124話 ダブルバリトンボイス
おはようございます。
今回2話投稿です。
【ホテルホーリーウッド・ルーシー視点】
※合宿終了まであと14日。
一晩でアクアラグーン一帯に赤い花を咲かせた、妖精王の第一王子。
その魔力と美貌は全盛期の妖精王とほぼ互角。
またの名を”気狂い王子”と騎士団内で呼ばれている。
先の侵略戦争で心に傷を負った王子はアクアラグーン西の樹海に蟄居し、樹海に迷い込んだ者をいたぶり、町で攫った少女たちでハーレムを築いているらしいと噂されている。(※オスカー兄さん情報)
その二つ名持ちの”第一王子復活”の兆候に、アクアラグーンは朝から騒然としていた。
この日、アクアラグーンに滞在する女性騎士全員は、安全が確認されるまで各自部屋で待機するよう命じられた。
+++
8:00頃。
朝食を終え、スチュワート様からの連絡待ちで私の部屋で待機することになったオスカー兄さんは、疲れていたのか、私の部屋のベッドに寝ころぶなり数秒でいびきをかいて寝てしまった。しかも腰には、ごっつい剣”なんとかボルグ”を携えたまま。汚らしい鞘が気になる。
その1時間後、べリアス陛下は防犯蛍光インクを落としてもらった後、公務のため一旦アンフェール城へ戻って行った。
部屋へ立ち寄ってくれた陛下の声にオスカー兄さんは「ぐわぁぁぁ!」と飛び起き、慌てふためき”ドタン”とベッドから転がり落ちた。陛下とスチュワート様がドン引きする中、ビシッと最敬礼した。
しかも後頭部に寝癖!
面白いので黙っておこう……今朝めちゃくちゃ怖い思いをさせた仕返しだっ!
陛下は帰り際、しつこいくらいに”結婚はダメだ、挙式はダメだ”と戸口で騒ぎ「じゃ、ルーシー午後にまた来る! 待っててねー!」と、スチュワート様に引き摺られるようにして去って行った。
その後大急ぎでレイ兄さんと部屋を交換をし、私の部屋はマルクス副隊長とレイ兄さんに挟まれる形となった。もう大声で歌は歌えない。
そして、新しく移った部屋に聖女ローラと元聖女エスタ様に、結界を張り直してもらった。
「ついでに……オスカーこっちへ」と帰り際エスタ様は手招きをし、跪いて敬礼するオスカー兄さんに聖なる光の加護を与えた。
「ルーシーを頼みますよ」
エスタ様は仰った後、オスカー兄さんの寝癖を見てフフッと微笑んだ。
ププっ、兄さんお茶目さんって思われてる!
心の中でほくそ笑んでいると、あろうことかエスタ様はオスカー兄さんの髪についた寝癖を手でそっと直し、最後に頭をポンポンと優しく叩いた。
「あ、ああ、ありがとうございます」
動揺し赤面するオスカー兄さんを穏やかな表情で見つめるエスタ様。
まさに聖女!
笑っていた私の心が薄汚く思えた。
二人が帰られた後、兄さんはまた私のベッドでいびきをかいて寝てしまった。今回は寝ころぶ前に
「剣は外して」と頼むと渋々外し、書き物机の横にシャルルと一緒に立てかけた。
窓辺には、スカーレット先輩が昨夜レグルスちゃんが残していった花と花びらを集め、水と一緒にガラスの器に入れた作品が置かれ。それにさっきターナーさんから頂いた赤い花を、1本だけ飛び出たカンパニュラの隣に刺し込んた。水に浮かぶ赤、ピンク、白……可愛い色彩にレグルスちゃんの笑顔を思い返す。
レグルスちゃん、また来てくれるかな……。
でも”手紙を読んで、泣いていた”とシャルルから聞いていた。
一晩で咲いた窓の外に広がる赤い花畑。
樹海に住む妖精王の第一王子……。
もしかして、レグルスちゃんはその妖精王の第一王子となにか関係があるのだろうか?
