者の剣(シャルル)を向けてしまった事をいまさらながら後悔していた。



 ”王宮”は、陛下が生活をしている宮殿。

 仮住まいとはいえ、偶然、陛下に廊下で会ってしまったらなんて言えばいいんだろう。


 即座に自分から謝るべきだよね。


 でも、こんな事をやらかしてしまった私を、陛下は受け入れてくれるのだろうか? 


 “なんだこいつ“みたいに見下されて、修繕費を弁償しろとか言われたらどうしよう。

 お金なんて全然持ってない!

この歳で多額の借金抱え込むなんて事になったら、育ててくれた両親や兄さん達まで迷惑がかかってしまう。


 これは自発的にべリアスさんに”契約してほしい”と乞わなければならない状況になってしまうのだろうか。


 ……と、思い悩んでいるうちに、王宮の入り口に到着していた。



 ああ、気が重い。



ご覧いただきありがとうございます。

ブクマ★いただけましたら励みになりますので、応援よろしくお願いしますm(__)m


※2021/9/29 気になる箇所訂正しました。

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