14話 考えて、考えて、考えすぎて、結果拗れて、どうしようもなくなる。
【上級騎士寮レイ(ルーシーの2番目の兄)の部屋・ウィリアム(ルーシーの3番目の兄)視点】
「女子寮ってさ、あいつがいるだろ、”弓の問題児”」
妹ルーシーが女子寮に入寮したと聞き、レイ兄さんに尋ねた。
その問いに兄さんは少し考え、表情を変えずに答えた。
「ああ……あの子か……第3部隊で一度預かった事があるよ。優秀だけど少々変わった子だね」
レイ兄さんが、フフフっと珍しく笑った。
「ルー、大丈夫かな」
「大丈夫だ。ルーは強いよ」
「僕が心配なのは、あいつと揉めてルーが怒ることだ! 滅茶苦茶怖いぞ」
「フフフッ、ありうる」
レイ兄さんが楽しそうに笑いこう続けた、
「あの剣、凄いらしいから、ルーが暴れたら女子寮全壊しちゃうかもね」
「マジで! 見たい!」
「うるさいっ、俺が寝ているんだ静かにしろ!」
レイ兄さんのベッドで寝ていたオスカー兄さんが大声で怒鳴った。
「じゃあ自分の部屋で寝てよ」(レイ)
「やだよ、なんかお前らのいるところが落ち着くんだよ」(オスカー)
苦笑いしながらレイ兄さんは、オスカー兄さんに毛布をかぶせポンポンと背中を叩いた。
「ルーを寮に入れた事、心配してるんでしょ?」(レイ)
「……ああ、グシュ……あいつ、……汚い袋一つ持って入っていく後ろ姿見たら、なんか泣けてきて。もっと、なんていうか、もっと、こう、……女の子らしい格好させて、やりたかった……」(オスカー)
「泣かないの。しょうがないじゃないか、おかげでルーは今まで無事だったんだから」(レイ)
「でも、そのことで、寮でいじめられてないか心配だ……」(オスカー)
「ルーは大丈夫だよ、泣かない」(レイ)
「泣くよ、ルーだぞ、俺達のルーだぞ、泣かせた奴はぶっ飛ばしてやる」(オスカー)
泣きじゃくるオスカー兄さんに、俺もなんだが喉になにか込み上げそうになったのを隠すように、俺は言った。
「女の子みたいな格好……あのネグリジェ着て行けば」(ウィリアム)
「フフッ、こらっ」(レイ)
レイ兄さんが吹き出し、俺をどついたあと「ウィルありがと」と小さく呟いた。
+++
幼い頃、住んでいた家の近くの村では、女の子が攫われる事件が頻発していた。なので僕たち家族は、妹ルーシーを男の子の格好をさせて育てた。
僕のお下がりを着せフードを目深に被り、自分の身を守れるよう剣や弓、体術を叩き込んだ。ルーシーは女の子なのに嫌がりもせず、毎日訓練を怠らなかった。
だから俺たちと同じアンフェール城の騎士になるために王都へ来て、まさかルーシーが『勇者』になるなんてビックリだった。そして、同じアンフェール城で暮らすことになるなんて……
妹ルーシーにとって、同じ年ごろの女子と暮らすことはいい事なのかもしれないが、あの問題児のいる寮に入って、僕は心配で心配でたまらない。
何かあったら、僕がルーシーを守らないと。
【騎士見習試験会場・先輩騎士見習スカーレット視点】
※スカーレット回想。
騎士見習試験。
剣術のトーナメント決勝戦で、赤い魔法陣に一人の少年が吸い込まれていった。
それを見て真っ先に声を挙げたのは、第3部隊副隊長『レイ様』だった。
「ルーをどこへやった!!!」
血相を変え対戦相手に弓矢を構えたところで、もう一人が飛び出してきた。
「兄さんダメだ!!!」
「ウィル、放せ!」
それと同時に周りの騎士も止めに入り、武場は騒然とした。
あんなに取り乱すレイ様を見たのは、はじめての事だった……
+++
(スカーレット回想・去年)
レイ様は、野外演習で突然の雷雨に見舞われても。私がお腹を壊して、隊のトイレットペーパーを全部使い果たしても。繋いでいた副隊長の馬を、間違って逃がしてしまっても。それから色々……私がやらかしてしまっても、いつも「そう」と涼し気で表情一つ変えなかった。
そのレイ様が、あのレイ様が……
怒っていた。
赤い髪で、やたらすばしっこい。あの少年は、いったい何者なの!?
いったいどこへ消えたの……
+++
2日後、私はその答えを知ることとなった。
『聖なる光に選ばれし勇者』ですって!?
少年かと思っていたら、実は女の子で、レイ様の妹で、騎士見習で、勇者。
赤い髪に深い青い瞳で、レイ様とは似ても似つかない容姿をしていた。
本当に、兄妹なの? と私は疑いの眼差しで彼女を睨んだ。
一番上の近衛騎士の兄と入寮手続きに来たところを見かけ、私と同じ寮に入るのだと少し嬉しさもあったが、汚い麻袋一つ持って入寮してきた彼女を見た時、私の心の中の『レイ様像』が音を立てて砕け散った。
妹に、あんな汚い袋一つ持たせて、自分は涼しい顔で何不自由なく暮らし、権力を振りかざし、享楽にかまけ、副隊長の椅子にふんぞり返っている。(スカーレットの妄想です)
そんなレイ様なんて、こっちからお断りよ!
そう、そしてその妹がとてつもなく不憫に見えて、
でも、なんて声を掛ければいいのか……なんて……言えば……なんて……な
「な、なにその汚ったない袋」
ああ、やってしまった。
私の悪い癖が出てしまった。
私に言われ、さらに大事そうにその麻袋を抱きしめる姿に胸が痛んだ。
もうなんなの!?
部屋に戻り、自分の使っていないバックを見つけ、持っていこうとしていたら、声が聞こえた。
「……よかったら使って。私のお古だけど」
レジーナ!?
先を越されたーーーーーーーーー!!!!!!
バックをクローゼットに放り投げ、ベッドにうつぶせになり叫んだ。
「わたしのバカ~~~~~」
“弓の問題児“
私は、影で皆からそう言われている。
でも、どうしていいのか分からない。
不憫でならないあの子に、何と言っていいのかも……
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※2021/9/22 少し訂正しました。
2023/1/16 気にな~る箇所があり訂正しました。