123話 パターン3で!
【ホーリーウッド・スカーレット視点】
※合宿終了まであと14日。朝。
「ちょっと、見てよ! あれ、イム副隊長じゃない!?」
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朝、突然の陛下の来訪に、私たち女性騎士見習は興味深々でルーシーの部屋に集っていた。
ルーシーは結界に弾かれ怪我を負った陛下を心配し、着替えを済ませるとすぐに隣の部屋の様子を見に行ってしまった。
ルーシーの部屋のカーテンを開けると、一面の赤い花で埋め尽くされたカフェの前の草原で、ルーシーの兄オスカーの前で跪くイム副隊長の姿が目に飛び込んだ。
「あと、ルーのお兄さんに、ターナーさんも……でもどうして? 謝ってるみたい」
隣にいたロナが首を傾げた。
「マジで!?」と、ホムラも飛び起き、窓の外を鋭い視線で見つめ…。
「あ、もしかして”妹をください”って言ってんじゃないの!?」
はっ! とした表情で私たち三人は顔を見合わせ、その様子を固唾を飲んで見守った。
跪いたイム副隊長に、ルーシーのお兄さんが何か話し、そして最後に「クソっ!」と大声で叫びカフェの中へ入って行った。
イム副隊長は蹲ったまま動かず、ターナーさんが屈みこみその背中をさすった。
泣いているのかしら?
ああっ! もしかして、ルーシーとの結婚を反対されて……。
その後、ハント副隊長がカフェから現れ、イム副隊長を連れ移動用魔方陣でどこかへ行ってしまった。
あの様子だと、ルーシーのお兄さんはこの結婚を猛烈に反対している。
愛に障害は付きものって聞くけれど、身内に、しかも仲のいい兄弟に反対されるというのは、なんだか切なく可哀想に思えた。
コンコン……
「き、君たち! ちょ、ちょっと来てくれないか!」
ドアの向こうからレイ様の声!? なんか焦ってる!?
もしかして、レイ様もさっきの外の光景を見ていたのかしら!?
「レイ様!?」
ドアを開けると、レイ様が片手を頭に当て戸惑いながら私を見つめ、申し訳なさそうに口を開いた。
「済まない、その……なんて言えば……。石鹸と、きっ、君たちの匂いを陛下に……陛下がルーとサミュエルさんのことを疑われて……」
????
いまいち話の筋が掴めない。
「なんで?」
「い、いいから。早く石鹸持ってこっちの部屋に来てくれ! 頼むよ!」
レイ様からの”謎の頼みごと”に、ルーシーの部屋の石鹸を持ち陛下が休憩なさっている隣の部屋へ行った。
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スンスン……スンスン……スンスン……
私たちの匂いを一通り確かめた陛下は、気まずそうに蛍光色の黄色で”エロ”と書かれた顔で「疑って悪かった」と泣きそうな顔で仰った。
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悪魔族は基本、欲望に忠実な種族。
それゆえのトラブルも多いけど、どの種族よりも素直で純粋に己の欲求を満たそうと努力する姿は魅力的でもある。
陛下もその一人。
気高く美しい容姿に素直で我儘。だけれども、王国の民の幸せを第一に考え、それを欲し、なりふり構わず行動なさる。その噂を耳にした私は”陛下の城の騎士”になってみたいと志願し騎士見習になった。
その先で、レイ様と出会う運命が待っているなんて!
陛下は王国の平和のために”王国の勇者ルーシー”を、悪魔族でありながら自分の娘のように溺愛なさっている。
合宿後に行われる式典で、ルーシーが正式にイフリート殿下の王女として発表されることについて、いささか懸念を示されているらしい。イフリート殿下と陛下の力関係も微妙だと、ルーシーがボヤいていた。
もしかして、王国の勇者ルーシーが王都からカース城へ移り住んでしまうのでは!?
と、お考えになった配下が、焦燥感からこのような事態になられたのではないかと……そんな陛下がなんだか可愛らしく私は思えた。
朝、廊下から聞こえた陛下の「…愛を確かめに来た」に、思わず吹き出してしまったけど、王国の勇者を誰よりも大切になさっているお言葉は清々しいほど率直で裏がない。「勇者なんてやめたい!」と、いっつも愚痴っているルーシーが、勇者を続けてこれたのはお優しい陛下のお陰でもあると私は思っている。
それに再三言うが、陛下が国王にならなければ私はレイ様に出会うことも叶わなかった!
