13話 麻袋を持った女子。
【アンフェール城騎士寮 (オスカー兄さんの部屋)→女子寮・ルーシー視点】
”勇者の剣”を鞘に入れ、荷物をまとめた。
もともと大した荷物は無く、着替えと、メモ帳、護身用の木刀。そして、王宮の客室で着せられたネグリジェ。それ (ネグリジェ)をオスカー兄さんの部屋に置いていこうとしたら、“俺が変に思われる”と突き返され、しぶしぶ家から持ってきた鞄用の汚い麻袋に入れた。
ん、待って、女子寮って女子だけよね。
鞄が”麻袋”って、引かない?
引くよね、絶対「うわぁ」って思うよね。
オスカー兄さんの部屋に鞄的なモノが無いかクロ―ゼットを開けると、あるにはあったが、中を開けると、泥にまみれ固まったブーツや靴下、手袋がそのまま放り込まれていた。
絶望しか感じられなかった。
仕方なく、麻袋一つ手に持ち、私は女子寮へ入寮したのだった。
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神官室の先の扉を開けると、大理石の床が広がっていた。まず目に飛び込んだのは、踊り場の途中で左右に分かれた濃い茶色のクラシックな造りのサーキュラー階段(アール曲線を描いて上がっていく広々とした階段)。
1階は、向かって右手がシャワー室。左が食堂。
階段を上がって、右手が神殿巫女と巫女見習いの部屋で。左手が女性騎士、女性騎士見習いの部屋となっている。
1階、正面奥は礼拝堂となっており、女子寮は上空から見ると十字架の形をしている。
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階段下で待っていた一つ上の先輩騎士見習レジーナさんが、私を部屋まで案内してくれた。
レジーナさんは、グリーンの瞳に、カールした青髪ベリーショート。浅黒く、いかにも体育会系の細身筋肉質。隊服のベージュのズボンに、編み上げのブーツ、身体のラインが見える水色のタンクトップ姿がかっこいい。
「こっちよ」
やはり麻袋をみると“ぎょっ”としたが、背中にかけた勇者の剣を見つけると、すぐ話題はそっちへ向かった。
お願い、そのままスルーして!
「なにその汚ったない袋」
後ろから歩いてきた騎士見習服姿の、サラサラとした長い銀髪をなびかせた小柄な女の子が、鋭く光る赤い目で睨んだ。
私が袋を隠すように胸に抱えると。
「まさか、バッグじゃないわよね?」
「やめなさいよスカーレット! 新人の子が怖がるでしょう」
「だって、それ汚いじゃん」
「スカーレット!」
「はいは~い、」
彼女は手をヒラヒラさせて、通り過ぎていった。
麻袋。やはり洗礼を受けたか……
「ごめんね、あの子はスカーレット。同期で実力はあるんだけど口が悪いの。それで去年何人かあわなくて……大丈夫?」
……ほぅ。
いるいるそういう問題児。
もうここは開き直るしかなく、正直にレジーナさんに話した。
「大丈夫です。今まで、山の中で暮らしていたんで、”バッグ”というものを持っていなくて」
「ええっ!? そうだったの。ごめんなさい」
酷く驚き、なぜか謝り不憫そうに私を見つめた。
きっと、とんでもない子が入ってきたと思われてるんだろうな。
もう、泣きたい。
「ここが、あなたの部屋よ」
“9“と書かれたドアの先は、まさかの一人部屋。
ベッドに、机に、椅子、クローゼットもある!
近衛騎士の兄さんの部屋と間取りは同じで、壁紙が薄いピンクを基調とした可愛らしいお部屋だった。まさに女子部屋!
「わぁ!」
「気に入ってくれた? 何かわからないことがあったら気軽に聞いてね。1号室が私の部屋だから」
「はい!」
「あと、隣が騎士のダリアさん。今勤務中でいないから、帰ってきたら挨拶してみて。あとは、すぐ横が非常口。寮でのルールはこの紙に書いてあるから読んでおいて。それと、ちょっと待ってて」
レジーナさんが駆け出しどこかへ行った、私は麻袋をクローゼットに投げ入れ、窓を開けた。
「お待たせ。よかったら使って。私のお古だけど」
戻って来たレジーナさんから手渡されたのは、ピンク色の花柄の生地に水色の取っ手の付いた小さめの手さげ袋だった。いままでこの世界で、そういった”女子的な小物“に縁のなかった私の手が震えた。
「お風呂や洗面所に行くとき無いと困るでしょ。良かったら使って」
「あ、あ、ありがとうございます!」
「じゃあ、また。18時から食堂で食事がとれるから」
レジーナさんは足早に自室へ戻って行った。
ああっ、なんか“女の子“みたいだ。
思わず兄が言ったセリフが頭を過った。
【女子寮・先輩騎士見習レジーナ視点】
ああ、どうしよう。
お姉さんみたいな事しちゃったー! キャーーーっ!
押しつけがましいとかウザイとか思われてないよね。
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新しく入寮する騎士見習をはじめて案内した私は、その子の持ち物に絶句した。
麻袋!?
それをひとつ抱え、背中には見事な装飾が施された鞘に入った剣が輝いていた。
あまりのギャップに驚きを隠しながら、話を聞くと……どうやら今まで凄い山奥で暮らしていて、騎士になるために王都へやってきたらしい。
確かに、剣は凄い代物。
持ち物は恐らく、騎士見習用の制服と着替えぐらい……
赤く長い美しい髪を一つに束ね、私を申し訳なさそうに見つめる深い青い瞳。こんな綺麗な女の子に、こんな恰好をさせるなんて! 信じられない!? 家族とかいるの!?
部屋に戻り使っていない手さげ袋を手に取り、彼女の部屋へ向かった。
ルーシーの震えながらの”ありがとうございます“に、自分の胸が締め付けられた。
うわぁぁぁぁ~~~
ベッドに寝転がり枕を抱えて、声を挙げた。
慣れないことするとむず痒いような、恥ずかしいような変な感じかする。
ルーシーの先輩騎士見習として、私も頑張らないと!
ご覧いただきありがとうございますm(__)m
[〇〇視点]付けてみました!
こんな感じでいいのかな。
※2021/9/22 気になる箇所訂正しました。
2023/1/16 気になる箇所がわんさかあり訂正しました。