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114話 縁に連るれば……

【アクアラグーン宿場町・レグルス(男)視点】

 ※熊のバーベキューの翌日。


 ”女の子の姿でルーシーに会うのは、もう終わりにする”


 別れを告げる決意をしたボクの心は晴れやかで希望に満ちていた。


 ♪


 今夜も肉の調達のため、アークトゥルスに気づかれぬよう遠回りし宿場町へ向かった。

 昨日と同じく妖精王の王子と暴かれぬよう、髪を黒に変え旅人のようなフードの付いた濃い茶色のマントを身につけた。


 宿場町まで来てみると、心なしか町に王国騎士たちの姿が多い。

 なにかあったのだろうか?……もしや、もうボクの事がバレてしまったのか!?

 なにも悪いことはしていないのに、鼓動が聞こえそうなほど脈打ち、もうすぐにでも森へ帰りたい気持ちになった。


 だが、すれ違う騎士たちはボクに視線を移すも、特段、警戒する様子も無い。

 

 昨晩訪れた居酒屋に皿を返し、昨日と同じように焼いた肉を注文した。 

 そのついでに、宿場町で何が起こっているのか、目の下に傷がある店主に聞くと。


 ”凶悪犯が逃亡中で、王国中で捜索している”と、一枚の手配書を見せられた。手配書には、酷く太った醜い天使族の男の顔が描かれていた。


 ボクじゃないのか…良かった。


 料理が出来上がるのを待つ間、外のテーブル席に腰を下ろしサービスで出されたビールと豆のつまみをいただいていると、隣のテーブル席に白いTシャツに紺色のハーフパンツ姿の天使族の男が座った。

 

「ハァハァハァハァ……」


 走って来たのだろうか……肩で息をしながらタオルで汗をぬぐいメニュー表を見つめている。 

 長い金髪を頭上で結い、傷だらけの顔や腕や脚。そして、顔を上げると天使族にしては鋭い目つきでボクをチラッと睨んだ。


「お久しぶりです。サミュエルさん、ビールっすか?」


 店の若い男の店員がその天使族に笑顔で話しかけると、その男は表情を緩ませた。


「ああ、それと今日はつまみにドライソーセージとアンチョビオリーブを」

「へい!」


 アンチョビオリーブ?


「お待ちぃ!」1分もしないうちに、ビールと皿に盛られた”ドライソーセージとアンチョビオリーブ”が隣のテーブルに置かれた。


 短くカットされたドライソーセージの横に、山盛りのオリーブ……アンチョビは?

 ボクの視線に気づいたその男は、こっちを向いてニッと笑い小さく頭を下げた。

 !?

 ボクはとっさに目を逸らした。


「お兄さん、良かったら、おひとつどうぞ」


 !?え、思わず顔を向けると、その男はピックにオリーブとソーセージを交互に刺し、ボクに「ほら」と笑顔で手渡した。


「あ、ありがとう。でも、どうして?」


「すげー見てるから、食べたいのかと思って。俺には多すぎるし丁度いいと思ってさ」


 キツそうに見えていた目もよく見ると綺麗な水色の光を発し、穏やかな口調はボクの警戒心を解きほぐした。


「そうか……では、遠慮なく」


 パク……

「うまっ! なにこれ、オリーブの中に何か入ってる」


「アンチョビソースだ。ここのは絶品なんだ」


 見た目とは違って気さくなその天使族の男は、またニッと幸せそうに微笑んだ。よくよく見ると背中の片方の翼が半分無い。


「その翼はどうした?」


「ああ、これか? 15年前の戦争で……」


「その腕や顔の傷もか?」


「それもあるが、仕事柄傷が絶えなくて」


「仕事柄?」


「お待たせしましたー!」

 店の若い店員の男が、蔓で編んだ大きなかごをテーブルの上に置いた。かごの中には、布で包まれたパイ皿が入っている。なるほど…持ち運びやすいように、かごに入れてくれたのかと感心した。


「では、これを」


 昨日と同じように金貨を手渡そうとすると、


「お代は今日はいりません。昨日の金貨1枚でこの皿10杯分ぐらいなんで」若い店員の男が両掌を俺に向けた。


「かまわぬ。受け取ってくれ」


「あああっ、でも親父が受け取るなって……」


 ボクたちのやり取りに、目の下に傷がある店主が店の奥から出てきた。


「ボクの気持ちだ。どうか、気にせず受け取ってくれ」


 店主に金貨を手渡すと、彼は少し考え”よし”と頷いた。


「じゃあ、今回は受け取ります。ですが、お兄さん、次から20皿分は無料ということで勘弁していただけねぇでしょうか?」


「無料で? 勘弁?」


 この店主は何を言っているのだ? 

