Ⅳ
ゆきちゃんとの交流がなくなって2ヶ月が経った。
僕は心にぽっかりと穴が開いているような気分だった。
祖母の家に来た頃と同じくらいに弱っていた僕を祖母は外に連れ出した。
今は夕方だったらしい。外には綺麗な夕日があった。
夕日はゆきちゃんの好きな景色だった。
しばらくそれを眺めていると、少し離れた所に人影が見えた。
逆光でよく見えないが、あれは多分ゆきちゃんだ。
鉢合わせしたくない僕が家に戻ろうとして、ゆきちゃんから視線をはずした。
その先に見えたのは、明らかにスピード違反をしている車だった。
まだ距離はあった為か、ゆきちゃんはその事に気が付いていない。
"危ない"その一言でさえ、僕の喉は音を紡いではくれなかった。
僕は夢中で走った。
これでも中学時代は運動部だったのだ。
僕は車が近づく前にゆきちゃんの元へ駆け寄ることができた。
「詩晴、、、なんでここに」
突然現れた僕に驚くゆきちゃんの腕をとり、路地に引っ張った。
すぐ後ろを車が通り、やっとゆきちゃんは自分が危なかったことに気が付いた。
トレーニングをしていない鈍った体で全力疾走した為、僕の息は乱れていた。
そんな僕の背中をゆきちゃんはずっと擦ってくれていた。
彼女を掴む僕の腕は震えていた。
"何してるんだ、もっと周りを見てくれ"
そう叫びたいが、僕の喉からは空気の抜ける音しか鳴らない。
声を出すことができないのがこんなにももどかしい事だとは思わなかった。
必死に音を紡ごうとする僕をゆきちゃんは力一杯抱き締めた。
「ごめん、ごめんね、詩晴」
ゆきちゃんが泣いていた。
違う、謝るべきはなのは僕であって、ゆきちゃんではないのに。
ゆきちゃんが泣いた。
どんなに辛くても僕の前では一度も泣いたことのないゆきちゃんが、
僕の前で初めて涙を見せたのだ。