115話 訣&別
【樹海→ホテルホーリーウッド・レグルス(女の子)視点】
※114話の二日後。
ここ数日、お肉を食べ続けていたせいか魔力も順調に回復している。
魔力の回復とともに小人たちの知能も高くなり、虫や果物の採取、簡単なお遣いまでできるようになった。
「今夜は新月かな?……」
月も星も見えない、真っ暗な夜。
昼のうちに捕まえていた眠り粉を撒く虫に魔力を込め、空へ飛ばした。
しばらくすると……アクアラグーン宿場町周辺は暗く静まり返った。
樹海の入り口でボクを見張っていた弟アークトゥルスが、口をポカンと開けぐっすり眠っている。もう一度、眠り粉を入念にふりかけ、ついでに口を閉じてあげた。
魔力で操作する虫たちはジャスミンの花を嫌い、ルーシーの部屋には眠り粉を撒かないよう調整してある。
目指す先に、灯りが見えた。
「やった! 起きてる!」
ルーシーの部屋以外、全ての灯りが消えた宿を目指しボクは駆け出した。
ボクは今夜、ルーシーに別れを告げる!
そして一か月後、君がイフリート殿下の王女と公表される式典に、妖精王の”第一王子レグルス”としてボクは君の前に現れる。
本当の姿で、君に会い、友達になって、正式に君に”婚約”を、いいや”結婚”を申し込む。
だからもう、こんなことは終わりにする。
偽りの姿で君に会うのは、これで、最後だ!
+++
柔らかな灯りがもれる部屋の窓を覗くと、いつもの半そで短パン姿で、机に向って何か書いているルーシーと目が合った。
深い青い瞳が大きく見開いた。
「レグルス!」
ルーシーは、立ち上がり窓を開け、手を差し伸べた。ボクがその手を掴むと、グイッ! と、ルーシーはボクを引き寄せ、ギュッと抱きしめた。
「ぅわ……」
「久しぶり! もう来てくれないんじゃないかと思って、心配してたの」
「っ!…そ、その…あの、ルー…シー」
ルーシーの柔らかい胸が顔に当たる何とも言えない感触に、気が動転し呼吸が苦しくなった。感情が抑えられず、髪から、オレンジ色のチューリップがポンポン飛び出す。
「かっわいい~~~」
腕から解放されたかと思ったら、今度はボクの手を両手で包み込み、その深い青い瞳を輝かせ顔を近づけた。もう心臓が止まりそうだ。
「この前の夜、バラの花冠と、毛布かけてくれてありがとう!」
「あ、…あ、あ、」パクパク口を動かすだけで精一杯で声が出ない。
「レグルスなんでしょ?」
「あ……う、うん」どうにかこうにか返事をした。
「あの日、ホムラたちと遊び疲れて、そのまま眠っちゃったみたいで。レグルスが毛布かけてくれなかったら風邪引いてたかも。あ、そこ座って、ちょっと待ってて」
ベッドを指さした。
ルーシーは、クローゼットを開け、何かを探しはじめた。
言われた通りベッドへ座り呼吸を落ち着かせ、ふと机に視線を向けると、ペンやノート、本が数冊置かれていた。
「これっ! ジャー―ーン!」
戻ってきたルーシーが、ピンク色のバラの花が描かれた小さな丸い缶を出してきた。
「この前、べリアス…陛下に頂いたの。一緒に食べよっ」
パカッと、缶の蓋を開けたルーシーの表情が一変した。
「どうしたの?」
「いやぁぁぁぁっ! キノコ生えてる! うそ、信じられない!? そんなぁ~~~」
缶の中を見せてもらうと、色鮮やかな黄色いキノコがびっしり詰まっていた。
「うわぁ……雨が続いてたからね」
ルーシーは、ひどくがっかりした様子でボクの隣に腰かけ、深くため息をついた。
「はぁ、これ本当は”バラの花びらの砂糖漬け”で……レグルスと一緒に食べようと思って、取って置いたんだけど。 きっとあの時だ、悔しいーーーっ。ごめんね」
「そんな、謝らないでよ。ボクはただルーシーに……」
そうだ、今日は君に”さよなら”を言いに来たんだ。
「なあに?」
「その……」
微笑み、首を傾げボクを覗き込むルーシー。
凄く……かわいい。
もう少しだけ、このままでいたい。
ルーシーが悲しむ顔なんて見たくない。
このまま楽しく過ごして、そして、最後に別れの言葉を……。
”さよなら”は、最後に……。
「ね、レグルス。植物とか詳しいよね」
ルーシーが唐突に聞いてきた。
「え、うん」
「字、読める?」
「うん」
「じゃあ、もし良かったら、手伝ってくれない?」
?