 首を傾げていると、隣の天使族の男がハハハっと笑った。


「良かったじゃねぇか。20回分手ぶらで飲み放題! 俺と一緒だ」


「え!? 一緒?」


「違いますよ、サミュエルさんからは一生お金は頂けないっす」若い店員が”サミュエル”という天使族の男にウィンクした。


「一生!? なんでだ?」若い店員に聞くと。


「サミュエルさんが”ミカエル様”を連れてきてくれたお陰で、うちの店は”()()”になったっす」店の前に掲げた立て看板を指さした。


 そこには”㊗天使族(おさ)ミカエル・エリック・キング来訪”と赤い文字で書かれていた。


「天使族(おさ)……。知り合いなのか?」サミュエルさんと呼ばれる男に、ボクは尋ねた。


「まあ、仕事柄」


 仕事柄? この男は、何者なんだ!?


「サミュエルさんは騎士なんすよ。それも、勇者ルーシーちゃん専属の治癒担当!」

「え!?」

「すいませーん」(店内からの声)


「はーい! それでは、ごゆっくり」頭を下げ若い店員は騒がしい店内へ駆け込み。店主も「じゃあ、お兄さんそういうことで、今後ともご贔屓に!サミュエルさんも遠慮せず、ビールのおかわりじゃんじゃん出しますんで、ゆっくりしていってくだせえ」とサミュエルさんという男の背をバシッと叩き店に戻っていった。


 ボクは、隣の席に座る”サミュエルさん”と呼ばれる男をまじまじと見つめた。


 騎士で、しかも勇者ルーシーの治癒担当。

 治癒だと!?

 ルーシーは、訓練で()()をしているのか!?

 ボクが見た限り、ルーシーの身体には傷なんて一つも見当たらなかった。


 

「……勇者ルーシーは、”怪我”するのか?」その男に尋ねた。


「ああ、訓練中にしょっちゅうな。勇者と言っても元気な普通の女の子だから」


 そのサミュエルと呼ばれる男は、ビールをグッと煽った。


「お前が治してやっているのか?」


「ぷはーーっ。まあ……そうだ」


 水色に輝く瞳を細め、またニッと笑った。


「どうやって?」


「”癒しの光”。ほら、お兄ちゃんもっと食え! 空きっ腹にビールは良くねぇからな」


「あ、ああ。じゃあ」


 持っていたピックでオリーブを刺し、いくつか口に運んだ。

 さっきまでは鋭い目つきで怖そうな男だと思っていたが、全然違う。なんか()()()優しい。


「ところでお兄ちゃんは、悪魔族か?」

「いや、妖精族だ」

「そうか……いいなー。すげーイケメンで、しかも金持ち」 

「は!?」

「俺もイケメンに生まれたかったーー」


 酔っているのだろうか。

 サミュエルさんは、ため息をつき、うっとりとするような羨ましそうな目でボクを見つめた。


 親父に似ているこの顔を、ボクはあまり好きじゃない。

 親父に似ているせいで、”樹海でハーレム作ってる”とか”侵入者を血祭りにして楽しんでる”とか変な噂を幾度となく耳にした。実際、親父がそうだとしても、ボクはそんなこと絶対にしないのに……。



「その、サ、サミュエルさんでしたっけ。あの、顔なんて関係ありませんよ、むしろ…」


「ある! イケメンはみんなそう言う」


 不満そうに顔を顰めた。

 ボクから見たら、ルーシー専属の騎士であるサミュエルさんの方が羨ましいのに…。


「偏見ですよ。ボクなんて、今まで自分の思い通りになったことなど一つも無い」


「え……そうなのか?」


 今度は優しさを湛えたアクアブルーの瞳を曇らせ、心配そうにボクを見つめた。


「はい……」


「そうか……いろいろあるんだな、……悪かった」


 申し訳なさそうにサミュエルさんは、頭を掻き「これ全部やるから許して」と、オリーブとドライソーセージが乗った皿をボクによこした。


「え!?」


「俺、ビール飲んじまったし、遠慮すんな」立ち上がりボクの肩をポンポンと優しくたたいた。


「でも…」


「じゃあ、俺はこれで……お兄ちゃん、おやすみ」と優しく笑った。


 ”ごちそうさん”と店の中に向って声を駆け、ボクにもう一度手を振りサミュエルさんは帰っていった。

 

 なんか、いい人だな。


 騎士で、ルーシー専属の治癒担当。

 君は、あんなに優しそうな人に守られているんだね。


 1か月後の式典に、彼もルーシーの護衛騎士としてカース城へ来るのであろうか?