まさか、ハーレム!?
そこから逃げたくて私に助けを求めに来ていたのかも!?
『そうかもね』”勇者の剣”が話しかけてきた。
シャルルもそう思う!?
『……うん』
じゃあ、今度あの子が来たら叩き起こして! 絶対起こして!
『いいよ、ちょっと痛いかもしれないけどいい?』
ちょっとだったら我慢できる! 絶対だよ!
『おけ』
+++++
【ホーリーウッド→ホテルロイヤルラグーン・ルーシー視点】
11:30
「ルーシー様、大変申し上げにくいのですが。これから参られます”ご昼食兼ドレスのおすそ直し会”に急遽、妖精王様もご一緒にご覧なさると連絡を受けました」
「え、」
迎えに来られたスチュワート様が顔面を強張らせ仰られた。
「この度、妖精王様は”第一王子”の件で急遽こちらに参られまして、そのご報告も兼ねてルーシー様とイム様のご様子をご覧になりたいと……」
「イム副隊長も!?」
「イム様は、夜間任務でお疲れとのことで残念ながら参加は断られたようです」
「よかった」
イム副隊長が参加したら、あの時(バンディ城で)ついた嘘がバレるところだった。
「よくありません。唯一妖精王様に強く発言できるイム様不在の中、あのお二人が相手です。どう説得なさるのですか?」
低い声でスチュワート様は、淡々と怖い顔で言い放った。
「で、ですよねー」
「はぁーーーっ」
どうやら私の浅バカさに呆れたスチュワート様は深ーくため息をついた。
イム副隊長と妖精王の親子関係について”仲が悪い”としか聞かされていなかった私は、彼(彼氏ではない。今のところあんまり絡みがないが一応婚約者)が説得に協力してくれるなんて微塵も考えつかなかった。ここで二人で声を合わせて結婚を反対すれば、どうにかなったのかもしれないのに……。
もうあの濃い二人のおっさんに、うまいこと丸め込まれる事態が容易に想像できる。
「私も最善は尽くします。ルーシー様はくれぐれも”娘をやめる”と仰らないとお約束してください」
「はい」
これは、フリですか!?
+++
正午過ぎ。
スチュワート様に連れられ、移動用魔方陣でオスカー兄さんと私は、花で溢れるホテルロイヤルラグーン本館屋上ベランダへ到着した。
「おおルーシー! 元気だったかーー!」
燃えるような赤い瞳を輝かせ満面の笑みのイフリート殿下が両手を広げていた。
ベランダで待ち構えていた殿下は、長い二本の黒い角に赤黒い肌。上半身裸で光沢のある黒皮のパンツに金属性のブーツ姿。到着と同時に高い高ーいされ、そしてどこかぎこちなく遠慮がちにそっと抱きしめられた。
背中のシャルルがバチバチと火花を散らした。
格の違いだろうか。べリアス(陛下)なら飛びのいて表情を歪めるのに、殿下はシャルルに対しなんら気にも留める様子も無い。
「父上! お元気そうで何よりです」
「当たり前だ! もうルーシーに会うのが楽しみで仕方なかったからな。お菓子もあるぞ」
そのまま抱きかかえられリビングルームへ入ると、妖精王様がソファーであられもない姿(全裸)で寝そべっていた。
バーーーーーーーン!(効果音)
ローマ時代の彫刻か!?と思えるくらいの超絶肉体美。
大事な部分はウェーブがかった艶のあるエメラルドグリーンの髪から伸びたアイビーのような植物の葉っぱで隠れているが、めちゃくちゃきわどい。ちょっと動いただけで放送事故も有りうる。
目が合った。
「「「あ」」」(ルーシー&イフリート&妖精王)
「待ちくたびれたぞ。我が娘」(妖精王)
すかさずスチュワート様が妖精王の危うげな下半身を隠そうと自身の上着を脱ぎ掛けようとすると、その手を払いのけ妖精王様がゆっくりと立ち上がり、流れるように私の手を取りキスをした。金色の瞳を輝かせ上目遣いでジッと、いや濃くねっとりとした感じで見つめられ照れる。行動がべリアス(陛下)と似ているが、こっちはこっちでヤバいくらいの渋いワイルド系自然派イケオジ。
「フィン、ルーシーは我の娘だ」(イフリート)
※フィンは妖精王の名前”フィンヴァラ”の略。
「じき我が娘にもなる」(妖精王)
「そうだが、結婚しても我が娘には変わりはない」(イフリート)
「ハハハハハハ、娘は最高じゃの」(妖精王)
「ああ、我が娘は最高だ!ハハハハハハ」(イフリート)
「「ワハハハハハハハハハハハハ!」」(イフリート&妖精王)
濃いっ!