美しくて我儘で優しい陛下が王でなければ……
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国王の魅力は健在!
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【ホテルホーリーウッドカフェ・ルーシー視点】
カチャ……カチャ…ナイフでベーコンを切る音が響き渡る。
私たちの他にお客さんが誰もいないホーリーウッドカフェのテーブル席で、青い近衛兵の隊服姿のオスカー兄さんと並んで朝食をいただいていた。
兄さんの腰には、近衛兵専用の青と銀色の装飾のお洒落な鞘に納められたガーディアンソードではなく、ごっつい”なんとかボルグ”という重量感のあるアンティークな剣を携帯けていた。兄さんは身の回りのことには無頓着なので、鞘の銀色もいぶし銀を通り越し真っ黒で装飾なのか汚れなのかよくわからない。辛うじて触れる頻度が多いグリップやガードは、多少手入れをしているのか鈍い銀色の輝きを放っていた。これがオスカー兄さんの実戦用の愛刀。なぜ、今日この剣を持ってきた?……と考えると少し怖くなった。
貸し切り状態のホーリーウッドカフェはしんと静まり返り、給仕担当のターナーさんは私たちの様子をうかがいながらカウンターで銀のカトラリーを念入りに磨いている。
別の用事を済ませ、少し遅れてやってきたスチュワート様が「失礼します」と、私の目の前の席に静かに腰を下ろした。憔悴しきった表情で握った拳を顎に当て深く思惟する様子を見せた後、ゆっくりと口を開いた。
「ルーシー様。この度は、陛下がお騒がせしてしまい、大変申し訳ございませんでした」
開口一番、スチュワート様は頭を下げ謝罪の言葉を発した。
「い、いえ。お気になさらないでください。それで……何があったんでしょうか?」
「なにから……お話しましょうか……
いつもは早口のスチュワート様の躊躇いを含んだ口調に、緊張が走る。
「……そうですね、先ずは”イフリート殿下”です」
やっぱりーーー!
予想してただけに、これはただ事じゃない何かを殿下に言われたようだ。
ゴクリと、ベーコンを飲み込んだ。
「昨晩、イフリート殿下と妖精王様が陛下を訪ねられ、直々にご報告がございました。”合宿後行われる式典で、ルーシー様を正式にイフリート殿下のご息女として公表すると同時に、イム様とのご婚約も正式に発表なさいます。そして挙式は5か月後のルーシー様のお誕生日にカース城で行う”と……」
「え? きょっ…しき?」
さっき陛下からは”婚約”のお話しか聞いていなかった私は突拍子も無い話に目を丸くした。
カシャ、カシャ、ガチャ…
隣に座る兄さんは無表情で瞬きもせず、明らかにイライラとした態度でフォークとナイフを乱暴に皿にぶつけ一心にベーコンを切り刻んでいる。
ひぃぃぃぃ……。
「はい。まだ続きがございます。ご結婚された後、ご夫婦お二人をカース城の城主になさり、殿下は”孫”の面倒を見ながらご隠居なさると……」
「え!? 夫婦で城主? 孫? 隠居?? はぁっ?」想像を超えて飛躍していく殿下の未来計画に、開いた口がふさがらない。
「驚きになるのも致し方ありません。陛下は卒倒なさり、私も今後の王国の軍事協定の内容を大幅に見直さなければならならない事態になりそうです……」
「でも、殿下は国の政治に関して口出ししないと」
「あくまで政治です。娘の結婚は無関係と仰っておられます」
あちゃーーーっ。そうきたんですか!?
いくら無関係とはいえ……王国の勇者が、戦う前(訓練中)に結婚して城主になるって聞いたことない。ラスボスを倒した後とかだったら理解できるけど。これは、あれか? 戦争に行く前に結婚ぐらいはさせてやろうとかいう親心的な、一種の風習みたいなものなのでは?
「どうして、こんなことに……」
「…これは私の憶測ですが。とにかく、殿下はルーシー様が、陛下の傍にいらっしゃることがお気に召さないと申しております。それに加えて、アスモデウス殿下のホムラ様がご結婚なさり、ご夫妻がバンディ城の後継者となる話を聞き、対抗心を抱いたものと思われます」
「対抗心? 何に対して?」
「はい。アスモデウス殿下と思われます」
「え、そこで張り合っちゃうの?」
「驚かれるのは無理もございません。陛下も私も耳を疑いました」
「結婚して、城主……孫……」
風習でもなんでもなかった。
そして私は”城”という言葉にめっぽう弱い。
しかも”城主”!
