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15話 いきなり部屋の窓から現れるとか、呼び捨てにするまで手を離さないとか、額にキスするとか……距離の縮め方が凄い!

【アンフェール城・ルーシー視点】

 ※王暦1082年4月8日。


 1週間後、訓練が始まった。

 騎士見習はここで2年間訓練を重ね、その後各部隊へ配属される。


 ***【国王軍アンフェール城騎士団について】***


 *騎士団長 1名

 

 *騎士団長補佐 2名


 *第1部隊~第2部隊は、騎士の精鋭。

  オスカー兄さんの所属する近衛騎士も含まれる。


 *第3部隊は、遠距離攻撃を軸としながらも、騎乗による戦闘が主。レイ兄さん所属。


 *第4部隊は、歩兵。体術や剣術。第5部隊の補佐。

  ウィリアムは、去年ここに希望を出し配属になった。理由は、「兄と同じ部隊はイヤ」


 *第5部隊は、医療班。設営班。補給班。

  『癒しの力』が使える天使族が医療班に多い。別試験で入る者もいる。気になる『癒しの力』。


 *第6部隊は、武器開発などの科学班。

  各都市の大学の優秀な学生で選抜されるが、まれに学業優秀な騎士見習が引き抜かれることもあるらしい。


 *第7部隊は、神殿騎士。王都の神殿並びに、各地方の神殿の守護業務。


 *第8部隊は、特殊部隊。極秘の調査や任務を担当。個々の判断能力が問われる。


 ***以上が、兄ウィリアムから聞いたざっくりとした各部隊の業務内容である。


 “騎士“の頂点、騎士団長を目指すならやっぱり、第1部隊。

 特殊部隊も気になるけど……


 +++


 入寮翌日には支給品として、騎士見習用の制服の替え。帽子。へルメットのような頭を守る防護頭巾。トレーニング用の服。レジーナさんが着ていたタンクトップや、短パン、Tシャツ、小さいナイフ、下着類、タオル、バスタオル、手袋や弓用のグローブ、ブーツ、シューズ、リュック、ポーチ、レッグポーチ、寝袋、毛布、ノート、筆記用具……等々が渡された。

 かわいい壁紙の女子部屋が、一気にサバゲー調の雰囲気に変った。


 クローゼットのドアの裏に付いている鏡の前で、ポーズをとったり、ほふく前進したり、訓練が始まるのが待ち遠しかった。


 +++


 いざ、始まってみると……


 まさかの座学!


 講義はアンフェール城北側にある実験棟2階で行われる。実験棟は、総二階建てのコンクリート造り。1階に2部屋。二階に2部屋の計4部屋。講義室は、ヒンヤリとした打ちっぱなしのコンクリートの壁に、コンクリートの床。4人用の横長の木製の机が5台×3列並んでいる。


 1限目は、


 “戦闘と戦術“

 “戦闘と戦術“っていうから、てっきり体術系の訓練かと思っていたら、一人ずつ分厚い本を手渡され部屋は静まり返った。


「君たちは選び抜かれた精鋭だ。だが、ここも鍛えないとつまんねぇ死に方をするよ」


 “戦闘と戦術”の講師第一部隊ジェイク・モルガン副隊長が自らの頭を人差し指で突いた。

 白髪交じりの深緑の短髪に黒い瞳で、40代ぐらいかな。左足の義足が、サイボーグっぽくてカッコイイ。


 続いて、


 “機械化学”

 なんか理系の大学でありそうな講義名。前世の高校で化学が苦手だったイヤな記憶が蘇る。特に有機化学は謎でしかない。


「武器って大事だよ。それらを日々開発し、改良するのが我々”第6部隊科学班”だ。入ったばかりの君達には、基本的な事から説明するよ~」


 軽い調子で講義するこの人物。若干25歳で第6部隊長のドルトン・ファ―ス。

 長身で、白衣に似た白いローブを身に纏い、黒いもじゃもじゃの髪に切れ長の黒い瞳。オスカー兄さんほどではないが、そこそこのイケメンである。


 この時代の、科学兵器か……


 この世界で、文字や歴史、文化など文系の知識は父から少し教わっていたが、理学系の知識は全くと言っていいほど皆無だった。

 その理由が、今ここでやっと分った。


 渡された資料には、火薬の作り方、煙幕・信号弾の作り方が記されていた。


「あ、この資料は持ち出し、書き写し“厳禁”だから。君たちはこの内容をちゃんと頭に入れて帰ってね」


 えええええええっ

 どよめく一同を前に、ドルトン隊長はニッコリ笑ってこう言った。


「これくらい出来ないようじゃ、騎士にはなれないぞ!」


 ……そうなのだ。

 私たちは、王国を、王国に住まう民を守ることを目的としている。

 王国を侵略するものが現れたら、直ちに戦い排除しなくてはならない。

 私たちは、王国を守る“騎士“になるのだから。


 +++


 午後は、待ちに待った実戦訓練。

 新人騎士見習仲間マリオンとジュリアンのほかに、女の子の友達“ホムラ”と“ロナ”と一緒に訓練棟へ向かった。


 そう、さっそく女の子のお友達が出来たのである!


