Ⅲ
彼女の名前は松浦瑞幸というらしい。
祖母の家のお向かいさんに住んでいて、祖母とは交流があったらしい。
当時の僕は15歳、瑞幸は17歳。
瑞幸は高校生で、近くの高校に通っているようだ。
その日から僕と瑞幸、、、ゆきちゃんは交流を持つことになった。
ゆきちゃんは、僕が声を出すことができないのは早々に気が付いていたが何も詮索せずにいてくれた。
何も聞いて来ない彼女の隣は、すごく居心地が良かった。
初めて出会ったとき、なぜ彼女が弱っていたのかはわからない。
聞いてほしくなさそうだったし、僕も無理に聞き出そうとも思わなかったので聞かなかった。
ゆきちゃんは時々ごはんを食べ忘れてしまう。
それを知った僕は、朝食と夕食をゆきちゃんと一緒にとることにした。
折れてしまいそうなほど細かった体はみるみる内に健康的な体つきになり、
会う度々に綺麗になっていくゆきちゃんは僕を苦しめた。
あの日僕が抱いた気持ちも今ではおよそ綺麗な感情ではなくなってしまった。
どろどろと薄汚れたものが胸の内に溜まっていく。
僕は次第にゆきちゃんから距離をとり始める。
ゆきちゃんの家には行かなくなった。
ゆきちゃんが祖母の家へ来ても、隣に座ることはなくなったし、目もあまり合わせなくなった。
初めて目を逸らしたとき、ゆきちゃんは酷く辛そうな顔をした。
僕はその顔を見て、胸が苦しくなった。
"このやり方はゆきちゃんを傷付けるものではないのか"
僕の心が潰れる分にはいい、だけどそれは、ゆきちゃんを傷付けていいものではない。
しかし、他に方法が分からない僕はこのやり方を続けるしかなかった。
次第にゆきちゃんも祖母の家に来ることはなくなり、交流はなくなってしまった。