これが、”とんとん拍子”というものなのか……。
縁のある相手とは不思議と周りが協力してくれて、物事がスムーズに進むと聞いていた。
特に結婚は……。
結婚して城主。結婚して城主。結婚して城主・・・。
憧れていた”お城”に住める。しかも、自分の城! 世帯主ってやつだよね。
ステキな王子と結婚したうえに、お城の城主にもなれるなんて、普通に考えたら夢のようなハッピーライフ! 万が一離婚を迫られても自分のお城だから安心安定!
ちょっと……結婚してもいいかも♪
”勇者あるある”のバッドエンドフラグなんてすっかり忘れ、私の気持ちは大いに結婚へ向け傾きかけた。
カチャガチャ……ガン!ガン!……ガン!
オスカー兄さんがお皿を割るぐらいの勢いで、ナイフを叩きつける音で現実に引き戻された。
幸せな妄想は掻き消え、隣に座る兄に視線を移すと、尋常じゃない黒いオーラを放ち険しい表情でフォークに刺さったベーコンを口に入れギリギリと噛み締めた。
「兄さん…」
先ほどから一言もしゃべらない兄さんを心配して腕に触れると、兄さんは手を止め金色がかったグレーの瞳で、
「ルー、イムとは会ってないだろうな」と押し殺したような声で問いかけた。
いつもは優しいグレーの瞳が、恐らく怒りからかギラギラとした金色に変わっていく……。
「会ってないよ。なんで?」怖くて変な汗が出て動悸がしてきた。
「昨晩、俺も妖精王様にお会いした。そのとき妖精王様がアクアラグーンで”ルーとイムが愛し合っている”と、”愛し合う二人を早く結婚させたい”と、仰ら…れ…うっ……ルー、もう噓なんてつかなくていい、俺には正直に……ズッ……言ってくれ。……うぅ……さっきも……イムがルーの宿の方に……走っ……ううっ……ズッ……俺、…イムを……うわぁぁぁぁ」
低く押し殺した声が次第に嗚咽に変わり、表情を歪め閉じた瞳からダーーッと涙が流れた。
「は!?」
”ルーとイムが愛し合っている”?”愛し合う二人を早く結婚させたい”?“嘘つかなくていい”?最後の方はよく聞こえなかったが……こんなことになっているなんて!?
あの妖精王、とんでもない妄想力。
「うっ……ルー、嘘はもういい……ズッううっ…あいつと、ズッ……会って…いるんだろう?」
オスカー兄さんは妖精王の話から、アクアラグーンでの合宿中に私がイム副隊長と”密会”していると思っているらしい。
「いい加減にしてよ! 騙されやすいにも程があるよ、兄さん」
「…そっ……んな…だってルー、うっ……は…イムの事をキラキラした目で……、俺に……は嘘は……つかないでく……れっズッううっ…」
「だからいい加減にして! 噓も何も、私イム副隊長と二人だけで話したことだって2回ぐらいだよ!(正確には1回)名前で呼ばれたことだって一度も無いし! アクアラグーンでの任務内容だって知らない! この前の天上界事務局の件で会った時だって、一言も話さなかったし……。会うも何も、まともに会話すらしたことない相手だよ! なにをどうすればそうなるの!?」
「ズッ……ルー……、本当…なの…か?」
オスカー兄さんは、しゃくり上げながら私を見つめ返した。
「残念ながら本当! 兄さん、もう恥ずかしいから泣かないで」
ナフキンを手渡すと、ガーっと顔を拭いた。そして、すっきりした表情でもう一度私に確認した。
「ルー…嘘じゃないんだな。イムとは会ってないんだな」
「会ってない」
「そうか、よかった……そうか…」
兄さんは何度も頷いた後、息を大きく吐き、テーブルに肘をつき目に右手を当て黙り込んだ。
・・・しばしの間沈黙が流れた。
「あの、よろしいでしょうか?」このやり取りに痺れを切らしたスチュワート様が、眼鏡の奥から私たちをキッと見つめた。
「失礼しました!」(オスカー)
「あ、申し訳ござません!」(ルーシー)
スチュワート様の話の途中だったことをすっかり忘れていた私と兄は小さく頭を下げた。
「問題ございません。先ほどオスカー様がルーシー様に尋ねられました件は、私どもの方でも確認事項に含まれておりましたので、どうかお気になさらず。……そこでです。ルーシー様。私からお願いがございます」
いつの間にかスチュワート様の口調がいつもの軽妙な早口に戻っていた。
「はい」
「式典での”ご婚約発表”は致し方ないですが、最低でも”ご結婚”は何としてでも回避しなければなりません。理由を申し上げますと、ルーシー様のご結婚が決まってしまった場合、陛下は、王としての威厳もなにもかなぐり捨ててあらゆる手段を使いイム様失脚を謀ると思われます。最悪な場合殺害もあり得ます。それに対しお怒りになった妖精王様がイフリート殿下と共に反旗を翻し、王都に攻め入り内乱が勃発すると予想されます。ですので、ご結婚だけは回避なさってください!」
隣に視線を移すと、オスカー兄さんが大きく頷いた。
私が結婚したらイム副隊長が危険に晒され、王国で内戦が勃発しちゃうの!?