しかもこの二人、共にいい感じのバリトンボイス。濃すぎる。
母の再婚相手に、婚約者の父。
まさかこの二人が意気投合するとか、スチュワート様でも想像できなかっただろう。
今日、私はこの二人を説得するのだ。
青い隊服に愛刀”なんとかボルグ”を携えたオスカー兄さんの顔が緊張で引きつっている。
「殿下、お部屋のご用意が整いました」
前回お世話になったカース城のメイド長アリンさん(黒髪のお団子ヘアに色白で赤い目の典型的な悪魔族の美女)に案内され、以前ドレスの採寸をしてもらった部屋に移動した。
「お披露目式でお召しになるドレスでございます」
部屋の中央のトルソに飾られた、黒の生地にゴージャスな金色の糸で刺繍が施されたドレスに感嘆の声を挙げた。
「ステキ!」
「袖を通してみるがよい」
殿下の腕から降ろされ、パネルで仕切られた着替えルームへアリンさんと入った。騎士見習の水色の隊服を着ていた私は前回同様、さらしを注意されながらブラ付きコルセットとパニエを身につけ、ドレスを頭から被るようにして袖を通した。
「素晴らしい! よくお似合いになっております!」
肌の露出が少ない長袖ハイネックのドレス。上半身は黒を基調とし首元に赤い生地の控えめなフリルが品よくあしらわれ、肩の箇所だけ僅かにふくらみを帯びた袖も同様に黒を基調とし肘から袖口にかけて広がる赤いフリルがかわいい。ウエストから下はすっきりとしたAラインで、正面真ん中を切り抜いたように赤い生地のフリルが覗く。そして黒い生地全体に金糸で施された”炎の悪魔”イフリート殿下を想起させるデフォルメされた炎のエレガントな刺繍。
アリンさんは嬉しそうに私の髪を櫛で梳かし、大きな赤い宝石がはめ込まれた金細工のティアラを乗せてくれた。
アリンさんの満足げな表情や、見れば見る程素晴らしいドレスの出来栄えに、もう”辞める”なんて言葉言えるわけがない。
鏡に映った姿は、勇者というよりガッツリ”魔王の娘”。
うん、かっこいい。
部屋の外で待っていた殿下たちに披露すると。殿下は声にならないほど感嘆とし喉を詰まらせ涙を零した。私をまた抱きしめようとして、アリンさんに「涙のシミが付きますよ」と注意されていた。
妖精王様は仁王立ちで、またもやねっとりとしたような視線をこちらに向けニヤニヤ笑っている。大事なところは(アイビーのような)葉で隠されギリギリ見えない。ハラハラしているのは私だけだろうか……?
オスカー兄さんとスチュワート様はいまだに緊張で顔を強張らせていた。
アリンさんによるドレスのすそ直しは早々に終わり、昼食をとりながら今後のスケジュールについて話し合いをすると言われダイニングへ案内された。
いよいよ始まる……。
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※2022/03/26一部訂正しました。




