Ⅵ
「詩晴、、、また、泣いてるの?」
いつの間にか目を覚ました彼女は、僕の頬に流れる涙をその綺麗な指で拭った。
ねぇ、ゆきちゃん。君は僕に何を隠しているの?
君の事をもっと、ちゃんと知りたいよ。
ゆきちゃんを苦しめるものがあるなら、僕が守るから。
僕に君を守らせてよ。
僕は微笑んだ。
君を守るためなら、どんなに辛いことでも必ず乗り越えてみせるよ。
だから、僕がまた音を紡げるようになったら、君の事を教えてね。
その日から僕は声を取り戻す訓練を始めた。
僕の症状は「失声症」というらしい。
「失声症」とは、心因性によって声がでなくなる病気のことを指し、
極度に強いストレスがかかったときに発症するといわれている。
今、僕の喉からは空気の抜ける音しか鳴らない。
しかし、一週間も訓練すれば最低でも音は取り戻せるらしい。
本来なら専門的な病院でカウンセリングを受けた方がよいのだろうが、
カウンセリングを受ける=僕にあったことを全てさらけ出すということ。
それだけは、いくら専門医の人相手だとしても避けたかった。
どうすればいいのだろうか、ゆきちゃんに相談はできない。
彼女にはまだ知られたくなかった。
一先ず、ゆきちゃんを避けるのは止めよう。
確かに苦しむこともあるだろうが、それ以上に僕が彼女の傍にいたいのだ。