 妖精王の第一王子として、ボクが現れたらきっと驚くだろうな……と想像し口元が緩んだ。



 お皿に残ったオリーブとドライソーセージをピックに全て刺し、食べながら足取りも軽く家路についた。

 


+++++ 

【アクアラグーン宿場町居酒屋テンプル・店主ヒュー視点】


 夜11時を過ぎた頃、妖精王の第一王子がまた店にやってきた。

 どうやら、うちの店の味を気に入ってくれたらしい。

 良かった~~~。やったぜ!


 昨晩は閉店間際の来店だったが、今回はまだ客が多くいる時間帯。料理を作る間、外のテラスのできるだけ静かで、目立たない席に案内した。今夜は、王国全土で凶悪犯の捜索をしているせいか町には騎士たちが多く、王子もそれを気にしているようだった。髪色を変えフードを被っている様子から、王子はまだ、自分の身元を公にはしたくないのだろう。


 我ながら完璧な気遣いだ、と自画自賛していた矢先……その隣の席に、ランニング帰りの王国騎士”サミュエルさん”が座った!?


 そうだった、そこはサミュエルさんの指定席(目立たない席)。


 王子は大丈夫だろうか?


 外の様子をチラチラ見ながら、店一番の高級肉(牛ヒレ・ロース合計約2Kg)を炙り、パイ皿に敷き詰め野菜を添え蓋を閉める。大きい布で包み、持ちやすいようにかごに入れ、息子に持っていくよう頼んだ。そして「お代はもらっちゃダメだ」と念を押した。

 店内も満席で料理をしながら外の様子を観察していると……なにやら、揉めている。


 やはりお代か……。

 

 仕方なく俺が出て行きお代を受け取り、妥協案を出すと王子は不思議そうな顔で俺を見返した。育ちのいい王子様には理解できなかったらしい。


 それを、サミュエルさんは”ハハハっ、良かったじゃねぇか。20回分手ぶらで飲み放題! 俺と一緒だ”と一蹴した。


 王子は、そんなサミュエルさんに興味を持ったらしく、あれこれ質問をはじめた。それはそうと、王子はサミュエルさんに出したつまみのドライソーセージとオリーブを、彼と一緒に食べている。


 いつのまに?……二人はすでに打ち解け、会話を楽しんでいるように見えた。


 さすがは王国騎士サミュエルさん。

 天使族長ミカエル様とも親密で、しかも、ルーシーちゃん専属の治癒担当。

 その見た目とは裏腹の温かい人柄は、戦争の呪縛に縛られた王子の心まで解きほぐし癒してしまったのだろう。


 サミュエルさんの後ろ姿を、微笑みながら見送る王子の姿に、俺は心から安堵した。


 先の戦争で亡くなった美しき女王(ティターニア)の一粒種で、次期妖精王と謳われていた第一王子。

 その復活を、俺は密かに待ち望んでいる。




「親父! 王子、また来てくれたっすね」


「ああ、ホッとしたーーー」


「だから、大丈夫だって言ったじゃん!」


 閉店した店内で後片付けをしながら息子エイドと今日の出来事について話をした。


「それにしても、サミュエルさんって凄いっすね」


「ああ」


「あの王子の笑顔。かっこいいというより、美しかった~。って、サミュエルさんは知ってるんすか? 王子だって」


「知らないと思うが……」


「教えた方がいいのかな」


「いや、まだ言わねぇ方がいいかもな。騎士団内の噂で、あの王子は”気狂い王子”と呼ばれているんだろ。下手に教えて、せっかく仲良くなったサミュエルさんが王子を拒絶しだしたら、王子が可哀想だろ」


「そうすっね。王子は、本当は凄く気前のいい、イケてる兄さんなのに……」


「まあ、これは俺の予想なんだが、妖精王の第三王子とルーシーちゃんの婚約がまとまり、近いうちに結婚式や披露パーティーもある。だから、そろそろあの王子は、公の場に姿を現すはずだ」


「そのタイミングで、うちの店の常連だってバラす、っすね」息子が親指を立て笑った。


「ああ」


「めでたい尽くしに、うちの店も大繁盛!」


+++


 

 順風満帆。

 ただ漠然と、この先には幸福な未来しかないと俺たちは思っていた。



 数週間後、この地でとんでもない事件が起こるまでは……。



+++++

お付き合いいただきありがとうございますm(__)m


ブクマ★いただけましたら励みになります、応援よろしくお願いします。

※2021/10/6 さっそく脱字発見しましたので訂正しました。

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