「けっ、結婚を回避ですか……。私は、どのようにすればよろしいのでしょうか?」
「ルーシー様、殿下にはこう仰ってください。”まだ、父上の娘でいたい。カース城に君臨なさる父上の姿を見ていたい”と”イム王子とはもう少し愛を育んでから一緒になりたい”と」
「う……。はい」
うわ、と言いかけた。
結局、地道な説得作戦か。
毎回、毎回、問題が起こるたびにこんなこと、本当に面倒臭いな。
「よろしいですか?」
「はい。ですが……あの、スチュワート様。私が、殿下の娘になるのをやめた方が手っ取り早いのでは?」
と、つい本心が口から漏れ出てしまった。
その言葉にスチュワート様が「は!?」と今まで見たことも無いくらい驚いた表情で口を開けた。その顔がみるみるうちに険しい憤怒の表情に変化した。
「それはなりません! ルーシー様はイフリート殿下の王女にならなければ、新たな問題が発生します!」
スチュワート様の青白かった肌の色は、熱で赤みを帯び眉間に深く皺を寄せ、厳しく語気を強めた。
ここまで怒りの感情を露わにするスチュワート様を見るのははじめてだった。
でも、疑問だった。
”イフリート殿下の娘になるのをやめる”ことは、そんなに”問題”になることなのだろうか?
この際、はっきりと理由を確かめたいとスチュワート様の眼鏡の奥に光る金色の瞳を見つめ聞き返した。
「も、問題とはなんでしょうか?」
そんな私にスチュワート様は、額に右手を当て長いため息をついた。
「……ご説明いたします。おそらく……イフリート殿下は、現在の状況で娘になるのを拒んだルーシー様をなんとしてでも手に入れる為、妖精王様と結託し王都に攻め入り力づくでルーシー様を我がものになさろうと致します。そして、ルーシー様を手に入れた殿下は、無理やりにでもイム王子と婚礼を挙げさせこの国を……」
「この国を…?」
「憶測ですが、乗っ取ってしまい兼ねないと……」
「クーデターってこと?」
「はい。南のジェダイド帝国の脅威より、どちらかと言えばこちらの危機の方が差し迫っております。それに…その機を逃さず、ジェダイド帝国はこの国に侵軍してくるでしょう」
「……てことは、王都に攻め込んできたイフリート殿下を私が迎え撃って封印し、クーデターを阻止できたとしても、南の帝国が攻めてくるのは必至。しかも”氷の魔女”の天敵である殿下が封印されたこの王国の戦況は最悪……。結局のところ、私がおとなしく殿下の娘にならなければ、内紛や戦争は避けられないのですね」
「はい。さすがはルーシー様」
スチュワート様は安堵した様子で頷いた。でも目は笑ってない。
《※以上をまとめると…。
1・ルーシーが娘になるのを辞める→クーデター勃発(妖精王+イフリート軍)→ジェダイド侵攻。
2・ルーシーが婚約して挙式日発表→べリアスによるイム副隊長失脚→クーデター勃発(妖精王+イフリート軍)→ジェダイド侵攻。
3・ルーシーが婚約のみ発表→いままでどおり訓練・演習→ジェダイド迎撃。
結婚を発表してイム副隊長を守るために、べリアス陛下を封印する第4の可能性も考えてみた。
(4・ルーシーが婚約して挙式発表→べリアス封印→王国民とアンフェール城騎士団・その他王国内の要人の反発→内乱勃発→ジェダイド侵攻)
目下最善と思われるのが”パターン3”。
結局のところ、他の選択肢を選べば全て王国内の争いにつながってしまう。
『☆自分のせいで王国が滅んでしまう』
”勇者あるある”の最悪のシナリオが頭を過る。》
「……で、どうするんだっけ?」
思わずタメ口でスチュワート様に尋ねてしまい「わ、あっ、すいません。どうすればよろしいのでしょうか?」と急いで言い直した。