 私が入寮して2日後、ホムラがやってきた。

 ホムラは、入寮してすぐ私の部屋の()から入ってきた。


 「お前を守る」とかなんとか言っていたが、悪魔族にとって女子寮の聖域の中は居心地が悪く落ち着かないからと言っていて。なんで入寮したのか聞くと、「ルーシー(おまえ)がいるから」と真剣な顔で言われ照れる。


 勇者の剣が、そこにあるけど大丈夫なのかと聞けば、「ルーシー(おまえ)はその剣で陛下を守った。悪魔族の味方だから」と笑った。


 ついでに歌とか、いろいろ誤解されていたところもあったから、そのまま部屋で誤解を解きながら、憧れの女子トークをし一緒に過ごした。


 その2日後。

 医療班枠で入ったという天使族のロナが、部屋に来た時の衝撃は凄かった。


「ごきげんよう。私、5号室に入りましたロナ・シェルギエル。よろしくお願いします」


 フリフリのレースの付いた白いワンピースに、それと同じくらい白い肌。短いボブヘアのウェーブのかかった金髪から覗く瞳は青と緑のオッドアイ。


 ま、眩しい!!!


「私はルーシー、よろしくお願いします」


 右手を差し出すと、それを両手でギュッと掴み“キャッ”と嬉しそうに飛び跳ねた。


「勇者様と同じ寮なんて、感激です!」


「……様とか言うのはやめて、ルーシーでいいよ」


「そんな!? 私たち天使族は待ってたんですよ。新たな勇者様を」


「待ってた?」


 首をひねる私に、ロナはニッコリ笑い。


「じきにお判りになります。では、勇者様」


 また、”勇者様“って言った……やめてほしいのに。


 放そうとしたロナの手を私はもう片方の手で掴んだ。

 男兄弟の中で育ってしまったせいなのか、身体が勝手に動き言葉が立てつづけに口から出た。


「同級生なのにそんな呼び方されるなんて、なんか、本当に嫌だから。だから、“ルーシー“って! 呼ぶまで離さない」


「え、で、でも……」


 驚いたロナの顔は、みるみるうちに赤くなってしまい、私も少し強引過ぎたかと後悔した時だった。



「……ルー……シー」


 小さな声でロナが言ったのを聞き、手を離した。


「私もロナって呼んでいい?」


「うん! ルーシー! それじゃあまたね!」



 うわぁぁ……

 花が咲いたどころでなく、花畑にいるような笑顔に神々しさまで感じてしまった。

 私の方が“ロナ様”と、呼びたいくらいである。



 その一部始終を、ホムラは私の部屋のクローゼットに隠れ聞いていた。


「ホムラ、もう帰ったよ」


 クローゼットを開けると、膝を抱えて座るホムラが私を見上げた。


「……天使(あいつ)、ヤバいな」


「大丈夫?」 


「大丈夫なわけないよ。ここは聖域で、天使(あいつ)に襲われたらひとたまりもないぞ」


「襲ったりするような子には見えなかったけど」


天使(あいつ)ら、美しいくせに容赦ないから……」


 何かを感じ取り、すっと立ち上がり廊下へ続くドアへ耳を当てた。


 コンコン

(ホムラの部屋をノックする音)

「新しく入ったロナです。ご挨拶に来ました……」




「ッ……部屋にまで……」


「出ていってあげたら?」


 私もホムラに寄り添うようにドアに耳を当てると、前にいるホムラの肩が震えていた。

 天使と悪魔。きっと、言葉では言い表せない事情があるのだろう。そっとホムラの肩に手を乗せると、ホムラがビクッと身体を震わせた。


「ゴメン……驚かせちゃった?」


 振り向いたホムラは少し顔を赤くして、私に言った。


「どうすればいい……の……ルーシー……私」


 こういう表情のホムラってすごく可愛い。



「大丈夫だって。ホムラ」


「でも……」


「ほら……」


「だって……」


 ガチャ!(ドアを開ける音)



「みーっけ!」


 キラキラのロナが、私の部屋の扉を思いっきり開けた。


「なんかルーシーの部屋から、話声が聞こえると思ったら、()()()()()ホムラさんよね」


 私とホムラはしばらく固まっていたが、私が吹き出すとホムラは吹き出した私を見て観念したように、ロナに言った。


「ホムラ・ブルーエ。よろしく」


「ロナ・シェルギエルよ」


 白い手を差し出され、困ったように見つめるホムラ。

 ガンバレ! ホムラ。握手! 握手!


 なかなか手を差し出さないホムラに痺れを切らしたのか、ロナは、スッと距離を一瞬で詰め、両手でホムラの頬を掴み、額に口づけをした。


「なっ、なに!?」

 

 赤面し後ろに飛びのき身構えるホムラに、ロナは言った。


「お、お、お友達になって!」


 青と緑の大きな瞳から涙が溢れた。


「お……とも……」


 ホムラは両手で顔を覆った。

 ロナがホムラに駆け寄り抱きしめた。


 パアァァ……

 ロナが輝きだした。

 まさか、これが”癒しの力”!?


「うわっ、やめろ。それはやめろ!」


 ホムラがもがいている。


「だって、お友達になりたいんだもの。なるまで離さない」



 まさか、さっき私がやった軽い脅迫を、今度はロナがホムラにしている!?

 更に、ロナはホムラを抱きしめ光が増す。

 パアァァ……


「わかったから! なるよ! おっ、お友達」


 やっと納得しホムラから離れたロナは、嬉しそうに私とホムラの手を取った。


「ルーシー、ホムラよろしくね」


「よかったねホムラ」


「……」


 少し素直じゃない悪魔族のホムラと、美しい天使族のロナ。半ば脅迫めいたところもあったが、私に、はじめて女の子の友達が出来た。


 +++


 いきなり部屋の窓から現れるとか、呼び捨てにするまで手を離さないとか、額にキスするとか……前の世界では考えられないくらい(私も含めて)距離の縮め方が凄い!


 ……回想しながら、訓練棟に到着した。

ご覧いただきありがとうございます!


※2021/9/29 気になるところ訂正しました。

 2023/1/16 気になる箇所いろいろ訂正しました。日付、講義が行われる実験棟建てました。

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