ルーシーは、嬉しそうに机に広げていたノートを持ってきて、ボクに手渡した。
ノートには、植物の名前や特徴が、びっしりと書き込まれていて、大事なところだろうか、赤い線が引かれている箇所がいくつもあった。
「週明け、テストがあるの」
「テスト!?」
「植物学の。植物の正式名称って、聞き慣れない名前ばっかりだから、覚えられなくて。しかも、先生が、すっごく厳しいの」
”植物学”か…昔やったことある。
「それで、ボクは何をすればいいの?」
「問題を出してほしいの」
「問題?」
「うん、赤い線が引いてある箇所とか、重点的にね」
「わかった、いいよ」
ルーシーは、ボクの正面に置いた椅子に腰かけ、「じゃあ、お願い」と真剣な表情で合図した。
「じゃあ、問題行くよ……
+++++
楽しい時間は瞬く間に過ぎていった。
はじめは問題に答えられなかったり、間違えたりしていたルーシーだったが、何度も繰り返すうちに覚え、ノートの赤線部分は全部暗記できたと喜んでいた。
ボクも、ルーシーの力になれたみたいで、嬉しくて、嬉しくて、夜明けが近づき窓の外が白んできたのに気づかずにいた。
ルーシーは、小さくあくびをしながらベッドに座るボクの手を、そっと握った。
!?ドクン!?
心臓が跳ね上がった。
「ね、レグルス。このままここにいて、一緒に朝ごはん食べない? ここのホテルのベーコンが凄くおいしいの。それにホムラやロナ、スカーレット先輩に、あとレイ兄さんも紹介したいな」
紹介!?
「えっ!? ボ、ボク、その……かっ、帰らないと!」
突然のことに戸惑い、手を振りほどき窓の外へ一目散に飛び出した。
「レグルス!」
「さっ、さよならっ!!!」
ボクはもう、ここへは来ない。
さようなら、ルーシー。
次に会うとき、ボクは、妖精王の第一王子。
弟アークトゥルスから、君を奪う!
だから、それまで……さようなら、ルーシー。
「さよならーーーっ! またねーーーーっ!」(ルーシーの大声)
え!?
声に振り向くと、ルーシーは窓から身を乗り出し、輝くような笑顔で両手をブンブン振っていた。
え!?
笑顔?
なんで?
君と”訣別”の意味での”さよなら”だったんだけど。
”またねーーーーっ”って???
え?
え?
ボクは、何が起こったのか分からないまま走り続け、真っ黒い森にぽっかりと空いた泉に飛び込んだ。
ザブーーン!!!
バサバサバサバサ……
泉で羽を休めていた鳥たちが驚き、朝焼けの空に飛び立って行く。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
きっと、ルーシーは、わかっていない。
さっきの”さよなら”の意味を……。
「ハァ……ハァ……ハァ……ハッ、ハハッ、ハハハハハ、アハハハハハハ……」
静かな森に、笑い声が響き渡る。
ジャスミン、矢車菊、ナスタチウム、スミレ、エリゲロン、ガーデニア、ブーゲンビリア、白バラ、チューリップ……
髪から湧き出る追憶の花たちが泉を覆いつくし、花の香りが感傷的になっていたボクの心を、甘く優しく癒していく。
君といると、こんなにも楽しくて、面白いことばかり……
本当は、”さよなら”なんて言いたくない。
でも、そうしないと、君はずっと女の子の”レグルス”を探すだろう。
偽りの姿のボクと訣別しないといけないのに……
+++++
いつもお付き合いいただきありがとうございますm(__)m
※ブックマーク★ありがとうございます!!!感謝感謝ウルトラサンクスです!
ブクマ★いただけましたら励みになります、応援よろしくお願いしますm(__)m
※引き続き感想、誤字脱字報告も、大変お手数をお掛けしますが受け付けております。