「とにかく、なんとしてでも挙式を遅らせる。”殿下の娘でいたい”と、”愛を育みたい”と仰ってください。よろしいですね」
「……は、はい。でも、うまく通用するのでしょうか?」
「こればかりは、なんとも言えません。ですが殿下は何よりもルーシー様のお気持ちを尊重なさると私は考えております。午後は、私も陛下とともにロイヤルラグーンへ参りますのでご安心ください。ご健闘をお祈りします」
「ご助言、ありがとうございます」
お礼を言い頭を上げると、スチュワート様は私の目を見つめ深く頷き僅かに口元を緩めた。
笑った!?
冷徹執事の希少な笑顔に気持ちが奮い立ち、”じゃあパターン3で! ばちこい!”と心の中でバットを構え、私もスチュワート様に微笑み返し深く頷いた。
なぜかスチュワート様はギョッとしたような顔をしたが、すぐにオスカー兄さんに顔を向けた。なんでギョッとしたのだろうか? どこかおかしかった?
「オスカー様。妖精王の第一王子の件ですが、確認次第対応を検討いたしますので、ルーシー様のお部屋でしばらく待機願います。では、私は陛下に伝えて参ります。ごゆっくりどうぞ」
また微笑みを浮かべスッと立ち上がり、ターナーさんを一瞥し忙しそうに去って行った。
さっき、なんて聞こえた?……”妖精王の第一王子の件”。
妖精王関係は第三王子の他にも、いくつか問題を抱えているのだろうか?
兄さんに聞いていいのか、どうしようか考えながらすっかり冷めた目玉焼きを食べ終え、デザートのフルーツゼリーに手を付けた。
「……ルー、妖精王の第一王子が、今朝イムのところへ来たらしい」
オスカー兄さんが、深刻そうな表情でぼそりと口を開いた。さっきスチュワート様が言っていた”王子”だ!?
「第一王子? ってことはイム副隊長のお兄さん? だよね」
「はっ、そんな生易しいもんじゃねぇ。”気狂い王子”と噂されているとんでもなくヤバい王子だ」
オスカー兄さんが苦笑いした。
「え!?」
なにそれ!? もしかしたら、近い将来そんな危険人物が義理の”兄”になるの!?
初耳!
「あとで外を見るといい、真っ赤な花が一面に……狂気の程がよくわかる」
「花? ああ、あの花。そういえば、ロナはすごく綺麗だって言ってたよ」
「ルー、」
兄さんが私の肩を掴み真顔で見つめた。
「今から俺と一緒にアンフェールに戻らないか?」
「兄さんと?」
「警護要員を増員し、安全が確認されるまで戻ってもいいんだぞ」
「でも、殿下を……説得しないと」
「ああ、そうだった……」
開店準備を始めたターナーさんが、カフェの敷地と外を仕切っていた布製のブラインドを上げると、朝日を反射して輝く湖とともに、目の前に広がる真っ赤な花の絨毯が目の前に広がった。
「わあっ! きれい!」
「ルー……」兄さんが顔を顰めた。
「オスカー、そんなに心配するな。この花の花言葉は”戦い”のほかに”勇敢”とか”治癒”という意味もある。俺は、あの王子が”北の神殿”で訓練している王国の勇者を褒め称えているように見えるけどな」
ターナーさんが柔らかな笑みを浮かべ、摘んできた赤い花を一輪、私に手渡してくれた。
小さな赤い花がいくつも集まった花束のような雰囲気の花からは、悪意など全く感じられなかった。
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お付き合いいただきありがとうございますm(__)m
次回、木曜日更新予定。
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